Date: 3月 7th, 2023
Cate: ディスク/ブック

Heartbeat Drummers of Japan(その3)

ステレオサウンド 64号のパワーアンプの総テストで、
50万円未満のパワーアンプ26機種と50万円以上100万円未満56機種を、
井上先生は試聴されている。

それぞれの試聴記のすべてで“Heartbeat Drummers of Japan”について、
どういうふうに鳴ったのかを触れられているわけではないが、
ここのところに注目して読めば、なかなか興味深かったりする。

例えばQUADの405-2では、
《小型ながら基本は抑えてあり、太鼓連打でも、小出力ながら予想以上の音が聴かれた》、
ナカミチのPA50は、
《太鼓の連打での立ち上がりの甘さは、電源部に起因するもののようで、問題がクリアーされれば、中域以上の質が高いだけに、かなり優れたアンプになりそうな印象が強い》、
マランツのMA7は、
《太鼓連打でチェックすると電源は水準のレベルにあるが、スケールが小さく、力感がない》、
テクニクスのSE-A100は、
《太鼓連打では、電源の安定度、応答性が高く、不安は皆無で正確に作られたアンプという印象が強い》、
マッキントッシュのMC7270は、
《太鼓の連打では,予想よりも軟調な表現となり、瞬発力よりはジワッとした力感であるのが判る》、
新藤ラボのF2aは、
《太鼓の連打でも左右の太鼓の違いを明瞭に聴かせ、低域の安定度、質感はかなりのものだ》、
ヤマハのMX10000は、
《太鼓連打での反応は、電源部の強力さが感じられ、並の250Wクラスとは異なった力強さが聴き取れるが、なせかアタックの瞬発力は標準プラス程度に留まった》、
こんな感じである。

製品の規模としてはMX10000がもっとも物量投入されている機種で、
価格的にも405-2の約四倍ほどである。
F2aは型番が示すように真空管アンプであり、出力は40WとMX10000(250W)の六分の一ほど。

“Heartbeat Drummers of Japan”の太鼓の連打がうまく鳴ったからといって、
すべての点において音質的に優れたパワーアンプということではないが、
それでもここで挙げた機種の価格、規模を思い浮べながら比較してみることの面白さを感じてほしい。

Date: 3月 6th, 2023
Cate: スピーカーの述懐

あるスピーカーの述懐(その44)

ヘンデルのメサイアを聴いている人がいる。
何度も聴く人生がある

メサイアを一度も聴かない人もいる。
音楽好きであっても、メサイアを一度も聴かずの人生がある。

メサイアでなくてもいい。
マタイ受難曲でもいい、ベートーヴェンの第九であってもいい。
クラシックにかぎらない。

昔から聴きつがれている曲、そしてこれから先もずっと聴かれていくであろう音楽に、
まったく触れない人生がある。
いい悪いではなく、そういう人生がある、というだけのこと。

スピーカーも、また同じだ。
メサイアを何度も鳴らすスピーカーもあれば、一度も鳴らさずのスピーカーもある。

Date: 3月 4th, 2023
Cate: ディスク/ブック

Heartbeat Drummers of Japan(その2)

いまごろ、“Heartbeat Drummers of Japan”について書いているのは、
先日、このCDを手に入れたからということ、
そしてTIDALでも聴けるからである。

シェフィールド・ラボのCDだから、それほど数は売れていなかったと思う。
中古市場でも、これまで見かけたことはなかった(熱心に探していたわけでもなかったけれど)。

鼓動の録音は、TIDALでは“Heartbeat Drummers of Japan”以外もある。
MQAで聴けるアルバムもある。

“Heartbeat Drummers of Japan”は、井上先生が書かれているように、
パワーアンプにとって、かなりしんどいといえる録音だった。

《誰にでも容易に判るチェックポイントである》とあるように、ほんとうにそうである。
一発目の音はうまく鳴っても、太鼓の連打であるから、続く太鼓の音がダメになってしまう。

あくまでも感覚的なことでしかないのだが、
最初の一発目か二発目ぐらいで、電源部のコンデンサーがカラになってしまうような、
そんな感じすら受ける音のアンプもあった。

カラになってしまったコンデンサーからは、どうやっても絞り出すことはできない──、
そんな感じで、太鼓の音は鳴ってはいても、力がなくなっていく。

そして《モノーラル的にグシャグシャになり、ステレオフォニックなプレゼンスとは程遠いもの》、
ほんとうに、そういう音になってしまうアンプも、いくつかあった。

大型のパワーアンプで、いかにも電源部に物量を投入している、
そんな印象を与えるアンプでも、必ずしも満足のいく太鼓の連打を再現してくれるとはいえなかった。

Date: 3月 4th, 2023
Cate: ディスク/ブック

Heartbeat Drummers of Japan(その1)

シェフィールド・ラボから鼓動(KODO)の“Heartbeat Drummers of Japan”が、
以前発売されていた。

1985年3月17日、20世紀フォックスでのスタジオ録音で、
同年、CD・とカセットテープで発売されていた。

ステレオサウンド 84号(1987年秋発売)の特集、最新パワーアンプ総テストで、
井上先生が試聴ディスクとして使われていたので、記憶にある方もいるだろう。

この試聴テストで、“Heartbeat Drummers of Japan”を知ったし、初めて聴いただけで、
かなりの回数聴いている。

“Heartbeat Drummers of Japan”は、この時、井上先生の試聴ディスクのなかでも、
かなり再生の難度の高い、といえた。

84号の139ページに、このディスクのチェックポイントが載っている。
そちらを参照してください、と書きたいところだが、
もう四十年近く前の号なので、引用しておこう。
     *
①は、約2分10秒あたりから始まる太鼓の連打を使いアンプの電源の能力をチェックしようというものである。②の大太鼓に比べれば、太鼓としてのスケールは小さいが、小さいだけに早い周期に鋭いアタックが繰り出されるために、電源が弱い場合にはすぐにピークが抑えられ、飽和し、クリップが始まり、明瞭に音が汚れる。特に、やや左側に位置する太鼓の音像が乱れ、モノーラル的にグシャグシャになり、ステレオフォニックなプレゼンスとは程遠いものになりやすいあたりは、誰にでも容易に判るチェックポイントである。この録音のピークレベルはかなり高いようで、声を基準に音量を決めると、予想以上に簡単にアンプは飽和し、クリップするようである。
     *
①、②とは、このディスクのトラックである。
①は三宅(Miyake)、②は大太鼓(O-Daiko)である。

64号では、②、③のチェックポイントについても書かれている。

Date: 3月 2nd, 2023
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その21)

その20)は、2017年11月に書いているから、ずいぶんあいだがあいてしまったが、
書きたいことが変ってしまったということはない。

スペンドールのBCIIIは、生真面目なスピーカーである。
このことは何度も書いてきている。

その生真面目なBCIIIから、どうやって中野英男氏のいわれるところの、
「狂気の如く」、「狂気の再現」といえる音が鳴ってくるのか──、といえば、
それはとことん、その生真面目を追求していった先にある。

それは別項「Mark Levinsonというブランドの特異性」で書いていること、
別冊FM fanに瀬川先生が、マーク・レヴィンソンは、このまま、どこまでも音の純度を追求していくと、
狂ってしまうのではないか──、性質的に同じことのように捉えている。

生真面目ゆえの狂気。
生真面目さの行き着いたさきの狂気。
それが中野英男氏が聴かれた「狂気の如く」、「狂気の再現」といえる音なのだろう。

蛇足だとわかっているが、
生真面目なだけでは、どんなにそのことを突き詰めたところで狂気は鳴ってこないだろう。
スピーカーシステムとしての確とした実力があってこそだ。

Date: 3月 2nd, 2023
Cate: High Resolution, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(MQAのこと・その8)

今日(3月2日)発売のステレオサウンド 226号の特集は、
ハイレゾオーディオ2023である。

まだ読んでいないのだが、MQAは、この特集で取り上げられているのだろうか。

Date: 3月 2nd, 2023
Cate: 使いこなし

丁寧な使いこなし(その7)

丁寧な使いこなしの反対を、雑な使いこなしとすれば、
雑な使いこなしとは、どういうことなのだろうか。

使いこなしといわれることは、
つまりオーディオマニアが使いこなしと思ってやっていることは、
人によってそう大きくは違わなかったりする。

ケーブルをかえてみたり、スピーカーの置き場所をかえてみたり、
その他にもいくつもあるけれど、それらのことを言葉にしてみれば、同じといっていい。

それでも丁寧な使いこなしと雑な使いこなしはあるし、
本人は丁寧な使いこなしをしているつもりであっても、
他の人からみれば、なんと雑な使いこなしと見られていることだってある。

雑な使いこなしとは、無駄にしてしまう使いこなしだと考えている。

そんなこと無駄だよ、とか、無駄になってしまった、とか、
無駄ということを口にしてしまう。
けれど考えてみればわかることなのだが、無駄にしているのは、
そのことを口にした本人である。

このことは菅野先生からいわれたことであり、
歳を重ねるごとに、深く実感できることだ。

すべて結びつけていける人は、なにひとつ無駄にしない。
結びつけていけない人こそが、無駄と口にする。

Date: 3月 2nd, 2023
Cate: audio wednesday

第七回audio wednesday (next decade)

第七回audio wednesday (next decade)は、4月5日。

参加する人は少ないだろうから、詳細はfacebookで。
開始時間、場所等は参加人数によって決める予定。

Date: 2月 26th, 2023
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Design(Silent Design)

Noise ControlとNoise Designをテーマにながいこと書いてきているが、
このことは、Silent Designでもある。

Date: 2月 26th, 2023
Cate: よもやま

妄想フィギュア(その7)

その2)で、
オーディオ機器の3Dのデータを公開してくれないだろうか、と書いている。

いつごろからあるのかは知らないが、先日、見つけた。
TURBOSQUIDである。

ざまざまな3Dのデータを、いくつかのフォーマットで販売しいてる。
オーディオ機器もある

すべてを見たわけではないが、
JBLのスピーカーシステムの3Dデータもある。
4343や4350がある。

数日前に書いたスタインウェイのスピーカーシステムもあるし、
ナグラのオープンリールデッキもある。

どの程度の精度のデータなのかは買っていないのでわからないが、
レンダリングされた例をみるかぎり、かなりよさそうである。

Date: 2月 26th, 2023
Cate: ディスク/ブック

Basie & Beyond

“Basie & Beyond”。
どんなディスクなのか、説明する必要はないだろう。
知らない方は、インターネットで検索してみればいい。

──と書いているけれど、“Basie & Beyond”をきちんと聴いたのは、つい数日前。
それまでジャケットは知っていた。
どんなディスクなのかも、なんとなくは知っていたけれど、そこで止ってしまっていた。

“Basie & Beyond”、
audio wednesdayをやっている時に聴いていれば、毎回のようにかけただろう。
大音量で聴きたい。
ヘッドフォンの大音量ではなく、スピーカーからの大音量で、
しかも個人的な趣味でいえば、やはりアメリカのホーン型スピーカーでの大音量で聴きたい。

そしてジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットでの大音量も興味あるところ。
Troubadour 40はある。鳴っている。
けれど、望む音量で聴ける環境ではない。

Date: 2月 26th, 2023
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(続ヤマハのヘッドフォン)

五年ほど前に、ヤマハのヘッドフォンのデザインに違和感を覚える、と書いている。
そのころのヤマハのヘッドフォンは、ハウジングのところに、
大きくヤマハのマークが入っていた。

遠くから見ても、はっきりと、すぐにヤマハのヘッドフォンとわかるくらいに、
大きくロゴがあった。

五年前に書いているのだが、
そのころのヤマハのヘッドフォンと同じように、
ロゴやマークが大きく入っているヘッドフォンは他社製でもけっこう多くあった。

それらの製品は、それでもいいと思っている。
ヤマハのヘッドフォンは、そうであってほしくない──、
これは完全に個人的なおもいいれでしかないのもわかっている。

1970年代からのヤマハのヘッドフォンを見てきている世代にとって、
マリオ・ベリーニによるデザインのHP1、
ポルシェデザインのYHL003は、印象に残っている。

なにも外部にデザインを依頼しろ、といいたいのではない。

こちらが勝手に思い描いているヤマハの印象にそうデザインのヘッドフォンを出してほしい、
ただそれだけなのだが、
そういう製品がメーカーから発売になることは、そう多くはない。

今回、ヤマハからワイヤレスヘッドフォンが発売になった。
YH-L700AとYH-E700Bである。

どちらのヘッドフォンも、五年前のヤマハとはまったく違っている。

Date: 2月 22nd, 2023
Cate: 終のスピーカー

終のスピーカー(その16)

終のスピーカーとは、
自分自身を進化ではなく、己を純化させてくれるモノなのだろう。

Date: 2月 22nd, 2023
Cate: 598のスピーカー

598というスピーカーの存在(KEF Model 303・その19)

別項「世代とオーディオ(JBL 4301)」で、
JBLのブックシェルフ型2ウェイの4301について書いている。

ステレオサウンド 46号の特集で、
瀬川先生の4301の評価はなかなかのものだった。

さらにステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’79」で、
瀬川先生は予算30万円の組合せでJBLの4301を使われている。

アンプはサンスイのAU-D607、アナログプレーヤーはKP7600、
カートリッジはエレクトロアクースティック(エラック)のSTS455Eで、
組合せトータル価格は298,700円。

「コンポーネントステレオの世界 ’79」は1978年12月に出ている。
4301の価格は円高のおかげで安くなっていた。
46号のころだと予算オーバーになってしまうが、
1978年ごろに、30万円という予算で組合せが可能になっていた。

「世代とオーディオ(JBL 4301)」を書いていたころからすれば、
多少薄れてきているけれど、4301は程度のいいモノとであえれば、手に入れたい。

なぜ、欲しいという気持が薄れてきたのか。
KEFのModel 303を手に入れたからではないのか。
先日、そのことにふと気づいた。

瀬川先生は、ステレオサウンド 56号で、
KEFのModel 303、サンスイのAU-D607、パイオニアのPL30L、
デンオンのDL103Dという組合せを提案されている。

この組合せのトータル価格は、288,600円である。
つまり予算30万円の組合せである。

この組合せが気づかせてくれた。
アメリカのJBL・4301、
イギリスのKEF・Model 303。
そういうことなのだ、と。

Date: 2月 22nd, 2023
Cate: アンチテーゼ, 平面バッフル

アンチテーゼとしての「音」(平面バッフル・その12)

スタインウェイに、Model Dというスピーカーシステムがある。

いくつかあるスピーカーのなかで、Model Dがフラッグシップモデルであり、
Model Dはリンク先をみればわかるように、エンクロージュアをもたない。

平面バッフル(オープンバッフル)のスピーカーシステムである。
しかも、そのバッフルに縦に長く、横幅は狭い。

これで低音の十分な再生が可能なのか、といえば、
アンプ搭載タイプであり、低域の補整を行っているのだろう。

振動板のストロークが大きいユニットであれば、
こういうプロポーションの平面バッフルでも、満足のいく低音は再生可能なのだろう。

実をいうと、シーメンスのコアキシャルを鳴らしていたころ、
こういう平面バッフルを考えたことがある。

低音のためには面積の広さが必要なのだが、
誰もが2m×2m級の平面バッフルを、部屋に置けるわけではない。

そのころシーメンスのコアキシャルを取りつけていたのは、
1.8m×0.9mの平面バッフルだった。

それでも狭い部屋では、かなりの圧迫感だった。
もう少し、幅を狭くできないものか──。
そんなことをよく考えていた。

縦に長い平面バッフル。
考えただけで、実行に移すことはしなかった。
スピーカーをセレッションのSL600にしたからである。

それでも、そのころからユニットの幅ぎりぎりまでに狭め、
縦に長いプロポーションの平面バッフルの音は、聴ける日が来るのか──、と思っていた。

スタインウェイのModel Dを聴く機会はそう簡単には訪れないだろうけれど、
それでもいい、と思うのは、
うまく低域を補整することで、うまくいく可能性がある、という確信が得られたからだ。