ステレオサウンドについて(その109)
ステレオサウンド 60号の表紙はアルテックのスピーカーである。
フロントショートホーン付きのエンクロージュア817Aに、515Eを二本おさめ、
中高域は288-16Kにマルチセルラホーン1005Bを組み合わせたモノ。
アルテックのスピーカーシステムとして、
この組合せのモノは、1981年のHI-FI STEREO GUIDEには載っていない。
載っているのは、1005BではなくマンタレーホーンMR94を採用したシステムで、
Mantaray Horn Systemが載っているし、
60号の特集「サウンド・オブ・アメリカ」に登場するのも、こちらである。
にも関わらず、表紙に1005Bを使ったのは、
写真映えするからだ、と思う。
10セルの1005BはW77.5×H42.5×D47.0cmという、そうとうに大型のホーンである。
かなり高価なホーンでもあった。
1981年当時で317,500円で受註生産品だった。
マンタレーホーンのMR94は141,100円、
JBLの蜂の巣(HL88)が130,000円の時代に、である。
マンタレーホーンを生み出した技術理論からすれば、
1005Bは旧型ホーンということになる。
指向特性も高域にしたがって悪くなっていく。
歪も多い、ということになる。
実際そうなのだが、モノとしたみたときに、
そして男の趣味のモノとしたときに、魅力的なのは圧倒的に1005Bである。
60号では、1005Bホーンを載せたシステムを、上から捉えている。
マルチセルラホーンの形状、デッドニングの感じが伝わってくる。
MR94では、このアングルではこんな感じにはならないだろうし、
かといってアングルを変えてみても……。
59号の表紙はJBLの4345だった。
全体にのっぺりした印象だったのに対し、
60号の表紙はスピーカーという立体物の魅力を捉えている。
「サウンド・オブ・アメリカ」という特集を表している表紙だと、
当時も思ったし、いまもそう思う。
そう思わない人も、いまでは増えてきていてもだ。