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Date: 6月 22nd, 2013
Cate: 終のスピーカー

終のスピーカー(その8)

4343のコンシューマー用モデルに当たるL400は試作品がつくられていたことは確認できている。
にも関わらず製品化されなかった。
なぜなのか? いろいろ考えてみるとおもしろいし、
そのためにはJBLの製品構成を辿っていくことも必要となるし、
こんなことをやっていると、それまで気がつかなかった、見過していた事実に気づいたり、
それまで関連のないことだと思っていた事柄が結びついたりすることもある。

L400ではなくL250だったことに対する私の考えは、別のところで書こうと思っている。
ここで書いていくと、「終のスピーカー」というテーマから離れ過ぎてしまうから。

とにかくL300を境に、
JBLのコンシューマー用スピーカーはサランネットをつけて使うのが、
必ずしも前提条件ではなくなっていったと思える。
現在のJBLのフラッグシップであるDD67000(DD66000)にしても、
サランネットをつけた姿よりも外した姿のほうがインパクトとして強く、
見た者の記憶に残る(ただそれが必ずしもいい印象とは言い難いのだが……)

サランネットをつけて聴くのか、つけずに聴くのかは使い手・聴き手の自由である。
それでもL200でサランネットをつけずに聴く人は少数ではなかろうか。
オリンパスにも同じことはいえる。
Harknessもそうだ。

JBLのユニットは面構えもいい。
いい表情をしているユニットが、実に多い。
オーディオマニアの心境としては、そういうユニットの表情も味わいながら……、という気持はある。
そのくらいにオーディオマニアである私でも、
Harknessはサランネットをつけたスタイルこそが、Harknessである。

そのことは田中一光氏のHarknessの使い方から、
ステレオサウンド 45号に載った写真を何度も飽きずに見続けたことから学べたことである。

ここにおいて、4343への憧れとHarknessへの憧れは、違う。

そしてHarknessは、私にとって、もうひとつの意味をもつ。

Date: 6月 21st, 2013
Cate: 型番

型番について(その11)

もう少し正確に書いていこう。

オルトフォンがハーマングループの傘下にはいったのがいつなのかはっきりとしないが、
オルトフォンの輸入元がオーディオニックスから
ハーマンインターナショナルインダストリーズアジアインクに変ったのは1977年の中ごろである。
ということは少なくともこのときにはすでにハーマン傘下だったわけだし、
それ以前にハーマン傘下になっていたと見ることもできる。

とにかく1977年前後であろう。

ステレオサウンド 48号で、菅野先生は、
「最近、アメリカのコングロマリットの傘下に入ったオルトフォンは,経営が合理化されたようですが」
と語られている。
それでもSPUを作り続けているわけだから、たいしたものだと思いながらも、
この合理化はMC20のストリングホルダーとSPU後期のそれとが同じ形状ということと関係しいてるように思える。
ストリングホルダーが共通化されている可能性は高いだろう。

だとすればSPUの後期というのは、MC20登場以降、
つまり1976年以降あたりから、と推測できる。
もしそうであればオーディオニックスが輸入していた最後のほうのSPUも後期といえるであろう。
ほぼ間違いないはずだ。

なぜ、そういえるのか。
それはステレオサウンド 48号にSPUのサスペンション機構の変遷の図が掲載されているからである。
48号(1978年9月)の時点ですでにハーマンインターナショナル扱いになっている。
だからこそ、こういうことが記事になり、図が掲載された──、
と編集に携わったあとだから、そういえるのである。

Date: 6月 21st, 2013
Cate: トランス

トランスからみるオーディオ(その7)

ステレオサウンド編集部に富士通のワープロ、OASYS100Fが導入されたのは1984年ごろだった。
プリンターも同時だった。
まだドット式の大型の機械で、基本的には文字だけ(簡単な図も印刷できた)。
その文字も、いまのプリンターのように滑らかではなかった。
もちろん黒一色で、印刷中の動作音がうるさく、
編集部のNさんが木製の防音箱を作ったくらいのうるささだった。
印刷にかかる時間も長かった。

それがいつの間にか、家庭でもフルカラー印刷が可能になり、
写真に近いクォリティまでになっていっている。
しかも小型になり、動作音もあまりしなくなり、価格だってずっと安価になっている。
(インクは高いけれども……)

この間のプリンターの進歩は、ある意味すごい。
あのころ家庭で、いまのプリンターがやっていることを想像できなかった、
というよりも想像することさえしなかった。

プリント技術は進歩している。
なのに30年前に可能だったプリントコイルがいまはできないというのは、やはり釈然としないものがある。
なぜ、できないのかと思うし、同時に従来の方法ではできなくとも、
新しい方法でプリントコイルが作れるようになるのかもしれない、そうもおもう。

いま3Dプリントという言葉を目にすることが急に増えてきた。
いまや出力センターでも3D出力を受けつけてくれる時代になっている。

私はまだ3Dプリンターに触れたことがないから、どこまで可能なのか、はっきりとわからないところもあるけれど、
それでも期待しているのは3Dプリンターによるコイルの出力(製造)である。

Date: 6月 21st, 2013
Cate: 再生音

続・再生音とは……(その10)

アトムは人型ロボットである。
それも少年をモデルとしたロボットである。

ロビタは、レオナの記憶をコピーする前のベースとなったロボット、チヒロは、まだ人型といえた。
けれど記憶容量が大きくなり過ぎたために、もとのチヒロのボディとはかけ離れた姿になってしまう。

だからといって、アトムは人に近いのか。そういえるのだろうか。
結局、どちらも異形のモノであることには変わりない、とそう考えられる。
むしろなまじ人型ロボットであり、
大量生産のロボットであるロビタとは異り、世界にただ一体のアトムとでは、
そのつくりにおいて比較の対象にはならない。

アトムは天馬博士にしかつくれなかった。
多少の故障であればお茶の水博士がなおせても、
深刻な故障となると、天馬博士にしかなおせない設定になっていた。

ロビタは大量にコピーされていったのだから、
アトムとロビタの時代には500年の開きがあるとはいえ、
アトムとロビタには、ロボット(工業製品)という同じ言葉では括り得ない違いがある。

アトムもロビタもロボットだから、成長はしない。
少なくとも外観的・体格的な成長はない。
けれどロビタは、完全なるコピーが無数にうみだされていく、
アトムはアトムただひとりである。

Date: 6月 21st, 2013
Cate: トランス

トランスからみるオーディオ(その6)

ビクターのダイレクトカップル方式のMC型カートリッジに採用されたプリントコイルは、
MC101Eでは三層構造にすることで、出力電圧を1.3mVまで引き上げている。
最終モデルとなったMC-L1000ではさらにコイルを小型・軽量化し、
それに伴う出力電圧の低下に対しては両面コイルとすることで、0.22mVの出力を得ている。

そして、このMC-L1000で、はじめて、ほんとうに「ダイレクトカップル」方式と呼べる構造になっている。
MC-L1000では発電コイルが針先のダイアモンドの上端に直接取り付けあるからだ。

それまでの、ビクターのこの一連のカートリッジでは針先のすぐ近くにコイルを取り付けていたものの、
あくまでもすぐ近くであり、針先そのものに取り付けてあったわけではない。
その意味では、ダイレクトとは呼びにくい面があったわけだ。

それはビクターの技術陣がいちばんわかっていたことだろう。
だからこそプリントコイルに改良を重ね、堂々とダイレクトカップル方式と呼べる域に達している。

MC-L1000は、当時86000円という高価なカートリッジだったにも関わらず、
けっこうな数が売れたときいている。

MC1の登場から8年かけて、ダイレクトカップル方式をここまで高めてきたわけで、
それが評価されての結果であった、と思う。

これも6月5日の「岩崎千明と瀬川冬樹がいた時代」をテーマにしたaudio sharing例会で、
西松さんからきいた話なのだが、
このプリントコイルが、いまは作れない、とのことだった。
少し意外な感じもする。

ICというかLSIの集積密度は非常に高くなっているし、
こういうプリントコイルはいまでは簡単に作れるものとばかり思っていたからである。

技術とは、そういう性質をもつものなのかもしれない。

Date: 6月 21st, 2013
Cate: 型番

型番について(その10)

オルトフォンのSPUの構造変化におもなう支点の移動についての語られたステレオサウンド 48号は、
1978年9月に出ている。この48号の少し後にHIGH-TECHNIC SERIES 2が出た。

このHIGH-TECHNIC SERIES 2は長島先生によるMC型カートリッジの本であり、
各社の代表カートリッジを分解して内部構造図が掲載されている。
この内部構造図だけでも、このHIGH-TECHNIC SERIES 2の価値は大きい。

この内部構造図を描かれたのは神部(かんべ)さんである。
このとき、ひとつひとつカートリッジを分解して寸法を測り描いていった、と神部さんから直接聞いている。
たいへんな作業だった、ともいわれていた。

このHIGH-TECHNIC SERIES 2にオルトフォンのカートリッジは、
SPU-A/EとMC20が載っている。

SPUとMC20は基本構造は同じといっても、
細部を比較していくと違いがいくつもある。
それについては省略するが、HIGH-TECHNIC SERIES 2に載った構造図で注目したいのは、
MC20の後方のストリングホルダーの形状は、SPU後期のそれと同じということである。

SPU-A/Eはどうかというと、
HIGH-TECHNIC SERIES 2の111ページに載っている構造図は中期のSPUの構造そのものである。
だからといって、1978年ごろのSPUが中期の構造とはいえない。
おそらく、これはたまたま分解したSPUが中期のモノだった可能性のほうが高い。

ではいったいいつごろのSPUが初期であり、中期であり、後期であるのか。
ステレオサウンド 48号の記事からは正確なところまではわからない。

けれどおそらく中期のSPUとはオーディオニックスが輸入していたころのモノだと思われる。
初期のSPUとはそれ以前のモノであり、
後期とはハーマンインターナショナルに取扱いが移行してからのモノと推測できる。
(おおざっぱなことは承知している。)

Date: 6月 21st, 2013
Cate: 「介在」

オーディオの「介在」こそ(その11)

オーディオは複合体・複合系であり、
そのことがオーディオをやっかいな存在にしていることへつながっているとともに、
だからこそ音楽と聴き手の間に介在することで、
オーディオは聴き手に、そこにあたかも「意思」が存在しているかのように受け取るのかもしれない。

Date: 6月 20th, 2013
Cate: バッハ, マタイ受難曲, 五味康祐

ヨッフムのマタイ受難曲(タワーレコードに望むこと)

今回のヨッフムのマタイ受難曲もそうだが、
タワーレコードはオリジナル企画として、独自にCD復刻を行っている。
こういう企画はありがたい。

私がタワーレコードの、この企画に望むのは、
五味康祐・愛聴盤シリーズである。

ヨッフムのマタイ受難曲は今回復刻された。
次は、ミヨーの「子と母のためのカンタータ」を復刻してほしい。
ミヨー夫人が朗読をつとめたものだ。
いまナクソスのサイトでMP3では聴けるようになっているものの、
やはりCD、もしくは16ビット・44.1kHzのダウンロードで聴きたい気持がつよい。

それからアンドレ・メサジェの「二羽の鳩」。
これのLPは「子と母のためのカンタータ」とほぼ同時期に手に入れたもの、
ある事情で手もとにはない。
しかも演奏者が誰だったのかを、はっきりとおぼえていない。

まだある。ヴィヴァルディのヴィオラ・ダモーレ。
五味先生の著書を読んでも演奏者が誰なのかはっきりしないが、
どうもアッカルドによるものらしい。

まだまだあるけれど、この三枚、
無理ならばミヨーだけでも復刻してもらいたい。

Date: 6月 20th, 2013
Cate: 型番

型番について(その9)

MC型カートリッジの構造は、各メーカーによって異る点はあるものの、
まずカートリッジ本体の半分ほどを占めるマグネットがあり、
このマグネットの前後に磁気回路を形成するポールピースがある。

オルトフォンのSPUでは前方ポールピースの片方の先端部に孔が開けられ、
ここをカンチレバーが貫通している。
後方ポールピースにさらに円柱状のポールピースが固定され、
この円柱状のポールピースがカンチレバーの近くまで伸びてきていて、
針先、カンチレバー、コイルなどう含む振動系はサスペンションストリングによって、これに固定される。

カンチレバーはたいていパイプであり、
サスペンションストリングの先端はストリングホルダーと呼ばれる部品によってカンチレバー内で固定され、
サスペンションストリングの大部分は円柱状のポールピースに、これもまたストリングホルダーによって固定される。

ストリングホルダーは、径も長さも異なるふたつが、それぞれカンチレバーとポールピースにあるわけだ。
このふたつのストリングホルダーの間にダンパーがある。
このダンパーの中心をサスペンションストリングが貫通している。

サスペンションストリングはたいては腰の強い金属製のワイヤーなのだが、
ダンパーの厚みが存在するために、支点が不明確になる問題が発生しやすい。

つまりダンパーが薄ければ薄いほど前後のストリングホルダーは近接することになる。
そうなればサスペンションストリングだけの部分は短くなる。
この部分が短くなればなるほど支点は明確になり、
長くなればそれ分がたわむことになり、支点が不明確になってしまう。

初期のSPUでは後方のストリングホルダーの先端が細くなるように加工され、
この細い先端がダンパーを貫通し、図を見る限りカンチレバー内のストリングホルダーと接触している。
もちろん接触部分は丸めてある。

これが中期のSPUでは後方のストリングホルダーは短く先端の加工がなされていない。
つまり単純は円柱状で、しかもダンパーを貫通することなく円柱状のポールピース内から出てこない。
これでは前方のストリングホルダーとの間にダンパーの厚み分だけの距離が生じ、
ダンパーの厚み分だけサスペンションストリングはたわむわけで、
支点も初期のSPUではコイルとダンパーの接触面よりも針先寄りにあったのが、
中期ではダンパーの中心へと、つまり後方に移動して支点が「点」というよりも線に近くなっている。

後期のSPUでは初期と中期の中間といえるストリングホルダーの長さと構造になっていて、
支点も初期型に近いところまで戻っている。

とはいうものの初期のSPUのワンポイントといえる支点の設定にくらべれば、
まだ甘い設定といわざるを得ない。

Date: 6月 20th, 2013
Cate: トランス

トランスからみるオーディオ(その5)

1978年だったか、ビクターがダイレクトカップル方式と名づけたMC型カートリッジを発表した。
このMC1は好評で、すぐさまシリーズ機としてMC2Eが出て、
さらにMC5E、MC101E、MC-L10と続き、MC-L1000が最終モデルとなった。

古くはウェストレックスの10A、ノイマンのDST、サテンのカートリッジなどの一部のカートリッジをのぞけば、
発電コイルはカンチレバーの根元近くにある。
理想は針先に発電コイルが直接取り付けられていることであるが、
これを実現するにはいくつかのクリアーすべき問題点がある。

いちばん大きな問題は、コイルの軽量化である。
カンチレバーの根元にコイルがあるのは、針先に直接もしくは近接しているのとでは、
振動系の実効質量において大きな差が生ずる。

針先近くにコイルをもってくるためには、
しかも針圧を重くせずに、という条件がついていれば、コイルそのものをかなり軽量化しなければならない。

ビクターはそれをIC製造技術を応用し、ウェハー上に蒸着した導体をフォトエッチングした、
いわゆるプリントコイルを実現することで、この問題をクリアーしている。
MC1に採用されたプリントコイルの重量は200μgで、通常のコイルの数10分の1ということだった。

発電コイルそのものは小さく軽くなっていても、
針先から1.5mmというきわめて近くに取り付けることで、その分コイルの振幅幅は大きくなるため、
出力電圧は0.2mV、針圧は1.5g±0.2gという値を実現していた。

Date: 6月 20th, 2013
Cate: 型番

型番について(その8)

オルトフォンのSPUは、私がオーディオに関心をもちはじめた時には、
すでにロングセラーモデルだった。
シュアーのV15もロングセラーモデルという意味ではそういえなくもないけれど、
V15はTypeII、TypeIIIと改良・変更されていた。

なのにSPUはずっとSPUのままだった。
デンオンのDL103の歴史もながいけれど、SPUはそれよりも長い。
そんなカートリッジが、1970年代の後半においても現役カートリッジとして、
ほかのカートリッジでは得られない魅力を持っていることで、
少しばかりの欠点といえる面ももつものの、
私も、いつかはSPUと思っていた。

発売されたころからSPUはずっとSPUなのだから、
中身もそのまま変らずにいたのだと思っていた、ステレオサウンド 48号を読むまでは。

このころのステレオサウンドには、
井上先生と菅野先生による「ロングランコンポーネントの秘密をさぐる」という記事が連載されていた。
48号では、JBLのパラゴン、QUADのESLとともにオルトフォンのSPUがあった。

井上先生の発言は、だから少しばかりショックだった。
     *
井上 特に初期のSPUは、巻き枠のほぼちゅうしんにピボットがあったわけ。うしろのサスペンションストリングスが2重になっていまして、そこだけが細いから完全に回転運動をするという絶妙な構造になっていた。途中で合理化して一本になっちゃったけど、最近は初期のものに近い構造になっている。
     *
そしてSPUシリーズ/サスペンション機構の変遷という解説図が載っていた。
井上先生の発言だけでははっきりしないところが、この図を見れば一目瞭然だった。

Date: 6月 20th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その15)

AGI・511とQUAD・405、どちらもこの時代のアンプとしてはいち早くOPアンプを採用している。
405の電圧増幅に使われているOPアンプはLM301、405-2からはTL071である。
511のOPアンプはすでに書いているようにフォノイコライザーにはフェアチャイルドのμA749で、
ラインアンプには511bからは不明だが、511、511aはLF357である。
ただ511のごく初期のモノにはラインアンプには405と同じLM301が使われている。

このLM301は一般的な樹脂モールド型ではなくメタルCAN型であり、
Googleで画像検索すれば、LM301使用の511の内部写真を見つけ出すことができる。

LM301からLF357への早い時期での切り替えの理由ははっきりとしないが、
おそらくスルーレイトに関することだと思う。
511のハイスルーレイトともいえる250V/μSという値は、
実はフォノイコライザー部のみの値であり、
フィードフォワードもフォノイコライザーにのみ使われている。

ラインアンプはLF357に変更されてから、スルーレイト50V/μsである。
ラインアンプはNFBのみかけられている。
ただ出力に挿入されている直流成分をカットのためのコンデンサーの両端からNFBをかけている。

それから511と405に共通していることであげられるのは、
どちらも電源スイッチをもたないということ。

511のフロントパネル右下にはスイッチがある。
ただしこれはアンプ本体の電源スイッチではなく、
リアパネルにあるACアウトレットのON/OFFのためである。
511は常時通電型である。

405も405-2からはリアパネルに電源スイッチが設けられたが、もともとない。
QUADのパワーアンプは管球式のIIにしてもトランジスターの303にしても、電源スイッチはない。

22とIIの組合せでは、パワーアンプ(II)からコントロールアンプ(22)へと電源が供給され、
22の電源のON/OFFと連動するようになっている。

33と303組合せでは、303の電源を33のACアウトレットからとることで連動できる。
405に電源スイッチがないのも、コントロールアンプの電源のON/OFFと連動させるためであり、
その意味でも511と405は使い勝手面での相性もいいといえるわけだ。

Date: 6月 20th, 2013
Cate: 黄金の組合せ

黄金の組合せ(その14)

QUAD・405のフィードフォワード回路の基となっているのは、
フィードバック理論の発明者、H. S.ブラックが、
フィードバックよりも9年前に発明していた技術であり、
ブラックは4つの抵抗からなるブリッジ回路にしていたのを、
QUADのピーター・ウォーカーは2つの抵抗、残り2つの抵抗をそれぞれコンデンサー、コイルに置き換えている。

フィードバックよりもフィードフォワードのほうが先に生まれていながら、
フィードバック理論の方ばかり普及していったわけである。
そのフィードフォワード理論を、ウォーカーは4年かけて実用化している。

405に採用されたフィードフォワード回路はカレントダンピングと名づけられ、
1974年のAESで発表されている。
4年の歳月が、405を完成し発表するまでなのか、
AESで発表するまでなのかははっきりしないが、
仮にAES発表までに4年かかったとしたら、1970年ごろから、ということになる。

ウォーカーは1916年生れだから、54歳。
かなりの試行錯誤の末、カレントダンピングは生れたのかもしれない。
ウォーカーが実際にどのようにフィードフォワードの問題を解決していったのかはわからない。

AGIのスピーゲルはスーパーコンピューターを使い、フィードフォワード技術を実現している。
ウォーカーがスーパーコンピューターを使っている図は思い浮ばない。
ESLを実用化・実現したときと同じように進めていったように思う。

フィードフォワードという同じ技術用語でくくられても、
AGI・511とQUAD・405では、フィードフォワードの利用の仕方に違いがある。

違いは当然ある。
それでも同じ時期にフィードフォワード理論を、
現実のアンプへ応用していったふたりのエンジニアによるアンプだけに、
不思議と共通するところもある。

Date: 6月 19th, 2013
Cate: 型番

型番について(その7)

日本のオーディオメーカーは、型番についても、いわばマメである。
型番が同じであれば、製造ロットが違うモノをもってきて中を見比べてみても、ほぼ同じである。
まったく同じ、といってもいいぐらいである。

けれど海外のオーディオメーカーとなると、同じ型番であっても、
製造時期が違えば、ずいぶん仕様が違ってきているモノも少なくない。

有名なのがマークレビンソンのアンプである。
LNP2は1974年にバウエン製モジュール搭載で登場して以来、
日本においては並行輸入対策として末尾にLがつくようになったが、
アメリカ及びそのほかの国では製造中止になるまでLNP2のままで、
型番に変更はなかった。

LNP2の中身はずいぶん変化している。
ここで、そのことについて細かく書きはしないが、
マークレビンソン製のモジュールになってからでも、
初期のLNP2と後期のLNP2とでは、音の違いは、LNP2に惚れ込んでいる者にとって無視できないレベルである。

型番がずっと変っていない海外製品には、
有名なモノではJBLのD130があり、オルトフォンのSPUがある。

Date: 6月 19th, 2013
Cate: オリジナル

オリジナルとは(その28)

ダグラス・サックスがレコード再生システムの改良形として、
光学式による音溝のトレースをするプレーヤーシステムとなると、実際にはどういうモノになるだろうか。

ダグラス・サックスがインタヴューにこたえていた時点では、
そういうプレーヤーは存在しなかったけれど、いまはエルプの製品がある。

ただ機械式トレースを光学式トレースに置き換えただけのプレーヤーであれば、
そのプレーヤーの出力信号は、
従来の機械式トレースのモノ、つまりMC型なりMM型カートリッジの出力信号ということになる。
しかもRIAAカーヴのイコライジングを必要とする出力信号である。

でもエルプ以外のメーカーが、仮に光学式トレースのアナログプレーヤーを開発したとしても、
そういうふうにはしないはず。
必ずラインレベルでの出力にして、イコライジングも行い、
コントロールアンプのライン入力にそのまま接続できるように仕上げる。

そしてイコライザーカーヴもRIAAだけでなく、各種カーヴを使えるようにする。
回転数もSPの78回転も加えて、
つまりこれまで100年以上の歴史をもつアナログディスクのすべてを一台のプレーヤーで再生できるようにする。

これが、ひとつのアナログプレーヤーの在り方といえるし、
ここからアナログプレーヤーの在り方について、その細部について考えていく──、
それがプレーヤーにおける「オリジナル」を考えていくことである、と私はおもう。