夏の終りに(情熱とは・その2)
私がマルコ・パンターニが走る姿を見たのは、1994年のツール・ド・フランスの放送だった。
このころはフジテレビが深夜にダイジェスト版で放送していた。
カレラ・チームにいたパンターニは、まだスキンヘッドにはしていなかった。
山岳タイムトライアルでパンターニはコースは間違ってしまった。
それでもパンターニは速かった。
すごい選手というよりも、おもしろい選手が登場した、という印象があった。
パンターニは自転車選手としては小柄だった。
小柄な選手は体重が軽いこともあって山岳ステージに強い、というようなところがある。
パンターニもそうだった。
というより、驚異的な強さだった。
1994年よりも1995年、途中大けがをしてレースにでれなかったりしたが、
1997年のツール・ド・フランスでの復活、1998年での総合優秀と、
パンターニの山岳ステージの速さはますます驚異的になっていっていた。
坂バカという言葉がある。
多くの人は登り坂を自転車で駆け登るのはしんどいし苦痛である。
でも、駆け登ることに夢中になれる人がいる。
パンターニも、そういう人のひとりなのかと漠然と思っていた。
数年前に読んだパンターニのインタヴューは、そうではなかった。
なぜ、誰よりも速く坂を駆け登っていくのか、という質問に対し、
しんどいから、そのしんどさからすこしでも早く抜け出したいから速く走っている、と。
坂バカは坂や長い山岳コースを好む。
おそらく坂バカと呼ばれる人たちは、少しでも長く坂を、山を登っていたいと思う人たちなのかもしれない。
パンターニは違っていた。そこから逃れたいために速く走っている。
ということはパンターニは坂、山が嫌いなのか。
彼自身のロードレーサーとしての資質をもっもと発揮できるコースが山岳コースというだけであって、
それは結果として山岳コースが得意ということになるのだろうが、
それでも山岳コースが好きなわけではない。
パンターニの答は、私にとってほんとうに意外だった。