「音楽と音響と建築」
1972年に鹿島出版会から「音楽と音響と建築」という本が出ている。
レオ・L・ベラネク(Leo L. Beranek)の本である。
この本の存在を知ったのは、ステレオサウンドに入ってからである。
バックナンバーを読んでいて、こういう本があるのか、
買おうと思っていたのが見つけられずに、そのまま忘れてしまっていた。
それを思い出したというか、
調べものをするためにステレオサウンド 26号をひっぱりだしていた。
調べたいこと(というより確認したかったこと)はすぐにすんだ。
ぱらぱらページをめくっていた。
そして「音楽と音響と建築」の存在を知った記事にふたたび出あった。
保柳健のレコード時評という記事で、26号の回には「無形の価値」というタイトルがついている。
26号は1973年に出ている。
このころ、三菱地所が東京・内幸町のNHK会館跡地を落札したことが話題になっていた(らしい)。
「無形の価値」のそのことから始まる。
「音楽と音響と建築」は、ここに登場してくる。
その部分を引用しておく。
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もう一つ、わたしに〝音響〟というものがいかに大切であるかを教えてくれたのは、レオ・L・ベラネクという人が書いた「音楽と音響と建築」という本だった。これは鹿島建設技術研究所の長友宗重さんと、寺崎恒正さんによって訳され、鹿島出版会から発行されている。
内容は、音楽とそれが演奏される場とのかかわり合い、それもバロック以前から現代までの、むしろ音楽史的な考察。バルビロリ、ラインスドルフ、シェルヘン、ボールド、マルケビッチ、ミュンシュ、オーマンディ、クーセヴィッキーライナー、ワルター、サージェント、ギブソン、スターン、ソロモン等々の各国の演奏者たち、あるいは数多くの評論家やジャーナリストなどの、音楽と音響についての対話。
そして圧巻は、世界の代表的な音楽会場──例えばブエノスアイレスのコロン劇場、ウィーンの楽友協会大ホール、パリの国立歌劇場、バイロイトの祝祭劇場、ボンのベートーヴェン・ホール、ロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールなど、十五ヵ国、五十四ヵ所──のデータ、それも建築音響的というより、実際にそのホールで音楽を鑑賞した感覚的な報告を主体にした部分である。
著者はさらに、ホールがもつ数々の感覚的な要素──聴覚的ばかりでなく、視覚的、あるいはもっと皮膚感覚的なものまで含めて──、それをいかに言葉で表現するかに最新の注意をはらい、もう一歩を進めて、音響建築技術的な数値のデータに置き換える大変な作業にまで発展させている。例えば〝音の暖かさ〟についてだけでも、実測データと多くの人の証言、あるいは使用されている建築材料などを細かく突き合せて、五ページにわたって記述するとともに、それを数値化している。
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このあとに保柳氏は、ベラネクが「音楽と音響と建築」が書かれた動機に感動した、と続けられている。
ここから先に興味のある人はステレオサウンド 26号を読んでいただきたい。
とにかく、今日、この本を思い出した。
インターネットですぐさまこの本の古書が探し出せて注文ができてしまう。
ほんとうに便利な世の中だと思う。
「音楽と音響と建築」が届くのが待ち遠しい。