ハーマンカードン PM660

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 サイテーションXXシリーズをトップランクの製品とするハーマンカードンからの新製品は、創立30周年を記念して発売されたスペシャルエディションのプリメインアンプPM660である。
 同社のアンプ共通の特徴は、1978年以来、TIM、PIM、IIMなどの、いわゆるアンプの動的歪を発見したフィンランド国立電子技術研究所のマッティ・オタラ博士を迎え、アンプの動的状態でのみ発生する歪を解消した回路設計を採用していることと、実装状態で2Ω以下にも下がるといわれているスピーカーのインピーダンスに対して、動的出力を向上させるためにHICCという概念を採用していることだ。
 HICCとは、瞬時電流供給能力の意味で、低いインピーダンス時にも負荷に必要なだけの電力を供給できる能力をいい、この結果、定格出力から考えると異例ともいえる大電力用パワートランジスターと電源部を採用している点に、同社アンプの特徴がある。
 PM660は、8Ω/90W+90Wの定格出力をもつが、60AのHICCを備えるために、瞬時出力は、4Ω負荷で200W、2Ω負荷で292Wであるという。
 では、実際にPM660を試聴してみよう。基本的には、ハーマンカードンのアンプ共通の柔らかく量的にタップリと豊かな低域をベースに、滑らかで粒子の細かい中域から高域がバランスした音だ。音場感的には、やや距離感を伴って、スピーカーの奥に音場が拡がるタイプで、オーケストラやライブハウス的な録音では、適度なプレゼンスがあり、音像定位もナチュラルである。
 このタイプの音は、ちょっと聴きではおとなしい感じであるが、聴きこむにつれ内容の豊かさが判ってくるようだ。とくに、電源スイッチ投入後のウォーミングアップが少し遅いだけに、即断は禁物である。
 このアンプで少し気がかりなことは、プログラムによりキャラククーが変わることである。アンプの細部を検討したところでは、機構的なチェックでは厳しいと定評がある同社の製品にしては珍しく、筐体内部に機械的なビリツキが多いことだ。ステレオサウンドでの試聴以前に、どこか他の場所で内部を開けてチェックでもしたことに原因があるのかもしれない。

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