シンプルであるために(ミニマルなシステム・その3)
池田圭氏の記事は、ラジオ技術に載っていた(はず)。
当時、池田氏の実験記事を読んで、なぜ、こんなことをされるんだろう……、
しかも、わざわざ記事にするんだろうか……、
そんなふうに受けとめていた。
若造だった私は、どこかオーディオの大先輩である池田圭氏を小馬鹿にしていたのかもしれない。
当時の池田圭氏は、いまの私よりもずっと年輩である。
池田圭氏の、そのときの年齢に、でも近づいている。
誰もが毎年ひとつずつ近づいていっている。
そして気づくことがある。
HUGOの登場は、そのことを思い出させてくれた。
だからHUGOが2014年に登場した新製品でもっとも気になるモノとなったわけではない。
理由は別にある。
ワディアのPower DACの存在が、私の中にずっとあるからだ。
ワディアのPower DACといっても、数年前に出たWadia 151 PowerDACのことではない。
1990年代にワディアが発表した、ひじょうに大きな金属筐体によるプロトタイプの方である。
私は、このPower DACの音を聴くことはできなかった。
ワディアが日本に輸入されるようになったのは、私がステレオサウンドを去ってからで、
Power DACはいわばプロトタイプであったから、まして聴く機会などなかった。
それでも、このプロトタイプの音は聴いておきたかった。
いい音がしていたのかどうかではなく、とにかく聴きたかった、というおもいがいまも残っている。