オーディオと「ネットワーク」(facebookにて・その7)
誤植やミスのない本をつくることは、編集経験のない人が考える以上にたいへんなことである。
とくに手書きの原稿時代、写植の時代には、いま以上に大変なことだった。
瀬川先生の著書に「オーディオの楽しみ」がある。新潮社から出た文庫本である。
この本にも、やはりミスがある、それも小さくないミスである。
新潮社は、私が働いていたステレオサウンドよりも大きな出版社であり、
歴史も古く、本づくりの体制においてもしっかりしたものにも関わらず、
あるミスが幾人もの人の目をすり抜けて活字になってしまっている。
ただ、これは仕方のない面もある。
文章としてはつながっていて、オーディオにさほど関心のない人ならば、
書いてあることの意味は理解できなくとも、文章としておかしなところはないのだから。
これなどは、手書きの原稿で、前後の文章を入れ換えたり、あとでつけ加えたりしたために発生したミスである。
きれいに清書された原稿であったならば、こういうミスは発生しなかったであろう。
「オーディオの楽しみ」のどの部分が、そういうふうになっているのかは、
私が公開しいてる瀬川先生の著作集のePUBと比較すればわかる。
この電子書籍の作業時に、前後の文章を並べ替え直して、
意味がきちんとつながるように直している。
これは元原(手書きの原稿)がなくても、瀬川先生が意図された通りに直すことはできた。
でも、いつもそうとは限らない。
入力作業をやっていると、明らかな誤植と判断できるのはいい、
けれど微妙な箇所も意外と少なくなく、どっちなんだろう……と悩むことがある。
とくにスイングジャーナルはそういうところが多い。
そういう箇所にぶつかる旅に、「元原を見たい、元原で確認したい」と思うわけだが、
それはかなわない。