Archive for 10月, 2008

Date: 10月 16th, 2008
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その16)

40万の法則は、再生周波数帯域が、
可聴帯域(20Hz〜20kHz)よりも狭いときに成り立つもののように思える。

何の根拠もない推測だが、可聴帯域よりも狭い再生音を聴いているとき、
人は自然に、その再生音の中心周波数を認識しているような気がする。

ここで言う中心周波数とは再生音の上限と下限の積の平方根、
つまり40万の法則に従った再生帯域であれば、632.455Hzとなる。

トゥイーターを追加したり、より上の帯域まで伸びているトゥイーターに交換したり、のとき、
低域も伸ばさないと、高域が伸びた分、中心周波数が上にスライドする。
上限と下限の積が50万だと、707Hzになる。60万だと774Hz。80万だと894Hzだ。

下限が40Hzで上限が20kHzだと、その積は80万になる。

この中心周波数のズレが、中域が薄くなる、弱く感じる理由のような気がする。

ウェスタン・エレクトリックの100FやB&Oのポータブルラジオの再生周波数帯域はわからない。
でも、おそらく中心周波数は632Hz前後だと思う。

Date: 10月 15th, 2008
Cate: JBL, Studio Monitor, ワイドレンジ, 井上卓也

ワイドレンジ考(その15)

以前から言われていたことだが、安易にワイドレンジ化すると、
中域が薄く(弱く)なるということがある。

この場合のワイドレンジ化はトゥイーターによる高域を伸ばすことだが、
トゥイーターを追加してもレベルを他のユニットときちんと合わせて鳴らせば、
中域が薄くなるということは理屈に合わないように思える。
そう思って聴いても、中域が薄く感じられる例がある。

井上先生もステレオサウンド62号に、具体例を書かれている。
     ※
 余談ではあるが、当時、4320のハイエンドが不足気味であることを改善するために、2405スーパートゥイーターを追加する試みが、相当数おこなわれた。あらかじめ、バッフルボードに設けられている、スーパートゥイーター用のマウント孔と、バックボードのネットワーク取付用孔を利用して、2405ユニットと3105ネットワークを簡単に追加することができたからだ。しかし、結果としてハイエンドはたしかに伸びるが、バランス的に中域が弱まり、総合的には改悪となるという結果が多かったことからも、4320の帯域バランスの絶妙さがうかがえる。
 ちなみに、筆者の知るかぎり、2405を追加して成功した方法は例外なく、小容量のコンデンサーをユニットに直列につなぎ、わずかに2405を効かせる使い方だった。
     ※
なぜこういう現象が起こるのか。
40万の法則が、ここでも当てはまる、と私は思っている。

Date: 10月 14th, 2008
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その14)

B&Oのポータブルラジオの話を聞きながら、思い出していたのはウェスタン・エレクトリックの100Fのことだった。

おそらくB&Oのラジオを聴ける機会は訪れないだろう。
私がこれまで聴いてきた音で、おそらく、これにいちばん近い特質の音を持っていたのは、100Fである。

100Fは、真空管アンプ内蔵の可搬型スピーカーである。
サイズはうろ憶えだが、横幅が30cmくらいで高さは20cmぐらい。
使われているユニットは、ジェンセン製の5インチのフルレンジ。
真空管アンプはACを電源トランスを使わずにそのまま整流・平滑することで、
省スペース化を図っている。入力にもトランスが使われていたはずである。

内容的にはどうってことはない。レンジも極端に狭い。
けれど、いちど耳にすると、強烈な印象を受ける。

ウェスタン・エレクトリックの音、といっても、いまの映画館では、その音は聴けない。
ウェスタン・エレクトリックのスピーカーやアンプを鳴らしている人もいるが、
彼らの音がウェスタン・エレクトリック純正の音と言えるかは、難しい。
その人個人の音であることも関係しているからだ。

それでも、100Fは、ミニサイズだが、ウェスタン・エレクトリック純正の音と私は思う。
おそらく100Fの再生周波数帯域も40万の法則に従っていると感じる。

Date: 10月 14th, 2008
Cate: Jacqueline du Pré

Jacqueline du Pré(その1)

1987年10月19日、ジャクリーヌ・デュプレは亡くなっている。

デュプレが亡くなって、数年後に、音楽評論家の三浦淳史氏の文章で、
イギリスで「Jacqueline du Pré」という薔薇が生れたということを知った。
残念なことに写真はなかった。

1997年にインターネットに接続したときに、検索した言葉のひとつが「Jacqueline du Pré」だった。
ネットならば、Jacqueline du Pré がどういう花なのかがわかるはずという期待からだったが、
まったくヒットせず。

1年後くらいか、やっとイギリスの個人サイトで、写真を見ることができた。
小さな、不鮮明な写真だった。
英文の説明には、入手が非常に難しい、と書かれていた。
栽培が難しいらしい。

日本で見ることは無理だなと思いながらも、数年に一回、ふと思い出しては検索してみると、
日本の薔薇の愛好家のサイトでも見ることができるようになっていた。
薔薇の世界の技術も進歩しているらしい。

Jacqueline du Pré は、
イギリスの薔薇交配家のピーター・ハークネス氏の育てた品種の中から
多発性硬化症で入院していた彼女の視力はかなり衰えていたので、
嗅覚だけで、彼女自身が力強い香りのものを選んだときいている。

1989年、Jacqueline du Pré が世に出ている。

デュプレの命日が近い。日本での入手はそう難しくない。

Date: 10月 14th, 2008
Cate: サイズ

サイズ考(その1)

オーディオ機器のサイズの定義は、あるようでない、と言えよう。
スピーカー・ユニットの口径ひとつとっても、何cm以上が大口径なのか、小口径は何cm以下なのか、
まったく決っていない。ただ感覚的に、38cm口径は大口径と言っている。

たしかに10cm口径のユニットと比較すると38cmは大口径と言えるが、比べてみての話だ。
エレクトロボイスが以前出していた76cm口径のウーファー、30Wや
ダイヤトーンが市販したことのある160cmのウーファーと比べると、
38cmも小口径と言わないが、大口径とは言えない。

定義が決ってないので、ふだん見慣れているモノのサイズよりも大きければ、大口径、大型となる。
ということはオーディオに関心のない人にとっては、20cm口径のユニットでも、
相当大きなスピーカーと感じるかもしれないし、
同じオーディオマニア同士でも、世代が違えば、サイズに対する感覚も異っているだろう。

60年代のスピーカーは、ウーファーといえば38cm(15インチ)がスタンダードだと言えよう。
この時代のスピーカーに馴染んでいる人と、90年代以降のスピーカーに馴染んでいる人とでは、
サイズ感覚もずいぶん違うだろう。それに住環境も無視できない。

そしてオーディオ機器のサイズは、見た目だけではない。

Date: 10月 13th, 2008
Cate: 川崎和男

Kazuo Kawasaki Ph.D.

いまかけているメガネも、その前のメガネも、もうひとつ前のメガネも、
1998年からずっとKazuo Kawasaki Ph.D.ブランドのメガネを愛用している。

川崎先生のデザインのメガネには、心地よい緊張感がある。

2001年に出たアンチテンションのフレームから取扱店が大幅に増え、電車に乗っていると、
ときおり川崎先生デザインのメガネをかけている人を見かける。

でもそれ以前は、東京でも、
取り扱っていたのは日本橋・三越本店の新館の二階にあるメガネサロンだけだった。

最初に買った川崎先生のメガネは、カタログを増永眼鏡から取り寄せてもらって注文したので、
おそらく東京で、このメガネをかけているのは私だけという密かな喜びもあった。
いまかけているメガネも、詳細は書けないが、そういう喜びがある。

川崎先生のメガネにアンチグラビティというモデルがある。
94年ごろに出ている。
パッド(鼻当て)のところに大きな特長がある。

これを見た時、オーディオに応用できるんじゃないか、と直感的に思った。
それから10年、スピーカー・スタンドに応用できることに気がつく。
さらにラックにも応用できる。

2001年には、アンチテンションのモデルが出ている。
これを見た時も、オーディオに使えるはず、と思った。
いまでも、ときどき考えるが、なかなか思い浮ばずにいる。

Date: 10月 13th, 2008
Cate: 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その14)

瀬川先生は、定規やコンパスを使わずに、手書きでキレイな円を書かれていた、と
瀬川先生のデザインのお弟子さんだったKさんから聞いた。

訓練の賜物なのだろうが、そればかりでもないと思う。

紙に薄く下書きの線が引いてあったら、それをなぞっていけばいい。
そんな線がなくても、紙を見つめていると、円が浮んで見えてくるということはないのだろうか。

ナショナルジオグラフィックのカメラマンは、携帯電話についているカメラ機能でも、
驚くほど素晴らしい写真を撮ると聞く。
素晴らしいカメラマンは、ふつうのひとには見えない光を捉えているとも聞く。

卑近な例だが、友人の漫画家は、「うまいこと絵を描くなぁ」と私が感心していると、
「だって線が見えているから」と当り前のように言う。
イメージがあると、白い紙の上に線が見えてくるものらしい。

音も全く同じであろう。
聴きとれない音は出せない。

同じ音を聴いていても、経験や集中力、センス、音楽への愛情、理解などが関係して、
人によって聴きとれる音は同じではない。

そして見えない線が見えてくるように、いまはまだ出せない音、鳴っていない音を、
捉えることができなくては、まだまだである。
出てきた音に、ただ反応して一喜一憂しているだけでは、つまらない。

Date: 10月 12th, 2008
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その13)

40万の法則といっても、若い人はほとんどご存じないだろう。
私よりも上の世代には、いわばオーディオの常識のひとつであった。

人間の可聴帯域の下限(20Hz)と上限20kHzを掛け合わせた値が40万であり、
聴感的に心地よいの音の帯域はバランスは、再生音域の下限と上限の積が40万、
もしくはそれに近い値になることが多い、と言われている。

池田圭氏の著書「盤塵集」(ラジオ技術刊、絶版)にも詳しいし、
瀬川先生の「虚構世界の狩人」に収録されている
四〇万の法則と音のバランス」をお読みいただきたい。

瀬川先生の、そのなかで、B&Oのポータブルラジオについても書かれている。

西新宿にあったサンスイのショールームで定期的に行なわれていた瀬川先生のイベントで、
このラジオを鳴らされたときがあった。
その音を聴いた人たち(私よりも一回り以上年上の方たち3人)は、
感慨深げに「あれは、ほんとうにいい音だったなぁ」、
「ナロウレンジなんだけど、実にいい感じで鳴ってくれる」、
「あれも40万の法則にぴったり当てはまるんだよな」と語ってくれた。

Date: 10月 11th, 2008
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その12)

「トランスはフィルター理論を駆使して設計しなければならない」──
マリックの松尾氏の言葉である。
といっても、この言葉を直接聞いたわけではなく、また聞きであることをことわっておく。

マリックといっても、ご存じない方も少なくないだろう。
伊藤先生の300Bシングルアンプのトランスは、松尾氏の設計によるマリック製である。
松尾氏が亡くなってからは、他社製のトランスに切換えられている。

また聞きとは言え、私にこの話をしてくれたOさんは、
松尾氏から直接聞かれているし、伊藤先生の弟子でもあり、
伊藤先生の300Bシングルアンプを、
音楽之友社から出た「ステレオのすべて」に掲載された写真から、
回路図、シャーシーの大きさなどを割り出してそっくりのアンプをつくりあげた人だから、
途中で情報が変質している心配はない。

三角形を思い浮かべてほしい。
この三角形のどの部分を使用するかによって、トランスの周波数特性は決る。
頂点に近いほうならば、帯域は狭い、下に行くに従って、帯域は広がっていく。
大事なのは、三角形の頂点の周波数はいくつかということだ。
その値は、630〜640Hzあたりとのことだ。

つまり40万の平方根値である。
トランスに関しても、40万の法則があてはまる。

Date: 10月 11th, 2008
Cate: 岩崎千明

「オーディオ彷徨」

岩崎先生の遺稿集「オーディオ彷徨」。
気温がさがっていくこれからの季節、夜、ひとりで読むにぴったりの本だとあらためて思っている。
友人のAさんも「オーディオ彷徨」に惚れているひとりだ。

彼と私の共通点はそんなにない。
歳が同じこと、オーディオが好きなことぐらいか。
それ以外のことはそうとうに異っているが、そんなことに関係なく、
ふたりとも「オーディオ彷徨」を読むと、ジャズが聴きたくなる衝動にかられる。
ふたりとも、聴く音楽のメインはジャズではないのに、である。

「オーディオ彷徨」はいちど絶版になっている。
それを、当時ステレオサウンド編集部にいたTNさん
(彼はジャズと岩崎先生の書かれるものを読んできた男)が、
情熱で復刊している。彼も衝動に突き動かされたのだろう。

岩崎先生の文章には、人を衝動にかり立てる力がある。
そして衝動が行動を生み、
行動が感動を生むことにつながっていく。

衝動、行動、感動、すべてに「動き」がつく。
動きには、力が伴う。動きには力が必要だ。

岩崎先生の言葉には、力が備わっている。私はそう感じている。

Date: 10月 10th, 2008
Cate: ベートーヴェン

待ち遠しい

今年イチバン楽しみに、その発売を待っていたのが、
アンドラーシュ・シフのベートーヴェンのピアノ・ソナタ集第8巻である。
ECMから出る。10月14日に入荷予定とのことだ。

収められているのは30番、31番、32番。

デッカ時代のシフの演奏にも惹かれるものがあったが、
ECMに移ってからの演奏には、まいった。
最初に聴いたのは、バッハのゴールドベルグ変奏曲。
デッカにも、1980年代に録音しているし、聴いていた。

「20年で、これほど人は成長するのか」──、そうも感じた。

ぼんやりとした記憶だが、当時のシフは、グールドを師、もしくはそういう意味で呼んでいたはずだ。
シフは1953年生れ。二度目のゴールドベルグ変奏曲の録音時(2001年10月)は、
48歳になる二カ月ほど前である。
グールドが二度目のゴールドベルグ変奏曲を録音したときは49歳。
あえて、ほぼ同じ歳になったときを選んだのだろうか。

同じ曲を、ときには難解な言葉を並べて、あらゆる言葉を尽くして語ろうとする演奏家もいるし、
詩のように、言葉をできる限り削ぎ落として語る演奏家もいる。

どちらが素晴らしいとかではない。
そんなことを感じさせる演奏があるということだ。

シフの、いまの演奏がどちらかは聴いてみればわかる。

Date: 10月 10th, 2008
Cate: 電源

ACの極性に関すること(その2)

ステレオサウンドでは試聴の準備で、CDプレーヤーやアンプはすべてACの極性をチェックする。
アース電位をデジタルテスターで測ってみる。
テスターに表示される数字の低い方を、基本的にはACの極性が合っていると判断する。
ただ一部の機器はメーカー側の指定があり、アース電位の高いこともある。

私がステレオサウンドにいたのは1988年12月までで、
それまで測った機種でアース電位が優秀だったのは、マッキントッシュのアンプだった。
いまのマッキントッシュのアンプがどうなのかは知らない。

マッキントッシュのコントロールアンプと、
機能を絞った、いわゆるハイエンドオーディオと言われるメーカーのコントロールアンプ、
アース電位が低いのはマッキントッシュである。

いうまでもなくマッキントッシュのコントロールアンプは多機能だから、
トーンコントロール、フィルターなどを装備しているため、どうしても内部構成は複雑になる。
にも関わらず、ほとんどコントロールアンプとしての機能を持たない機種、
つまり内部構成はずっとシンプルで、配線の引き回しも少なく、ディスクリート構成なのに、
アース電位はかなり高く、しかもAC極性を変えると、大きく値が変動する。
しかも測定している最中、アース電位がふらつく。

マッキントッシュの方は低いだけでなく、AC極性を反転させても、
ほとんどアース電位が変化しない。しかも安定している。
もちろんアース電位の値だけで音が決定されるわけではない。
けれど、AC極性の反転で電位の変化幅の大きいアンプは、音の変化も大きい。
マッキントッシュのアンプも、AC極性を変えると音は変化するが、それほど大きい差ではない。

人の価値観はさまざまだから、どちらを優秀なアンプとして評価するかは異るだろうが、
少なくともアンプとして安定しているのはマッキントッシュである。

Date: 10月 9th, 2008
Cate: 五味康祐, 電源

ACの極性に関すること(その1)

1981年か82年ごろか、あるオーディオ誌に連載をお持ちのあるオーディオ評論家が、
「ACに極性があるのを見つけたのは私が最初だ」と何度か書いているのを見たことがある。
なぜ、こうもくり返し主張するのか、声高に叫ぶ理由はなんなのか……。

少なくとも、このオーディオ評論家が書く以前から、
ACの極性によって音が変化することは知られていた。
私でも、1976年には知っていた。

この年に出た五味先生の「五味オーディオ教室」に、次のように書いてあったからだ。
     ※
音が変わるのは、いうまでもなく物理的な現象で、そんな気がするといったメンタルな事柄ではない。
ふつう、電源ソケットは、任意の場所に差し込みさえすればアンプに灯がつき、アンプを機能させるから、スイッチをONにするだけでこと足りると一般に考えられているようだが、実際には、ソケットを差し換えると音色──少なくとも音像の焦点は変わるもので、これの実験にはノイズをしらべるのがわかりやすい。
たとえばプリアンプの切替えスイッチをAUXか、PHONOにし、音は鳴らさずにボリュームをいっぱいあげる。どんな優秀な装置だってこうすれば、ジー……というアンプ固有の雑音がきこえてくる。
さてボリュームを元にもどし、電源ソケットを差し換えてふたたびボリュームをあげてみれば、はじめのノイズと音色は違っているはずだ。少なくとも、どちらかのほうがノイズは高くなっている。
よりノイズの低いソケットの差し方が正しいので、セパレーツ・タイプの高級品──つまりチューナー、プリアンプ、メインアンプを別個に接続して機能させる──機種ほど、各部品のこのソケットの差し換えは、音像を鮮明にする上でぜひ試しておく必要があることを、老練なオーディオ愛好家なら知っている。
     ※
これを読んだとき、もちろん即試してみた。お金もかからず、誰でも試せることだから。
たしかにノイズの量、出方が変化する。

もっともノイズでチェックする方法は、
現在の高SN比のオーディオ機器ではすこし無理があるだろう。
音を聴いて判断するのがイチバンだが、テスターでも確認できる。
AC電圧のポジションにして、アース電位を測ってみるといい。
もちろん測定時は、他の機器との接続はすべて外しておく。

ここで考えてみてほしいのは、
なぜ五味先生はACの極性によって音が変化することに気づかれたかだ。

マッキントッシュのMC275に電源スイッチがなかったためだと思う。
五味先生が惚れ込んでおられたMC275だけでなく、マッキントッシュの他のパワーアンプ、
MC240も、MC30などもないし、マランツのパワーアンプの#2、#5、#8(B)にも電源スイッチはない。
マッキントッシュの真空管アンプで電源スイッチがあるのは、超弩級のMC3500、マランツは#9だけである。

MC275の電源の入れ切れは、
コントロールアンプのC22のスイッチドのACアウトレットからとって連動させるか、
壁のコンセントから取り、抜き挿すするか、である。

あれだけ音にこだわっておられた五味先生だから、おそらく壁のコンセントに直に挿され、
その都度、抜き差しされていたから、ACの極性による音の変化に気付かれたのだろう。

なにも五味先生に限らない。
当時マランツの#2や#8を使っていた人、マッキントッシュの他のアンプを使っていた人たちも、
使っているうちに気づかれていたはずだ。
だから五味先生は「老練なオーディオ愛好家なら知っている」と書かれている。

そして、誰も「オレが見つけたんだ」、などと言ったりしていない。

Date: 10月 8th, 2008
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その6)

アナログ式のイコライザーで、グラフィックイコライザーのようなカーブを作り出せないか。
櫛形フィルターを使わずに、しかも6dB/oct.のフィルターによって、ということを考えていた。

そんなとき、スピーカーのレベルコントロールによる
スピーカーシステム全体の周波数特性がどう変化するのを表したグラフを見て思いついた。

2ウェイのネットワークだと、当然だが低域と高域だけの変化である。
3ウェイだと、それに中域が加わり、4ウェイでもせいぜい2.5オクターブの粗さである。

ならば、この3つを加えたらどうなるか。
けっこう複雑なカーブを作り出せそうな気がしてきた。

ラインレベルの入力をまず3系統にわける。
後につながる負荷が小さくないのでバッファーアンプを設けたい。
それぞれのフィルターは、
抵抗とコンデンサーだけで形成した6dB/oct.のチャンネルデバイダーと同じである。

つまり2ウェイ、3ウェイ、4ウェイの、パッシヴのチャンネルデバイダーを用意する。
そしてそれぞれのチャンネルデバイダーに信号を振り分けたのち、
それぞれの信号、つまり2+3+4の7つの信号をミキシングして出力する。
ミキシングの段階で、それぞれのレベルをコントロールする。

この方式のポイントは、それぞれのチャンネルデバイダーのクロスオーバー周波数の設定である。
うまく設定できれば、グラフィックイコライザーには及ばないものの、
かなり自由にイコライジングカーブがつくり出せるのではないだろうか。

Date: 10月 8th, 2008
Cate: イコライザー

私的イコライザー考(その5)

スピーカーのレベルコントロールを、電気的に細かくいくつもにわけたものが、
グラフィックイコライザーと、乱暴な表現だけど、そう言えるだろう。

スピーカーだと4ウェイでも、低域、中低域、中高域、高域の4つの帯域だから、
ひとつのレベルコントロール当り大ざっぱに言えば2.5オクターブだが、
グラフィックイコライザーは、1オクターブに満たない、
1/3オクターブという狭い帯域でコントロールできる。

そのために櫛形フィルターを使う。

非常に狭い帯域でピーク・ディップをコントロールする際、櫛形フィルターは有効だ。
だが一般的と思われる使い方、
たとえば500Hzを中心にゆるやかにもちあげて、3kHzあたりをやや下げて、
その上の帯域をゆるやかに上昇させるという帯域バランスを得たいとき、
グラフィックイコライザーのツマミを、そういうカーブに配置する。
なるほどグラフィックである。

だが、櫛形フィルターを採用していることを思い出してほしい。
微視的に見れば、櫛の歯の長短を変えて、そういうカーブを作り出しているわけだ。
櫛の歯同士の間はどうなっている?

アメリカの技術書に、単発サイン波を、グラフィックイコライザーを通すと、
どう変化するかが載っている。

だからグラフィックイコライザーは使用すべきではない、と言いたいわけではない。
どんなモノにもメリット・デメリットがあるということだ。

そして、これはアナログ技術のグラフィックイコライザーについててである。
デジタル式が、どういうふうにカーブ通りのイコライジングを行なっているのか、
じつのところ調べていないが、アナログ式とはそうとうに異っているはずだろう。

個人的には、デジタル技術の導入によって、デメリットの面が薄れ、
グラフィックイコライザーの本領発揮の時代がきたと考えている。