Archive for 6月, 2013

Date: 6月 12th, 2013
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(妄想篇・その9)

BOSE・901は1967年に発表され、翌68年から発売されている。
これだけ長い間、いまも現役のスピーカーシステムは他に何があるだろうか。
もう40年以上、小改良を何度か受けているというものの、
基本的な形・構造にほとんど変化なく、いまもBOSEのトップモデルである。

901に続くロングセラーのスピーカーシステムとなると、
タンノイのウェストミンスターだけだろう。

そういうスピーカーシステムなのに、いま日本には正式に輸入されていないということを、
日本のオーディオマニアとして、どう受けとめるべきなのだろうか。

901はBOSEを代表するスピーカーシステムではあるが、
BOSEの最初のスピーカーシステムではない。
これはBOSEの広告にも使われていたのでご存知の方も多いだろう、
1/8球体のエンクロージュアに22本のフルレンジユニットを取り付け、
疑似呼吸体を目指したスピーカーシステムである。
1966年に世に登場している。

このスピーカーシステム、2201の開発時のエピソードも、
オーディオ雑誌に何度か記事になっている。

BOSE博士がまだ大学生だったころ、
オーディオを購入し、ヴァイオリンのレコードをかけたところ、あまりにもひどかった。
それで疑問を抱き、音響に関する勉強を始めたことがきっかけとなっている。
これが1956年のこと。価格はペアで2000ドル。

いい音がしていた、ときいている。
けれど商業的には成功とはいえず、1967年ごろのBOSEは経営に行き詰まる。
そして登場したのが、901である。

Date: 6月 11th, 2013
Cate: 調整

オーディオ機器の調整のこと(その7)

SMEの最初のトーンアーム3012は、よく知られているように、
瀬川先生が何度か書かれているように、オルトフォンのSPU、
それもGシェル・タイプを活かすために、アイクマンが自らのためにつくったモノである。

だからSME(アイクマン)は、プラグイン・コネクターと呼ばれる、
カートリッジを含めたヘッドシェルの着脱を容易にする交換方式を採用している。

これこそはオルトフォンが最初に考案した規格であり、
SME(アイクマン)がそれに倣ったわけである。

そしてSMEのトーンアームの、こういうところを日本のメーカーがマネしてくれて、
日本ではカートリッジの交換が容易にできるトーンアームが主流となっていった。

実際、SMEの初期の3012には、オルトフォン製のヘッドシェルが付属していたらしい。

このカートリッジの交換のための規格を日本を広めたきっかけとなった存在が3012だけに、
日本では3012はユニバーサル・トーンアームのように受けとめられがちである。

けれど、くり返すが、3012はアイクマンにとってSPU専用のトーンアームなのである。

そのアイクマンはSPUばかりをずっと使い続けてきたわけではなく、
SPUからシュアーのカートリッジへと移行している。
そのころSMEはシュアーと提携もしていて、アメリカではShure = SMEのブランドで売られていたらしい。

そうなると3012ではシュアーのカートリッジには、もう不向きである。
だからアイクマンは1972年に3009/SeriesII Improvedを発表し、
シュアーのカートリッジにターゲットを絞っているかのように、
最大針圧を1.5gまで、と軽針圧用となっている。

Date: 6月 11th, 2013
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(妄想篇・その8)

1970年代の前半、BOSEの輸入元はラックスだった。
ラックスはB&Wのスピーカーも輸入していたことがある。

1972年ごろの、そのラックスの広告に、
「日本で苦戦しています」というキャッチコピーがつけられて、
BOSEの901が、日本市場で良さが認められにくく苦戦していることを訴えていた。

このころは、まだオーディオに関心をもっていなかったけれど、
日本のそのころの住宅事情を考えても、
901は、なかなか理解されにくいコンセプトのスピーカーシステムである。

70年代後半になり、ボーズコーポレーションが取り扱うことになった。
そのころは901の広告は、著名な人が使っている実例をだったり、
海外のオーディオ雑誌で高い評価を得ていることの紹介だったりした。

音場再生ということを厳密に考えれば、
録音されたプログラムソースには、録音現場の音場に関する情報が含まれている。
充分に含まれいてることもあれば、わずかな情報量だったりすることもあるにせよ、
とにかく録音現場の音場に関する情報はなにがしか記録されている。

そのレコードを再生する聴き手のリスニングルームにも、
部屋の大小、部屋のつくりなどによって異ってくるものの、
やはりここにも音場空間が存在し、
録音の音場と再生の音場がまじり合うことになる。

901のようなスピーカーシステムは、そこにスピーカーの音場といえるものがはっきりと附加される。

狭い理屈だけで考えれば、901による音場はよけいなものとして受けとめられる。
それに専用イコライザーを使わなければならないことも、901への抵抗となっていたはず。

901はロングセラーを続けている。
けれど私の知る人で、901を鳴らしている人はいない。
いまも受け入れられにくいスピーカーであることに変りはないようだ。

そのためなんだろう、いま日本では901は取り扱われていない。
BOSE本社ではいまもつくられている、にも関わらず。

Date: 6月 11th, 2013
Cate: 再生音

続・再生音とは……(その9)

手塚治虫の代表作に「火の鳥」がある。
太古から、ものすごく遠い未来まで描かれている「火の鳥」にはいくつもの話から成りたっている。

その中のひとつ、「復活編」にロビタというロボットが登場する。
ロビタとトビオ──、似ているといえば似ている。

けれど手塚治虫によって描かれるロビタの外観とトビオ(アトム)の外観は、まったく異る。
ロビタは最初、基本的に人型のロボットだったけれど、
重量バランスが悪すぎたため不安定な歩行しかできず、
最終的に脚を省かれ、臀部にあるベアリングによって移動する。

腕も、いかにもロボットアームと呼ばれるものであり、指もカニのように2本のみ。
顔にも表情はない。
鉄で造られているイメージさせる、そんな外観をもつ。

ロビタは、「復活編」の主人公であるレオナの記憶と、
チヒロと呼ばれる事務用ロボット(なんとなく女性的な外観をもつ)を融合させて誕生したもの。
26世紀にロビタは誕生し、その後、31世紀までコピーが大量生産される、という設定である。

完全な人型のロボットであるアトムとロビタは、こんなふうに違う。
外観だけの違い以上に大きく異るのは、「記憶」に関して、である。

ロビタにはそれまで生きていた人間(レオナ)の記憶がコピーされているわけだが、
アトムは、飛雄の記憶を移したのではなく、
あくまでも飛雄の父親による天馬博士の記憶によってつくられたものである、という違いである。

Date: 6月 11th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その13)

黄金の組合せとして冒頭に例にあげたタンノイのIIILZとラックスのSQ38Fは、
スピーカーシステムとアンプという、別ジャンルのオーディオ機器の組合せである。

黄金の組合せとまでは呼ばれることはなかったであろうが、
すくなくともステレオサウンドでは一時期よく組み合わされることの多かった、
AGI・511とQUAD・405の組合せは、コントロールアンプとパワーアンプとはいえ、
スピーカーシステムとアンプといった、完全に別ジャンルというわけではなく、
あくまでも同じアンプというくくりの中にはいる。

スピーカーとアンプの組合せ、
コントロールアンプとパワーアンプというアンプ同士の組合せ、
相性のいい組合せ、と同じ表現で語られても、何か違う要素が隠れているような気もする。

AGIとQUADは、およそ共通項のないメーカー同士の組合せのように見えて、
そこにひとつでいいから共通項はないかと見つけようとすれば、
何かひとつは見つかるものである。

511と405では、フィードフォワードということが、それにあたり、
これをとっかかりとして子細に見ていくと、意外にも共通しているといえそうなところが、
他にもいくつかあるのが見えてくるようになる。

あえて共通項を見つけようとしているのであるから、
こじつけようと思えばできないわけでもない。
それでも、AGI・511とQUAD・405には、他にも共通するところがあげられる。

Date: 6月 10th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その12)

フィードバックといえば、特にことわりがなければ、ネガティヴフィードバック(NFB)のことである。
フィードバックの前にネガティヴがつくことからも推測できるように、
フィードバックにはポジティヴフィードバック(PFB)もある。

PFBは同相で、NFBは逆相で信号を出力から入力側へ戻す。
つまりNFBをかければゲイン(増幅度)は低下し、PFBをかければゲインは増える。

PFBは真空管アンプの時代から使われている。
小容量のコンデンサーを使い高域だけPFBをかける。
NFBをかける前のアンプの高域のゲインを充分に確保するために行う手法である。

AGI・511の小容量のコンデンサーを使ったフィードフォワード、
その手法も理解してしまえば、このPFBの手法と通じるところがあることに気づく。

気づくと、511の設計者、デヴィッド・スピーゲルの発想とセンスに23歳の若者とは思えぬ、
ある種のしたたかさみたいなものを感じるし、
同時に定型なアンプにとどまらない意地に近いもの、
こういうところが、私のなかではQUADのピーター・ウォーカーと重なっていくのである。

Date: 6月 10th, 2013
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(facebookにて・その7)

誤植やミスのない本をつくることは、編集経験のない人が考える以上にたいへんなことである。
とくに手書きの原稿時代、写植の時代には、いま以上に大変なことだった。

瀬川先生の著書に「オーディオの楽しみ」がある。新潮社から出た文庫本である。
この本にも、やはりミスがある、それも小さくないミスである。

新潮社は、私が働いていたステレオサウンドよりも大きな出版社であり、
歴史も古く、本づくりの体制においてもしっかりしたものにも関わらず、
あるミスが幾人もの人の目をすり抜けて活字になってしまっている。

ただ、これは仕方のない面もある。
文章としてはつながっていて、オーディオにさほど関心のない人ならば、
書いてあることの意味は理解できなくとも、文章としておかしなところはないのだから。

これなどは、手書きの原稿で、前後の文章を入れ換えたり、あとでつけ加えたりしたために発生したミスである。
きれいに清書された原稿であったならば、こういうミスは発生しなかったであろう。

「オーディオの楽しみ」のどの部分が、そういうふうになっているのかは、
私が公開しいてる瀬川先生の著作集のePUBと比較すればわかる。
この電子書籍の作業時に、前後の文章を並べ替え直して、
意味がきちんとつながるように直している。

これは元原(手書きの原稿)がなくても、瀬川先生が意図された通りに直すことはできた。
でも、いつもそうとは限らない。
入力作業をやっていると、明らかな誤植と判断できるのはいい、
けれど微妙な箇所も意外と少なくなく、どっちなんだろう……と悩むことがある。

とくにスイングジャーナルはそういうところが多い。
そういう箇所にぶつかる旅に、「元原を見たい、元原で確認したい」と思うわけだが、
それはかなわない。

Date: 6月 10th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その11)

AGI・511の概略図には、アンプを表す三角マークがふたつある。
左側(つまり入力側)にある三角マークがOPアンプであり、
この三角マークのところには、こう記してある。
“CONVENTIONAL LOW DISTORTION, LOW NOISE, BUT SLOW OP-AMP”

たしかに511の初期モデルに使われていたフェアチャイルド製のμA749は、そういう性格のOPアンプである。

右側(出力側)の三角マークが、511ならではの特徴である。
この三角マークのところには、こう記してある。
“ULTRA HIGH-SPEED SUMMING OUTPUT AMPLIFIER”

このサミングアンプが外付けのトランジスターで構成されているアンプであり、
このアンプには”CONVENTIONAL LOW DISTORTION, LOW NOISE, BUT SLOW OP-AMP”の出力と、
入力の所で分岐された信号(それもハイパスフィルターを通った信号)が入力される。
このふたつの信号が合成され”ULTRA HIGH-SPEED SUMMING OUTPUT AMPLIFIER”から出力される。
この出力信号の一部が、OPアンプへのフィードバックへとなっているし、
RIAAカーヴのイコライジングも行っている。

つまり入力から分岐された高域信号はフィードフォワードであり、
サミングアンプがOPアンプの出力と合成することによりスルーレイトを飛躍的に向上させている。

511がフィードフォワードを採用していたことは知っていたけれど、
全体域にかけているものだとばかり思い込んでいたから、回路図だけをみても理解できなかったわけだ。

電圧増幅にOPアンプを使い、トランジスターによる回路と組み合わせ、
さらにフィードバックだけでなくフィードフォワードをかけている点で、
AGI・511とQUAD・405は共通している、といえる。

Date: 6月 10th, 2013
Cate: 岩崎千明

岩崎千明氏のこと(続・ジャズの再生の決め手)

一瞬の結晶化こそが、ジャズの再生の決め手だ、と、昨年の12月に書いた。

一瞬一瞬の結晶化、ひとつひとつ音の結晶化、
そうやって結晶化されたもの同士がぶつかり合い燃焼することで、多彩な色を発する。
そういうジャズの再生を目指されていたのだろうか、とおもうことがある。

そして結晶は燃焼し消え去るわけだが、
ただきれいに消え去るだけでは、いわば対岸の火事である。

燃焼し消え去る時に火の粉が生れる。
この火の粉が、聴き手のくすぶった心に飛び火する。

聴き手の心に火をつける。
それまでくすぶっていたものを燃やすことになる。

ジャズを聴くということはそういうことであり、
ジャズを再生するとは、そういうことではないのか。

クラシックばかり聴いてきた私は、憧れをもって、そうおもっている。

Date: 6月 9th, 2013
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(facebookにて・その6)

先月末にステレオサウンドから瀬川先生の著作集が出た。
けっこう厚みのあるムックである。

この本が出ることが、事前にわかっていたら、
そしてもし依頼があれば、
私のところにしかない瀬川先生に関する貴重な資料を貸し出したのに……、とは思う。

私は部外者だから、こんなことをここで書いても、そこまでである。
それでも、もし瀬川先生の著作集の第二弾が出るのであれば……、
と思っている矢先だったことも関係している。

「岩崎千明/ジャズ・オーディオ」から「audio sharing」への参加希望された人もまた、
ステレオサウンド関係者だった。
その人が「岩崎千明/ジャズ・オーディオ」がまだ「オーディオ彷徨」だったころに
「いいね!」をしてくれていたことはわかっていた。

その人が非公開の、それも私が管理している「audio sharing」へ参加希望されたということは、
意外な気がするとともに、やはり、という気ももっていた。

audio sharingを2000年に公開するために作業していた時も、
いまthe Review (in the past)の入力作業をしている時も、
同じことを思う時がたびたびある、「元原(もとげん、元の原稿)を見たい、元原で確認したい」と。

これは同じ作業をしている人には共通していることであるはず。

Date: 6月 9th, 2013
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(facebookにて・その5)

このブログでステレオサウンドについて書いていることに対して、
「あいつはきついこと・批判的なことばかり書いている」と受けとめられている人もいよう。
そういう人の中には、私がステレオサウンドを敵対視している、と思われている方もいることだろう。

私は、オーディオ界が良くなってほしい、と思っている。
そのためにオーディオ雑誌が果す役割はずっと大きい。
だから、ついついあれこれ言いたく(書きたく)なる。

次の号が出るまでの三ヵ月がながく待ち遠しく感じられるような、
発売日に書店に行きたくなるようなオーディオ雑誌にステレオサウンドがなってくれることを望んでいる。

もっとも、いまのステレオサウンドをそういうふうに楽しみに待っている人がいることはわかっている。
でも、私を含め、もうそうでなくなった人たちが少なからずいることも、まだ事実である。

部外者が好き勝手なことをいっている、と思われていてもいい。
とにかくステレオサウンドが面白くなってくれれば、他のオーディオ雑誌も面白くなっていくはず。
そういうものである。

ステレオサウンドが良くなってほしい、と思っているから、
昨年春、一度あったことのある人から相談を受けた。
ステレオサウンド 182号(2012年春号)で、ステレオサウンド社が編集者を募集していた。
応募したい、ということだった。

ステレオサウンドを敵対視しているのであれば、
彼にステレオサウンドを受けることをやめさせるようにするものだろう。
彼がステレオサウンドに入ることで、
ステレオサウンドが良い方向に向くように作用する力にすこしでもなれるであろう、と感じたから、
電話でもけっこうな時間話し、そのあとに実際に会ってあれこれ話したことがある。
具体的にどうすればいいのかも話した。

彼が入社できたのはもちろん彼自身の力であるわけだが、
私のアドバイスも少なからず役に立っていたはずである。
そういう確信はある。

Date: 6月 9th, 2013
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(facebookにて・その4)

facebookページの「岩崎千明/ジャズ・オーディオ」は私が管理・公開しているから、
「いいね!」をクリックしてくれた人がいれば、すぐに通知がある。
誰が「いいね!」をしてくれたのか、わかる。

少し前に、あるオーディオ関係者の人が「いいね!」をしてくれた。
その人のちょっと前に別の人がしてくれていて、その人と友達の、そのオーディオ関係者がしてくれたわけである。

facebookには友達が、何かを「いいね!」をしたら知らせてくれる機能があるから、
間違いなく、そのオーディオ関係者の人も、
その通知を見て「岩崎千明/ジャズ・オーディオ」のページを知っての「いいね!」なのだろう。

そのオーディオ関係者は、ステレオサウンド関係者ともいっていい人である。
だから、その「いいね!」の通知を見て、たぶん、この人は「いいね!」を取り消すだろうな、と思っていた。

facebookページには、管理人の情報を公開するか非公開にするか選択できる。
私は、公開する、にしている。
それに自分のサイト、ブログへのリンクもやっているわけだから、
すぐに私が、このfacebookページを管理していることはわかるようにしている。

案の定、数日後には「いいね!」を取り消されていた。
この人は、「岩崎千明/ジャズ・オーディオ」の内容を評価するよりも、
私が管理・公開しているものに対して「いいね!」をしたくなかったわけであろう。

こういう人に対して、もう何の感情も湧かなくなった。
ただ「やはりね」だけである。

そんなことがあって、それほど経っていないからこそ、
岩崎先生の原稿を非公開のfacebbokグループ「audio sharing」で公開したと告知して、
最初に参加希望された人の名前を見た時は、驚いた。

Date: 6月 9th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その10)

ステレオサウンド 42号に載っているAGIの輸入元であったRFエンタープライゼスの広告には、
オーディオアンプに初めて採用された〝コンバインド・アンプ〟の手法です、とある。

これを読んでも、何も意味しているのかわからなかった。
いまだからはっきりといえるけれど、このAGIの広告を書いた人も、詳細まではわからずに書いていたはず。
別に批判しているわけではなく、当時、511の回路図を見て、的確にどうい特長をもつのか、
すぐに理解してわかりやすく言葉で説明できる人は少なかったであろうから。

AGI・511の回路がどうなっているのかは、ずっと関心があった。
とにかく知りたかった。
けれどインターネットで検索しても見つからなかった。
ここ数年、やっと不鮮明な回路図が見つかるようになった。

画像そのものが小さいし、解像度も低いため拡大しても細部は確認し難い。
わかるのはOPアンプの外付け部品としてトランジスターが5石使われていることであり、
入力信号はOPアンプに入力される前に分岐され、
ひとつはOPアンプへ、もうひとつは、この外付けトランジスターで構成される回路へと入力される。

ただ外付けのトランジスターによる回路へと直結されているわけでなく、
小容量のコンデンサーを介している。
これでは高域のみしか、この外付けの回路には入力されない。
つまりハイパスフィルターの働きを、この小容量のコンデンサーはしている。

もう少し手がかりとなる資料はないかと探していたら、
スイングジャーナルに載った広告の中に、回路の概略図があった。
この概略図はインターネットでも、いま見ることができる。

Date: 6月 8th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その9)

AGI・511には、3つのヴァリエーションがあることが、井上先生の記事からわかる。

511はフォノイコライザーアンプ、ラインアンプともにOPアンプを中心に構成されたアンプである。
初期の511のフォノイコライザーアンプには、フェアチャイルド製のμA749というOPアンプが使われている。
このOPアンプは2チャンネル分を1パッケージにおさめた、いわゆるデュアルタイプで、
井上先生が記事にも書かれているように初段の差動回路はバイポーラトランジスター、
それ以降もすべてバイポーラトランジスターで構成されており、FETは使われていない。

つまり瀬川先生が高く評価されている511は、
このフェアチャイルドのOPアンプμA749がフォノイコライザーに使われているモデルのことである。

μA749のデータシートは、インターネットで検索すればすぐに見つかりダウンロードできる。
検索のときにはμA749ではなく、UA749で検索した方がいい。

等価回路も載っている。
たしかに全段バイポーラトランジスターなのがわかる。
そして、もうひとつわかるのはスルーレイトである。

AGI・511の特長は、フォノイコライザーアンプのスルーレイトの高さである。
250V/usという、非常に高い値を実現している。
けれどμA749のデータシートにあるスルーレイトの値は、250よりもずっとずっと低い値である。

どうすれば、低スルーレイトのOPアンプで、250V/usというスルーレイトを実現できるのか。

Date: 6月 8th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その8)

AGI・511は、1981年にbタイプとなる。
ステレオサウンド 60号にて、井上先生が新製品紹介の記事を書かれている。
     *
 AGI511コントロールアンプは、数年前の登場以来、シンプルで簡潔なデザイン、精密感があり加工精度が高い筐体構造、優れた性能が直接音質に結びついた印象のダイレクトでフレッシュなサウンドなどこの種の製品に要求される要素が巧みに盛り込まれているオーディオ製品としての完成度の高さにより、一躍注目され、多くのファンを獲得してきたが、今回ラインアンプのICを変更し、新しくbタイプに発展した。
 詳細は不明だが、511のラインアンプは、最初期のタイプが初段差動アンプがバイポーラトランジスター構成のIC、その後FET差動のICに変更されている様子であり、これがAGI511aとして知られているタイプである。今回新採用のICは、米国NASA系の技術を受け継いだ半導体メーカー、BURR−BROWN社製の最新型で、これの採用により特性面での改善は大変に大きい。
 新ICによりラインアンプのスルーレイトは、従来の50V/μsからフォノイコライザーと同じ250V/μsと高まり、THDは、20Hzから100kHzの超高城まで変化をしないといわれる。なお、bタイプのイニシアルは改良のプロセスを示すが、国内市場では、いわゆるaタイプはパネル面に表示されていなかったために、新採用のBURR−BROWN社製ICの頭文字Bの意味をとってbと名付けられたようである。また、bタイプになっての変更はICのみで、使用部品関係は従来どおりの高精度部品を採用している特長を受け継いでいる。なお、輸入元のRFエンタープライゼスでは、従来機のbタイプへの改良を実費(55、000円)で引受けるという。
 bタイプは、511初期のクッキリとコントラストをつけた音から、次第にワイドレンジ傾向をFET差動IC採用で強めてきた、従来の発展プロセスの延長線上の音である。聴感上の帯域が素直に伸びている点は従来機と大差はないが、内容的には一段と情報量が多くなり、分解能の高さは明瞭に聴きとれるだけの充分な変化がある。音色は明るく、のびやかな再生能力があり、大きなカラーレーションを持たないため、組み合わせるパワーアンプにはかなりフレキシブルに反応をする。内外を含め最近のコントロールアンプとしては最注目の製品だ。
     *
これを読んでもわかるように、井上先生は初期の511よりも改良されていく511の音を高く評価されている。
このへんは瀬川先生と逆である。

となると、人によっては、どちらの書かれていることを信じればいいのか、といいたくなろう。
でも、瀬川先生の511への評価も、井上先生の511への評価も、どちらも正しい、と受けとっている。

このブログでも何度か引合いに出している、
ステレオサウンド別冊 HIGH-TECHNIC SERIES 3(トゥイーターの特集号)の巻頭記事、
4343のトゥイーターをピラミッドのT1、パイオニアのPT-R7、
テクニクスの10TH1000などに置き換える試聴記事における
井上先生と黒田先生のJBLの2405とピラミッドT1への評価と瀬川先生による2405とT1への評価、
そして、騙されているとわかっていても2405の切り絵的な音をとる、という瀬川先生の発言。
これらのことを思い出せる方ならば、
511の初期モデルとその後のモデルの音の変化についての評価が、
瀬川先生と井上先生とでは違ってくるのは当然のことである。