ワイドレンジ考(その12)
「トランスはフィルター理論を駆使して設計しなければならない」──
マリックの松尾氏の言葉である。
といっても、この言葉を直接聞いたわけではなく、また聞きであることをことわっておく。
マリックといっても、ご存じない方も少なくないだろう。
伊藤先生の300Bシングルアンプのトランスは、松尾氏の設計によるマリック製である。
松尾氏が亡くなってからは、他社製のトランスに切換えられている。
また聞きとは言え、私にこの話をしてくれたOさんは、
松尾氏から直接聞かれているし、伊藤先生の弟子でもあり、
伊藤先生の300Bシングルアンプを、
音楽之友社から出た「ステレオのすべて」に掲載された写真から、
回路図、シャーシーの大きさなどを割り出してそっくりのアンプをつくりあげた人だから、
途中で情報が変質している心配はない。
三角形を思い浮かべてほしい。
この三角形のどの部分を使用するかによって、トランスの周波数特性は決る。
頂点に近いほうならば、帯域は狭い、下に行くに従って、帯域は広がっていく。
大事なのは、三角形の頂点の周波数はいくつかということだ。
その値は、630〜640Hzあたりとのことだ。
つまり40万の平方根値である。
トランスに関しても、40万の法則があてはまる。