Archive for 11月, 2015

Date: 11月 8th, 2015
Cate: オーディオマニア

夏の終りに(情熱とは・その2)

私がマルコ・パンターニが走る姿を見たのは、1994年のツール・ド・フランスの放送だった。
このころはフジテレビが深夜にダイジェスト版で放送していた。

カレラ・チームにいたパンターニは、まだスキンヘッドにはしていなかった。
山岳タイムトライアルでパンターニはコースは間違ってしまった。
それでもパンターニは速かった。

すごい選手というよりも、おもしろい選手が登場した、という印象があった。
パンターニは自転車選手としては小柄だった。
小柄な選手は体重が軽いこともあって山岳ステージに強い、というようなところがある。

パンターニもそうだった。
というより、驚異的な強さだった。

1994年よりも1995年、途中大けがをしてレースにでれなかったりしたが、
1997年のツール・ド・フランスでの復活、1998年での総合優秀と、
パンターニの山岳ステージの速さはますます驚異的になっていっていた。

坂バカという言葉がある。
多くの人は登り坂を自転車で駆け登るのはしんどいし苦痛である。
でも、駆け登ることに夢中になれる人がいる。
パンターニも、そういう人のひとりなのかと漠然と思っていた。

数年前に読んだパンターニのインタヴューは、そうではなかった。
なぜ、誰よりも速く坂を駆け登っていくのか、という質問に対し、
しんどいから、そのしんどさからすこしでも早く抜け出したいから速く走っている、と。

坂バカは坂や長い山岳コースを好む。
おそらく坂バカと呼ばれる人たちは、少しでも長く坂を、山を登っていたいと思う人たちなのかもしれない。

パンターニは違っていた。そこから逃れたいために速く走っている。
ということはパンターニは坂、山が嫌いなのか。

彼自身のロードレーサーとしての資質をもっもと発揮できるコースが山岳コースというだけであって、
それは結果として山岳コースが得意ということになるのだろうが、
それでも山岳コースが好きなわけではない。

パンターニの答は、私にとってほんとうに意外だった。

Date: 11月 8th, 2015
Cate: 世代

世代とオーディオ(ガウスのこと・その6)

瀬川先生が、以前こんなことを書かれていた。
     *
 エンクロージュアの板の厚さは、厚ければ厚いほど良いというようなものでもない。どれほど厚くしても、板材はスピーカーの駆動エネルギーによって振動する。板が厚ければ振動しにくいが、一旦振動をはじめるとなかなか抑えにくい。それよりも、ほどよい厚さの板に、適切な補強を加えて振動を有効に制動する方がよい。
 欧米の著名メーカーのスピーカーシステムの多くが、板厚は3/4インチ(約19ミリ)近辺を採用している点は参考になる。近年、JBLのプロ用が1インチ(約25ミリ)に板厚を増したが、アマチュアが大がかりになることをおそれずに試みるにしても、30ミリ以上にするのはよほどの場合と思ってよさそうだ(もっとも、わたくしは以前、なかばたわむれに、板厚=使用ユニット口径の1/10説、をとなえたことがあった。たとえば30センチ口径=30ミリ、20センチ口径=20ミリ……。しかし38センチ口径となるとたいへんだ。わたくしは本当に38ミリ厚の箱を作ったけれど)。
(ステレオサウンド別冊 HIGH-TECHNIC SERIES-4「フルレンジスピーカーユニットを生かすスピーカーシステム構成法」より)
     *
板厚=使用ユニット口径の1/10説。
25cm口径までなら実現はそう難しくないけれど、それ以上の口径となるとたいへんである。
それでも瀬川先生は一度は38mm厚のエンクロージュアを作られている。

《なかばたわむれに》とは書かれているが、
これは《なかば本気で》ということでもあろう。

ユニットの口径が増せばバッフルに開ける穴は大きくなる。
大きくなければバッフルの強度は落ちるし、
一般的にいって口径が増せばユニットの重量も増していくのだから、
バッフルの強度を十分に確保するためには口径とともに板厚が厚くなっていく。

38cm口径に38mm厚のバッフル。
一度は聴いてみたい、と思うが、同じ38cm口径のユニットでも、
JBLとガウスとでは重量に約4kgの差があるわけだから、
JBLの38cm口径に十分な板厚であったとしても、
ガウスのユニットに対しては必ずしも十分とはいえなくなるかもしれない。

こんなことを考えるのは、
ステレオサウンド 54号の特集に登場したガウス・オプトニカのCP3820の試聴記を憶えているからだ。

Date: 11月 8th, 2015
Cate: ディスク/ブック

「音楽と音響と建築」

1972年に鹿島出版会から「音楽と音響と建築」という本が出ている。
レオ・L・ベラネク(Leo L. Beranek)の本である。

この本の存在を知ったのは、ステレオサウンドに入ってからである。
バックナンバーを読んでいて、こういう本があるのか、
買おうと思っていたのが見つけられずに、そのまま忘れてしまっていた。

それを思い出したというか、
調べものをするためにステレオサウンド 26号をひっぱりだしていた。
調べたいこと(というより確認したかったこと)はすぐにすんだ。
ぱらぱらページをめくっていた。

そして「音楽と音響と建築」の存在を知った記事にふたたび出あった。
保柳健のレコード時評という記事で、26号の回には「無形の価値」というタイトルがついている。

26号は1973年に出ている。
このころ、三菱地所が東京・内幸町のNHK会館跡地を落札したことが話題になっていた(らしい)。
「無形の価値」のそのことから始まる。

「音楽と音響と建築」は、ここに登場してくる。
その部分を引用しておく。
     *
 もう一つ、わたしに〝音響〟というものがいかに大切であるかを教えてくれたのは、レオ・L・ベラネクという人が書いた「音楽と音響と建築」という本だった。これは鹿島建設技術研究所の長友宗重さんと、寺崎恒正さんによって訳され、鹿島出版会から発行されている。
 内容は、音楽とそれが演奏される場とのかかわり合い、それもバロック以前から現代までの、むしろ音楽史的な考察。バルビロリ、ラインスドルフ、シェルヘン、ボールド、マルケビッチ、ミュンシュ、オーマンディ、クーセヴィッキーライナー、ワルター、サージェント、ギブソン、スターン、ソロモン等々の各国の演奏者たち、あるいは数多くの評論家やジャーナリストなどの、音楽と音響についての対話。
 そして圧巻は、世界の代表的な音楽会場──例えばブエノスアイレスのコロン劇場、ウィーンの楽友協会大ホール、パリの国立歌劇場、バイロイトの祝祭劇場、ボンのベートーヴェン・ホール、ロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールなど、十五ヵ国、五十四ヵ所──のデータ、それも建築音響的というより、実際にそのホールで音楽を鑑賞した感覚的な報告を主体にした部分である。
 著者はさらに、ホールがもつ数々の感覚的な要素──聴覚的ばかりでなく、視覚的、あるいはもっと皮膚感覚的なものまで含めて──、それをいかに言葉で表現するかに最新の注意をはらい、もう一歩を進めて、音響建築技術的な数値のデータに置き換える大変な作業にまで発展させている。例えば〝音の暖かさ〟についてだけでも、実測データと多くの人の証言、あるいは使用されている建築材料などを細かく突き合せて、五ページにわたって記述するとともに、それを数値化している。
     *
このあとに保柳氏は、ベラネクが「音楽と音響と建築」が書かれた動機に感動した、と続けられている。
ここから先に興味のある人はステレオサウンド 26号を読んでいただきたい。

とにかく、今日、この本を思い出した。
インターネットですぐさまこの本の古書が探し出せて注文ができてしまう。
ほんとうに便利な世の中だと思う。
「音楽と音響と建築」が届くのが待ち遠しい。

Date: 11月 7th, 2015
Cate: 使いこなし

喫茶茶会記のスピーカーのこと(その5)

グレン・グールドの録音風景の映像を以前みた。
モノクロの古い時代の風景である。

スタジオはコロムビアのニューヨークにあるスタジオ。
その映像をみていて、意外に感じたのは、
そこに置かれていたスピーカーがアルテックのA7(と思われる)だったからだ。

もちろんモニタースピーカーとしてA7が置かれていたわけではない。
録音ブース(演奏者が演奏している側)に置かれているプレイバック用のスピーカーとして、
A7と思われるスピーカーが置かれてあった。

これは何もグールドの録音風景の映像だけでなく、
同時代のコロムビアのジャズの録音の映像でも確かめることができる。

グレン・グールドが望んで、そこにA7が置かれていたわけではないのはわかっている。
それでもグールドは、録音ブースにおいて、いましがた演奏し録音された自分の演奏を、
このスピーカーで聴いていたわけである。

となると、アルテックのA7、もしくはA5でグールドの演奏を聴いてみたくなる。
デジタル録音になってからのものよりも、
このモノクロで録られた時代の録音のものを聴いてみたい、とはそのころから思っていた。

喫茶茶会記のスピーカーのユニットは、A7のユニット構成に近い。
グールドのブラームスの間奏曲集は1960年の録音である。
まだまだ真空管の録音器材が使われている時代でもある。

だからこそ最後にグールドのブラームスをかけてみた。

Date: 11月 6th, 2015
Cate: 使いこなし

喫茶茶会記のスピーカーのこと(その4)

11月4日に使ったCDは、
ステレオサウンドが1990年代前半に出していたステレオサウンド・リファレンスレコードのVol.9、
これ一枚である。

もともと音出しをする予定ではなかったため、CDをもっていたわけではなかった。
たまたまCDプレーヤーの横に、このCDがあった。

このCDは菅野先生監修で、ロンドン・ベスト・レコーディングというタイトルがついている。
これならば信用していいCDと判断して、基本的にこの一枚だけを聴いていた。

使ったのは一曲目のショルティ/ウィーン・フィルハーモニーによるモーツァルトの魔笛の序曲、
それから四曲目のシュライアーとシフによるモーツァルトの「春への憧れ」、この二曲である。

あれこれ試して、手応えが感じたら、
十曲目のドホナーニ/クリーヴランド管弦楽団によるマーラーの第六番を、音量をあげて鳴らしてみた。

喫茶茶会記は、なんども書いているようにジャズ喫茶である。
なのにクラシックのCDを使うのはどうかと思われるかもしれないが、
このクラシックCDのみで聴いた結果としての音で、
福地さんの好きなCDをかけて、福地さんが満足しているのだから、それでいいと思っている。

私が中途半端にジャズのCDであれこれやるよりは、クラシックのCDでしっかりとやったほうが、
確実なカタチを、福地さんに提案できると考えたし、そうできた。

audio sharing例会の終りに、グレン・グールドのブラームスの間奏曲集を鳴らした。
このCDは愛聴盤だし、知り尽くしているともいえるディスクだから、
これで調整するという手もあったけれど、あえて使わなかった。
途中で、グールドのブラームスを試しに鳴らすこともしなかった。

この音だったら、グールドのブラームスの良さが、まあ伝わるだろうと思えたから鳴らした。
愛聴盤だから、十全とはいわないけれど、意外によかった。

福地さんとOさんが聴いているときにも、このCDを鳴らしたくなった。

Date: 11月 6th, 2015
Cate: 使いこなし

喫茶茶会記のスピーカーのこと(その3)

別項でふれたように、中域を受け持つ807-8Aの上下をホーンごと反転させた。
こうすることで入力端子が下に来る。

たったこれだけでも音の変化は決して小さくない。
同じことは既製品のスピーカーでも確かめることができる。
なにもユニットを取り外して向きを変えなくとも、
スピーカー端子に対して上側からスピーカーケーブルを挿すのか、下側から挿すのか。
これだけで音は確実に変化する。
(スピーカー端子の構造によっては試せないこともある)

807-8Aの端子が上にあることは知っていた。
下にしたいと最初から思っていたけれど、
そうすると銘板が上下逆さまになってしまう。
これが気にくわなくて、そのままの状態であれこれやっていた。

けれどトゥイーターの使い方が決り、手応えを感じてきたので、
試しに、と上下を反転させた。
変化量が小さかったら元に戻すつもりだったが、
予想以上に変化は大きかった。それもよい方向、狙っていた方向に思い通りに変化した。

正面からみている分には、上下逆さまになってくることに気づく人はそうはいない。
スピーカーの後にまわりこめばすぐにわかるけれど、
ここでの変化は他のところでなんとかできる性質のものではないため、これでいくことにした。

11月4日に私が喫茶茶会記でやったことは、システムの調整(チューニング)ではない。
エンクロージュアが変ったばかりで、まとまりのない状態のスピーカーを、
スピーカーシステムとしてまとめるための、ひとつのカタチの提案である。

目の前にあるウーファー、エンクロージュア、ホーン、ドライバー、トゥイーターすべてを使って、
私なりのカタチを提案したわけである。
幸いなことに、喫茶茶会記の店主・福地さんは気に入ってくれた。

なので、スピーカーシステムとしてのチューニングはこれから始まる。
ホーンとドライバーの位置はさらにこまかく調整していきたいし、
トゥイーターに関してもいくつかのことはやっておきたい。
それにネットワークとその配線まわりを、そうとうにきちんとしておきたい。
他にもいくつかやっておきたいことはある。

それでも、福地さんはほんとうにうれしそうに聴いてくれていたし、
途中で来られた常連のOさんもうれしそうに聴いてくれていた。
ひとまず提案は成功といえる。

こういうときの人の表情をみていると、
自分のシステムでいい音を出した時よりも、うれしく思ってしまう。

今回のカタチは私が出したものであり、人が変れば同じユニットを使ってもカタチは変ってくる。
私によるカタチをいじるな、とは私はいわない。
自由にいじってもらっていい、くずしてもらってもいい。

Date: 11月 5th, 2015
Cate: ジャーナリズム

オーディオにおけるジャーナリズム(ステレオサウンド 24号より・その2)

Lo-DのHS500の変更点は、他にもある。
HS500はホーン型トゥイーターをもつ。
このトゥイーターの前面にはディフューザーがついている。
最初のころは金属製だったのが、いつのころからか樹脂製へと変更されている。

材質の変更は、形状が同じであれば特性上の変化としては表れない。
だが材質の変更は音には、はっきりと表れる。

吸音材の材質に関しても同じだ。
特性的にはなんら変化はなくとも、音にははっりきとした変化がある。
グラスウールから粗毛フェルトに変更になっているのだから、まったく同じ音になると考えることに無理がある。

ユニットの端子位置の変更に関してもそうだ。
これくらいで音は変らないと思う人もいるかもしれない。
けれど端子位置はかなり音に影響する。

別項で書いている喫茶茶会記のスピーカーの調整に関しても、
807-8Aドライバーの端子が、通常では上にある。
これを下側にもってくるようにホーンごと反転させた。
807-8Aの後にある銘板が逆さまになってしまうけれど、これによる音の変化は決して小さくない。

そんなことで音が変るわけはない、という人はホーン型のシステムに取り組んだことのない人であろう。
ホーン型だけでなく、どんな方式のユニットであれ、端子位置は音に影響してくる。

優秀なユニットであれば、その音の変化ははっきりと聴き取れる。

なのに日立製作所の人たちは、音もなんら変わることがないことを確認した、と回答している。
いまから40年ほど前にしても、この回答はおかしい、と言わざるを得ないし。
Lo-Dというブランド名が、この会社をよく表しているともいえよう。

Date: 11月 5th, 2015
Cate: 使いこなし

喫茶茶会記のスピーカーのこと(その2)

音楽館のスピーカーのユニットを構成をみて、
少なからぬ人が不思議に思うのはグッドマンのトゥイーターであろう。

アルテックにはあまりいいトゥイーターがなかった。
3000Hが以前はあったし、その後マンタレーホーンのMR902も登場したけれど、
アルテックのトゥイーターは、ウーファー、ドライバーに対してやや貧弱な印象があった。

そうなると他社製のトゥイーターをもってくることになる。
意外にもJBLの2405はうまくいくようである。
ホーン型にこだわらなければ選択肢はかなりある。
なのに、なぜグッドマンのDLM2なのだろうか、と思っていた。

実際に調整をやっていくと、やはりこのトゥイーターがクセモノである。
途中トゥイーターを外して、アルテックの2ウェイだけで鳴らしてみた。
その方がいいところはあった。

でも高域ののびに関してはトゥイーターがあったほうがいい。
外したまま調整していこうかも考えた。

けれど音楽館のスピーカーはただ単にアルテックの2ウェイということだけではなく、
このグッドマンのトゥイーターがあってのものであっただろうし、
喫茶茶会記の店主・福地さんも音楽館のスピーカーを受け継いで鳴らしたいという考えだから、
私が気にくわないからといって外すわけにはいかない。

DLM2にはレベルコントロールはないし、
喫茶茶会記には抵抗があるわけではない。アッテネータとできるわけではない。
ホーンとドライバーの位置と置き方をさぐりながら、トゥイーターの置き場所もさぐっていた。

けれど、どこに置いても、このトゥイーターの音はかなりシステムの音に影響する。
外したい気持は強いが、喫茶茶会記はジャズ喫茶である。

個人のリスニングルームであれば、ただ一点の聴取位置でいい音に調整するということもありだが、
ジャズ喫茶ではそういうわけにはいかない。
真ん中で聴ける人はわずかである。多くの人が左右どちらかに寄った位置で聴くことになるし、
人が多ければ部屋の隅近くで聴くことにもなる。

真ん中で聴けない人にもある程度の音で聴いてもらいたい、ということを考えると、
トゥイーターをうまく活かすのも、ひとつの手である。

トゥイーターをどうしたのかは、喫茶茶会記に行って確かめてほしい。
結果としては、かなりうまくいった。

Date: 11月 5th, 2015
Cate: 使いこなし

喫茶茶会記のスピーカーのこと(その1)

四年前に「使いこなしのこと(誰かのシステムを調整するということ)」を書いている。
基本的にはいまもそうである。

なのに昨夜は、それをやってしまった。
四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスピーカーシステムは、
昔渋谷にあったジャズ喫茶・音楽館(その後、店主がかわり@grooveになっている)のスピーカーそのものである。

ウーファーはアルテックの416-8C、中域はアルテックの807-8Aと811Bホーンの組合せ、
ジャズ喫茶のイメージだと、これらのユニットによる2ウェイ・システムということになりそうだが、
高域にグッドマンのドーム型トゥイーターDLM2(片チャンネルあたり二本使用)が足されていた。

ネットワークは800Hzのクロスオーバーで、
DLM2はローカットフィルター内蔵なので807-8Aと並列接続されている。
DLM2は5kHz以上を受け持つ。
おそらくコンデンサーだけの-6dB/oct.のローカットフィルターと思われる。
エンクロージュアは横置き型で、ウーファーの前面にはショートホーンがついていた。

音楽館のときに一度だけ行っている。

そのスピーカーが、いま喫茶茶会記にある。
ただエンクロージュアはかなり古いために傷んでいた。
そのこともあってスピーカーの入れ替えも考えたようだ。

でも、最終的には音楽館のそのスピーカーを受け継いで使いたい、ということで、
エンクロージュアだけを変更することになった。

エンクロージュアをどうするかにあたっては、私の意見が通ったこともあり、
調整をすることにした。

エンクロージュアがかわり、ユニット構成も少しだけ変っている。
DLM2が二発から一発になっている。
そのためトゥイーターのみインピーダンスが16Ωとなっている。

昨夜の調整は、システム全体の調整ではなく、
あくまでもこのスピーカーの調整である。

喫茶茶会記のスピーカーは、だから自作スピーカーということになる。
ウーファーのエンクロージュアの上にホーンとドライバーがのる。
その横にトゥイーターが金属製の脚がつけられて置かれていた。

このふたつのユニットの配置をどうするかを、昨夜はやっていた。

エンクロージュアの上にホーンとドライバーを置く。
そしてその位置をあれこれ変えて音を聴く、
そして置き位置を変えてまた聴く。
ときにはユニットの極性を反転させてみたりしながら、最良と思えるポイントを探っていく。

これは、自作スピーカー、それもホーン型の中高域を使っている人ならば、
誰もがやっていることである。
これをおろそかにするような人は、ホーン型の自作スピーカーには向かない。

昨夜やっていたのは、まさにこれである。
エンクロージュアの位置はまったく動かしていない。
CDプレーヤー、アンプ、ケーブルなどもいじっていない。
上の帯域を受け持つふたつのユニットの調整をやっていた。
レベルコントロールもそのままである。

Date: 11月 5th, 2015
Cate: audio wednesday

audio sharing例会(アンプ試聴の会)

毎月第一水曜日に行っているaudio sharing例会は、
2011年2月が一回目なので、2016年1月の会が60回目、まる五年になる。

10月に予告していたアンプの試聴会は、12月に行う予定でいたが、
喫茶茶会記の店主・福地さんの要望と、もうひとつ理由があって1月6日(水曜日)に行うことに決定した。
60回という節目だから、それもいいかもしれない。

今日(すでに昨日になっているが)も例会をやってきた。
予定ではスピーカーの能率について話すつもりだったが、なぜかスピーカーの調整になってしまった。

10月25日に喫茶茶会記のスピーカーのエンクロージュアが新しくなった。
ユニットはアルテックのユニットそのままで、ウーファーのエンクロージュアのみ、
ジェンセンがオリジナルのウルトラバスレフ型(日本では昔オンケン箱とも呼ばれていた)タイプになった。

エンクロージュアが新しくなって二週間も経っていない。
調整も本格的には行われていない状態。
とにかく音を出してもらって聴いた。

自由にいじっていいとのことで、予定を変更して今回来てくださった方の前で、調整をはじめた。
最初から調整を行う予定であればCDを持参して行くのだが、今回はまったくの手ぶら。
喫茶茶会記にあるクラシックのCDで、調整をはじめる。

何をどういじった(調整)したのかは具体的に書くようなことではないので省くが、
ケーブルを変えたりアクセサリーの類は使っていない。
何も足さずに何も引かずに調整してきた。

抜本的に手を加えなければならない点もみつかった。
これは後日なんとかするとして、約二時間、スコーカーとトゥイーターだけを動かしての調整。

音はそうとうに変っていった。
来てくださった方も満足して帰られた。

その後、店主の福地さんにも聴いてもらった。
まるで違う、という感想だった。
ふたりであれこれディスクを変えて聴いていたところに、
喫茶茶会記の常連の方が来られた。

このOさんは、すでに新しくなったスピーカーの音を聴かれている。
オーディオマニアの方ではない。
Oさんも、前回の音と全然違う、といってくれた。
そして中央の位置から立ち上って、部屋の左右に移動。

私が調整する前の音は左右のスピーカーの中央でしかまとなに鳴っていなかったけれど、
今日の音は部屋の隅に行ってもちゃんと鳴っている、とのこと。

まだまだやりたいことはあるし、
もっともっとよく鳴ってくれるスピーカーではあるが、
喜んで聴いてくれる人がいる音にはなっている。

1月6日の60回のaudio sharing例会までにはもっと調整しておきたい。
アンプもいくつか集まる予定である。
楽しい試聴会ができそうだ。

12月の例会は、別のテーマで行います。

Date: 11月 4th, 2015
Cate: JBL, 型番

JBL PROFESSIONALの現在(4367の型番)

JBLの4367は型番末尾にWXがついている。
このWXはウォールナット仕上げを意味している。

以前の4300シリーズは、型番末尾に何もつかないモデルとWXがつくモデルがあった。
4343と4343WXというように。

WXのつかないモデルは、サテングレー仕上げで、バッフルは黒。
ハーマンインターナショナルのサイトをみると、4300シリーズでWXがつくのは4305Hと4312MII。
この二機種には、それぞれ違う仕上げがあった。
だから型番末尾にWXがついているのは納得がいく。
4365、4338などのモデルにはWXはつかない。ウォールナット仕上げのみだったからだ。

となると4367WXという型番で登場したということは、違う仕上げの4367が控えている、ということだと、
昔からのオーディオマニアでJBLのスピーカーに高い関心を持っていた人ならば、そう期待する。
私は期待している。
サテングレー仕上げの4367を。

Date: 11月 4th, 2015
Cate: JBL

JBL PROFESSIONALの現在(4367WXの登場)

JBL PROFESSIONALのM2について、「JBL PROFESSIONALの現在」で書いているところ。
M2は、専用信号処理を必要とするバイアンプ駆動モデルであり、
JBLが内蔵ネットワーク仕様で、どう仕上げてくるのかが、M2の存在を知ってからの関心であった。

いまでは4300シリーズはJBL PROFESSIONALではなく、JBLブランドの型番になっている。
このことに一抹の寂しさを感ずるのは、4343、4350、4320、4311、4301といった時代を体験してきた世代だけだろう。

4ウェイの4348がなくなり、4350を継承するモデルはとっくになくなっている。
現在の4365はよく出来たモデルとは思っても、
以前の4300シリーズに感じていたもの、期待していたものは、そこにはなくなっている。

今日発表になった4367WXは型番では4365の改良モデルのように思えるが、
4365が3ウェイに対し4367は2ウェイである。

このことが表すのは4367がJBL PROFESSIONALのM2のコンシューマーモデルということだ。
ハーマンインターナショナルの4367WXのページを見ると、
期待していたものが、ある。

D2 Dual Driverがある。
あれこれ書きたいことはあるけれど、とにかく、その音をはやく聴いてみたい。

Date: 11月 4th, 2015
Cate: ジャーナリズム

オーディオにおけるジャーナリズム(ステレオサウンド 24号より・その1)

別項を書くためにステレオサウンド 24号をすぐ手が届くところに置いている。
24号の巻末に、一ページだけの記事がある。
354ページに、その記事はある。
けれど、これは記事なのか、とも思うところがある。

そう思って目次を見ても、この記事は載っていない。
となると、この記事は広告となるのか。

この記事のことは、ステレオサウンドで働いていたころから知っていた。
それを、いま改めて読むと、この記事について何かを書きたくなった。

この記事のタイトルは、「本誌23号の質問に対する(株)日立製作所の回答」とある。
本誌23号の特集は「最新ブックシェルフスピーカー総まくり」、
ここでLo-D(日立製作所)のHS500が取り上げられている。

この記事の冒頭に、こう書いてある。
     *
 本誌では23号のブックシェルフ・スピーカー特集の記事中に、日立HSー500に関するテストリポート(245頁)のなかで次のような一節を掲載しました。
 ──このHSー500は発売された当時にくらべて最近のものは明らかに音質が変わってきている。この辺をメーカーに質問したいですね。──
 このリポートの質問事項に対して、株式会社日立製作所からこのほど次のような回答が寄せられましたので以下に掲載いたします。
     *
23号の245ページには、確かにある。瀬川先生の発言だ。
これに対しての回答は次の通りだ。
     *
 当社がHSー500を開発したのは5年前ですが、当初のものと現在の製品に音質上のちがいはまったくないと確信しております。変えたことと言えば、市販はしていませんがプロトタイプの時にバッフルボード前面にベニア合板を張り合わせておりましたのを外したことと、吸音材にグラスウールを使っていたのを途中で粗毛フェルトにしたこと、スピーカーユニットの端子を普通のスピーカーのように片側に置いていたのを経年変化を防ぐ意味で両サイドにしたことぐらいです。これらの変更は特性上も聴感上もなんら変わることがないことを確認した上で行っております。
     *
プロトタイプと市販品との違い以外に、
市販品でも吸音材の変更とスピーカーユニットの端子位置が変更になっている。
これは日立製作所も認めている。

日立製作所のいうように、吸音材と端子位置の変更は特性上はなんら変わらない、であろう。
だが聴感上となると、そうではない。

Date: 11月 3rd, 2015
Cate: ショウ雑感

2015年ショウ雑感(続々続ヘッドフォン祭)

思い出していたのは、チェロのスピーカーシステム、Amati(アマティ)だった。
Amatiは外観からすぐにわかるように、アコースティックリサーチのスピーカーシステムLSTをベースとしたもの。

このAmatiを目の前にして、マーク・レヴィンソンはアメリカ東海岸の人だということも思い出していた。
レヴィンソンの出身がコネチカットで、どこにあるのかは知っていた。
とはいえ、マークレビンソン時代のアンプは、日本ではJBLのスピーカーと組み合わされることが多かった。

JBLのスタジオモニターを鳴らすアンプとしても、LNP2、ML2などが多かったこと、
それにJBLとマークレビンソンの組合せに強い関心と憧れを持っていたものだから、
レヴィンソンが東海岸の人だということが薄れていた。

そこにAmatiが登場して、マーク・レヴィンソンはアメリカ東海岸の人だということを強く感じた。
Amatiはステレオサウンドの試聴室で、チェロのフルシステムで聴いた。

マーク・レヴィンソンのフルシステムといえば、聴く機会はなかったが、HQD Systemがある。
HQD Systemの規模からするとAmatiを中心とするチェロのシステムは、こぢんまりしている。
実際はけっこうな規模なのだが、HQD Systemの印象と比較してのことだ。

この時の音については書かないが、いま思い出しているのは、試さなかったことだ。
Amatiも完全密閉型のスピーカーシステムである。
ならば思いっきりボリュウムをあげた音を聴いておくべきだった、といまになって後悔している。

パワーアンプはPerformanceだった。
このアンプならば、そうとうなレベルまであげられた。
でも、あの時はやらなかった。

井上先生が例えられていたとおりの音、
高回転・高出力のエンジンの車のように、大音量(高速回転)時の音は、
驚くほどの低音を聴かせてくれたのかもしれない。

聴いておくべきだった……

Date: 11月 2nd, 2015
Cate: 「スピーカー」論

トーキー用スピーカーとは(その14)

ウェスターン・エレクトリックのスピーカーユニットやアンプ、それに真空管は中古で流通している。
法外な値段を支払えるのであれば、そして納期を決めなければ、
未使用のユニットの入手も決して不可能なわけではない。

けれどこれらはウェスターン・エレクトリックが販売してきたモノではない。
ウェスターン・エレクトリックは劇場に、スピーカーやアンプを売っていたわけではない。
あくまでもレンタルしていた会社である。

日本の劇場でもウェスターン・エレクトリックの音が聴けていた時代、
ウェスターン・エレクトリックのユニットや真空管が稀に入手できていたそうだが、
それらは補修部品がなんらかの理由で流出したものだときいている。

ここが、いわゆるオーディオメーカーとは、根本的に違う点である。
世の中のすべてのオーディオメーカーは、なんらかの製品を売っている。
アンプであったりスピーカーであったり、カートリッジであったりする。

けれどウェスターン・エレクトリックが売っていたのは、その音である。
アンプやスピーカーといったモノを売っていた会社ではなく、
その「音」を売るために、劇場にアンプやスピーカーをレンタルしていた。

音を売るのか、モノを売るのか。
その違いを、我々は忘却しているのではないだろうか。