トランスからみるオーディオ(その6)
ビクターのダイレクトカップル方式のMC型カートリッジに採用されたプリントコイルは、
MC101Eでは三層構造にすることで、出力電圧を1.3mVまで引き上げている。
最終モデルとなったMC-L1000ではさらにコイルを小型・軽量化し、
それに伴う出力電圧の低下に対しては両面コイルとすることで、0.22mVの出力を得ている。
そして、このMC-L1000で、はじめて、ほんとうに「ダイレクトカップル」方式と呼べる構造になっている。
MC-L1000では発電コイルが針先のダイアモンドの上端に直接取り付けあるからだ。
それまでの、ビクターのこの一連のカートリッジでは針先のすぐ近くにコイルを取り付けていたものの、
あくまでもすぐ近くであり、針先そのものに取り付けてあったわけではない。
その意味では、ダイレクトとは呼びにくい面があったわけだ。
それはビクターの技術陣がいちばんわかっていたことだろう。
だからこそプリントコイルに改良を重ね、堂々とダイレクトカップル方式と呼べる域に達している。
MC-L1000は、当時86000円という高価なカートリッジだったにも関わらず、
けっこうな数が売れたときいている。
MC1の登場から8年かけて、ダイレクトカップル方式をここまで高めてきたわけで、
それが評価されての結果であった、と思う。
これも6月5日の「岩崎千明と瀬川冬樹がいた時代」をテーマにしたaudio sharing例会で、
西松さんからきいた話なのだが、
このプリントコイルが、いまは作れない、とのことだった。
少し意外な感じもする。
ICというかLSIの集積密度は非常に高くなっているし、
こういうプリントコイルはいまでは簡単に作れるものとばかり思っていたからである。
技術とは、そういう性質をもつものなのかもしれない。