Archive for 3月, 2011

Date: 3月 5th, 2011
Cate: オーディオ評論

オーディオ評論家の「役割」、そして「役目」(その20)

41号から読みはじめたステレオサウンドを、オーディオの本だと、ずっと捉えてきた。
いまもオーディオの本なのだけれども、
もうひとつの側面としてステレオサウンドには、オーディオ評論の本という特質がある、とここ数年思っている。

あくまでも主となるのはオーディオの本ということ、のように見受けられるけど、
実のところ、オーディオ評論の本、ということの方が隠れた主となっている、といえなくもない。
ただ、これは、いまのステレオサウンドにはあてはまらなくなった、ともいえる。

いまステレオサウンドは、オーディオの本だ。
これが、ステレオサウンドの本来のあり方だと受けとる人もいれば、
私のように、そうじゃないだろう、と心の中でつぶやいている人もいるはずだ。

だから、あるところまでステレオサウンドの歴史は、オーディオ評論の歴史であった。
ステレオサウンドがあったからこそ、オーディオ評論が芽生え育ってきた。
大きく育ち、実を結ぼうとする手前で、その樹の幹の中では変化が起り方向が逸れていってしまった……。

フルトヴェングラーは「音楽ノート」で語っている。
     *
批評は正しさの獲得のために存在すると考えるのは間違っている。批評とは論議するために存在するのだ。もし論議が不可能になれば、価値を有する意見は生まれないであろう。
     *
論議すること、とは、才能のぶつかり合い、でもある。
ぶつかり合い「価値を有する意見」が生れることで、批評が評論へとなっていくのではないだろうか。

Date: 3月 4th, 2011
Cate: ショウ雑感

2008年ショウ雑感(その2・続×十九 補足)

エソテリックのA-Z1、S-Z1が出た時に、これらのデザインについて否定的なことを書いていた人を知らない。
ほとんどの人が、いいデザインと評価していた。
なかには、エソテリックの資料からまる写し的な感じで、
パネルの加工には数時間を要する、だから素晴らしいみたいなことを書いている人もいた。

加工に時間のかかるパネルであることに間違いはないだろう。
だが手間、時間をたっぷりとかけて作られたから、優れたデザインというわけではない。
ていねいな仕上げが、いいデザインなわけではない。

それに、あのパネル・デザインに、まったく疑問を感じずに、
素晴らしい、とか、美しい、と平気で文字にできる感性はいったいどうなっているのだろうか。

私は、落胆した。
なぜこれだけの時間とお金をかけて、こんなふうにしてしまのうか、と。
なぜエソテリックはこれを製品化し発売したのか。

A-Z1、S-Z1を優れたデザインと認めてしまう組織なのか……。

A-Z1、S-Z1は、私の目にはそれほど話題にならず消えていってしまった、と映っていた。
やっぱりエソテリックも、失敗作だと思っていたのか、と実はすこし安心もしていた。

A-Z1、S-Z1に較べるとA100はまだまともとはいえ、
A100のパネルは、頬のこけた人の顔に見えてしまう。

A100もA-Z1、S-Z1同様、ていねいに仕上げられている。
でも、そこで満足してもらっては困る。

Date: 3月 4th, 2011
Cate: コントロールアンプ像

私がコントロールアンプに求めるもの(その12)

インプットアンプをそれぞれの入力端子ごとに設けているコントロールアンプは、過去に幾つかある。

チェロのAudio Suiteではライン入力に関しては、ふたつ用意されていたと記憶している。
グレードの違いで、プレミアム・モジュールとベーシック・モジュールだったはずだ。

メリディアンのMCA1、MLPのライン入力は、
CDプレーヤー専用のモジュールが用意されていた。
他の機器と比べてCDプレーヤーの出力レベルが高いため、入力感度を低くするとともに、
たしか入力ンインピーダンスを通常よりも高くしていたようにも記憶している。
さらに高域の周波数特性も、あるところから数dBステップダウンするようになっていたはずだ。

CDプレーヤー登場以前のQUAD・44にもCD用のモジュールが用意された。
これも入力感度は、チューナー、AUX用のモジュールよりも低かった。

44はシャーシー内部ほぼ中央にマザーボードが垂直に立っている。
このマザーボードにそれぞれのインプットアンプ・モジュールはピンで刺さり接続される。
ピンの数は7本。フォノ入力モジュール、通常のライン入力モジュールが使用するのは、このうち5本。
信号用で3本使用(左右チャンネル1本ずつとアースの1本)、電源用に±で2本となっている。
7本すべて使用するモジュールはテープ用モジュールだげだ。

Audio Suiteはリアパネルの下半分に厚めの金属のバスバーが10本通っている。
この金属のバーに各モジュールはネジ止めされ、信号のやりとりと電源の供給を受ける。

メリディアンはそれぞれのモジュールの側面片側にピン、反対側の側面にピンを受けるコネクターがあり、
信号、電源のほかにロジック信号のやりとりを行っている。

Date: 3月 4th, 2011
Cate: コントロールアンプ像

私がコントロールアンプに求めるもの(その11・補足)

パッシヴフェーダーの回路図は簡単だ、といわれる。
入力セレクターも設けないパッシヴフェーダーともなると、
回路図に書き込む部品は、入力端子、ボリュウム、出力端子とそれぞれを結ぶ線だけだ。
1分もあれば回路図は描ける。

入力端子と出力端子を結ぶ2本の平行線のあいだにボリュウムを挿入するだけ。
けれど、ボリュウム(減衰器)の基本原理に立てば、この回路図は「線」が足りないことに気がつく。

このことについては別項の「パッシヴフェーダーについて、すこしだけ」に書いているので、
具体的なことはそちらを読んでいただきたい。

これはボリュウムをシャーシーにおさめないバラックの状態でも実験できることだ。
従来のパッシヴフェーダーの回路図に足りなかった「線」を加えることは、
あえてコントロールアンプを使わずにパッシヴフェーダーを選択している人にとっては、
決して無視できない音の変化を示してくれるはずだ。

Date: 3月 3rd, 2011
Cate: コントロールアンプ像

私がコントロールアンプに求めるもの(その11)

コントロールアンプについて書いているからといって、
パッシヴフェーダーを否定するわけではない。

入力機器はCDプレーヤーが1台、フェーダーのあとに接がるものもパワーアンプが1台だけ、
という系であれば、いくつかの箇所に注意をはらえば、そのメリットは大きい。

けれどいくつかの入力機器をつないで、
出力側にも私のようにサヴウーファーを接続するために独立した2系統の出力がほしい、となると、
パッシヴフェーダーだけで対処するのは困難でもある。
そして別項の「境界線」のところでふれたコントロールアンプの領域について考えていくと、
積極的にコントロールアンプについて考えてゆきたくなる。

たとえば入力機器に関しても、アンバランス出力、バランス出力がまずあり、
その出力インピーダンスも、ソリッドステートアンプと真空管アンプとはでは大きく違うし、
バランス出力ではトランスを使っているのかどうか、どういう回路でバランス出力を取り出しているのか、
そういった違いすべてに対して、ひとつのインプットアンプで対応することは、私は無理だと考える。
それぞれに最適の受け側としてのあり方がある。

だからインプットアンプ・モジュールを、接続される入力機器の数だけ用意(搭載)するというかたちにしたい。

Date: 3月 3rd, 2011
Cate: オーディオ評論

オーディオ評論家の「役割」、そして「役目」(その19)

ステレオサウンド 14号に、上杉先生がこんなことを書かれている。
     *
いつの間にか私にもオーディオ評論家という肩書きがついてしまったようだ。しかし、私は、評論家という自覚よりも、やはり、技術者という自覚の方が、はるかに強い。
     *
私は、オーディオ評論は、ステレオサウンド創刊以前には、
はっきりとしたかたちでは存在していなかった、と思っている。
ステレオサウンドも創刊号では、明確な「オーディオ評論」は打ち出せてない。

それまでなかったものをいきなりかたちにできるわけがないからしかたのないことであって、
2号以降、オーディオ評論とステレオサウンドとともに形づくられていった、といえる。

ステレオサウンドが、オーディオ評論を生み出したわけではない。
だからといって、ステレオサウンド以前にオーディオ研究家・技術者として活躍されていた人たちだけでは、
やはりオーディオ評論は生れてこなかったか、もしくはもっと遅れてきたはず。

ステレオサウンドという場があってはじめて、
オーディオ研究家・技術者とそれまで呼ばれていた人のなかから、オーディオ評論の芽が生れてきた。

Date: 3月 3rd, 2011
Cate: Digital Integration

Digital Integration(デジタルについて・その5)

CDプレーヤーが登場する前に、「デジタルだから、音は変らない」といったことが云われていた。
信じている人は多くは無かったはずなのに、メーカーの技術者の中には真剣に語っていた人もいるときいている。

CDプレーヤーを実際に聴く前から、そんなことはあり得ない、とは多くの人がわかっていた。
D/AコンバーターのLSIの手前までは、そういう可能性はあるかもしれないけれど、
D/Aコンバーターの精度・性能、そのあとにつづくアナログフィルターや送り出しアンプの違いがある以上、
音はCDプレーヤーごとに違っていてあたりまえ、のこと。

しかも各CDプレーヤーのによる音の違いは、D/Aコンバーター以降だけの起因するわけでなく、
それ以前のデジタル部も大きく関係していた。

この話は、メーカーの技術者を、やや揶揄するたとえ話として、そのあともときどき活字になっていた。

現実には電源関係の問題・不要輻射などもあって、そうは厳密にはいかないものの、
D/Aコンバーター以降がまったく同じであるならば、
デジタルは本来、D/Aコンバーター以前の違いによって音は変ることはあってはならないことである。

でも実際は違う。
その理由についても、いくつか語られている。

Date: 3月 2nd, 2011
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その8・続×五 補足)

グラフィックイコライザーになれるために、実際にためしてほしいと思っていることは、
この項の(その1)で書いていることだ。

グラフィックイコライザーを使いはじめたとき、
まずはどこかの周波数のレバーを上げ下げするはず。
現在の主流である1/3バンドのものだと、ときにはその効果・変化が聴きとりにくいこともあり、
たいていは両隣のレバーもまとめて上げ下げする。

このとき点対称となる周波数のところもいっしょに動かしてみる。

つまり可聴周波数帯域を20Hzから20kHzとして、このふたつの積の平方根632Hzを中心点として、
点対称となる周波数を、反対に動かすわけだ。
632Hzの1オクターヴ下の周波数をあげたら、632Hzの1オクターヴ上の周波数をさげるわけだ。

いいかえれば、操作する、ふたつの周波数の積がつねに40万となるようにするわけだ。

Date: 3月 1st, 2011
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(続×八・余談)

レヴィンソンのことに触れたついでに書いておくと、
LNP2、JC2のモジュールの特徴は回路構成以外にもある。

LNP2、JC2が日本に入ってきたとき、ある国産メーカーがモジュールのX線写真を撮った、という話がある。
それがどこのメーカーなのか、わからないけれど、おそらくヤマハだと推測できる。

マークレビンソンのモジュールをひっくりかえすと、接続用のピンが出ている。
そして微調整用の半固定抵抗か頭を出している。
ということはモジュールの中にははいっているプリント基板は、上下逆さまになっているわけだ。
通常ならプリント基板の上部に、トランジスター、抵抗、コンデンサーなどがのっかるかたちになる。

ところがマークレビンソンのモジュールはプリント基板に部品がぶら下がる形になっている。

JC2の登場によって、日本のメーカーからも薄型のコントロールアンプがいくつも出てきた。
ヤマハのC2もそうだ。
あまり語られないことだが、C2はマークレビンソンのモジュール同様、プリント基板が上下逆になっている。
改良型のC2aもその次のC2xもそうだ。

プリント基板の向きがどちらでも、音には影響ないだろう、と思う人もいるかもしれないが、
実際には、かなり大きく影響している。
試しに、ヤマハのC2、マークレビンソンのJC2を天地逆にして音を聴いてみると、おもしろい。

Date: 3月 1st, 2011
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(続×七・余談)

ジョン・カールにいわせれば、マークレビンソンのパワーアンプML2は、
彼の設計によるもので、本来ならばJC3と名づけられるもの、となる。

以前書いたように、JC3がML2のプロトタイプになっていることは確かなことで、
CEショウに最初に出品されたプロトタイプは、15W+15Wのステレオ仕様である。
外観は、ほぼML2と同じで、電源スイッチが左右独立していて、2つある。
おそらくこれがJC3なのだろう。

JC3の回路図には増幅部と電源部しかない。
ML2の回路図には保護回路も含まれている。
実際に試したことはないから、どこまで本当なのかははっきりしないが、
瀬川先生が週刊FMに書かれていた記事のなかに、動作中のML2に水をかけても瞬時に保護回路が働き、
スピーカーを保護する、とあった。もちろんML2本体は故障するだろうけども。

マーク・レヴィンソンらしい、と思う。
ボンジョルノなら、そういう保護回路はつけないはずだから。

保護回路にも、ジェームズ・ボンジョルノとマーク・レヴィンソンの性格の違いは現れてきている。