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Date: 5月 16th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続々続々K+Hのこと)

1999年秋に、パイオニアからデジタル・コントロールアンプとして、C-AX10が登場した。
DSPとA/Dコンバーターを搭載して、内部での信号処理はすべてデジタルで行うもので、
レベルコントロール、トーンコントロールはもちろん、アナログディスクの再生においてもデジタルで処理している。
その他の機能として、16ビット信号を24ビットに再量子化するHi-Bit、
デジタルディバイディングネットワークをもつ。
C-AX10の機能を、こまかく説明していると、それだけでけっこうな分量になってしまうほどの多機能ぶりだ。

C-AX10で、使い手側(つまりオーディオ機器のユーザー)は、はじめてIIR型とFIR型、
ふたつのデジタルフィルターの音の違いを聴くことが可能になった。

メーカーの技術者ならば、IIR型とFIR型を、ほかの条件は同一のまま聴き較べることはできても、
メーカーの製品を聴く側では、そんな機会はまずない。
C-AX10の機能のひとつ、デジタルディバイディングネットワークは、IIR型とFIR型の切替えができる。

C-AX10のデジタルディバイディングネットワークの機能をみると、
IIR型とFIR型の演算処理の違いが、間接的にではあるがわかる。

クロスオーバー周波数は、IIR型では70Hzから24kHzまでの25ポイントなのに対し、
FIR型は500、650、800、1000Hzの4ポイントだけ。
スロープ特性はIIR型では0、-6、-12、-18、-24、-36、-96dB/oct.に対し、
FIR型ではローパス側は-36、ハイパス側は-12dB/oct.に固定、となっている。
演算処理が増すことにより、設定の自由が狭くなっていることがわかる。

つまりIIR型のデジタルディバイディングネットワークは汎用型として使えるが、
FIR型デジタルディバイディングネットワークは、
基本的にはパイオニアのスピーカーシステム用に限定されてしまう。

Date: 5月 15th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続々続K+Hのこと)

デジタル信号処理の話題が出はじめたとき、
まだそのときはステレオサウンドにいたころで、国内メーカーの技術者の人の話に、
デジタルで信号処理した際に、振幅特性と位相特性に関することがあった。

ある国内メーカーの技術者は、デジタルでは振幅特性と位相特性とをそれぞれ単独でコントロールできる。
けれど、自然現象として、振幅特性が変化すればそれにともなって位相特性も変化するものだから、
そのことを重視して、われわれは振幅特性と位相特性、互いに影響し合う関係処理していく、
つまりアナログフィルター同様にする、ということだった。

そういわれてみると納得するものの、やっぱりデジタル信号処理の強み、
つまり品ログフィルターでは不可能なことがデジタルでは可能になるわけだから、
振幅特性と位相特性は、それぞれ単独でコントロールもできるようにしてくれれば、
使い手側で選択できるのに……、と思ってもいた。

CDが登場して、わりとすぐに聞くようになったのは、
デジタルだから振幅を変化させても位相特性は変化しない、ということだった。
その2、3年経ったころだったと思うが、
今度は、いやデジタルでも振幅を変化させれば位相もそれに応じて変化するのは、
アナログと同じである、ともいわれはじめた。

どちらも正しい。
IIR型デジタルフィルターなのか、FIR型デジタルフィルターなのかによって、それは異るからだ。
IIR(Infinity Impulse Response)型では振幅特性とともに位相特性も変化していく。
FIR(Finite Impulse Response)型では、振幅のみを独立して変化できる。

いまはこんなふうに書いているけれど、私もデジタルフィルターにIIR型とFIR型とがあることを知ったのは、
1980年代の終りごろだった。
それも、どちらがより高度な処理なのかは、
振幅特性、位相特性をそれぞれコントロールできるFIR型であることはわかっていたものの、
それが実際にはどの程度の違いなのか、具体的なことまでは知らなかった。
このときになって思ったのは、あのときデジタル信号処理についての話には、
FIR型に関しては、実際に製品に導入することはあの時点では無理があったんだろうな、ということだ。

Date: 5月 1st, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続々K+Hのこと)

K+HのOL10は当時160万円(ペア)、O92は150万円(ペア)で、
ほとんど価格差はない、といっていい。
どちらも3ウェイのマルチアンプドライブで、
内蔵パワーアンプの型番はO92用がVF92、OL10用がVF10と異っているものの、
ステレオサウンドに掲載されている写真を見るかぎりは、同じもののような気がする。

ユニット構成は、というと、ウーファーは25cm口径のメタルコーンのウーファーを2発、
10cm口径の、やはりメタルコーン型をスコーカーに採用しているのはOL10、O92に共通で、
トゥイーターのみ、O92はドーム型、 OL10はホーン型となっている。

大きな違いはエンクロージュアにある。正面からみれば、どちらも密閉型のようだが、
O92はアクースティック・レゾネーター型と称したもので、
エンクロージュアの裏板を薄く振動しやすいようにしてあり、
中央に錘りをつけてモードをコントロールしてある。

ここが、O92とOL10の音の違いに、もっとも深く関係しているように、
瀬川先生の試聴記を読みなおすと、そう思えてくる。

O92の試聴記には、こうある。
     *
ただ曲に酔っては、中低域がいくぶんふくらんで、音をダブつかせる傾向がほんのわずかにある。とくに案・バートンの声がいくぶん老け気味に聴こえたり、クラリネットの低音が少々ふくらみすぎる傾向もあった。しかし総体にはたいへん信頼できる正確な音を再現するモニタースピーカーだと感じられた。
     *
完全密閉型のOL10に対しては、
O92に感じられた2〜3の不満がすっかり払拭されている、と書かれている。

O500CはO92の後継機だが、アクースティック・レゾネーター型ではない、バスレフ型だ。

Date: 5月 1st, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続K+Hのこと)

あきらめてはいても、ときどきふっと思い出すことはある。
先日、そういえばK+Hって、いまもあるんだろうか、と思い、検索してみると簡単に見つかった。
いまも活動している会社だった。

ステレオサウンドにはK+Hと表記してあったが、
正しくはクライン・ウント・フンメル(Klein und Hummel)社で、
いまはノイマン/ゼンハイザーの傘下、もしくは協力会社のようだ。

K+Hのサイトの”Historical Products”の項目をクリックすれば、この製品が表示される。
そこにあるのは、092ではO 92だった。0(ゼロ)ではなくO(オー)だった。

O92は1976年から1995年まで製造されていたことがわかる。
資料もダウンロードできる。
OL10は1974年から78年まで、わずか4年間だけの製造で、しかも資料がなにひとつない。
これは残念だったけれど、O92のところに”Follow-up model is O 111″という表記がある。
O111のところには”Follow-up model is O 121/TV”とあり、
O121/TVのところには”Follow-up model is O 500C”とある。

このO500Cが、現在のK+Hのモニタースピーカーのラインナップのトップモデルになる。
外観の写真を見ると、ジェネレック(Genelec)のスピーカーのOEMか、と思ってしまった。
1037Cにユニット構成も、スコーカーとトゥイーターのまわりに凹みをつけている処理も似ている。
バスレフポートの形状が違うくらいで、雰囲気はそっくりである。
しかも1037CもO500Cもパワーアンプ内蔵のアクティヴだ。
ここまではK+HのO92も同じである(ただしエンクロージュアはバスレフ型ではない)。

これで終りだったら、O500Cに惹かれない。
O500Cは”Digital Active Main Monitor”と表記してある。

Date: 5月 1st, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・K+Hのこと)

若いオーディオマニアの方は、もうそうでもないのかもしれないけれど、
私ぐらいまでの世代だと、スタジオモニター、モニタースピーカーというものに、
いまでも反応してしまうところがある(少なくとも私はいまでもそう)。

モニタースピーカーで思い浮べるスピーカーシステムは、けっこうバラバラかもしれない。
まっさきにアルテックの銀箱をイメージする人もいれば、やっぱりJBLの4320、いや4350とか、
私のようにBBCモニターだったりするだろう。

1978年3月に出たステレオサウンド 46号は「世界のモニタースピーカー そのサウンド特質を探る」が特集だった。
ダイヤトーン、JBL、アルテックといった代表的なモニタースピーカーのブランドのなかにまじって、
K+HとUREIが、新顔として登場していた。
UREIのスピーカーシステムは、その後もステレオサウンドに何度か登場している。
K+Hはというと、46号とその次の号(47号・ベストバイの特集号)に登場したきりである。
輸入元は河村研究所だったこともあり、記憶されていない方のほうが多いように思う。

K+Hには2モデルあった。
OL10とO92である。

記憶のよい方だと、O92ではなくて、092だろ、と思われるはず。
ステレオサウンド 46号、47号には092となっている。
だから私もつい最近まで092だと思っていた。

OL10と092では、型番のつけかたに、なんら統一性がない、とは以前から感じていたけれど、
疑うことまではなかった。
それに私が聴きたかったのはOL10のほうだったこともある。

46号で、瀬川先生は、書かれている。
     *
私がもしいま急に録音をとるはめになったら、このOL10を、信頼のおけるモニターとして選ぶかもしれない。
     *
47号では、☆☆☆をつけたうえで、「ほとんど完璧に近いバランス」と書かれている。

OL10は、瀬川先生が、どういう音を求められていたのかを実際の音で知る上でも、
どうしても聴いておきたかったスピーカーシステムのひとつなのだが、
そういうスピーカーに限って、実物すらみることはなかった。おそらくこれから先もないだろう。