デンオン AU-1000

井上卓也

ステレオサウンド 68号(1983年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 デンオンのDL1000Aは、振動系の軽量化を極限にまで追求して開発された現代的な空芯MC型の典型的な製品として既に高い評価を得ているが、今回、デンオンから発売された昇圧トランスAU1000は、DL1000Aの性能と音質をフルに発揮させるための専用トランスである。
 外観は、従来の昇圧トランスとは異なる剛体構造の筐体に特徴があり、その前半部分に、左右チャンネル独立のトランス本体が組込まれ、後半部分は、部厚いカバーをもった入出力端子部である。
 トランスのコア材は、特殊形状の大型パーマロイ鋼板を使用し、少ない巻線で低域特性を確保するために要求されるコアの透磁率は低域において従来の同社製品と比較して約1・5倍の値となっている。高域はオーソドックスに分割サンドイッチ巻線を採用して低域とのバランスをとったため周波数特性は、従来のAU310の、20Hz〜40kHzに対して5Hz〜200kHzと驚異的なワイドレンジ型になっている。
 また、左右独立型のトランス本体は、2重シールドおよび充てん材で固定され、砲金ケースに収納されており、重量級の筐体とあいまって振動防止は徹底して追求されている。なお、トランス巻線は、DL1000A専用設計のために、入力インピーダンスは固定、音質劣化の原因となるバイパススイッチなどは省略してある。
 入出力部のカバーは、太いネジで固定する振動防止を追求した設計である。付属の出力コードは、無酸素銅線採用の低容量・低雑音タイプのコードで、しっかりとした金メッキ処理が施されている。
 DL1000Aは、1g以下の針圧を標準とする超軽量級カートリッジであるために、併用するトーンアームの選択は、現状では困難といえよう。標準的な針圧で、しばらく、エージング的に音を出してから、細かい針圧調整、インサイドフォースのコントロールをしてから試聴をはじめる。
 従来の例では、適合性の良いトランスがなく、ヘッドアンプを使用する他はないため、その結果では、線が細く、音の細部を引出す特徴は認めながらも、やや、ダイナミックな表現を欠いていたのがDL1000Aの音である。AU1000との組合せでは、トランスにありがちなナローレンジ感が、皆無に近く、トランス独特の、いきいきとした音楽の躍動感が得られるのだ。
 表現を変えれば、この音は、鉄芯MC型の力強さと、空芯MC型の広帯域・高分解能を併せもつもので、まさに、MC型ならではの、非常に魅力的な音の世界である。なお、昇圧トランスの使用法として注意したいのは、剛性の高い、安定した台にのせて使うことが、優れたトランスの性能を引出す重要なポイントである。今回の試聴でも、ジュウタンの上にのせたり、机の端に置いたりした場合には、音は薄くなり、躍動感に欠け、大幅な質的低下が聴きとれた。

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