老いとオーディオ(2026年)
今年も三ヵ月足らずで終る。
来年は2026年。
私が「五味オーディオ教室」と出逢ったのは1976年秋だったから、来年で五十年になる。
そしてステレオサウンドは1966年創刊だから、来年は創刊60周年となる。
ステレオサウンドは創刊60周年記念特集をやるだろうが、私は五十年経ったからといって、
何か特別なことやったり、起ったりもないように思う。
それでもほぼ一年前となった、この秋、あれこれおもうことはある。
今年も三ヵ月足らずで終る。
来年は2026年。
私が「五味オーディオ教室」と出逢ったのは1976年秋だったから、来年で五十年になる。
そしてステレオサウンドは1966年創刊だから、来年は創刊60周年となる。
ステレオサウンドは創刊60周年記念特集をやるだろうが、私は五十年経ったからといって、
何か特別なことやったり、起ったりもないように思う。
それでもほぼ一年前となった、この秋、あれこれおもうことはある。
アキュフェーズのパワーアンプのリアパネルの両端には、プラスチック製のプロテクターといえるモノが取り付けられている。
アキュフェーズのウェブサイトで見ると、コントロールアンプやプリメインアンプにはないが、
パワーアンプには、今も取り付けてある。
A20Vにもある。
これを指で弾くと中は空洞だとわかる。それに安っぽい音がする。
これを取り外すと、音は変るのはわかっていても、そのままにしていた。
外すのは簡単だ。上下二本のネジで止まっているだけだから、プラスドライバーがあれば、すぐに外せる。
10月1日のaudio wednesdayでは外した。外した音を聴いてもらっている。
外すことを勧めはしないが、このくらいのことでも音は変化する。
取り付けてある、いわば標準の音、
外した状態の音があり、中間に、このプラスチック製プロテクターの空洞に綿など詰めた音がある。
A20Vの、この部分は安っぽいつくりだが、
現在のモデル、上級機ではしっかりしたつくりになっているのだろうか。
ジョディ・フォスター主演の映画「コンタクト」を観終って、ある映画を思い出した。
ティム・バートン監督の「バットマン リターンズ」だ。
「バットマン リターンズ」では、あるシーンのバットマンをCGで描こうとしていた、と、その時のニュースは伝えていた。
結果は、映画関係者から猛反対を喰らって妥協した──、そんな内容の記事だった。
「バットマン リターンズ」の公開は1992年、
「コンタクト」の公開は1997年。
どちらも映画館で観ている。
「コンタクト」の終盤、ジョディ・フォスター演じる主人公が、地球外知的生命体と出逢うシーンがある。
この時のジョディ・フォスターの表情は、なんと表現したらいいのか。
こういう表情が人にはあるんだ、と思っていた。
そして映画館を出て、こんな表情を生み出すことがCGでは可能なのだろうか、と考えていた。
ジョディ・フォスターだから可能だった表情を、ゼロからCGでつくり出せるのか。
ジョディ・フォスターと同じレベルの演技ができる人ならば、CGでつくり出せるかもしれないが、
そうでない人、どんなにCGの作成に長けた人であっても、あの表情はつくれない、というよりも思いもつかないだろう。
このことを思い出してのは、ここ数日、生成AIによる女優の誕生のニュースが話題になっているからだ。
11月5日のaudio wednesdayは、すでに告知している通り、ヴァイタヴォックスのCN191を鳴らす。
CN191がよく鳴っているのを、これまで聴いたことがない。
それでも鳴らしてみたいスピーカーの筆頭でもある。
野口晴哉氏のリスニングルームにあるスピーカーは、
ウェスターン・エレクトリックの594Aを中心としたシステム、
シーメンスのオイロダイン、ウェストレックス・ロンドンは、いずれも部屋に組み込まれているため、
スピーカーの置き方をあれこれできるわけではない。
CN191はコーナーに置かれている。
コーナー型スピーカーだから、野口晴哉氏のリスニングルームでは、
そこしかないという位置にある。
シーメンスやウェストレックス・ロンドンがある面から90度横を向く位置にある。
これまで野口晴哉氏のリスニングルームは横長での鳴らし方だったのが、CN191では縦長での鳴らし方となる。
それに左右のCN191のあいだには、ブリュートナー (Blüthner)のグランドピアノがある。
とにかくこれまでといろいろ条件が違う。
どんな音が聴けるのだろうか、という期待と、どこまで鳴らせるだろうか、というおもいもあったりする。
それでもCN191は、秋にじっくりと聴きたいスピーカー(音)というイメージがある。
やはり今回のインターナショナルオーディオショウの今井商事のブースでの是枝重治氏の回は、
ヴァイタヴォックスのCN191を鳴らされる、とのこと。
ヴァイタヴォックスの復活が決まって、今年で十二年。
今井商事のブースで、スピーカーユニットの展示はあったけれど、
スピーカーシステムを鳴らされることはなかった。
それが、今回のショウでCN191が聴ける。
いままではやってこなかったのに、今回はどうしたのだろうか、と思ってもいた。
今井商事がCN191を、ついに取り寄せたのか。
あまりやる気の感じられない今井商事なのに、急にどうしたのだろうか? と思う人は、私の他にもいるはず。
今回のCN191は、是枝重治氏が持ち込まれるモノだそうだ。しかもそのために中古のCN191を仕入れてのこと。
アンプは、是枝重治氏製作のモノが予定されている。
数多い是枝アンプの中から、どれになるのかはまだ決まっていないらしい。
是枝アンプで鳴らされるCN191の音に全く興味を持てない人もいてもいい。
それでも少しでもいいから、できれば若いうちに体験してほしいと思うし、
こういう企画こそ、これから少しでもいいから増えていってほしい。
ヴァイタヴォックスのfacebookを見たら、インターナショナルオーディオショウの今井商事のブースで、
CN191を鳴らす、と告知されていた。
(その7)で触れた是枝重治氏の今井商事での講演は、このことなのか。
CN191と是枝重治氏だとしたら、今回のインターナショナルオーディオショウでのいちばんの楽しみとなる。
11月のaudio wednesdayでは、ヴァイタヴォックスのCN191を鳴らす予定でいる。
CN191は、五味先生の書かれたものを熱心に読んできた者にとっては、
タンノイのオートグラフと肩を並べる存在のはずだ。少なくとも私にとって、CN191はそういう存在のスピーカーである。
CN191はコーナー型ということもあって、熊本に住んでいた頃は聴く機会も、実物を見る機会もなかった。
オーディオ店にポンと置かれてうまく鳴ってくれるスピーカーではないのだから、
オーディオ店で聴けるとは思ってもいなかった。
東京には、昭和の頃、名曲喫茶と呼ばれる店がいくつもあった。
吉祥寺のバロックでは、CN191が聴けることを、何かで知った。
CN191が聴けるのか、とクラシック好きの友人と二人で行った。1982年ごろだった。
その後は、数年前にaudio wednesdayの集まりで三人で行ったのが二回目。
そのバロックが、今年12月末で閉店する。
バロックには、今も通う人がいる。若い人もいる。昔からの常連と思われる人もいた。
そういう人にとって、バロックは、青春のなんらかと結びついているのだろう。
私はそうでなかっただけのこと。
ワーグナーの「パルジファル」を最後までかけ通すというのは、四谷三丁目の喫茶茶会記でやっていたころから、
いつか必ず、と思い続けてきた。
「パルジファル」に限らない。
ワーグナーの作品を最後までかけ通すのは、「トリスタンとイゾルデ」でもやりたいし、
毎月「ニーベルングの指環」を一作品ずつ、四ヵ月続けてかけることも考えている。
実際にやったら、毎回来られる方が減っていきそうなので、今回の反応を見て、今後のことは考えていく。
明日(10月1日)も、何人来られるだろうか。
Speaker System: Siemens Eurodyn + Decca DK30
Control Amplifier: Marantz Model 7
Power Amplifier: Accuphase A20V
CD Transport: Accuphase DP100
D/A Converter: Meridian ULTRA DAC
いつもは開場18時、開始19時だが、それでは最後まで「パルジファル」をかけられないため、開場18時、開始も1終了時間は22時。
開場は18時から。
会場の住所は、東京都狛江市元和泉2-14-3。
最寄り駅は小田急線の狛江駅。
参加費として2,500円いただく。ワンドリンク付き。
大学生以下は無料。
今日は、「3月のライオン」18巻の発売日。
もちろん仕事帰りに買ってきたわけだが、「3月のライオン」だけは買う書店を決めている。
他の本は、たまたま寄った店、乗換駅近くの店などで買うけれど、
「3月のライオン」だけは、武蔵小金井駅北口のくまざわ書店で買うようにしている。
どこで買っても中身は同じだし、わざわざ途中下車することもないだろうに、と思われるだろうが、
「3月のライオン」の発売を楽しみにしている人は、一度、このくまざわ書店に行ってみてほしい。
くまざわ書店武蔵小金井北口店には、絶対「3月のライオン」推しの店員さんがいるはず。勝手にそう思っている。
どの人が、その店員さんなのかはわからないけれど、
少しでも気持よく買いたいから、ここで買っている。
(その14)、(その15)でディープエンドオーディオという言葉を使った。
ふと思い出すのが、ステレオサウンド 59号での、瀬川先生のJBLのパラゴンについて書かれていたことだ。
*
ステレオレコードの市販された1958年以来だから、もう23年も前の製品で、たいていなら多少古めかしくなるはずだが、パラゴンに限っては、外観も音も、決して古くない。さすがはJBLの力作で、少しオーディオ道楽した人が、一度は我家に入れてみたいと考える。目の前に置いて眺めているだけで、惚れ惚れと、しかも豊かな気分になれるという、そのことだけでも素晴らしい。まして、鳴らし込んだ音の良さ、欲しいなあ。
*
この頃の瀬川先生は、ワイドレンジ指向だったし、新しい音に積極的でもあった。新しい音への敏感であった。
JBLの4343から4345へと鳴らされるスピーカーが変ったのとそう変らない時期に、
パラゴンを「欲しいなあ」と書かれている。
どういう心境からだったのか。
深みをめざしての「欲しいなあ」だったのか。
10月1日のaudio wednesdayは、カラヤンの「パルジファル」だけをかける。
ワーグナーの音楽を聴くということは、どういうことなのか。
その一つとして私が挙げたいのは、最初から最後まで通して聴くということだ。
ワーグナーのために時間を割く。今日は通して聴こう、と聴き始める。
もう四十年ほど前のことなのだが、カルロス・クライバーの「トリスタンとイゾルデ」を通して聴こうと思い聴き始めると、
なぜか決まった人からの電話がかかってくるということが数回続いた。
偶然でしかないのだが、数回(それも毎回)続くと、
現代においてワーグナーを通して聴くことの難しさを実感するしかない。
半ば強制的に聴くしかないのが、ワーグナーの音楽だともいえよう。
カラヤンの「パルジファル」の演奏時間は四時間と十五分ほど。
いつもと同じ19時開始だとかけ終らない。
なので今回は18時、開場と同時に開始する。
今回は休憩時間も設けずに、カラヤンの「パルジファル」をかけていく。
退屈なテーマといえば、確かにそうだ。
それでも四時間ちょっと、ワーグナーの音楽に触れ続ける。得られるものが、きっとあるはずだ。
それは人それぞれであっても、何かひとつは、ある。
音と風土の関係性は、確かにあった。
あった、と過去形で書いてしまうほど、いまはどうなのだろうか、と私でも思うわけだが、
少なくとも私がオーディオを始めたころは、あった。
だから、あれこれおもっていた。
バルバラを聴くならばフランスのスピーカー、
ケイト・ブッシュを聴くならばイギリスのスピーカー、
それもバルバラならばフランス盤でフランスのカートリッジ(その頃、日本には輸入されていなかったが、あったのだろうか)、
ケイト・ブッシュならばイギリス盤でイギリスのカートリッジ。そんなふうにして聴いてみたいと妄想していた。
そこで私の場合、グラシェラ・スサーナは? となる。
グラシェラ・スサーナの日本語の歌は、日本のスピーカーなのか。
グラシェラ・スサーナはアルゼンチン人。
アルゼンチンには、オーディオメーカーはどんなのがあるのか、アルゼンチンのスピーカーは、どういうモノなのか──、
これらをすごく知りたかった時期があった。
1970年代、調べる術を持っていなかったし、知りもしなかった。
アルゼンチンのスピーカーで聴いてみたい、と思いながらも、アルゼンチンはスペイン語。
グラシェラ・スサーナも、タンゴ、フォルクローレはスペイン語で歌っている。
ならばスペインのスピーカーは? となる。
Rotel Domusというメーカーのスピーカーシステムが、輸入されていた。
Model 175、Model 400、Model 600、Model 800というラインナップだった。
いずれも密閉型のブックシェルフ型、Model 175が2ウェイ、ほか三機種は3ウェイ。
ちなみに輸入元は、ローテル。
どんな音だったのか。何の情報も当時は得られなかった。
何の変哲もないスピーカーのように、モノクロの小さな写真を見て、そんなふうに感じていた。
輸入品としては安価な製品だった。それでも、あの頃、グラシェラ・スサーナのタンゴ、フォルクローレを、
このブランドのスピーカーで聴いてみたかった。
そのおもいを、いまも引き摺っているのだろうし、
スペインの音楽家、パブロ・カザルス、パコ・デ・ルシア、
この二人の演奏に惹かれている人ならば、
スペインのオーディオ、音を聴いてみたいと思うのではないだろうか。
若い世代のオーディオマニアにとって、音と風土の関係性については、あまり関心がないのかもしれないが、
私がオーディオに興味を持ち始めたころは、
音と風土について語られることが多かった。
ステレオサウンドも創刊15周年を記念して、
60号ではアメリカンサウンド、61号ではヨーロピアンサウンド、
63号ではジャパニーズサウンドを特集している。
私と同世代、上の世代であっても、この音と風土の関係について、そんなものはない、と否定する人もいる。
そんなことよりもブランドによる音の違いが大きいのだから、と。
このことは以前別項でも触れている。
音と風土の関係について気がついた人は、当時のオーディオ評論家だった。
このころのステレオサウンドのオーディオ評論家は、総テストで、
アンプやスピーカーシステムを何十機種も聴く。
この総テストが、音と風土の関係の発見につながっている。
音と風土の関係について否定する人は、総テストのような試聴を経験していない。
これはしかたないことであって、オーディオを仕事としている人でも総テストをみな経験できるわけではないのだから。
音と風土の関係ということでは、それが最もはっきり出るのは、やはりスピーカーである。
当時はCDがまだ登場していなかったから、カートリッジも、スピーカーに次ぐ、音と風土の関係を色濃く出してくれる。
しかもアナログディスクもそうであり、一度は、アナログディスクのプレスと同じ国のカートリッジで聴いてみたほうがいい。
アメリカ盤ならアメリカのカートリッジ、イギリス盤ならイギリスのカートリッジ、ドイツ盤ならばドイツのカートリッジというふうにである。
音と風土の関係について否定する前に、こういうふうに聴いていっていれば、ずいぶんと違ってきたはずだ。
そういう時代を、私は経ている。
これまで、ステレオサウンドのオーディオ評論家は、あれだけ高い評価をしていながら、誰もB&Wの800シリーズを使わないのか、と書いてきた。
B&Wのスピーカーシステムとしなかったのは、傅 信幸氏がNautilusを鳴らされていたからだ。
長いこと鳴らされている。
このままずっとNautilusなのか、それとも──があるのか。
あってもおかしくないな、とは思っていた。
Nautilusが登場して三十年ほどが経つ。
ついさっきFacebookを眺めていたら、あるリンク先が表示された。
そこには、こうあった。
*
オーディオ評論家・傅信幸先生が28年間愛用されたオリジナル・ノーチラス。純正チャンネルディバイダーと愛用のJEFF ROWLAND Model 304パワーアンプ×2台をセット販売します。
*
ハイファイ堂へのリンクだった。
Nautilusは登場以降、何度か値上がりしている。
傅 信幸氏が購入された三十年ほど前は300万円ほどだったのが、一千万円を超えている。
ハイファイ堂の値付けは強気だ。ジェフ・ロゥランドのパワーアンプと一緒とはいえ、なかなかの値付けだ。
買う人がいるだろうからの値付けなのだろう。
すでにハイファイ堂のウェブサイトに出ているということは、
傅 信幸氏のリスニングルームには、新しいスピーカーが導入されているわけだ。
12月発売のステレオサウンドの目玉記事は、これだろう。
もしかすると表紙も、そのスピーカーなのかもしれない。