Date: 11月 18th, 2016
Cate: ステレオサウンド
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ステレオサウンドについて(その108)

51号からダメになってしまったと感じていたベストバイという特集。
それでも一冊のステレオサウンドとして観た場合、
55号では「ハイクォリティ・プレーヤーシステムの実力診断」をやっている。

いわゆる総テストでとはなく、普及クラス、中級クラスのモノは省いての、
アナログプレーヤーのテストである。

ベストバイがマニアックとはいえない性格の特集なだけに、
こちらではマニアックな特集という意味を込めての企画といえる。

59号にも、そういう意図は読める。
特集2は、「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」である。
56機種のトランスおよびヘッドアンプを二回にわたってテストしている。

そしてもう一本。
特集ではないけれど、黒田先生の「ML7についてのM君への手紙」がある。
導入記である。

これは広く浅い読み物ではない。
書きたいことをあれこれ書き始めると、ここで停滞しそうだから、
あえてひとつだけに絞ろう。
 後半というか、最後のほうに、こう書かれている。
     *
 そして、あの日、きみには、ひとまずML7Lを持って帰ってもらいました。そのあとのぼくがいかにもんもんとしたかは、ご想像にまかせます。そして、あれから一週間ほどして、きみは電話をくれました。この電話が決定的でした。きみとしてはジャブのつもりでだした一打だったのでしょうが、そのジャブがぼくの顎の下をみごとにとらえました。ぼくとひとたまりもなくひっくりかえってしまいました。「やっぱり買うよ、俺、ML7Lを」と、電話口で、ぼそぼそといってしまったのです。
 もしかするときみは、ぼくになにをいったのか、おぼえてさえいないのかもしれません。念のために、ここに、書いておきます。きみは、こういったんです──「田中一光先生がML7Lをお買いになるんだそうですよ」。このひとことはききました。そうか、田中一光氏が買うのか──と思いました。
 ぼくは、光栄なことにぼくの本の装幀を田中一光氏にしていただいて、仲間たちから、なかみはどうということもないけれど装幀がすばらしいといわれて、それでもなおうれしくなるほどの田中一光ファンですが、まだ一度もお目にかかったことがありません。でも、直接お目にかかっているかどうかは、さしあたって関係のないことで、その作品やお書きになったものから、ぼくの中には、厳然と田中一光像があって、その田中一光氏がML7Lを使うとなれば、よし、ぼくもがんばってということになります。このときのぼくの気持は、アラン・ドロンが着ているからという理由で、その洋服を着てみようとするできそこないのプレイボーイの気持に似ていなくもありませんでした。
 いずれにしろ、決心のきっかけなんて、他愛のないものです。よし、ぼくもML7Lを買おうと決心した、つまり、清水の舞台からぼくをつき落としたのは、きみのひとこと「田中一光先生がML7Lをお買いになにんだそうですよ」だったということになります。
     *
最終的な決心をするということきは、意外にもこういうことなのかもしれない。

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