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Date: 11月 9th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その15)

岡先生はBCIIIの組合せについて、
《第一級のレストランへ行って、そこのシェフのおすすめ料理を食べいている、といったところがある》
といわれ、
UREIの813の組合せは、
《たとえばリード線をかえるとこんなふうに音が変わるぞとか、そういったことの好きなファン向き》、
パイオニアのCS955の組合せは、
《自分の部屋で毎日いじってみたいなという意欲をそそられる》とされている。

瀬川先生は、違う。
     *
このBCIIIは、なかなか難しいところのあるスピーカーなんてす。イギリスのスピーカーのなかでも、KEF105に似た、真面目型とか謹厳型といいたいところがあって、響きを豊かに鳴らすというよりも、音を引き締めるタイプのスピーカーなんです。
 そして、やや神経質な面があって、置き方などでも高さが5センチ上下するだけで、もうバランスがかわってくる、といったデリケートなところがあります。そのへんをよく知ったうえで、使いこなしをきちんとやらないと十分に生きてきません。
     *
だから岡先生はBCIIIのスタンドをそのまま使われて、
スタンドの価格も組合せ合計に含まれている。

瀬川先生はステレオサウンド 44号の試聴記でも書かれているように、
専用スタンドを使われていない。組合せ合計にもスタンドの価格は含まれていない。

高さが5cm上下するだけでバランスが変ってくるし、
専用スタンドの高さより10cmぐらい下げた状態のほうが、
ステレオサウンドの試聴室ではよかった、ともいわれている。

いうまでもなく岡先生も瀬川先生もステレオサウンドの試聴室で聴かれている。
試聴中の写真をみると、ふたりとも部屋の長辺の壁側にスピーカーを設置されている。

それでもスタンドのことひとつにしても、岡先生と瀬川先生は反対のことをいわれている。
BCIIIの音は聴いていないだけに、
BCIIIの岡先生と瀬川先生の組合せの違いだけでなく、
そこでの鳴らせ方の違い、ここのところをもっと知りたいと思っても、
「コンポーネントステレオの世界 ’79」には、それ以上のことは載っていない。

Date: 11月 8th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その14)

瀬川先生の予算120万円の他の組合せは、
エレクトロボイスのInterface:Dの組合せ、
チャートウェルのLS3/5A(もしくはヤマハのNS10M)の組合せ、
JBLのL300の組合せがある。

LS3/5Aは、予算60万円から120万円へのグレードアップでも使われている。

瀬川先生の組合せは、
Interface:Dの組合せは価格的バランスがとれている、といえるが、
他の組合せは、
アナログプレーヤー重視、
コントロールアンプ重視、
スピーカーシステム重視となっている。

この中で瀬川先生が気に入られているのは、アナログプレーヤー重視の組合せ、
スピーカーにLS3/5A(もしくはNS10M)を使った組合せである。

アナログプレーヤーにEMTの928を選択。
これだけで70万円だから、予算の半分以上を占めている。
928にはフォノイコライザーアンプが内蔵されているから、コントロールアンプはなし。
パワーアンプはルボックスのA740、538,000円で、
928とA740で予算を使い切っている。

スピーカーを買う予算がなくなってしまったので、
あと五万円を追加してのNS10Mという組合せである。
これで組合せ合計は1,288,000円。
できればLS3/5Aということで、こうなると組合せ合計は1,388,000円となってしまう。

記事では、この、価格的に相当にアンバランスな組合せについて、
多くを語られている。
「たいへん密度が高い音で、いかにも音楽を聴いているんだという喜びが感じられる」と。

岡先生はBCIIIの組合せをベストワンだ、といわれている。

Date: 11月 8th, 2017
Cate: 新製品

新製品(ダイナベクター DV1)

私にとってダイナベクター(Dynavector)は、
質量分離型のトーンアームDV505が、なんといっても代表的な製品として、
いまでもすぐに頭に浮ぶ。

それからルビー、ダイアモンドをカンチレバーに採用したMC型カートリッジ、
真空管アンプなどが浮ぶ。

いずれの製品も、型番はDVから始まる。

自転車への興味がなかったころは、
ダイナベクターはオーディオメーカーという認識だった。
一時期は輸入業務も行っていた。

1990年ごろから自転車に興味を持つようになって、
驚いたのはアレックス・モールトンの輸入元がダイナベクターだったことである。

DV505とモールトンのフレームが、イメージとして重なってきて、
そこに共通するものが見出せそうにも思えてくる。

そのダイナベクターから新製品としてDV1が発表になった。
といってもオーディオ機器ではなく、自転車のフレームである。

ベースとなっているのはアレックス・モールトンである。
モールトンのフレームは、イギリスのパシュレーが、一時期ライセンス生産していた。

今回のDV1は、ライセンス生産ではなく、
ダイナベクターによる開発である。

いま書店に並んでいるCyclo Graph 2017(ホビージャパン)に、
DV1の詳細が載っている。

Date: 11月 7th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その13)

岡先生はBCIIIの組合せについて、語られている。
     *
 じつは120万円の組合せで、ぼくがまっさきに頭に浮かべたスピーカーが、スペンドールのBCIIIだったのです。このスピーカーは、本誌のスピーカー・テストなどでいつも書いているように、ぼくがもんとも気に入っているスピーカーのひとつなんですね。そして価格が、ペアで専用スタンドを含めて45万円ちょっとですから、アンプその他にかなり予算をまわせられることにもなります。
 クラシックのプログラムソースを再生するという場合、この価格帯では抜群の安定感をもった、そして表現力のデリカシーのをもった、スピーカーである──というのが、このBCIIIに対するぼくの固定観念みたいなものなんですよ。だから、今回もためらわずに選んだわけです。
     *
岡先生の120万円の組合せは、他にもあって、
JBLのL220の組合せ、UREIのModel 813の組合せの他に、
予算60万円から120万円へとグレードアップする組合せでは、パイオニアのCS955を選ばれている。

瀬川先生のBCIIIの組合せは、アンプを重視した組合せである。
     *
瀬川 ええ、そういうことになります。ただ、アンプ重視といっても、これはなんとなく奥歯にものがはさまったようないいかたですが、プリメインではいくら最高級でも重視ということにはなりませんから、やはりセパレートアンプにしたいわけだけれど、その場合にコントロールアンプとパワーアンプの両方にぜいたくをするわけにはいかないんです。
 120万円の予算では、どこかひとつに充填をかけるといっても、50万円か、せいぜい70万円ということになるでしょう。そうすると、セパレートアンプの最高級機は、ちょっと手がとどきません。
(中略)
 これまでの組合せでは、価格の点でやや中途半端で使いにくかったスペンドールBCIIIを、ここにもってきたわけですね。これがペアで43万円、となると、アンプに7万円は仕えないことになります。
 そこでコントロールアンプとしては、アキュフェーズの新製品であるC240を選びました。価格が約40万円ですから、予算の枠の中に収まることと、最近のコントロールアンプの中では、ぼくのお気に入りのひとつということで、最初から120万円の組合せで使おうと思っていたわけです。
     *
同じ120万円の予算で、同じBCIIIの組合せであっても、
岡先生は積極的に、最初からBCIIIを使うことを考えての結果(組合せ)であり、
瀬川先生はコントロールアンプ重視で、C240を最初から使うことを考えての結果(組合せ)である。

Date: 11月 7th, 2017
Cate: スピーカーとのつきあい

スペンドールのBCIIIとアルゲリッチ(その12)

ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’79」での、
岡先生と瀬川先生によるBCIIIの組合せのつぎのとおり。

岡先生は120万円の予算で、組合せ合計1,110,000円。
 スピーカーシステム:スペンドール BCIII(458,000円・スタンド込み)
 コントロールアンプ:ヤマハ C2a(170,000円)
 パワーアンプ:ヤマハ B3(200,000円)
 ターンテーブル・ラックス PD441(125,000円)
 トーンアーム:フィデリティ・リサーチ FR64S(69,000円)
 カートリッジ:フィデリティ・リサーチ FR7(55,000円)
 昇圧トランス:フィデリティ・リサーチ FRT5(33,000円)

瀬川先生は120万円の予算で、組合せ合計1,147,900円。
 スピーカーシステム:スペンドール BCIII(430,000円)
 コントロールアンプ:アキュフェーズ C240(395,000円)
 パワーアンプ:サンスイ B2000(120,000円)
 ターンテーブル・ラックス PD121(135,000円)
 トーンアーム:フィデリティ・リサーチ FR14(38,000円)
 カートリッジ:エラック STS455E(29,900円)

スピーカーシステムは同じ、
ターンテーブルはどちらもラックスの同クラスのモノ、
トーンアームもどちらもフィデリティ・リサーチ。
瀬川先生はステンレス製のFR64SやFR66Sよりも、アルミパイプの方を評価されていた。

ほぼ同じところも見受けられるBCIIIの組合せで、組合せ合計もほぼ同じであっても、
組合せの意図は違うし、そこで 鳴ってくる音(聴くことはできないが)、
ずいぶんと違っていた、と思う。

Date: 11月 7th, 2017
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(post-truth・その4)

知人が間違ったことをサイトで公開していることに気づいて、
すぐに電話した私に「いちばん信頼できそうなサイトにそう書いてあった」といって、
すぐには間違いであることを認めようとはしなかった。

結局、角速度、線速度について説明することから始めた。
知人は、サイトに角速度一定とか線速度一定と書いていながら、
線速度一定がどういうことなのか、角速度とはどんなことなのかを知らなかった。

線速度、角速度についての基本的な知識もないままに、
間違ったサイトに書いてあることを、そのまま自分のサイトに書き写したわけである。

つまり知人は角速度、線速度について知らないだけでなく、
角速度とは、線速度とは、ということをインターネットで検索すらしなかった。

角速度、線速度のどちらかにについて検索さえしていれば、
知人が参照したサイトが間違っていることに、彼自身で気づいたはずである。

知人は、よく私に言っていた。
「できるかぎり調べて書いている」と。

コワイな、とここでもくり返したい。
知人の「できるかぎり調べる」とは、その程度のことであったのだ。

Date: 11月 6th, 2017
Cate: 朦朧体

ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その70)

SUMOのThe Goldには、アンバランス入力とバランス入力がついていた。
SUMOのアンプの回路構成からいえばバランス入力のほうが本筋であるし、
アンバランス入力ではOPアンプによるアンバランス/バランス変換回路を通る。

The Goldのバランス入力の音も聴いていた。
アンバランス入力の音も聴いている。
コントロールアンプもいくつか試している。

マークレビンソンのJC2(初期のツマミの長いタイプ)、
それもジョン・カール監修のモディファイ版でも聴いている。
ここでも書いているように、GASのThaedraを、もちろん聴いている。
これ以外にも聴いている。

私がThe Goldとの組合せを聴いてみたかったのはコントロールアンプは、他にもある。
ひとつはビバリッジのRM1/RM2である。

山中先生がステレオサウンド 56号での組合せでは、
JBLの4343とアルテックの6041を鳴らすアンプとして、
RM1/RM2とThe Goldの組合せだった。

新世代の真空管式コントロールアンプとしてRM1/RM2の音はとても興味があったが、
いったい日本に何台輸入されたのか、一度も見たことがない。

もうひとつがマークレビンソンのML6(シルバーパネルの方)である。
ML6は一度買おうとしたことかある。
もちろん中古である。

めったに出ないML6の中古が、その店にはあった。
当時の最高回数である36回の分割払いならば、なんとか買えそうだった。
でも23歳の私は、分割払いの審査が通らなかった。

Thaedraを、山中先生から譲っていただいたのは、その後である。
Thaedraでの圧倒的な音を聴いて、無理してML6を買わなくてよかった、とも思った。

それでもML6のことを、ここであえて書いているのは、
ここでのテーマである朦朧体に関していえば、
ML6とThe Goldの組合せは悪くないどころか、
意外にも魅力的な音を聴かせてくれたかもしれない──、そう思えるからだ。

Date: 11月 6th, 2017
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(post-truth・その3)

それにしても知人は、
CDが角速度一定、LPは線速度一定は間違ったことを書いているサイトを信じたのか。

CDの方が線速度一定なのだから、
検索すれば、正しいことを書いてあるサイトの方が圧倒的に多い。
なのに、ごく少数の間違った、正反対のことを書いているサイトを信用するのか。

知人は、そのサイトがいちばん信用できそうだったから……、と言っていた。
私を含めて、ほとんどの人が、
CDは角速度一定とあるサイトに書いてある技術的なことは疑ってかかるだろう。

知人は、反対だったわけだが、
なぜ、そういう選択をしたのかまでは、本人もよくわかっていないようだった。

サイトの見た目なのだろうか。
それはありそうなのだ。

パッと見た目のサイトの印象。
あとは、そのサイトにある文章だろう。

技術的に正しいことを書いているサイトの文章が、
いわゆるうまい文章とは限らないし、
間違ったことを堂々と書いている文章のほうがうまかったりもする。

これも見た目といえば、そういえる。
知人は見た目だけで、そのサイトを信用してしまったのか。

「人は見た目が9割」(新潮新書)という本も出ているし、
「人は見た目が100パーセント」というマンガと、
これを原作としたドラマもあったくらいだから、
ウェブサイトも見た目が100パーセントなのかもしれないし、
知人のように見た目で、ほぼ判断してしまう人もいよう。

しかも知人は、検証を怠っている。

Date: 11月 6th, 2017
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL 4301・その17)

オーディオ機器を家電製品という括りで捉えている人にとっては、
JBLブランドの製品が、昔では考えられなかったほどの低価格で買えるのは、
文句をいうことではないのかもしれないが、
オーディオは家電製品とは違う。

そういうと、日本では家電メーカーがオーディオをやっていたではないか、と返される。
そんなイメージが残っているようだが、
オーレックス(東芝)、Lo-D(日立)、ダイヤトーン(三菱電機)は、
家電も製造しているけれど、重電メーカーである。

テクニクス(松下電器)は家電メーカーといわれれば確かにそうだったが、
オーディオを家電製品として見られるのには、抵抗したくなる。

家電メーカーの製品として見る目には、
Control 1は身近なJBLブランドの商品なのだろうが、
4301が欲しくとも買えなかった時代を送った者にとっては、
羨ましいことだと全く思えない。

私もJBLのJBL Goは持っている。
Control 1よりさらに安いJBLであり、Bluetooth対応のスピーカーである。

でも、それは4301が欲しいと思ったのと同じ気持なわけではない。
JBLというロゴのステッカー、しかも音が出る立体的なステッカー、
そういう気持もあって買った。

なのでオレンジ色を買った。
ブログを書いているとき、常に視界に入ってくるところに置いている。

その15)で、4301にヴィンテージとつけて売る中古オーディオ店があることを書いた。
時代の軽量化だ、とも書いた。

時代の軽量化はControl 1から始まった。
さらに軽量化は進んでいる。

Date: 11月 6th, 2017
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL 4301・その16)

私の世代にとって、4301はもっとも身近な、
いいかえればどうにかすれば手が届きそうなところにいてくれている存在だった。

当時のJBLの輸入元サンスイからは、
LE8Tを搭載したSP-LE8Tもあったが、わずかとはいえ4301のほうが廉かった。
それにユニットはどちらもJBLとはいえ、
フロントバッフルにJBLのロゴがあるのとないとは、
10代の若者にとっては、大きな違いでもあった。

つい先日のヘッドフォン祭にもJBLの製品は展示されていた。
ヘッドフォンがあり、イヤフォン、Bluetooth対応のスピーカーなどがあった。
ずいぶん身近に(安く)なったものだ──、と思ってしまうのは、
歳をとったからだけが理由ではないはずだ。

1986年にControl 1が登場した時も、同じように思っていた。
憧れの存在といえたJBLが、こんなに身近なところまで降りてきたことを、
素直に喜べない自分は、オーディオマニアからそうなのか、
それともなにか釈然としない気持は、他のところに理由があるからなのか。

Control 1でも、JBLのスピーカーである。
それでもBOSEの101MMの登場と、あの売行きがなければ、
Control 1は登場してこなかったスピーカーともいえる。

Control 1は43,800円(ペア)だった。
暫くしたから円高ドル安のおかげで四万円を切っていた。

Control 1はロングセラー商品でもあった。
コンシューマー用のControl 1は製造中止になったが、
プロフェッショナル用のControl 1 Proは現行製品だ。

Date: 11月 6th, 2017
Cate: ロマン

ダブルウーファーはロマンといえるのか(妄想篇)

2016年3月のaudio wednesdayで、
「マッスルオーディオで聴くモノーラルCD」と題して、
JBLのホーン2397に、スロートアダプター2329を使って、
ドライバー2441をダブルにして取り付けたことがある。

2441は二本しか持っていない。
そのためモノーラル再生に特化させることで、
ウーファーもエンクロージュアを二台くっつけるようにセッティングしての、
2441のダブル使い(鳴らし)であった。

2441が四本あれば、ステレオ再生でもダブルにできる。
これはなかなか実現しそうにない、と思っていたが、
いま預かりモノの375がある。

そうだ、そうだ、と気づいた。
2441と375をパラって鳴らせば、ダブル・コンプレッションドライバーとなる。
もちろん375もしくは24414が四本あったほうがいいけれど、
375と2441の混成部隊でもやれる。

コンプレッションドライバーのダブル使いに批判的な意見をもつ人はいる。
まして375と2441という、基本的には同じであっても細部が違うドライバーでダブルなんて……、
と少なからぬ人がそう思うだろうが、
スピーカーばかりは実際に音を鳴らしてみないことには、何もいえない。

うまくいく可能性だってある。
頭で考えるよりも、試せるのであれば試してみるほうがいい。

audio wednesdayで、やる予定でいる。
(ただし運搬が大変なので、いつになるかは未定である)

Date: 11月 6th, 2017
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(その13)

国産のエレクトリッククロスオーバーネットワークだと、私が記憶している範囲では、
オンキョーのD655NII、パイオニアのD23、サンスイのCD10、ビクターのCF7070、
テクニクスのSH9015Cなどが、
ローパスフィルター、ハイパスフィルターのカットオフ周波数の独立可変仕様である。

これらのメーカーは、スピーカーシステムも積極的に開発してきていた。
おそらく内蔵ネットワークの開発において、
ローパスとハイパスのカットオフ周波数は離れているケースがあるのかもしれない。

古くはマランツのModel 3(1957年発表)がそうだった。
日本製になってからのマランツのAD5、AD6もそうである。
海外製品ではSAEのMark 4000があった。

マランツはスピーカーシステムも手がけていたが、
1957年当時はアンプ専門メーカーであった。
にも関らずカットオフ周波数の独立設定が可能になっていたのは、
設計者(マランツなのだろうか、シドニー・スミスなのだろうか)のノウハウから、か。

ヤマハのEC1はクロスオーバー周波数の選択はローパス、ハイパスで共通なのだが、
ローパス、ハイパスには、連続可変のクロスオーバー微調整ツマミが独立して付いている。
このツマミによって±0.5オクターヴ範囲内ではあるが、カットオフ周波数を独立可変できる。

エレクトリッククロスオーバーネットワークも製品数は、
時代とともに少なくなってきている。
それでもアキュフェーズは一貫して開発し続けてきている。
現在もデジタル信号処理によるDF65が現行製品である。

けれどそれまでのアナログ式で、
しかもカードを差し替えてのクロスオーバー周波数の変更の製品では、
ローパス、ハイパスのカットオフ周波数を独立させることはできなかった。

オーレックスのSD77は2ウェイ、3ウェイ対応で、
クロスオーバー周波数ポイントが細かく設けられているため、
2ウェイでは、ハイパス、ローパスのカットオフ周波数を独立させた使い方も可能である。

だからアキュフェーズの場合も3ウェイ用としてカードを搭載して、
ローパス、ハイパスのカットオフ周波数をそれぞれ設定することは可能なのだが、
コストのかかる使い方である。

その意味では、他社製のエレクトリッククロスオーバーネットワークでも、
2ウェイ仕様のモノを複数台使うことで、同じことはできるが、
こちらはさらにコスト的に負担が大きくなる。

アキュフェーズのエレクトリッククロスオーバーネットワークを、
スピーカーシステムを自作する側からみると、
アンプ専門メーカーとしての製品なのだ、とおもえてくる。

けれど、アキュフェーズ創立メンバーであった春日二郎氏、出原眞澄氏は、
ホーン型を中心とした自作スピーカーだったのに……、とも思ってしまう。

Date: 11月 5th, 2017
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(その12)

スピーカーシステムを自作する人で、
ネットワークも自身で設計し組み立てている人は、どのくらいの割合なのだろうか。

1970年代まではスピーカーユニットが、各社から出ていた。
日本のメーカーもけっこうあったし、海外のメーカーも多かった。

ユニットの種類も多かった。
ホーン型は、特にそうだった。
ネットワークも各社から出ていた。

JBLのユニットで自作する人は、大半がJBLのネットワークを使っていた、と思う。
アルテックにはアルテックのネットワーク、
オンキョーにはオンキョーのネットワーク……、というように選択していた。

それでも自作の醍醐味は味わえるが、ネットワークも手がける人もいたはずだ。
だからこそコイルやコンデンサー、アッテネーターといったパーツも販売されていた。

自分でネットワークを設計しようとなると、カットオフ周波数、スロープ特性をどうするのか。
自作であれば、試作と試聴を重ねながら、聴感上の好ましいポイントを探っていく。
そのためにはコイルにしてもコンデンサーにしても、さまざまな値を必要となる。

これは想像以上に手間のかかることである。
ならばマルチアンプドライヴにすれば、
エレクトリッククロスオーバーネットワークのスイッチで、
クロスオーバー周波数、スロープ特性を変えられる。

パワーアンプの数は増え、システムとしては大がかりになっても、
試行錯誤のためには、マルチアンプドライヴが向いてそうだ、と誰だって思うだろう。

私も学生のころは、そう思っていた。
けれど実際のスピーカーシステムの難しさを知るにつれ、
考え方は少し変ってきた。

エレクトリッククロスオーバーネットワーク(チャンネルデバイダー)では、
カットオフ周波数を低・高域個別に設定できる仕様のモノが意外に少ないからだ。

Date: 11月 5th, 2017
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(その11)

「誌上シンポジウム システムスピーカー使いこなし」での組合せ例18の中の2例。
2ウェイから、トゥイーターを加えた3ウェイへの組合せ例について書いた。

古いスピーカーの教科書に載っているやり方とはそうとうに違う、
メーカーの実際のやり方のほんの一例である。

2ウェイにしても低域・高域のカットオフ周波数は離れていて、
トゥイーターが加わることで、高域側のカットオフ周波数が変る場合と同じ場合とがある。

組み合わせるスピーカーユニットの能率が完全に同じならば、
ネットワークの設計はそれだけでも楽になるが、現実にはそうではない。

市販されているスピーカーシステムでも、厳密にいえばレベルコントロールをいじれば、
クロスオーバー周波数はわずかとはいえ変っていくものであることは、以前にも書いている。

ここではオンキョーのシステムスピーカーの詳細について書くのが目的ではなく、
ネットワークの設計(カットオフ周波数の決め方)にしても、
古い教科書に縛られていたら、
うまくいかないことがある(むしろその方が多いのかもしれない)ということだ。

記事の最後のほうで、瀬川先生が語られている。
     *
瀬川 一番初めに、スピーカーシステムの自作が難しくなっているということを言ったのですが、とくにこのシリーズで顕著なのはネットワークのフィルターの考え方なんですね。これは専門家の間でもずっと前からいわれてきたことであるにもかかわらず、スピーカーシステムの入門書、教科書を見ると、いまでも遮断周波数から6dBや12dBか18dBかというような、机の上でのネットワークしか出ていない。ところが、実際のスピーカーというのは、定規で引いたような一直線の特性ではないんだから、スピーカーの特性に合わせてネットワークの遮断周波数とカーブをかなり有機的に選んでいかないと、マルチウェイというのはうまくいかないということを、製品で示した功績は大きいと思います。
 少なくともこのインストラクションを隅から隅まで時間を眺めていますと、いままでの机の上の理論では説明できないことがいっぱい出てきます。われわれも今回、ここで音を聴きながら、そうじゃない方向、そうじゃない方向と悪あがきしてみたけれども、結局はこの不思議な遮断特性をもったフィルターがやっぱりうまくいくということを、再確認させていただいたみたいなことで、フィルターの難しさというのを、このネットワークは面白く教えてくれますね。
     *
インストラクション(レイアウトブック)と「誌上シンポジウム システムスピーカー使いこなし」。
このふたつを熟読するだけでも、スピーカーシステムの面白さが伝わってくると思う。

いまごろになって、オンキョーのレイアウトブックを手に入れておけばよかった……、
少し後悔している。

Date: 11月 5th, 2017
Cate: バランス

Xというオーディオの本質(その1)

別項「音のバランス(その4)」で、
X(エックス)というアルファベットを両天秤だと思っている、と書いた。

Xは二本の線によって描かれている。
一本は輪廻、もう一本は相剋。

Xが示しているのは、輪廻と相剋のバランスなのだろう。