Date: 7月 23rd, 2011
Cate: 4343, JBL, 瀬川冬樹

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・その13)

瀬川先生が4ウェイ・スピーカーシステムについて語られるのを、
単に周波数特性(振幅特性)の見地からでしか捉えてしまっている人がいる。
そうなってしまうと、瀬川先生がなぜ4ウェイのスピーカーにたどり着かれたのかを見落してしまうことになる。

「瀬川冬樹に興味がないから、別にそんなことを見落してもどうでもいいこと」──、
そんなふうなことが向うから返ってきそうだが、スピーカーシステムに関心があり、
ステレオ再生における音像の成り立ちに肝心がある人ならば、瀬川先生の4ウェイ構想から読み取れるものはある、
読み取れるはずである。

スピーカーの理想像は人によって一致しているところとそうでないところがある。
だから瀬川先生の4ウェイ構想に全面的に同意できない人がいて当然である。
完全なスピーカー構想というものは、まだまだ存在していないのだから。

それでも、あの時点で、なぜこういう4ウェイ構想を考えだされたのかについて考えてゆくことは、
スピーカーの理想について考えていく上でも意味のあることだと思っている。

それに瀬川先生の4ウェイ構想は、
瀬川先生がどういう音(広い意味での「音」)を求められていたのか知る重要な手がかりでもある。

瀬川先生の鳴らされていた音のバランスは、瀬川先生にしか出せないものだった、ときいている。
ただ、このことを鵜呑みにしてしまうと、
いつまでもたっても瀬川先生の音がどういうふうに鳴り響いていたのかはつかめない。

瀬川先生は4343、4345についている3つのレベルコントロールはほとんどいじっていなかった、と発言されている。
つまり周波数スペクトラム的な音のバランスに注意して聴いていても、
そしてそれによる瀬川先生の音を表現した言葉を聞いていても、すこしもそこに近づいたことにはならない。

このブログを書くためにも、瀬川先生の「本」をつくるためにも、
瀬川先生の書かれたもの、語られたものに集中的にふれてきて、
そして10代のころからずっと思い考えてきたことから、実感をもって言えるのは、
瀬川先生の音のバランスの特長は、周波数スペクトラム的なこととは違うところにある、ということだ。

だから、あの時点での4ウェイ構想だ、と理解できる。

Date: 7月 23rd, 2011
Cate: BBCモニター, イコライザー

BBCモニター考(余談・グラフィックイコライザーのこと)

グラフィックイコライザーは進歩してきている。
まず素子数が増えてきて、S/N比も向上してきて、最近では低価格化の方向へも向っている製品もある。
そしてアナログからデジタルへと処理そのものが変化している。

道具としてグラフィックイコライザーが変化・進歩してきているわけだから、
グラフィックイコライザーに対する見方も、変化していって当然だと思う。

昔のグラフィックイコライザーのイメージを引っ張ったまま、
現在の良質なグラフィックイコライザーを判断することはできない。
グラフィックイコライザーに対する捉え方・考え方は、柔軟でありたい。
必要と感じたら使ってみる、試してみたいと思ったら臆せず使ってみる、というふうに、である。

ただひとつ気をつけたいのは聴取位置からすぐに手の届くところにグラフィックイコライザーを、
使いはじめたころは、どうしても置きたくなる。
早く使いこなせるようになるためにも、すぐにツマミをいじれるように、と近くに置いてしまう。
このやり方は、ある期限を決めておいたほうがいい。
そうしないと、いつまでたっても椅子から立たずにいじれることに、面白さとともに楽さをおぼえてしまうからだ。

それまでだったら、どこか気になる音が出ていたら、こういう音を出したいと思ったら、
椅子から立ち上がりスピーカーのところに行ったり、アンプやプレーヤーのところへ向った。
それがグラフィックイコライザーが聴取位置のすぐ近くにあれば、
つい楽な方を選んでしまうことに、本人が気がつかぬうちに陥っている。
そうなってくると、グラフィックイコライザーに頼り過ぎることへ向う危険性が生れてくる。

グラフィックイコライザーは、アナログだろうがデジタルだろうが電気的に信号処理することに変りはない。
この電気的だけの信号処理に頼り過ぎてしまうと、つまり電気的だけで合せてしまうと、
ある録音(レコード)ではうまくいくけれども、もっといえば、あるレコードのある一部分(パッセージ)だけは、
とてもうまくなっても、そこからはずれてしまうと精彩を欠いた音になったり、
そのまま違う録音を鳴らしたら、ひどい場合には音楽を変質させてしまうこともないわけではない。

そうなると、今度は、いまどきのグラフィックイコライザーの中にはメモリー機能を搭載しているものもあるから、
音楽のジャンルや録音、レーベルの違いなどによって、イコライザーカーヴをいくつも設定して、
それらを再生するたびに違うカーヴを呼び出すことになる。

それでも音楽は時間とともに変化していくものである。ひとつの曲の中でも音楽は変化している。
グラフィックイコライザーに頼り過ぎた使い方から生じたカーヴは、いわゆるスタティックなバランスであって、
ごく狭い範囲ではそれが活きることはあっても、動的な音楽の変化には対応し切れず、
中には曲の途中でカーヴをいじるということになる。

こうなってしまったら、グラフィックイコライザーに頼り過ぎである。

椅子から立ち上ること、離れることを忘れてしまっては、うまくいかない。
それに似た陥し穴が、いまPCオーディオ、コンピューターオーディオと呼ばれているものにもある。

Date: 7月 22nd, 2011
Cate: 4343, JBL

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・モアレ音響について)

音のモアレ効果について調べていくと、作曲家の住谷智氏が、
1960年代に、音にもモアレ効果があることを発見され、
音響の多層化(モアレ・サウンド)と名づけられ発表されている、ということがわかった。
論文も発表されている、とのこと。
住谷氏の「降り注ぐ流星群」という作品は、モアレ音響を使ったものらしい。

住谷氏がモアレ・サウンドと呼ばれている効果と、
私がジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットの音を聴いて感じ思ったモアレ的な効果とが、
まったく同じものなのか、ある程度同じものなのか、それともまるっきり違うものなのかは、
住谷氏の論文を読んでいないので、何もはっきりしないが、
真のステレオ再生にとって、精確でどこにも乱れのない波紋が、
左右ふたつのスピーカーから放射されることが、通常思われている以上に重要なことは共通している気がする。

Date: 7月 22nd, 2011
Cate: 4343, JBL

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・その12)

オーディオの解説書やカタログなどで、スピーカーからの音が放射される様を弧を描いて表している図がある。
スピーカーから出た音が、きれいな等高線のように描かれ、ステレオだから、とうぜんスピーカーは2本あり、
この等高線のようなきれいな弧は中央で重なり合う。
そこには交点が生れ、等高線は編目のようになっていく。

実際のスピーカーからの音は、これほどきれいな弧を描いているわけではない。
それでも、こういった図を見ていると、モアレについて考えてしまう。

ステレオ再生で、ふたつのスピーカーのあいだに、なぜ音像が浮び上るのか。
このこととモアレが結びつく。
オーディオでは、ふたつのスピーカーからまったく同じ音が放射されることは、まずない。
そのために左右のスピーカーの交わるところでは、ずれ(のような)ものがある。
そのずれ(のような)ものが、視覚的なモアレ同様、音像を立体的に錯覚させているような気がする。

もしそうだとしたら、モアレをより効果的にするためには、それぞれのスピーカーから放射される音が、
微細なところまで、しかも広範囲にわたって乱れのない、
それこそ絵に描いたような等高線を思わせるような波形・放射パターンでなければならないはず。
周波数によって弧が歪んでいたり、スピーカーの正面では比較的きれいな弧でも周辺にいくほど乱れていては、
モアレは最大限の効果を生まないどころか、音像そのものを歪めてしまうことになりはすまいか。

ジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットによる優れた音を聴いていると、
そういうことをつい思ってしまう。
DDD型ユニットからは美しい波紋が、左右からまわりに広がっていく。
スピーカーの中央で、直接音(波紋)が重なり、壁に反射した音(波紋)もまた重なり合う。
それらがうまく作用したときに、輪郭線を感じさせない、まさに立体的な音像が目の前に再現される。

このモアレに似た作用を実現するためにも、指向特性は非常に重要な項目となってくる。

Date: 7月 21st, 2011
Cate: 瀬川冬樹

確信していること(その18)

ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’80」で瀬川先生がつくられている組合せは、6つだ。
予算50万円の組合せ(これがグルンディッヒの組合せ)、
予算100万円の組合せ、予算200万円の組合せ、予算400万円の組合せがまずあり、
その他に、予算50万円の組合せからスタートして100万円、200万円とグレードアップしていく組合せ、
予算100万の組合せから、200万円、400万円とグレードアップしていく組合せだ。

グルンディッヒのProfessional BOX 2500以外のスピーカーシステムで、
最終的に組合せに選ばれたのは、スペンドールBCIII(100万円の組合せ)、アルテック620B(200万円の組合せ)、
JBLの4343(400万円の組合せと、JBL4301からグレードアップしていく400万円の組合せ)、
メリディアンのM1(ヴィソニック・Expuls2からグレードアップしていく200万円の組合せ)。

400万円の4343とマークレビンソンのML6とML2、それにマイクロの糸ドライヴプレーヤーの組合せは、
記事中にあるように、瀬川先生の、このとき、常用されている組合せとほとんど同じもの。
これと対極にあるのが、200万円の620Bの組合せといえよう。

620Bには、コントロールアンプにアキュフェーズのC240、
パワーアンプは2つ選ばれていて、ひとつはC240とペアになるアキュフェーズのP400、
もうひとつはミカエルソン&オースチンのTVA1だ。
プレーヤーはパイオニアExcusive P10にオルトフォンのカートリッジMC20MKII。

この組合せに登場してくるものは、4343の組合せに登場してくるモノとすべて対照的な性格をもつ。
プレーヤーのマイクロのRX5000 + RY5500とExclusive P10からして、
プレーヤーとしての構成も音も対照的。
カートリッジも4343の組合せのEMT・XSD15とオルトフォンMC20MKIIは、共通する良さをもちながらも、
対照的な音の性格をもっているし、使いこなしに関してもそうだといえる。

C240とML6は、コントロールアンプとしてのコンセプトは対照的である。
入力セレクターとレベルコントロールだけで、しかもモノーラル構成のML6と、
コントロールアンプとして求められる機能をほぼ備え、大半の機能をプッシュボタンで操作するC240。
しなやかな表現というところでは共通性があるとはいえるものの、
音の肉づきを過剰なまでに抑え込むML6に対して、C240にはそういう過剰なところは感じとれない。

パワーアンプのP400は、AB動作で200W+200W、A級動作で50W+50Wの出力をもつ。
記事を読むと、620Bの能率が高いこともあってA級動作での組合せのようだ。
このA級動作という点ではML2と共通しているが、ここでもC240とML6の違いのように、出てくる音には、
アキュフェーズという会社とマークレビンソンという会社(というよりもレヴィンソン個人)の違いが、
よりはっきりと聴きとれる。

そしてML2と管球式のTVA1の音の違いは、P400のとき以上に、音の本質的な性格は対照的になる。

Date: 7月 21st, 2011
Cate: High Fidelity

ハイ・フィデリティ再考(その33)

2000年に、audio sharingを公開したときは、これで、ずっと残していける、と思っていた。
私が死んだ後でも、誰かaudio sharingを受けついでくれる人がいれば、ずっと残っていく。
audio sharingを残したわけではなく、 audio sharingで公開している文章を残していける、とそう思っていた。
そして、そのことに大きな意味がある、とも思っていた。

2008年からこのブログをはじめ、2009年にもうひとつのブログ、the Review (in the past)もはじめ、
2010年からTwitter、今年はfacebookもやり始めて、残していけるものが増えている。

まだまだ、これから先、もっと残していきたいと思っているものを、
できるだけ公開していきたい、と思いながらも、
レコードのコレクションと、じつはこれも同じことがいえて、
何を後世に残さないようにするかを考えたうえで、何を残していくかを考えるべきであることに気づいた。
後世に残してはいけないものを残さないようにするために、残していけなければならないものを考えていく、
いま、そういう時になっているのではないか。

残すだけであれば、極端な話、そこに教養・熟考は必要ない。ただ作業を続けていけばいい。
残さないようにしていくために精進していくことが、純化につながっていく気もしている。

Date: 7月 20th, 2011
Cate: 表現する

音を表現するということ(続々・聴いてもらうということ)

「音は人なり」といわれてきている。
私もここで何度か書いている、さらに「人は音なり」とも書いている。

私は、これはオーディオのひとつの真理だと思っているが、
果して言葉にしていいものだろうか、という気持が、最近になって芽生えてきた。

よほどひねくれ者でないかぎり、人から悪く思われたくはない。
だからオーディオマニアにとって、
「音は人なり」という言葉が、本来の意味から少し外れたところの意味をもってくるように思うからだ。
「音は人なり」はときとして強迫観念的な色を帯びてきはしないだろうか。
「音は人なり」は、そういう意味でいわれてきたことばではないにもかかわらず、そう思われてしまうことで、
決着を急ぎさせすぎてしまうことにつながっていく……。
そうなってしまっては、オーディオの楽しさは半減していく。
これはもったいない、という話ではなく、おかしいことにもなっていくかもしれない。

オーディオは、もっともっと楽しまれていくもののはず、と改めて思うからだ。

Date: 7月 20th, 2011
Cate: コントロールアンプ像

私がコントロールアンプに求めるもの(その13)

チェロのAudio Suiteについて、もう少し詳しく眺めてみる。
Audio Suiteの構造はリアパネルから見ることで、ほぼつかめる。

リアパネル中央下部にバリアターミナルがある。ここに外部電源ユニットからのケーブルをネジ止めする。
このバリアターミナルから、リアパネル下部を横切る10本のバスバーの中央4本にケーブルが延びている。
つまりこの4本が、各モジュールへの電源供給ラインとなる。
のこりのバスバーは6本となり、この6本が入力モジュールと出力モジュールと信号ラインとなる。

Audio Suiteの出力モジュールは2ユニット分の幅がある。入力モジュールは1ユニット分で、最大8枚搭載できる。
電源ユニットには、入出力モジュールをすべて装着しても容量に余裕があるように設計されているものの、
実際には、もしアナログディスクのみしか聴かないのであれば、フォノ入力モジュールと出力モジュールだけ、
CDのみであればライン入力モジュールと出力モジュールだけ、というふうにモジュールの数を最少限に抑えた方が、
より透明度が増し、Audio Suiteならではの芳しさはより香り立つようになる。
そして音の変化はモジュールの数だけが関係してくるのではなく、モジュールをどこにするのか、
その位置によっても、モジュールの数ほどの差ではないにしても変化する。

リアパネルのバスバーで信号とやりとりと電源が供給されるわけだから、
つまりこのバスバーはケーブルと同じことで、入力モジュールと出力モジュールを中央に集めることで、
信号と電源が通るバスバーの距離はもっとも短くなる。
その反面、ふたつのモジュールの距離が最小になるため、モジュール間の干渉は最大になるとはいうものの、
私が聴いたかぎりでは、やはりモジュールの数を入力モジュールと出力モジュールそれぞれ1つずつにして、
中央に集めたほうがよかった。

ただこういう配置にしてしまうと、見栄えがなんとなくよくない。
出力モジュールはフロントパネル右端にあったほうがおさまりよく感じる。

こういうモジュールの数、位置による音のわずかとは言い難いが、
だからといって、そのアンプの本質までも変えてしまうわけではない「差」は、
QUADの44にしてもメリディアンのMCA1、MLPについてもいえる。

Date: 7月 19th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×十七 K+Hのこと)

平行面が存在していたら、定在波が発生する。
物理現象である定在波は、律義なことに、どんなに狭い面積であっても平行面があれば、そこに発生する。
このくらいのごく小さな平行面ぐらい見逃してよ、といったことは通用しない。

この定在波が、スピーカーからの音に悪影響を与える。
無響室でどれだけフラットな周波数特性を誇っていたスピーカーシステムでも、
定在波がひどく発生している部屋にもちこみ、聴取位置で周波数特性を測れば低域にピーク・ディップを生じる。
このピーク・ディップを、電気的に、つまりグラフィックイコライザーによる補整で抑え込むというのは、
ひとつの手法ではあるけれども、音響的なピーク・ディップを電気的に完全に補整することはまず無理だと思う。
とくに音響的なディップは、電気的に補整することはまず無理だと思っていい。
グラフィックイコライザーの使いこなしをきちんと身につけて、じっくりと取り組むことで、
定在波による音の癖をある程度抑え込む、というよりも、うまくごまかすことはできても、解消できるとはいえない。

グラフィックイコライザーにできること、と、できないことがある、ということ。
使いこなせれば万能というわけではない、ということ。
でも、そのことを踏まえて使いこなせれば、グラフィックイコライザーは有効な手段でもある。
グラフィックイコライザーの有効性を唱える人の中には、
グラフィックイコライザーに頼り過ぎではないか、と思われる人もいる。

グラフィックイコライザーに頼り過ぎる前に、いろいろやることはある。
そうやっていくうちに気がつくのは、ひどく癖のある部屋なのに、
スピーカーシステムによって癖の感じ方に差がある、ということだ。

部屋の癖の影響をもろに受けてしまって精彩を欠く鳴り方しかできないスピーカーシステムがある一方で、
不思議なことに、それほど癖の影響を受けていないかのように鳴ってくれるスピーカーシステムがある。

これを部屋とスピーカーシステムの相性という一言で片づけてしまっていいのだろうか。
以前は指向特性の狭いスピーカーシステムのほうが部屋の影響を受けにくい、などといわれていた。
だけど、私の経験では指向特性と部屋の影響、特に定在波の悪影響を受けやすい、受けにくいは関係ない、といえる。

関係してくるのは、スピーカーシステムの累積スペクトラムとインパルス応答だと思う。

Date: 7月 19th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その18)

こうやって40万の法則、いいかえをすると630Hzという周波数に注目してスピーカーシステムを眺めて、
あれこれ考え書いていて気がついたことが、実はある。
思い出したこと、と言い換えたほうがより正しいのだが、
それはステレオサウンド 124号で、井上先生があげられているスピーカーシステムのことである。

124号の特集は「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう」で、
朝沼予史宏、井上卓也、上杉佳郎、小林貢、菅野沖彦、長島達夫、傅信幸、三浦孝仁、柳沢功力──、
9人の筆者によるによる「独断的オーディオの流儀を語る」という座談会が載っている。
この記事の中で、各筆者が、それぞれのシンボル的スピーカーシステムをあげている。
参考までに書き写しておく。

朝沼予史宏:JBL S7500+GEM TS208、プラチナム Air Pulse 3.1
井上卓也:パイオニア Exclusive 2404、アクースティックラボ Stella Elegans
上杉佳郎:アルテック 515C×2+311-90+288-16G+JBL 2402H+テクニクス 10TH1000、タンノイ Westminster
小林 貢:レイオーディオ RM7V
菅野沖彦:マッキントッシュ XRT26、タンノイ Kingdom
長島達夫:コースタルアコースティックス Boxer T2
傅 信幸:B&W Nautilus
三浦孝仁:ウィルソンオーディオ System5、エグルストン・ワークス Andra
柳沢功力:プラチナム Air Pulse 3.1

井上先生があげられているスピーカーシステム2機種とも、
この項で書いてきていることと見事に重なっている。

Date: 7月 19th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その17)

JBL以外にも、600Hzあたりにクロスオーバー周波数をもつスピーカーシステムは、他にもある。
アルテックのA5が500Hzで、A7は800Hz仕様と500HzのA7-500-8がある。
イギリスのヴァイタヴォックスのスピーカーシステムは、CN191、Bitone Major、Bass Binすべて、
クロスオーバー周波数は500Hzになっている。
これはすべてウーファーは15インチ・コーン型で、中高域にホーン型を使っている。

ただ、以上列挙したスピーカーシステムのなかでも、JBLのパラゴン、ハーツフィールド、
ヴァイタヴォックスのCN191などが500Hzにクロスオーバー周波数をもってきたのは、
エンクロージュアの構造にも起因している、といえる。

パラゴンもハーツフィールドもCN191も、正面からウーファーの姿を見ることはできない。
これらのスピーカーシステムは低域にもホーン型を採用しており、しかもホーンはストレートではなく、
折曲げ式であるため、中域以上の減衰が多くて、500Hzあたりが限度だったのだろう。

JBLのS9500、DD66000、アルテックのA5、パイオニアのExclusive 2402、2404などでは、
そういったこととは関係なく600Hzあたりにクロスオーバー周波数を設定している。
アルテックのA7は最初ホーンに811を使用していたから、おそらく800Hzのクロスオーバー周波数で出てきて、
のちにホーンをより大型の511に変更するとともにクロスオーバー周波数を500Hzに下げた
──というべきか、それとも500Hzに下げるために511ホーンにしたのか──A7-500-8を出している。

500Hzか800Hz──、どちらが630Hzに近いかというと同じである。
500Hzと800Hzの積は40万だからだ。
私が知る限り、アルテックの2ウェイ・システムに630Hz近辺のクロスオーバー周波数をもつものはない。
だからというわけでもないが、もし私がA7-500-8を鳴らす機会があれば、
630Hzで分割した音をぜひ試してみたい、と思っている。

Date: 7月 18th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その16・追補)

S9500は、JBLでは初の試みである仮想同軸配置を採用している。
仮想同軸という言葉が一般化してきたのも、ちょうどこのころであったし、
JBL以外にも仮想同軸配置のスピーカーシステムは増えていっていた。

S9500は2ウェイであったからウーファーを上下に配置し、その間に中高域のホーンを配置するという、
もっと基本的な仮想同軸の配置であったが、
他社製の3ウェイのシステムでは、ウーファーだけでなくスコーカーも2本使用して、
トゥイーターを中心に、その上下にスコーカー、ウーファーと配置していっていた。

この仮想同軸を最初に採用したメーカーはいったいどこなのか。
S9500の少し前に、日本ではレイオーディオがすでに採用していたが、
レイオーディオよりも前にイギリスのメリディアンが、
1985年ごろに発表したM2で、この仮想同軸配置を行っている。
私がこれまで聴いてきたスピーカーシステムの中で、最初に聴いた仮想同軸配置のスピーカーシステムがM2だ。
このときは仮想同軸という言葉がなかったこともあり、
M2のユニット配置については話題にのぼることはなかったように記憶している。

このM2以前に仮想同軸配置のスピーカーシステムはなかったのだろうか。
今日、偶然見つけたのが、ダイヤトーンのDSS-S91Mだ。
正確な発売日はいまのところ不明だが、1971年には現行製品だった。

DSS-S91Mときいても、どんなスピーカーシステムなのか、思い出せない方も多いだろう。
DSS-S91Mはスピーカーシステムの型番ではなく、セパレート・ステレオの型番だからだ。

セパレート・ステレオとはスピーカー、アンプ、チューナー(もしくはレシーバー)、
プレーヤーがラックに収められメーカー側でシステムとしてまとめられている装置一式のことだ。

DSS-S91Mのスピーカーは3ウェイ構成。
コーン型ウーファーを2本、フロントロードホーンのエンクロージュアにおさめ、
そのフロントロードホーンの開口部に中域のホーン型ユニットが、
2本のウーファーの間にくるように配置され、
トゥイーターは中域用ホーンの上にスペースをとって、ウーファーのホーン開口部の上部に取りつけられている。
だからトゥイーターに関しては厳密には仮想同軸とは呼びにくいところがあるが、
ウーファーとスコーカーの位置関係は、まさしく仮想同軸配置である。
そして、DSS-S91Mのスピーカーは、オールホーン型にもなっている。

いまのところ、私が探し出したなかで、もっとも古い仮想同軸配置のスピーカーである。

Date: 7月 18th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その16)

JBLのDD66000のカタログに発表されているクロスオーバー周波数は、
150Hz(LF1/LPのみ)、700Hz、20kHz(UHF/HPのみ)とある。

DD66000は15インチ(38cm)口径のウーファー(1501AL)を2本、
4インチ・ダイアフラムのコンプレッションドライバー(476Be)とバイラジアルホーン、
1インチ・ダイアフラムのコンプレッションドライバー(045Be-1)とバイラジアルホーンから構成されている。

2つのウーファーは単純に並列に接続・動作させているわけではなく、
横方向に並んでいる2本のウーファーのうち外側に位置するウーファーは150Hz以上をカットしている。
内側のウーファーは700Hzまで使っている。
つまり150Hz以下ではダブルウーファーとして動作している。

700Hz以上を受持つ476Beだが、20kHz以上をカットしているわけではない。
カタログに記されている20kHz(UHF/HPのみ)とは、トゥイーター、
というよりもスーパートゥイーターと呼ぶべきの045Be-1のカットオフ周波数を指している。
HPのみ、とは、ハイパスフィルター(ローカットフィルター)のみ、ということで、つまりDD66000は、
15インチ・ウーファーと大型ホーンをもつコンプレッションドライバーによる2ウェイが基本となっている。

JBLのスピーカーシステムで、630Hzあたりにクロスオーバー周波数を設定したものは過去にいくつかある。
まずパラゴンがそうだ。500Hzと7kHzの3ウェイ。それからオリンパスS8Rも同じく500Hzと7kHz。
オリンパスの2ウェイ使用のS7Rは500Hz。ハーツフィールドも500Hzである。
もうひとつ思い出す。
1989年に登場したS9500のクロスオーバー周波数は650Hzと、
JBLのスピーカーシステムのなかで、もっとも630Hzに近い値に設定されている。

S9500はJBLとして珍しい14インチ口径のウーファー2本と、
コンプレッションドライバーと大型ホーンによる2ウェイ・システムである。

Date: 7月 18th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その15)

田口泖三郎博士によれば、
人間の口をポカンとあけた時の口の中の共鳴周波数が大体630Hzだという。
もちろん個人差は多少あるものの平均値として630Hzあたりに落ちつくとのこと。

田口博士の研究は、なぜ人間は20Hzから20kHzまでが聞こえるか、ということだったらしい。
そして口の共鳴周波数630Hzを中心として、上下の帯域に均等に広げていった結果が、
一般的にいわれている20Hzから20kHzといわれている可聴帯域となり、
これを対数グラフで表わすと、20Hzから20kHzという周波数特性は、
約630Hzを中心として左右対称に広がったかたちとなる。
つまり40万という値は、この630Hzを二乗した値ということになる。

この630Hzという数字が、40万の法則によるスピーカーシステムを考えていく上での基点であり、
もうひとつのスピーカーシステムを在り方を発想させる。

630Hzを中心にして上下の周波数に均等に帯域幅を広げていくのに、
フルレンジから発想したのがいままで述べてきたBWTを中心としたスピーカーシステムであり、
630Hzを中心としてできるだけ、単一のユニットで広い帯域を受持ち、
それだけでは及ばない上下の帯域をウーファーとトゥイーターを附加する、というもの。

630Hzを中心にして均等に広げていく、という、このことをどう解釈してどう実現するかだが、
ベンディングウェーヴのユニットを使っても、
いまのところフルレンジ1本ではカヴァーできる範囲はまだ限られている。
ウーファーとトゥイーターを必要とする。
このウーファーとトゥイーターは振動板の口径も大きく異るし、
ウーファーはコーン型、トゥイーターはベンディングウェーヴならAMT、
ピストニックモーションならばホーン型、ドーム型、リボン型、コーン型などになる。
ウーファーとトゥイーターは、いわば違うユニットであり、これでは均等に広げたということになるのか、
という捉え方ができ、結局100Hz以下の低音と4kHz以上の高音では、波長も大きく異っているし、
どうせ異るスピーカーユニットを使うことになるのだからいっそのこと、
630Hzをクロスオーバーとした2ウェイのスピーカーシステムも考えられる。

630Hzなら、38cmコーン型ウーファーとホーン型との組合せであれば、実現できる。
少し前のスピーカーシステムではあるが、パイオニアのExclusive 2402、2404がすぐに頭に浮ぶ。
Exclusive 2402、2404、どちらもクロスオーバー周波数は650Hzである。

クロスオーバー周波数が700Hzとすこし高くなってしまうし、
ややユニットの使い方がExclusive 2404からすると複雑というか変則的になるが、JBLのDD66000がある。

Date: 7月 17th, 2011
Cate: 40万の法則

40万の法則が導くスピーカーの在り方(その14)

ここで話は前にもどる。
40万の法則そのものに関しては、もういちど書くことにする。

一般的に40万の法則は、人間の可聴帯域の下限(20Hz)と上限(20kHz)の積が40万になるからだ、
といった説明がなされてきているが、人によって可聴帯域は異る。
同じ人間でも年齢によって高域が聴こえなくなるから可聴帯域は変化していく。
高域が聴こえなくなってきたら、40万の法則にしたがって、
下限の値(低域の再生域)も変えていかなければならないのか。

これは考えていくと、どうもおかしいと感じる。
ということは、40万の法則そのものが間違っているのか、ということになるのか。
そうとは、どうしても思えない。

3ウェイ・システムにおいてスコーカーの受持ち帯域も40万の法則どおりにする、ということを考えていると、
40万の法則は、上限と下限の積から導き出されたものではなく、
じつは別のところから導き出されたものではないか、と思える。

4ウェイの4343のミッドバスがほぼ40万の法則どおり、
3ウェイでは、100Hzから4kHzをスコーカーに受持たせることで、ここも40万の法則。
つまり4343のミッドバスと、BWTの3ウェイのスコーカーで共通するのは、その中心周波数である。
632.455Hz、約630Hzがそれにあたる。
この630Hzを受持つユニットの上限と下限を均等に広げていくことが、
そのユニットの受持ち帯域が40万の法則どおりになるわけだ。

この630Hzがもつ意味については、瀬川先生の「虚構世界の狩人」「オーディオABC」、
どちらかを読んだことのある人なら、この630Hzの数字とともに、田口泖三郎博士の名前も思い出されるはず。