Archive for 1月, 2012

Date: 1月 23rd, 2012
Cate: 快感か幸福か

快感か幸福か(その11)

この日がいつだったのか、正確には思い出せないけれど、
すくなくともまだCDがメインのプログラムソースとして山中先生のリスニングルームに定着していなかったころ。
このとき聴いたのはすべてアナログディスクで、アナログプレーヤーはEMTの927Dstだった。

そのころ私はといえば、トーレンスの101 Limitedを購入してそれほど経っていないときで、
101 Limitedを使っていることは、山中先生もご存知だった。
だから「使い方はわかるだろう」と言い残して山中先生はリスニングルームから出ていかれた。

コントロールアンプはマークレビンソンのML6AL(ブラックパネルの方)、
パワーアンプはマークレビンソンのML2だった(はず)。

927Dstにさわるのは初めてではなかったし、101 Limitedは930stなのだから、基本操作はまったく同じ。
操作に不安はない、というものの、やはり山中先生の927Dstに、山中先生のアナログディスクをのせるのも、
TSD15を盤面に降ろすのも、まったくの緊張なし、というわけではなかった。
こわしてしまったらどうしよう、という不安はまったくなかった。

音が出た。
ML6ALは左右チャンネルでボリュウムが独立しているから、レベル調整に少し気を使う。
はじめて聴く山中先生の音(といっていいのだろうか)だった。
椅子にゆったり坐っていた。
この状態では、正直、これが山中先生の音とは思えない、そんな印象を抱かせる。
これはもう、山中先生の聴き方を形の上だけでも真似るしかない、と思い立ち、
いつも試聴室で山中先生の、音に聴き入られているときの坐り方、前のめりの聴き方を試しにやってみた。

目を閉じて、片方の手でもう片方のこぶしをつつむようにして、親指で下あごをささえる。
耳の位置は臍よりもずっと前にもってくる。
そして意識を集中していく。
すると不思議なことに、ピントが急にあってきた。

Date: 1月 22nd, 2012
Cate: 選択

オーディオ機器との出逢い(その6)

田舎に住んでいたころは、東京に憧れていた。
はやく上京したい、と思っていた。その理由は、もちろんオーディオ。

東京にはいくつものオーディオ店があって、田舎出は聴くことのできないオーディオ機器を聴ける。
それにメーカーのショールーム(とくに西新宿にあったサンスイのショールーム)もある。
毎年秋には、晴海でオーディオフェアをやっている。

東京に住まいのある人が羨ましく思えた10代だった。

そのころまわりにはオーディオマニアはいなかった。
東京のような環境ではなかった。
だからこそ、文章による「出逢い」をいつしか求めるようになっていったのかもしれない。
それに、そういう私の欲求に応えてくれる人たちが、あのころはいた。

タンノイ・オートグラフ、マッキントッシュMC275、EMT・930stは五味先生の文章によって、
JBL・4343、マークレビンソンLNP2、KEF・LS5/1A、グッドマンAXIOM80、
それにもう一度930stは瀬川先生の文章によって、
そのほかにもいくつかあるオーディオ機器は、このころ、そういう「出逢い」をしてきた。

タンノイのオートグラフが名器と呼ばれるのは、なにも五味康祐氏が使っていたからではない、
4343が名器なのは瀬川冬樹氏が使っていたからではない、
オートグラフも4343も優れたオーディオ機器であったからこそ、名器と呼ばれている。
──こういった主旨のことをいわれたことがある。

そのとおりだ、と私も思う。
それでも、あえて反論した。
オートグラフも4343も、ここに書いてきた「出逢い」を私はしてきたからだ。

そうやって出逢ってきたオーディオ機器は、人と、いまでも分かちがたく結びついている。
もう切り離すことはない、と言い切れる。

そんな私にとって、オートグラフは五味先生が愛用されていたから、
五味先生をあれだけ夢中にさせ、あれだけの情熱を注がせたから「名器」であり、
4343、LS5/1Aにしてもそうだ。ここには瀬川先生が、いる。
JBLのパラゴン、D130には、岩崎先生が、いる。

私にとって特別なオーディオ機器には、つねに「人」がいる。

Date: 1月 21st, 2012
Cate: 選択

オーディオ機器との出逢い(その5)

オーディオ機器との出逢いは、いつ、どこか、ということになると、
オーディオ販売店であったり、オーディオ仲間のリスニングルームであったり、ということになるだろうが、
私にとって、タンノイ・オートグラフ、マッキントッシュのMC275、EMtの930stとの「出逢い」は、
五味先生の「五味オーディオ教室」であった。

そんなものは出逢いではない、といわれるのはわかっていても、
私にとってのオートグラフ、MC275、930stとの「出逢い」は、やはり「五味オーディオ教室」である。
それで良かった、だから良かった、といまでも思っている。
これから先もきっと、これについては変ることはないはずだ。

いまオーディオ機器について書かれた文章は、あふれている。
オーディオ雑誌だけでなくネットがあるから、あふれている。
あふれてはいるけれど、「出逢い」と言い切れる文章、信じていける文章は……、とおもう。

いつか誰かに、あれが「出逢い」だった、と思ってくれる文章をひとつ書いてゆくこと──。

Date: 1月 20th, 2012
Cate: 映画

映画「ピアノマニア」

明日(1月21日)から公開される映画「ピアノマニア」。
見逃せない、と思っている。

Date: 1月 20th, 2012
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その56)

オーディオの面白さのひとつに、組合せの楽しさがある。
鳴らしたいスピーカーシステムに合うアンプ、以前ならばカートリッジ、いまはCDプレーヤーを探していく。
個々のオーディオ機器の基本性能が向上しているいまでは、
組合せで失敗といえるようなことは起りにくくなっている反面、以前のように黄金の組合せと呼ばれるような、
なにかすべてが有機的に結合したような見事な組合せ例はほとんどなくなりつつあるような気もする。
それでも別項で書いているように、組合せを思案するのは楽しい。
これは昔から変らぬオーディオの面白さ、楽しさだと思う。

この組合せも、アンプという狭い範囲で考えると、セパレートアンプの場合、
コントロールアンプとパワーアンプを同一メーカーで揃えるのか、
あえて他社製のコントロールアンプとパワーアンプを組み合わせるのか、
このふたつがある。

以前はよくコントロールアンプが得意なメーカー、パワーアンプが得意なメーカー、といったことがいわれていた。
これは裏を返せば、パワーアンプが不得手なメーカー、コントロールアンプが不得手なメーカーともいえる。
それに以前はどちらかだけをだしていたメーカーも少なくなかった。

けれど現在は、多くのメーカーがコントロールアンプもパワーアンプも出しているし、
以前のようにどちらが得意ということも薄れてきたようにも感じる。
そのためか、最近では他社製のアンプの組合せよりも同じメーカーの組合せを選ぶ人が多い、ともきいている。
たしかにそうなってきているのかもしれない。
メーカー推奨のコントロールアンプとパワーアンプの組合せであれば、失敗ということはまずない。
むしろ好結果が得られることが多いのだろうと、私も思う。

でも、私はやはりコントロールアンプとパワーアンプに関しても、
組合せの面白さ、楽しさを充分に感じとりたいし、味わいたいと以前から思ってきたし、いまもそうだ。

純正組合せはたしかにいい。でもそこに意外性はない。
意外性ばかり求めているわけではないけれど、意外性のまったく感じとれないもの(音)には魅力を感じにくい。

そんな私が、ブランドは異っているものの、いわば純正的組合せといえる、
GASのThaedraとSUMOのThe Goldの音に驚いた。
これは、ここまで書いてきたことと矛盾することのように思われるかもしれないが、
純正ゆえの意外性、と、あのときはそう感じていた。

Date: 1月 19th, 2012
Cate: iPod

ある写真とおもったこと(その9)

2001年秋にiPodの初代機が登場したとき、驚いたのはその価格に関することだった。
最初のiPodは5GBのハードディスクドライブを内蔵していて、47800円だった。
当時、他社からいくつものMP3プレーヤーが出ていて、iPodはどちらかといえば高価な方だった。

47800円が高いのか、安いのかは、人によって感じ方は異っていただろうが、
私が驚いたのは、iPodに搭載されていた東芝製の1.8インチのハードディスクドライブが、
ちょうど同じころ秋葉原のパソコンのパーツ店に並びはじめていて、
その価格がiPodよりもわずかとはいえ高価だったことだ。

価格には流通経路の違いも反映されるものだから、Appleが製造元の東芝から直接仕入れる価格と、
一般ユーザーが小売店から購入する際の価格は大きく異ってくるのは理解できる、とはいうものの、
iPodのほうが、内蔵されているパーツよりも安価だということは、すぐにはその理由は理解できなかった。

しかもこの初代機から第三世代のモデルまでは裏側はステンレスを磨き上げたものが使われていた。
新潟の会社で研磨されていたものだ、と当時話題になっていた。
iPodは外装に安っぽさはない。
それに液晶画面がついていて、操作のためのホイール機構があり、イヤフォンも付属してくる。
それでも、東芝の1.8インチのハードディスクドライブよりも安かった。

なぜ、こういう価格が実現できるかがわかるには、私の場合、そこそこの時間を必要とした。

iPodの初代機の流れを汲むiPod classicは、現在160GBまで容量が増え、液晶画面もカラー、
音楽の連続再生時間も10時間から36時間に増え、価格は20900円と半分以下にまで下っている。

仮にiPodをApple以外の会社が発売していたら、どういう価格づけになっていたであろうか。
会社の規模、それに関係してくる生産台数によって、
まったく同じ仕様のモノでも価格は2倍程度ではすまなかったはず。

iPodがこれまでどれだけの数、製造され販売されてきたのかは知らないが、
相当な数であることは、電車に乗って周りを見渡したり街中を歩いていれば、すぐに想像できることである。
それだけの数を売るからこそのiPodの価格であり、これだけの数を売ることを前提としているからこその価格。
そう考えたとき、iPodは、スティーブ・ジョブズによる共通体験の提供、そのためのツールだと確信できた。

Date: 1月 18th, 2012
Cate: iPod

ある写真とおもったこと(その8)

世の中のプログラムソースはLPがメインだったころ、
レコードをかけるのは一家の中でお父さんだけ、という話があった。
子供やお母さんがレコードをかけたいと思っても、お父さんだけしか操作できない、操作させない。

レコードを再生するアナログプレーヤーが高価なものになればなるほど、
ますますさわれるのはお父さんだけになってしまうし、
そういう高価なアナログプレーヤーにフルオート型はまったくといっていいほと存在していなかったから、
レコードなのに、気軽に音楽を聴くことができない、という状況がときとして生れていた。

そういう面をもつことのあるアナログディスクによる音楽の再生とiPodによる音楽の再生は、
どこかしらGUI(Graphical User Interface)が登場する前のパソコンと、
登場後のパソコンに似ているところがある。

まったく同じには考えられないのは承知のうえで、
アナログディスクで音楽を聴くのは、なにか特別なこと(儀式的なこと)を要求されるのは、
器械に対して苦手意識のある人ならば、
CUI(Character User Interface, Command line User Interface)と感じさせるところがあるように思う。

触るにはお父さん(管理している人)の許可が必要な器械、勝手に触ってはいけない器械、
へたな使い方をしたらとりかえしのつかないことになりそうな器械。
使いこなせれば便利だとわかっていても……、と思わせてしまうのが、
マッキントッシュ(Macintosh)が1984年に登場する前のCUIのパソコンだとすれば、
誰にでも使えて、使うのに遠慮することがいらない、
とりあえずさわってみようと思わせるパソコンがGUIのマッキントッシュ。

ついこんな対比を、アナログディスクによる再生とiPodによる再生にあてはめてみたくなる。
そうやって初期のiPodをみると、初期のマッキントッシュと同じくモノクロ2値のディスプレイだし、
英語の表示にはシカゴ・フォントが使われている、という共通するところもある。
それにiPod自体が、Macintosh 128Kのスタイルに近い、ともいえなくもない。

こじつけ的なことと思われるだろうが、でもこんなふうにみていくことで、
iPodにこめられているであろうスティーブ・ジョブズの想いを勝手に想像していける。

Date: 1月 17th, 2012
Cate: iPod

ある写真とおもったこと(その7)

iPodで音楽を聴くことに対して、目の敵にする人がなぜいるのだろうか──、と思う。
勝手な推測だが、iPodで音楽を聴くとき、iPodのご機嫌うかがいなんてする必要はまったくない。
オーディオマニアが、とくにアナログディスクをかけるときに、
別にプレーヤーだけに限らないが、スピーカーシステムなどの機嫌をうかがい鳴らすような行為は、
iPodには不要である。

それに、オーディオ機器の機嫌をうかがいながら使っていくことで、
さらに自分の使っているオーディオ機器のクセを熟知していくことで、
その使い手の中に生じてくる独自の使いこなしのノウハウも、iPodで音楽を聴くのには不要である。

いわばオーディオマニアとしての自覚とまったく無縁のところで、音楽を聴くことができる。
だから、iPodに強烈な拒否反応を示す人がいるのは当然のことなのかも、という気がしないではない。

こういう態度の人がいる一方で、iPodが登場したときに、
たしかネットで読んだのだと記憶しているが、
iPodで音楽を聴いているときiPodを手で持っていると、
わずかな振動がiPodから伝わってくる。その振動が、なんだかiPodが生きているような感じでしてきて愛着が増す、
そんな発言があった。

最初の頃のiPodは東芝製の1.8インチのハードディスクドライブが内蔵されていた。
このハードディスクドライブの回転の際に生じる振動が手に伝わってくるわけで、
iPodなんかで音楽が聴けるか、と最初からくってかかるような態度の人は、
こんなに振動していてはまともな音なんかするはずがない、と言い出すかもかもしれない。

ハードディスクドライブが発生する振動ひとつにしても、
受け手によって愛着を増すことにつながってもいくし、否定へとつながってもいく。

Date: 1月 16th, 2012
Cate: iPod

ある写真とおもったこと(その6)

2008年夏、ワディアからWadia170 iTransportが登場したとき、
あるオーディオ雑誌の編集長が「自分が編集長でいるかぎり、絶対に誌面にiPodは登場させない」といっていた、
と伝聞で知った。
これがほんとうのことなのかどうかは確認していないし、どっちでもいいのだが、
iPodを、なにかオーディオに対する、オーディオマニアに対するアンチテーゼ的なモノとして受けとめている人が、
まだ2008年には少なくなかったからこそ、こんな話が私の耳にも届いてきたのかもしれない。

16ビット・44.1kHzのCDの音(データ)を非可逆圧縮してイヤフォンで聴く、というiPodのスタイルは、
オーディオマニア的ではない。
中には、iPodはオーディオ文化を破壊するものだ、という人がいたかもしれない。
もし上記の編集長が、ほんとうに上記の発言をしていたとしたら、
きっと彼もiPodをオーディオ文化の破壊者と認識していたのだろう。

アナログディスクをジャケットから取り出して、内袋からさらに取り出す。
そして盤面に触れぬよう気をつけながら、
そして中心孔の周辺にヒゲをつけぬようまた気をつけてレコードをセットする。
盤面をクリーニングする、カートリッジの針先もクリーニングする。
そしておもむろにカートリッジを盤面に降ろす……。
そういうアナログディスク再生の、一種の儀式的なものに馴れ親しんだ人にとっては、
何の気を使う必要もなく、いつでも同じ音がする、それも誰が使っても同じ音がするiPodは、
極端なことをいえば、音楽を聴く道具としては認められない、
というよりも、認めたくない、という感情も含まれていたのではなかったのか。

けれどスティーブ・ジョブズは、iPodを、オーディオ的なモノ・行為へのアンチテーゼとして送りだしたのだろうか。
そうではなく、共通体験の提供だと私は考えている。

Date: 1月 15th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その24)

ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4には、37機種のフルレンジユニットが取り上げられている。
国内メーカー17ブランド、海外メーカー8ブランドで、うち10機種が同軸型ユニットとなっている。

HIGH-TECHNIC SERIES 4には、周波数・指向特性、第2次・第3次高調波歪率、インピーダンス特性、
トータルエネルギー・レスポンスと残響室内における能率、リアル・インピーダンスが載っている。
測定に使われた信号は、周波数・指向特性、高調波歪率、インピーダンス特性がサインウェーヴ、
トータルエネルギー・レスポンス、残響室内における能率、リアル・インピーダンスがピンクノイズとなっている。

HIGH-TECHNIC SERIES 4をいま見直しても際立つのが、D130のトータルエネルギー・レスポンスの良さだ。
D130よりもトータルエネルギー・レスポンスで優秀な特性を示すのは、タンノイのHPD315Aぐらいである。
あとは同じくタンノイのHPD385Aも優れているが、このふたつは同軸型ユニットであることを考えると、
D130のトータルエネルギー・レスポンスは、
帯域は狭いながらも(100Hzあたりから4kHzあたりまで)、
ピーク・ディップはなくなめらかなすこし弓なりのカーヴだ。

この狭い帯域に限ってみても、ほかのフルレンジユニットはピーク・ディップが存在し、フラットではないし、
なめらかなカーヴともいえない、それぞれ個性的な形を示している。
D130と同じJBLのLE8Tでも、トータルエネルギー・レスポンスにおいては、800Hzあたりにディップが、
その上の1.5kHz付近にピークがあるし、全体的な形としてもなめらかなカーヴとは言い難い。
サインウェーヴでの周波数特性ではD130よりもはっきりと優秀な特性のLE8Tにも関わらず、
トータルエネルギー・レスポンスとなると逆転してしまう。

その理由は測定に使われる信号がサインウェーヴかピンクノイズか、ということに深く関係してくるし、
このことはスピーカーユニットを並列に2本使用したときに音圧が何dB上昇するか、ということとも関係してくる。
ただ、これについて書いていくと、この項はいつまでたっても終らないので、項を改めて書くことになるだろう。

とにかく周波数特性はサインウェーヴによる音圧であるから、
トータルエネルギー・レスポンスを音力のある一部・側面を表していると仮定するなら、
周波数特性とトータルエネルギー・レスポンスの違いを生じさせる要素が、音流ということになる。

Date: 1月 14th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その23)

ステレオサウンド 54号のころには私も高校生になっていた。
高校生なりに考えた当時の結論は、
電気には電圧・電流があって、電圧と電流の積が電力になる。
ということはスピーカーの周波数特性は音圧、これは電圧に相当するもので、
電流に相当するもの、たとえば音流というものが実はあるのかもしれない。
もし電流ならぬ音流があれば、音圧と音流の積が電力ならぬ音力ということになるのかもしれない。

そう考えると、52号、53号でのMC2205、D79、TVA1の4343負荷時の周波数特性は、
この項の(その21)に書いたように、4343のスピーカー端子にかかる電圧である。

一方、トータルエネルギー・レスポンスは、エネルギーがつくわけだから、
エネルギー=力であり、音力と呼べるものなのかもしれない。
そしてスピーカーシステムの音としてわれわれが感じとっているものは、
音圧ではなく、音力なのかもしれない──、こんなことを17歳の私の頭は考えていた。

では音流はどんなものなのか、音力とはどういうものなのか、について、
これらの正体を具体的に掴んでいたわけではない。
単なる思いつきといわれれば、たしかにそうであることは認めるものの、
音力と呼べるものはある、といまでも思っている。

音力を表したものがトータルエネルギー・レスポンス、とは断言できないものの、
音力の一部を捉えたものである、と考えているし、
この考えにたって、D130のトータルエネルギー・レスポンスをみてみると、
その6)に書いた、コーヒーカップのスプーンがカチャカチャと音を立てはじめたことも納得がいく。

Date: 1月 14th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その22)

マッキントッシュのMC2205はステレオサウンド 52号に、
オーディオリサーチD79とマイケルソン&オースチンのTVA1は53号に載っている。
つづく54号は、スピーカーシステムの特集号で、この号に掲載されている実測データは、
周波数・志向特性、インピーダンス特性、トータルエネルギー・レスポンス、
残響室における平均音量(86dB)と最大音量レベル(112dB)に必要な出力、
残響室での能率とリアル・インピーダンスである。

サインウェーヴによる周波数特性とピンクノイズによるトータルエネルギー・レスポンスの比較をやっていくと、
44号、45号よりも、差が大きいものが増えたように感じた。
44号、45号は1977年、54号は1980年、約2年半のあいだにスピーカーシステムの特性、
つまり周波数特性は向上している、といえる。
ピークやディップが目立つものが、特に国産スピーカーにおいては減ってきている。
しかし、国産スピーカーに共通する傾向として、中高域の張り出しが指摘されることがある。

けれど周波数特性をみても、中高域の帯域がレベル的に高いということはない。
中高域の張り出しは聴感的なものでもあろうし、
単に周波数特性(振幅特性)ではなく歪や位相との兼ね合いもあってものだと、
54号のトータルエネルギー・レスポンスを見るまでは、なんとなくそう考えていた。

けれど54号のトータルエネルギー・レスポンスは、中高域の張り出しを視覚的に表示している。
サインウェーヴで計測した周波数特性はかなりフラットであっても、
ピンクノイズで計測したトータルエネルギー・レスポンスでは、
まったく違うカーヴを描くスピーカーシステムが少なくない。
しかも国産スピーカーシステムのほうが、まなじ周波数特性がいいものだから、その差が気になる。

中高域のある帯域(これはスピーカーシステムによって多少ずれている)のレベルが高い。
しかもそういう傾向をもつスピーカーシステムの多くは、その近くにディップがある。
これではよけいにピーク(張り出し)が耳につくことになるはずだ。

ステレオサウンド 52、53、54と3号続けて読むことで、
周波数特性とはいったいなんなのだろうか、考えることになった。

Date: 1月 13th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その21)

ステレオサウンド 52号、53号で行われた4343負荷時の周波数特性の測定は、
いうまでもないことだが、4343を無響室にいれて、4343の音をマイクロフォンで拾って、という測定方法ではない。
4343の入力端子にかかる電圧を測定して、パワーアンプの周波数特性として表示している。

パワーアンプの出力インピーダンスは、考え方としてはパワーアンプの出力に直列にはいるものとなる。
そしてスピーカーが、これに並列に接続されるわけで、
パワーアンプからみれば、自身の出力インピーダンスとスピーカーのインピーダンスの合せたものが負荷となり、
その形は、抵抗を2本使った減衰器(分割器)そのものとなる。
パワーアンプの出力インピーダンスが1Ωを切って、0.1Ωとかもっと低い値であれば、
この値が直列に入っていたとしても、スピーカーのインピーダンスが8Ωと十分に大きければ、
スピーカーにかかる電圧はほぼ一定となる。つまり周波数特性はフラットということだ。

ところが出力インピーダンスが、仮に8Ωでスピーカーのインピーダンスと同じだったとする。
こうなるとスピーカーにかかる電圧は半分になってしまう。
スピーカーのインピーダンスは周波数によって変化する。
スピーカーのインピーダンスが8Ωよりも低くなると、スピーカーにかかる電圧はさらに低くなり、
8Ωよりも高くなるとかかる電圧は高くなるわけだ。
しかもパワーアンプの出力インピーダンスも周波数によって変化する。
可聴帯域内ではフラットなものもあるし、
低域では低い値のソリッドステート式のパワーアンプでも、中高域では出力インピーダンスが上昇するものも多い。

おおまかな説明だが、こういう理由により出力インピーダンスが高いパワーアンプだと、
スピーカーのインピーダンスの変化と相似形の周波数特性となりがちだ。

TVA1では1kHz以上の帯域が約1dBほど、D79では2dBほど高くなっている。
たとえばスクロスオーバー周波数が1kHzのあたりにある2ウェイのスピーカーシステムで、
レベルコントロールでトゥイーターを1dBなり2dBあげたら、はっきりと音のバランスは変化することが聴きとれる。

だからステレオサウンド 52号、53号の測定結果をみて、不思議に思った。
そうなることは頭で理解していても、このことがどう音に影響するのか、そのことを不思議に思った。

この測定で使われている信号は、いうまでもなくサインウェーヴである。

Date: 1月 12th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その20)

ステレオサウンド 52号では53機種、53号では28機種のアンプがテストされている。
この81機種のうち3機種だけが、負荷を抵抗からJBLの4343にしたさいに周波数特性が、
4343のインピータンス・カーヴをそのままなぞるようなカーヴになる。

具体的な機種名を挙げると、マッキントッシュのMCMC2205、オーディオリサーチのD79、
マイケルソン&オースチンのTVA1である。

D79とTVA1は管球式パワーアンプ、MC2205はソリッドステート式だが、
この3機種には出力トランス(オートフォーマーを含む)を搭載しているという共通点がある。
これら以外の出力トランスを搭載していないその他のパワーアンプでは、
ごく僅か高域が上昇しているものがいくつか見受けられるし、逆に高域が減衰しているものもあるが、
MC2205、D79、TVA1の4343負荷時のカーヴと比較すると変化なし、といいたくなる範囲でしかない。

MC2205もD79、TVA1も、出力インピーダンスが高いことは、この実測データからすぐにわかる。
ちなみにMC2205のダンピングファクターは8Ω負荷時で16、となっている。
他のアンプでは100とか200という数値が、ダンピングファクターの値としてカタログに表記されているから、
トランジスター式とはいえ、MC2205の値は低い(出力インピーダンスが高い)。

MC2205の4343接続時の周波数特性のカーヴは、60Hzあたりに谷があり400Hzあたりにも小さな谷がある。
1kHzより上で上昇し+0.7dBあたりまでいき、
10kHzあたりまでこの状態がつづき、少し下降して+0.4dB程度になる。
D79はもっともカーヴのうねりが多い機種で、ほぼ4343のインピーダンス・カーヴそのものといえる。
4343のf0あたりに-1.7dB程度の山がしり急激に0dBあたりまで下りうねりながら1kHzで急激に上昇する。
ほぼ+2dBほどあがり、MC2205と同じようにこの状態が続き、10kHzで少し落ち、また上昇する。
1kHzでは0dbを少し切るので、周波数特性の下限と上限の差は2dB強となる。
TVA1はD79と基本的に同じカーヴを描くが、レベル変動幅はD79の約半分程度である。

こんなふうに書いていくと、MC2205、D79、TVA1が聴かせる音は、
周波数特性的にどこかおかしなところのある音と受けとられるかもしれないが、
これらのアンプの試聴は、岡俊雄、上杉佳郎、菅野沖彦の三氏によるが、そんな指摘は出てこない。

Date: 1月 11th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その19)

ステレオサウンド 52号、53号でのアンプの測定で注目すべきは、負荷条件を変えて行っている点である。
測定項目は混変調歪率、高調波歪率(20kHzの定格出力時)、それに周波数特性と項目としては少ないが、
パワーアンプの負荷として、通常の測定で用いられるダミー抵抗の他に、
ダミースピーカーとJBLの4343を用いている。

歪が、純抵抗を負荷としたときとダミースピーカーを負荷にしたときで、どう変化するのかしないのか。
大半のパワーアンプはダミースピーカー接続時よりも純抵抗接続時のほうが歪率は低い。
けれど中にはダミースピーカー接続時も変らないものもあるし、ダミースピーカー接続時のほうが低いアンプもある。

歪率のカーヴも純抵抗とダミースピーカーとで比較してみると興味深い。
このことについて書き始めると、本題から大きく外れてしまうのがわかっているからこのへんにしておくが、
52号、53号に掲載されている測定データが、この項と関連することで興味深いのは、
JBLの4343を負荷としたときの周波数特性である。

4343のインピーダンス特性はステレオサウンドのバックナンバーに何度か掲載されている。
f0で30Ω近くまで上昇した後200Hzあたりでゆるやかに盛り上り(とはいっても10Ωどまり)、
その羽化ではややインピーダンスは低下して1kHzで最低値となり、こんどは一点上昇していく。
2kHzあたりで20Ωになり3kHzあたりまでこの値を保ち、また低くなっていくが、8kHzから上はほほ横ばい。
ようするにかなりうねったインピーダンス・カーヴである。

ステレオサウンド 52号、53号は1979年発売だから、
このころのアンプの大半はトランジスター式でNFB量も多いほうといえる。
そのおかげでパワーアンプの出力インピーダンスはかなり低い値となっているものばかりといえよう。
つまりダンピングファクターは、NFB量の多い帯域ではかなり高い値となる。

ダンピングファクターをどう捉えるかについても、ここでは詳しくは述べない。
ここで書きたいのは、52号、53号に登場しているパワーアンプの中にダンピングファクターの低いものがあり、
これらのアンプの周波数特性は、抵抗負荷時と4343負荷時では周波数特性が大きく変化する、ということである。