Archive for category 単純(simple)

Date: 6月 17th, 2015
Cate: 単純(simple)
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シンプルであるために(ミニマルなシステム・その16)

CHORDのHUGOで直接鳴らしたい(つまりパワーアンプなしで)スピーカーは、
その13)で書いているようにフルレンジである。

タイムロードのブースでは小口径のフルレンジのスピーカーを鳴らしていたけれど、
私が鳴らしたいフルレンジのスピーカーは、
高能率のフルレンジで、口径も小口径のモノではなく、大きめの口径のモノである。

たとえばJBLのD130、グッドマンのAXIOM80、ローサー(ラウザー)のユニット、
いまや過去のスピーカーユニットと呼ばれているモノばかりであり、
これらの能率は100dB前後あり、いまの感覚では非常に高能率のユニットということになる。

ローサー(ラウザー)のユニットに関しては、VOXATIVのモノがある。
VOXATIVのAmpeggio SignatureにHUGO(もしくはHUGO TT)を接いだら、どんな音が聴けるのだろうか。

AXIOM80とHUGOの組合せも、個人的には非常に興味がある。
AC電源に頼ることなく鳴らすことができるわけで、
このことのメリットがAXIOM80の「性能」をどう鳴らすのか。

こういった高能率のフルレンジユニットとHUGOの組合せ、
タイムロードでの小口径の低能率のフルレンジユニットの組合せ、
得られる音量に違いはあるけれど、どちらもミニマルなシステムということになるのか。

ここではスピーカーの能率だけでなく、スピーカーシステムとしてのサイズも大きく違ってくる。
HUGOは手のひらにのるサイズだ。
HUGO TTにしても大きいといえるサイズではない。

HUGOと小口径のフルレンジのスピーカーとでは、サイズ的バランスもとれている。
それが高能率のフルレンジユニットとの組合せでは、ひどくアンバランスになる。

このアンバランスさは、ある意味、過剰なものといえる。
D130、AXIOM80などのユニットがもつ高能率も、パワーアンプを省略するための過剰なものといえる。

こういう過剰な要素をもつシステムは、ミニマルなシステムといえるのだろうか。
それとも充分な音量を得るために必要なものということで、過剰とはいえない、という見方もできる。

けれど、それならば素直にパワーアンプを用意すればいい、という見方もでき、
やはりHUGOに高能率のフルレンジユニットをもってくるのは、
アンバランスであることを認めなくてはならない。

そういうシステムが果してミニマルなシステムなのか、という問いが生れる。

Date: 2月 15th, 2015
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(ミニマルなシステム・その15)

オーディオという再生システムの中心をスピーカーとすれば、
組合せはスピーカーから始まるわけで、鳴らしたいスピーカーがまずあり、
そのためのシステムを組んでいく。

鳴らしたいスピーカーが能率がそれほど高くないモノ、
内蔵ネットワークは使用部品が多く、複雑なモノであれば、
ミニマルなシステムを組もうとしてもパワーアンプは必要となる。

にも関わらず、私はHUGOを主体とした組合せを考えている。
HUGOを主体としたミニマルなシステムを考えているわけで、
スピーカーを主体としたミニマルなシステムを考えているわけではない。

私は(その13)の最後に、
ミニマルという印象はHUGO単体が醸し出しているのではなく、
それをどう使ってみようか、という使い手側に潜んでいるということになるのか、
と書いた。

けれど、こうやって考えていくと、やはりHUGOにミニマルな要素があるということになるのか。
少なくとも私はHUGOにそういった要素を感じているから、
ここでこんなことを書き連ねている、ともいえる。

Date: 2月 14th, 2015
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(ミニマルなシステム・その14)

CHORDのHUGO単体では荷が重いと思われるスピーカーはいくつもある。
そういうスピーカーのほうが、いまは多い。

そういうスピーカーを鳴らそうとしたら、なんらかのアンプが必要になる。
パワーアンプを一台用意すれば、レベルコントロールはHUGOでできるから、それで事足りる。

この場合のパワーアンプは、いわば必要なモノであるから、
HUGO、パワーアンプ、スピーカーというシステムは、最小である。
つまりはミニマルなシステムということになる。

それは頭ではわかっていることであっても、
心情的には(あくまでも私ひとりの心情として)、
パワーアンプを用意しなければ鳴らないスピーカーをもってくる時点で、もうミニマルとは感じない。

低能率の小型スピーカーを鳴らすために、
このスピーカーの何倍も大きく、重く、出力も数100W以上あるようなパワーアンプをもってきたら、
それは過剰すぎるという意味で、ミニマルなシステムとはいえなくなる。

でもそうでなくて、サイズ的にも出力としても必要な分だけの規模のパワーアンプであれば、
やはりそれはミニマルなシステムとなる。
でもくり返すが、それをミニマルとは心情的に納得し難い。

私に同意される人もいると思うし、パワーアンプを用意してもミニマルだろう、という人もいる。

私と同じようにミニマルを捉えてしまうと、
スピーカーの選択がかなり制約を受けてしまうことになる。

過剰すぎないパワーアンプを用意することまではミニマルと捉えれば、
スピーカーの選択に特に制約は生じなくなる。

Date: 2月 5th, 2015
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(ミニマルなシステム・その13)

ワディアのPower DACはシンプルなのかミニマルなのか、について考える前に、
もう一度CHORDのHUGOについて考えてみたい。

HUGOというD/Aコンバーター/ヘッドフォンアンプをどう捉えるのか。
ヘッドフォンアンプとしてのみ使用している人にとっては、
D/Aコンバーター内蔵のヘッドフォンアンプであり、
このジャンルの機器として見れば、とくにシンプルとかミニマルという印象は受けないだろう。

私がこの項を書こうと思ったのは、HUGOでスピーカーを鳴らしているのを聴いたからだ。
こうなるとHUGOへの印象はまるで違ってくる。

なんとミニマルなモノだろう、と思うし、
これでスピーカーのあれこれを鳴らしてみたい、とも思った。

一月のCESではHUGO TTという、
同コンセプトながら筐体がふたまわりほど大きくなったモデルが発表になった。
価格はHUGOの二倍ほどするようだ。

HUGO TTでスピーカーを鳴らすシステムも、私にはミニマルなシステムということになる。

HUGOがスピーカーを鳴らせるといっても、私はできればフルレンジを鳴らしたい。
マルチウェイのスピーカーシステムであっても、複雑なネットワークを使わずに、
簡素なネットワークで構成されたスピーカーシステムならば鳴らしてみたい。

ダイヤトーンの2S305はどんな感じで鳴ってくれるのか、
JBLの4311はどうだろう、とか、想像している。

間違ってもネットワークの構成素子数の多さを誇っているスピーカーシステムを鳴らしたいとは思わない。
その手のスピーカーを鳴らすには、きちんとアンプを用意する。

そうなればD/AコンバーターとしてHUGOを使ったとしても、もうミニマルなシステムではなくなる。

ということは、ミニマルという印象はHUGO単体が醸し出しているのではなく、
それをどう使ってみようか、という使い手側に潜んでいるということになるのか。

Date: 1月 25th, 2015
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(ミニマルなシステム・その12)

D/A変換を行うLSIは、電流出力型が多い。
そのためアナログ回路はI/Vコンバーターと呼ばれる電流入力型となっている。
Iは電流、Vは電圧を意味している。

出力で電流であるならば、その出力に抵抗を一本おくだけでも電圧変換はできる。
電流×抵抗=電圧だからである。
この抵抗にコンデンサーを並列に接続すれば高域においてインピーダンスが低下していくため、
ハイカットフィルターを形成することもできる。

D/Aコンバーターの自作例にも抵抗によるI/V変換は見られるし、
いまはどうなのかわからないが、昔はメーカー製にもそういう仕様のモノがあった。

一般的にI/V変換は、反転アンプで行う。
それも入力抵抗を省いた反転アンプである。
I/V変換というくらいなので、この回路は電圧増幅である。

ワディアのPower DACはこのI/V変換を、いわばI/W変換といえる回路構成にしている。
Iは電流、Wは電力となる。

こうすることでデジタルだけの再生であればシステム全体の構成を簡略化できる。
ずいぶんな簡略化である。

ただこのままではレベルコントロールができないため、
デジタル信号処理によるレベルコントロールを行う必要があり、そのための回路もいる。

とはいえ、システム全体の簡略化ははかれる。
そうすれば、ミニマムなシステム展開をワディアはやろうと思えばやれた。

だがワディアは、それを目指していたように感じられない。
別項で書いているLINNがEXAKTで提示してきたところを、ワディアも目指していたのではない。

いまのワディアに関してはわからないが、
少なくともPower DACを開発していたころのワディアは、
LINNとは違うところをPower DACで目指していたはずだ。

Date: 1月 23rd, 2015
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(ミニマルなシステム・その11)

その9)で、Wadia 5とWadia 390 + Wadia 790のトランスの数を書いている。
気づかれている方もおいでであろうが、Wadia 5の二基、Wadia 790の五基は片チャンネルの数でしかない。
両チャンネルとなるとWadia 5は四基、Wadia 390 + Wadia 790は十一基となる。

単体のD/Aコンバーターとパワーアンプ、あいだにフェーダーをいれて使うとしよう。
このときのトランスの数はいくつになるか。
パワーアンプがモノーラルであれば、最低で三基である。

D/Aコンバーターが、デジタル部とアナログ部の電源回路を電源トランスからわけたとして、計四基。
Wadia 390 + Wadia 790の十一基という数は、
オーディオマニアとしては、そこまで徹底して分離してくれた、と嬉しくもなるが、一方で疑問も生じてくる。

そこまで電源トランスをわけるくらいなら、筐体を分けた方がずっとスマートに思える。
ワディアのPower DACはD/Aコンバーター内蔵のパワーアンプなのか。
ワディアはD/Aコンバーターをつくりたかったのか。

Power DACというコンセプトはWadia 5もWadia 390 + Wadia 790も同じである。
けれど何かが決定的に違っているようにも感じる。
そのことが、Wadia 5にミニマルな印象を受け、
Wadia 390 + Wadia 790にはミニマルという印象はほとんど受けないことにつながっているのではないか。

ステレオサウンド 133号の三浦孝仁氏の記事を読むと、
ワディアの創設者であるドン・ワディア・モーゼスが数年前に健康上の理由からワディアデジタルを去った、とある。
古参のエンジニアもほとんどいない、ともある。

この数年前がいつなのかは書いてない。
なのでてっきりWadia 5の開発は創設者が関わっていて、
Wadia 390 + Wadia 790には関わっていないのではないか、とさえ思った。

けれど三浦孝仁氏によるステレオサウンド 99号のワディア訪問記を読むと、すでに引退したとある。
そうなると開発者が入れ替わったから、Wadia 5からWadia 390 + Wadia 790への変化があった、といえない。

Date: 1月 22nd, 2015
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(ミニマルなシステム・その10)

ノイズ対策を徹底化することは、現代オーディオ機器の必須条件ともいえる。
内部、外部両方からのノイズに対して、どう対処するのか。

完全にノイズを遮断することは、オーディオ機器だけでは不可能である。
ゆえにノイズを遮断しながらも、それでも混入してくるノイズを除去するとともに、
あるレベルではノイズとうまく共存していく方法をさぐっていく必要もある。

Wadia 790の筐体内にある五基のトランスは、
ステレオサウンド 133号の三浦孝仁氏の解説が正しければ、
コントロール系、D/Aコンバーターのデジタル部、D/Aコンバーターのアナログ部、
ドライバー段、出力段で電源トランスは独立していて、八基のチョークコイルも採用されている。

三浦孝仁氏の解説では、チョークインプットコイルとなっている。
これは技術的にはおかしな表現である。
チョークコイルを採用した電源方式には、
コンデンサーインプットとチョークインプットのふたつがある。

チョークインプットコイルと書いてしまうと、
部品の名称と平滑方式の名称をいっしょくたにしてしまっている。

それから三浦孝仁氏は「PA85というAPHEX社製のディバイス」と書かれているが、
APHEXではなくAPEXである。

おそらくワディアの当時の輸入元であったアクシスからの資料をそのまま引用されたためであろう。
話がそれてしまうが、ステレオサウンド 133号の奥付をみると、
編集長、編集デスクをふくめて、編集者は五人いる。
誰も、この間違いに気がつかなかったのだろうか。
輸入元の資料だから、と鵜呑みにしてしまったいたのだろうか。

APHEXかAPEXかは、調べればすぐにわかることである。
133号は1999年12月発行で、いまほどインターネットが普及していないとはいえ、
技術に多少なりとも詳しい人が編集部にひとりいれば、わかったことである。

ステレオサウンドは100号で、Wadia 5の見出しに、
ワディアが放つエポックメイキングな新カテゴリー、
と書いている。

ステレオサウンドのワディアのPower DACへの監視の高さは、133号の記事でもうかがえる。
だから十分なページ数を確保しての記事となっているにも関わらず、細部の詰めがあまさがどうしても気になる。

Date: 1月 21st, 2015
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(ミニマルなシステム・その9)

アルパイン・ラックスマンのD/Aコンバーター内蔵のプリメインアンプLV109が登場した時、
D/Aコンバーターを内装することのメリットよりもデメリットを問題にする人が多かったように憶えている。

CDプレーヤーが世に現れて、わりとすぐにCDプレーヤーが発生源であるノイズが問題になってきた。
すこしでもその影響を取り除くために、CDプレーヤーの電源は、
アンプとは違うコンセントから取ることがオーディオ雑誌にも載るようになっていった。

アンプにD/Aコンバーターが内蔵されることは、ノイズ発生源をアンプの中につくることでもある。
当然、その影響は別筐体のCDプレーヤーよりも大きくなる、ともいえる。

メーカーもデメリットはわかっているから、
ノイズ対策を施していることをカタログに謳う。
それでも完璧なノイズ対策は不可能である。

結局はメリットとデメリットを測りにかけて……、ということになり、
その判断はメーカーによって違ってもくる。

ステレオサウンド 100号で紹介されたWadia 5の電源トランスは、
円筒型の筐体の底に大型のトロイダルトランスが一基、その上に平滑コンデンサー、
この上部にも小型のトロイダルトランスがある。

ステレオサウンド 133号紹介のWasia 390 + Wadia 790では、
コントローラー部のWadia 390に一基、本体のWadia 790に五基と驚くほど増えている。
すべてトロイダル型である。

おそらくWadia 5でも巻線はデジタル/アナログで独立していたと思われる。
それでもノイズ対策の徹底化を図るには電源トランスから分離した方がより確実で効果的である。

Wadia 5の開発で、ノイズの問題をどう処理するのか。
その答がWasia 390 + Wadia 790の六基の電源トランスといえる。

徹底するにはここまでやるしかないわけだが、
同時にPower DACという形態をとる必要性の希薄化を生じさせているのではないか。

Date: 1月 18th, 2015
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(ミニマルなシステム・その8)

ワディアのPower DACは、オーディオ機器としてパワーアンプなのか、D/Aコンバーターなのか。
ワディアはPower DACと呼んでいるのだから、D/Aコンバーターの一種として開発したモノともいえる。

ステレオサウンド 133号のベストバイでは、Wadia 390 + Wadia 790はパワーアンプとして扱われている。
コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞でもパワーアンプとして受賞している。

ということはPower DACはD/Aコンバーター内蔵パワーアンプということになり、
そう捉えてみると、類似のオーディオ機器は以前からあることになる。

アルパイン・ラックスマンがD/Aコンバーター内蔵のプリメインアンプLV109を1986年に出している。
LV109にはフォノイコライザーは搭載されていなかった。
アナログディスク再生用にLE109が用意されていた。

入力はライン入力とデジタル入力のみのLV109は、
アルパイン・ラックスマンがもしPower DACだと呼んでいれば、Power DACと受けとめただろうか。
そんなことはなかったはず。
アルパイン・ラックスマンがどう呼称しようと、LV109はプリメインアンプであった。
デジタル入力を備えるプリメインアンプである。

ならばワディアのWadia 5はD/Aコンバーター内蔵のパワーアンプとして認識すべきである。
Wadia 390 + Wadia 790はコントローラーが別筐体ではあるものの、
やはりD/Aコンバーター内蔵のパワーアンプということになり、
ステレオサウンドのベストバイ、コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤーのジャンル分けは間違っていない。

このことはWadia 5がステレオサウンド誌上に現れた時に考えたことだ。
アナログ入力のない、デジタル入力だけのパワーアンプである、と。

それでも私のなかでは、Power DACという認識である。
つまり8Ω負荷で200Wの出力をもつD/Aコンバーターである。

このことがシンプルについて考えていく上で、ずっと引っかかっていることであり、
シンプル(simple)とミニマル(minimal)の違いを、
オーディオにおいてよりはっきりさせていくように感じている。

Date: 1月 18th, 2015
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(ミニマルなシステム・その7)

プロトタイプであったWadia 5、製品として登場したWadia 390 + Wadia 790。
私がミニマルなシステムだと感じるのは、Wadia 5である。

コントローラーとしてWadia 390が加わったとはいえ、基本構想はどちらも同じである。
けれどWadia 390 + Wadia 790には、Wadia 5には感じたミニマルな印象が後退している、と感じた。

なぜなのだろうか。
Wadia 5では円筒形の筐体がふたつだったのが、
Wadia 390 + Wadia 790では筐体の形状・大きさが変り、三筐体になったからだろうか。
たしかにWadia 390 + Wadia 790の本体はかなり大きい。

それでも充分なスペースのリスニングルームであれば、
その大きさも問題にならないはず。

私には大きさではなく、形状に、そう感じさせるところがあるよう思っている。
Wadia 5の筐体は円筒形。
円筒形のアンプはそれ以前にもあった。
イギリスのレクソンのパワーアンプは1977年には登場していたし、
日本のNIROのパワーアンプも基本的には円筒形だった。
円筒形のパワーアンプは目新しいわけではなかった。

Wadia 390 + Wadia 790の筐体の形状は言葉では表現しづらい。
誰かがいっていたけれど、
Wadia 790の筐体はスターウォーズのダースベイダーのマスクを思わせるようなところがある。
つまり威圧感がある。実物を見ていないけれど、存在感もどうだ、といわんばかりに写真から伝わってくる。

それに対してWadia 5の円筒形の筐体には、そういった要素は感じられない。

Date: 1月 12th, 2015
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(ミニマルなシステム・その6)

ワディアのPower DACの音は、いったいどうだったのか。
いまでも興味がある。
けれど残念なことにステレオサウンド 100号でのプロトタイプ、
133号での,7ページにわたる紹介記事、
どちらも書いているのは三浦孝仁氏である。

三浦孝仁氏になんの憾みも個人的感情はもっていないけれど、
三浦孝仁氏の書くものは、まったく参考にならない。

なぜそうなのかについては、ここで書くことではないし、書くつもりはない。
それに私はそう思っているけれど、三浦孝仁氏の評価がいちばん参考になる、という書き込みも、
インターネットで何度か目にしている。

私が正しいとか間違っているとか、三浦孝仁氏の評価を信じる人が正しいとか間違っているとか、
そんなことではなく、ただステレオサウンド編集部が、Power DACという、
これまで存在しなかったジャンルのオーディオ機器の記事に、
三浦孝仁氏だけの起用だったことにがっかりしているのである。

でも133号のコンポーネンツ・オブ・ザ・イヤーにpower DACは選ばれている。
かろうじて他の方の意見が読める。
それからベストバイで、井上先生が一千万円をこえるにも関わらず、星ひとつを入れられているのも参考になる。

それでもプロトタイプの音については参考になる記事がないのが、いまでも残念でならない。

Date: 1月 12th, 2015
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(ミニマルなシステム・その5)

ワディアのPower DACの続報、そして製品化を待っていた。
それこそ首を長くして待っていた。
けれどまったく音沙汰無しだった。

ふたたびPower DACの名をステレオサウンドで目にしたのは、133号である。
100号1991年9月に出ている、133号は1999年12月に出ている。
八年間である。
それでもワディアはPower DACを製品として出してきた。

1991年のPower DACと1999年のPower DACはずいぶんと違うところがある。
まず筐体が大きく違っている。

1999年Power DACは三つの筐体から構成されるシステムである。
Wadia 390という型番のコントローラー、Wadia 790という型番のPower DACで、
アンプ部(D/Aコンバーター)は、モノーラルなのは同じだが、
円筒型の筐体から、マッシヴな金属ブロックのような形状となっている。

外形寸法はW44.7×H61.0×D44.7cmで、重量は116kg。
こうなるとスピーカーの脇に設置することが難しくなるほどである。
実物をみることはなかったけれど、ステレオサウンドに掲載されている写真から、その威容さは充分伝わってくる。

価格はWadia 390とWadia 790のセットで、11900000円だった。
桁を間違っているわけではない。D/Aコンバーター機能をもっているパワーアンプ、
パワーアンプ機能をもっているD/Aコンバーターとはいえ、一千万円をこえる価格は、もう溜息も出なかった。

1991年のプロトタイプは価格未定だったが、
外観、内部の写真、規模から判断するに、一千万円をこえるモノではなかった。
プロトタイプのまま市販されたとしたら四百万円から五百万円ぐらいでおさまっていた、と思う。

Date: 1月 12th, 2015
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(ミニマルなシステム・その4)

ワディアのPower DACの名がステレオサウンドの誌面にはじめてあらわれたのは、99号。
三浦孝仁氏がワディアの訪問記事の中に登場している。
そして100号でのエキサイティングコンポーネント(新製品紹介のページ)で、Wadia 5として、
4ページにわたり紹介されている。
ただしこの時点ではプロトタイプとしてである。

モノーラル構成で、筐体は高さ77cm、直径約30cmの円筒形(完全な円筒形ではない)。
重量は約50kg。出力は200W。
プロトタイプのため価格は未定となっていた。

電源スイッチは底面にある。
それ以外のスイッチは写真をみるかぎり本体にはついていない。
すべての機能は附属のリモコンで行うようになっている。

つまりCDトランスポートを用意すれば、スピーカーをドライヴできる。
こういう性質のアンプ(D/Aコンバーターでもある)だけに、
実際の設置はスピーカーの脇に目立たぬように、ということになる。
そしてCDトランスポートとPower DACを結ぶのは、
当時ワディアが提唱していたAT&TのSTリンクの光ファイバーである。

Power DACは小さいとはいえない。
むしろかなり大型ではある。
けれど、1991年の時点で、これほどミニマルなシステムを、
あるレベル以上のクォリティをもって構成することは無理といえた。

エキサイティングコンポーネント──、
私にとってワディアのPower DACという新製品は、まさしくエキサイティングだった。
すごいモノがあらわれた、と昂奮した。

Date: 1月 8th, 2015
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(ミニマルなシステム・その3)

池田圭氏の記事は、ラジオ技術に載っていた(はず)。
当時、池田氏の実験記事を読んで、なぜ、こんなことをされるんだろう……、
しかも、わざわざ記事にするんだろうか……、
そんなふうに受けとめていた。

若造だった私は、どこかオーディオの大先輩である池田圭氏を小馬鹿にしていたのかもしれない。

当時の池田圭氏は、いまの私よりもずっと年輩である。
池田圭氏の、そのときの年齢に、でも近づいている。
誰もが毎年ひとつずつ近づいていっている。
そして気づくことがある。

HUGOの登場は、そのことを思い出させてくれた。
だからHUGOが2014年に登場した新製品でもっとも気になるモノとなったわけではない。
理由は別にある。

ワディアのPower DACの存在が、私の中にずっとあるからだ。
ワディアのPower DACといっても、数年前に出たWadia 151 PowerDACのことではない。
1990年代にワディアが発表した、ひじょうに大きな金属筐体によるプロトタイプの方である。

私は、このPower DACの音を聴くことはできなかった。
ワディアが日本に輸入されるようになったのは、私がステレオサウンドを去ってからで、
Power DACはいわばプロトタイプであったから、まして聴く機会などなかった。

それでも、このプロトタイプの音は聴いておきたかった。
いい音がしていたのかどうかではなく、とにかく聴きたかった、というおもいがいまも残っている。

Date: 1月 8th, 2015
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(ミニマルなシステム・その2)

3.125Wといえば、現代の感覚からすれば小出力である。
でも真空管アンプの時代、それも初期の真空管アンプの時代では決して小出力ではなかった。

数Wのアンプで大型のスピーカーを鳴らしていた時代がある。
だから小出力で鳴らすスピーカー・イコール・小型スピーカーというのには、
それもありだけど、高能率の大型スピーカーでも……、とリクエストしたくなる。

HUGOの3.125Wの出力が、
きちんと設計された真空管パワーアンプの同等の出力と、
スピーカーを鳴らすことに関して同じだけの実力だとは考えていない。

それに高能率のスピーカー・イコール・昔のスピーカーでもあるわけだから、
こういったスピーカーのインピーダンスは16Ω(イギリス製だと15Ω)である。
となると3.125Wは半分の出力になってしまう。

それでもJBLのD130、それからグッドマンのAXIOM80をHUGOにつないで鳴らしてみたら……、と想像する。

プログラムソースとスピーカーのあいだに介在するオーディオ機器の数を減らすことが、
音質向上に直結するわけではない。
それでも、まずは試してみることは、とても大事なことだと思う。

D130は15インチ口径、AXIOM80は9.5インチ口径。
これらを適切なエンクロージュアにいれればかなりの大きさのスピーカーシステムとなる。
HUGOは手のひらにのるサイズである。

ここには大きさのギャップ、時代のギャップがある。
うまくいくかどうかは鳴らしてみないことにはわからない。

だが、昔では考えられなかったほどミニマルな構成で音を鳴らせる。
ミニマルであることが、シンプルであるとは限らない。
シンプルであることが、音の良さに必ずしもつながるとは限らない。

それでもCDが登場した時、池田圭氏がCDプレーヤーをスピーカーに直結で鳴らされたこと、
その姿勢は見習っていくべきである。