Archive for 11月, 2016

Date: 11月 19th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その109)

ステレオサウンド 60号の表紙はアルテックのスピーカーである。

フロントショートホーン付きのエンクロージュア817Aに、515Eを二本おさめ、
中高域は288-16Kにマルチセルラホーン1005Bを組み合わせたモノ。

アルテックのスピーカーシステムとして、
この組合せのモノは、1981年のHI-FI STEREO GUIDEには載っていない。

載っているのは、1005BではなくマンタレーホーンMR94を採用したシステムで、
Mantaray Horn Systemが載っているし、
60号の特集「サウンド・オブ・アメリカ」に登場するのも、こちらである。

にも関わらず、表紙に1005Bを使ったのは、
写真映えするからだ、と思う。

10セルの1005BはW77.5×H42.5×D47.0cmという、そうとうに大型のホーンである。
かなり高価なホーンでもあった。
1981年当時で317,500円で受註生産品だった。
マンタレーホーンのMR94は141,100円、
JBLの蜂の巣(HL88)が130,000円の時代に、である。

マンタレーホーンを生み出した技術理論からすれば、
1005Bは旧型ホーンということになる。
指向特性も高域にしたがって悪くなっていく。
歪も多い、ということになる。

実際そうなのだが、モノとしたみたときに、
そして男の趣味のモノとしたときに、魅力的なのは圧倒的に1005Bである。

60号では、1005Bホーンを載せたシステムを、上から捉えている。
マルチセルラホーンの形状、デッドニングの感じが伝わってくる。

MR94では、このアングルではこんな感じにはならないだろうし、
かといってアングルを変えてみても……。

59号の表紙はJBLの4345だった。
全体にのっぺりした印象だったのに対し、
60号の表紙はスピーカーという立体物の魅力を捉えている。

「サウンド・オブ・アメリカ」という特集を表している表紙だと、
当時も思ったし、いまもそう思う。
そう思わない人も、いまでは増えてきていてもだ。

Date: 11月 18th, 2016
Cate: アナログディスク再生

ダイレクトドライヴへの疑問(その22)

ダイレクトドライヴは、なにもセンタードライヴである必要はない。
その18)で書いたように、
ターンテーブルプラッターというマスをもつものを廻すには、
中心に力を加えるよりも外周に力を加えた方が理に適っている、はず。

外周に……、ということになると、ベルトドライヴやアイドラードライヴということにななる。
ダイレクトドライヴで外周(最外周でなくとも、外周より)で力を加える方式が、
ダイレクトドライヴのひとつの理想形といえるのではないだろうか。

ずいぶん前に、そんなことを考えた。
とはいっても具体的な方式は考えつかなかった。

どのぐらいしてだろうか、一年、二年くらい経ってのことだ、
電力計の円盤が回転しているのを見て、これはアナログプレーヤーに使えるのでは、と。

使用している電力に応じて回転するスピードは変化する。
それになめらかに回転している。

あの当時、インターネットがあれば、すぐさま「電力計 原理」と検索するところだが、
そんなものはなかった。
すぐに電力計の原理について知ることはできなかった。

それからまた一年か二年経ったころに、あるアナログプレーヤーが登場した。
電力計と同じ原理でターンテーブルを回転させていた。

私が思いつくのだから、メーカーのエンジニアも思いつく。
彼らは原理を知っている。そしてアナログプレーヤーに応用している。

B&Oのダイレクトドライヴ型プレーヤー、Beogram 8000がそうである。
それまでベルトドライヴだったB&Oが出してきたダイレクトドライヴは、センタードライヴではなかった。

Date: 11月 18th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その108)

51号からダメになってしまったと感じていたベストバイという特集。
それでも一冊のステレオサウンドとして観た場合、
55号では「ハイクォリティ・プレーヤーシステムの実力診断」をやっている。

いわゆる総テストでとはなく、普及クラス、中級クラスのモノは省いての、
アナログプレーヤーのテストである。

ベストバイがマニアックとはいえない性格の特集なだけに、
こちらではマニアックな特集という意味を込めての企画といえる。

59号にも、そういう意図は読める。
特集2は、「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」である。
56機種のトランスおよびヘッドアンプを二回にわたってテストしている。

そしてもう一本。
特集ではないけれど、黒田先生の「ML7についてのM君への手紙」がある。
導入記である。

これは広く浅い読み物ではない。
書きたいことをあれこれ書き始めると、ここで停滞しそうだから、
あえてひとつだけに絞ろう。
 後半というか、最後のほうに、こう書かれている。
     *
 そして、あの日、きみには、ひとまずML7Lを持って帰ってもらいました。そのあとのぼくがいかにもんもんとしたかは、ご想像にまかせます。そして、あれから一週間ほどして、きみは電話をくれました。この電話が決定的でした。きみとしてはジャブのつもりでだした一打だったのでしょうが、そのジャブがぼくの顎の下をみごとにとらえました。ぼくとひとたまりもなくひっくりかえってしまいました。「やっぱり買うよ、俺、ML7Lを」と、電話口で、ぼそぼそといってしまったのです。
 もしかするときみは、ぼくになにをいったのか、おぼえてさえいないのかもしれません。念のために、ここに、書いておきます。きみは、こういったんです──「田中一光先生がML7Lをお買いになるんだそうですよ」。このひとことはききました。そうか、田中一光氏が買うのか──と思いました。
 ぼくは、光栄なことにぼくの本の装幀を田中一光氏にしていただいて、仲間たちから、なかみはどうということもないけれど装幀がすばらしいといわれて、それでもなおうれしくなるほどの田中一光ファンですが、まだ一度もお目にかかったことがありません。でも、直接お目にかかっているかどうかは、さしあたって関係のないことで、その作品やお書きになったものから、ぼくの中には、厳然と田中一光像があって、その田中一光氏がML7Lを使うとなれば、よし、ぼくもがんばってということになります。このときのぼくの気持は、アラン・ドロンが着ているからという理由で、その洋服を着てみようとするできそこないのプレイボーイの気持に似ていなくもありませんでした。
 いずれにしろ、決心のきっかけなんて、他愛のないものです。よし、ぼくもML7Lを買おうと決心した、つまり、清水の舞台からぼくをつき落としたのは、きみのひとこと「田中一光先生がML7Lをお買いになにんだそうですよ」だったということになります。
     *
最終的な決心をするということきは、意外にもこういうことなのかもしれない。

Date: 11月 17th, 2016
Cate: 川崎和男

KK適塾(コンシリエンスデザイン)

2015年度のKK塾、
今年度のKK適塾。
コンシリエンスデザイン(Consilience Design)について、語られる。

その時にディスプレイに表示される図。
二本の垂直の矢印。
中間に円。

川崎先生のブログで「コンシリエンスデザイン」で検索すれば、
この図はすぐに見つかる。

この図を見て、川崎先生の話をきく。
KK塾でも毎回、そして今日のKK適塾でも、
この図は、オーディオを表している、と思う。

Date: 11月 17th, 2016
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(45回転LPのこと・その9)

クラシックだと曲の最後がもっとも盛り上ることが多い。
にも関わらず、その盛り上るところがLPだと内周にカッティングされることが、また多い。

LPと外周と内周とでは、音が違う。
外周が有利であることは、いうまでもない。

ならば内周から外周に向ってカートリッジがトレースしていくようにすれば、
盛り上りのところが外周にカッティングされる。

ラヴェルのボレロ。
クラシックにほとんど関心のない人でも知っている有名な曲。
この曲ほど、LPに向かない曲はないだろう。

けれど内周から外周へと向うLPであれば……、
そういう考えのもと制作されたのがリバース45回転LPである。

このLPを再生するのに特殊な器材は必要ない。
ターンテーブルが逆回転する必要はなく、
LPの最内周にカートリッジを降ろすだけでいい(降ろしにくいけれども)。

DAM45で、カラヤンのボレロが、リバース45回転LPで出ていたのは知っていた。
知っていただけである。

周りに持っている人もいない、と思っていたら、
今日のKK適塾でデザイナーの坂野博行さんとオーディオ話をしていたら、
昨日のブログを読んでレコード棚を探してみたら、45回転のクラシックLP、何枚かありました。
デンオンとか、それからカラヤンの逆回転のボレロも持ってました」
といわれた。

書いてみるべき、である。
書かなかったら坂野さんもレコード棚をチェックされなかっただろう。
カラヤンのリバース45回転LPも眠ったままだったかもしれない。

はっきりと決めていないが、来年のaudio sharing例会で、
45回転LPを集めての音出しをやりたいと考えている。

Date: 11月 17th, 2016
Cate: 川崎和男

KK適塾(一回目)

KK適塾に行ってきた。
今日から3月まで毎月一回、KK適塾が開かれる。

一回目の講師は、坂井直樹氏。
KK適塾の最後、坂井直樹氏と川崎先生の対談に「幸福」ということばがでてきた。

数日前から書き始めた「必要とされる音」は、この幸福について書くつもりでいる。
だから、今日きいたどんなことばよりも、この「幸福」が強い印象をもっている。

二日前にamazonがPrime Nowのサービスエリアを東京23区に拡大するニュースがあった。
Prime Now対象の商品であれば、専用アプリからの注文から一時間後配達する、というサービス。
これまではかなり限定された地区のみだったのが、23区に拡がっている。

おそろしく便利なサービスである。
従来では考えられなかったスピードで、配達される。
便利である。

便利であるけれど、それは幸福とはまったく別のところのものでしかない。

ずっと以前、ヤマト運輸の宅急便のアルバイトをやったことがある。
お歳暮の忙しい時期だけの短期間だった。
当時はインターネットで買物をする人はだれもいなかった。
amazonもなかったころの話だ。

助手とはいえ、宅急便のアルバイトはしんどいものだった。
そのころとは物量がまるで違うのが、現在の状況である。

誰もが手軽にインターネットで買物をする。
それだけ配達をする人の負担は増している。
疲弊していくだけではないか。

それでも誰かが幸福になっているのであれば……、
配達される人もまだ張り合いはあるのかもしれない。

でもamazonのPrime Nowは、ただただ便利なだけである。
誰も幸福にはならない。

Prime Nowで一時間以内に商品が届いたとして、
ほんとに届いた、おっ、すごい、とは思うだろう。
でも、それは幸福とは関係のないことだ。

せいぜいが快感につながるくらいである。
そこに何があるのだろうか、と誰もが思うようになるべきではないだろうか。

Date: 11月 17th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その107)

ステレオサウンド 59号で紹介されている新製品の中で、
瀬川先生はアキュフェーズのパワーアンプM100とルボックスのカセットデッキB710を担当されている。

M100は出力500Wでモノーラル仕様。
58号の新製品紹介でマッキントッシュのMC2500が登場したところだから、
二号続けての500W級のパワーアンプの新製品である。

カラーの4ページで紹介されている。
このアンプの試聴記の後半は、
瀬川先生が中目黒のマンションで、4345をM100で鳴らされていたのを知って読み返すと、
時代の音の変化とともに、瀬川先生が求められる音も変化していることを感じ取れるはずだ。

文章のボリュウムとしてはM100が多いが、
私が、瀬川先生ならではだ、と感じたのは、
モノクロ1ページのルボックスのB710の記事のほうである。

5000字近いM100の文章と、
1000字に満たないB710の文章。

B710の文章は、俯瞰の視点からのもので、B710のことというよりも、
国産のオーディオと海外のオーディオの音の違いを語られている文章といえる。

特定のディスクの、この個所がこんなふうに鳴った、というリポート的な試聴記がある。
そういう試聴記はどれだけは、細かく書こうと、リポートの域を脱することはない。

そんなリポート的試聴記がわかりやすいという読み手が少なからずいることは知っている。
そんな読み手に、B710の文章は、どう読まれるのだろうか。

Date: 11月 17th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その106)

JBLの4301BWX(150,000円、ペア)に、プリメインアンプはテクニクスのSU-V6(59,800円)、
アナログプレーヤーはパイオニアのPL30L(59,800円)、
カートリッジはオルトフォンのVMS30MKII(35,000円)、
システム合計金額は304,600円。

こんな組合せをステレオサウンド 59号の特集ベストバイを見ながらつくっていた。
瀬川先生が56号の特集で示された組合せの一例(KEFのModel 303にサンスイのAU-D607)に、
対抗する気持が少しばかりあっての組合せだ。

もしかすると瀬川先生も、予算30万円の組合せならば、
これに近い組合せをつくられたかも……、と思いながら考えていた。

4301Bの音はModel 303とは対照的だ。
どちらかといえば地味な傾向の303、
小型であってもやはりJBLといえる明るい軽妙な音の4301。

アンプはサンスイのAU-D607もいいけれど、
59号のころ(1981年)にはAU-D607Fになってしまっていた。
だからテクニクスを選ぶ。

57号のプリメインアンプの総テストで、
オルトフォンのVMS30MKIIが、SU-V6の良さを特に活かす、と書かれている。
私も、このシステムでもクラシックを聴きたいから、
アメリカのカートリッジではなくヨーロッパのモノを選びたい。

SU-V6にヘッドアンプは内蔵されているけれど、
あくまでもこたの価格帯のアンプとしては良い部類でも、
MC型カートリッジの良さを活かすとはいえないようなので、
そうなるとVMS30MKIIに絞られていく。

読み応えのあまりない59号の特集だったけれど、
こんな楽しみ方をしていた。

Date: 11月 16th, 2016
Cate: 欲する

資本主義という背景(その4)

ハーマン・インターナショナルのサイトにも、
JBLの70周年記念モデル4312SEのページが公開されている。

そこには大きく「JBL 70周年記念モデル 4312SE シリアルナンバー限定予約」と表示されている。
日本だけのキャンペーンのようだ。

シリアルナンバーの証明書もついていくる、とある。
なんだろう、有難みをまったくといっていいほど感じない。
4312SEというスピーカーが、
JBLの70周年記念モデルとしてふさわしいかどうかなんて、これを見て、どうでもよくなってきた。

これはマーケティングなのだろうか。
そうなのだろう。

私は資本主義について、専門的な知識は持ち合わせていない。
「資本主義という背景」という標題をつけておきながら、である。

理想の資本主義について語れるわけでもない。
そんな私が、現代の資本主義について感じているのは、
「資本主義とは広告である」だ。

本来の資本主義からは離れてしまっている捉え方だろうが、そう思えてしまう。

Date: 11月 16th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その105)

ステレオサウンド 59号の表紙はJBLの4345。
4343が表紙の41号から読みはじめた私は、
どうしても41号と59号を、記憶のなかで比較してしまう。

つまり、それは4343と4345のプロポーションの比較であり、デザインの比較でもある。

どちらも正面からの撮影である。
バックの色調が違うということ、
41号の4343はウォールナット仕上げではなく、サテングレー仕上げだったこと、
59号の4345はウォールナット仕上げ、そういう違いもあって、
受ける印象はずいぶん違う。

改めて4343のデザインの良さを認識してしまうことになる。

59号の特集はベストバイである。
51号、55号のベストバイにがっかりしていたから、
59号にも期待はしていなかった。少しは良くなってたらいいけど……くらいだった。

実際の59号の特集は、51号、55号よりは少しは良くなっていた。
やはり評判が良くなかったんだろう、と思った。

それでも43号のベストバイには及ばない。
このころは編集のことをなにひとつ理解していなかった。
いまはその理由もわかる。
けれど、それはあくまでも編集側の都合であって、
読み手はそんな特集を望んでいるわけではない。

Date: 11月 16th, 2016
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(45回転LPのこと・その8)

45回転LPのことを書いているが、
私がこれまで聴いてきた45回転LPは、すべてクラシック以外のものばかりである。

そういえばクラシックの45回転LPを聴いた経験がないことに、書きながら気づいた。
クラシックでも45回転LPは出ている。

といってもどんなタイトルが出ていたのか、あまり憶えていない。
はっきりと憶えているのは、ドイツ・グラモフォンからアバドの五枚ぐらいだ。

日本だけの発売だが、ドイツでのカッティングを謳っていた。
グルダとのモーツァルトのピアノ協奏曲第20番、
同じくモーツァルトの交響曲第40番、
ヴェルディのオペラ合唱曲集、
ストラヴィンスキーの春の祭典、
プロコフィエフの交響組曲キージェ中尉、
この中で聴いてみたいと思ったのは、モーツァルトの二枚、
特にグルダとのピアノ協奏曲である。

1981年に、これらは発売になっている。
このころは上京して数ヵ月。
手持ちのオーディオはSMEの3012-R Specialだけだったころだ。

一枚2,800円のLPを買うのもためらっていた。
ドイツ・プレスであったならば、買っていた。
でも国内盤ということで、見送ってしまった。

初回プレスのみの限定盤だった。
中古もあまり見つかりそうにないように思うが、
モーツァルトだけは探してみよう。

Date: 11月 15th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その104)

瀬川先生は、国による音の違い、特徴について言及されていた。
アメリカとヨーロッパ、それに日本、
それも特にスピーカーにおいて、それぞれの国柄が音として聴きとれる。

アメリカといっても東海岸と西海岸とではまた違う傾向を持ち、
ヨーロッパもイギリス、ドイツ、フランスでははっきりとした違いが音にある。

もちろん同じ国の中のメーカーによっても音は違うが、
数多くのスピーカーシステムを集めて聴くことで見えてくるのが、
国による音の違いである。

今回ステレオサウンド 58号をひっぱり出して読んでいて、
瀬川先生は1980年代には、時代による音の違いについて言及されたであろうと、
改めて思っていた。

改めて、と書いたのは、以前もそう思ったことがある。
1988年のことだ。
モノーラルからステレオ時代になってからだけをみても、
1960年代、1970年代、1980年代、それぞれの時代の音というのがあるように感じていた。

1989年の春号は90号。
1990年代の音を予測する、という意味も含めて、
これまでの時代の音をふりかえる、という企画を特集用として考えた。

企画書も下書きではあったが書いた。
でも、企画を詰めることなくステレオサウンドを辞めることになった。

90号の特集は、違う企画である。

Date: 11月 15th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その103)

3012-R Specialについての、瀬川先生の文章を読んで、
はっきりとオーディオは新しい時代に入ったんだな、と確信していた。

4345の文章だけでは、新しい時代を迎えつつある──、そんなふうな感じ方だったのが、
はっきりと変った。
時間にすれば10分程度のあいだに、である。

ステレオサウンド 58号は1981年春号だ。
4343が’70年代のスピーカーとすれば、4345は’80年代のスピーカーなんだ。

SMEの新しいトーンアームは、そのためにも必要不可欠なモノなんだ、とも思ってしまった。
思い込んでいた、といってもいい。

ステレオサウンドを41号から読みはじめて四年ほどのあいだに、
欲しいと憧れたスピーカーは4343に加え、ロジャースのPM510が加わり、
4343の代りに4345に代ろうともしていた。
(いまでは4343なのだが)

アンプにおいても、そうだった。
欲しいと憧れていたモノは少しずつかわっていく。

憧れのモノを買える日には、またかわっていよう。
それでもトーンアームに関しては、3012-R Specialのままでいける──、
そんな確信めいたものがあった。

3012-R Specialは、いまもいいトーンアームである。
美しいトーンアームである。
その後の3012-R Proよりも、3012-R Specialの方が優美だ。

音に関してだけはSMEのSeries Vがある。
それでもレコード盤上を弧を描いていく様は、
3012-R Specialに惚れ惚れとしてしまう。

18の春、3012-R Specialは音も聴かずに買った。
ショーケースの中に箱に入ったまま飾られていた。
在庫は、その一本だけだった。

Date: 11月 15th, 2016
Cate: 欲する

資本主義という背景(その3)

サムスンのハーマン・インターナショナルの買収のニュースの数日前、
大阪ハイエンドオーディオショウで、JBL創立70周年記念モデルが参考出品されている。

私は70周年記念モデルは、JBL PROFESSIONALのM2をベースに、
コンシューマー仕様に仕上げたものだと予想していた。

M2は内蔵ネットワーク仕様ではなく、
専用のプロセッサー兼デヴァイダーによるバイアンプ駆動。
M2をコンシューマー用に仕上げるには、内蔵ネットワークになるだろうから、
ここをどう処理するのか、そこに興味もあった。

そしてデザインも、である。
M2は、目の前に置きたいスピーカーとはいえない。
音を聴けば、そんなことはわすれてしまうかもしれないにしても、だ。

秋には発表されると思っていた70周年記念モデルは、なかなか出てこなかった。
上記の点で苦労しているのかな、などと勝手に思っていたところに、
4312SEが、70周年記念モデルという発表である。

型番からすぐにわかるように、4312のspecial editionである。
もしかすると……、というおもいがなかったわけではない。

JBLは40周年記念モデルとしてS101を、50周年記念モデルとしてCentury Goldを出している。
そんな前例があるから、70周年記念モデルが4312であっても、そうなのか、と納得できないわけでもない。

でも60周年記念モデルとしてDD66000を出したJBLに、勝手に期待していた。
それがはずれた(裏切られた)からといって、特に何かを書こうとは思っていなかった。

でも今回の買収のニュースである。
どうしても、あれこれおもってしまう。

Date: 11月 15th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(続・瀬川冬樹氏の原稿のこと)

瀬川先生の未発表原稿の公開は、このブログの10,000本目に行う。
いまのペースで書いていけば、2019年12月31日が10,000本目の予定である。