Archive for category 戻っていく感覚

Date: 9月 14th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(コントロールアンプのこと・その21)

ラジオ技術の1977年7月号の石田春夫氏の記事のおわりに、
Independenceの製作にあたっての試聴に使った器材が記されている。

パワーアンプは、EL156パラレルプッシプルアンプ(1977年3月号掲載)、
スピーカーはJBLの4320、パラゴン、アルテックのA7、
それにマグネパンとある。

比較コントロールアンプも挙げられている。
ここがいちばん興味深い。

マランツのModel 7とオーディオリサーチのSP3A、そしてGASのThaedra。
Thaedraが入っている、と思った。
Model 7とSP3Aは管球式、Independenceも管球式だから、
この二機種が比較機種としてあるのは、誰もが納得するところだろう。

Thaedraはソリッドステート。ブランドの歴史も浅い。
ソリッドステートのコントロールアンプとの比較もわかる。

このころソリッドステートのコントロールアンプは、というよりも、
ほとんどの市販されているコントロールアンプはソリッドステートだった。

そのなかでのThaedraである。

なぜThaedraだったのか。
石田氏が所有されていたモノなのか、
それとも周りのオーディオ仲間の誰かが所有していたモノだったか、
そのへんのところははっきりとしない。

少なくとも、どうでもいいと思っているコントロールアンプを、
比較機種として選ぶことはしないだろう。

数あるソリッドステートのコントロールアンプのなかでThaedra。
そういう人がIndependenceをつくったのか、ということが、
ラジオ技術の記事を読んで、もっとも印象に残っている。

Date: 9月 12th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(コントロールアンプのこと・その20)

石田春夫氏の名前で検索してわかるのは、
石田氏はソニーを退社されてからハルアンプを始められた、ということ。

ラジオ技術には石田春夫で登場されているが、
無線と実験には石田春雄となっている。

ラジオ技術では、1977年11月にも、パワーアンプの記事を書かれている。
EL156のプッシュプルアンプで、Junior Battlerのはずだ。

無線と実験では、
1978年5月号掲載の「理想のオーディオ・ケーブルを求めて」というテーマで登場されている。

Independenceのラインアンプはカソードフォロワーの二段構成。
カソードフォロワーだから一段であっても信号の極性は反転しない。
にもかかわらず二段構成としているのは、
レベルコントロールまわりのアースの処理からだろう。

通常のアンプではライン入力は、
レベルコントロール(ポテンショメーター)、ラインアンプという信号経路である。

Independenceは、カソードフォロワー、レベルコントロール、カソードフォロワーとなっている。
1980年代のラジオ技術に掲載された富田嘉和氏の記事を読まれた方ならば、
こういう構成にしている理由がわかるはずだ。

実際のIndependenceのレベルコントロールのアースの配線がどうなっているのかは、
実機を見ているわけではないのでなんともいえないが、
考え方として富田嘉和氏と共通するところがある、と思っている。

Date: 9月 12th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(コントロールアンプのこと・その19)

ハルアンプのIndependenceについて、知り得たことがあるので補足しておく。

週末に、Independenceの製作記事があります、という連絡をいただいた。
ラジオ技術の1977年7月号に載っている。
記事をスキャンしたものを送ってもくださった。

石田春夫氏という方が記事を書かれている。
ほぼまちがいなく、この石田氏がハルアンプの主宰者のはずだ。

ハルアンプの存在を知ってから、なぜ「ハル」なのかがわからなかった。
記事を送ってくださった方は、春夫だからハルなのでは、ということだった。

いわれてみるとそうである。
春を告げるアンプという意味も込められているのかもしれない。

ラジオ技術の記事を読むと、1977年3月号には、
EL156のパラレルプッシュプル、出力100Wの記事があることもわかる。
これが、おそらくハルアンプのBattlerのはずだ。

記事はTypeIIではないIndependenceであり、
当然のことだが、回路図と回路の説明、それからプリント基板のパターンも知ることができる。

Independence TypeIIの回路図は、無線と実験の1979年7月号に載っている。
こちらは回路図のみである。

アンプ部に関しては、IndependenceとIndependence TypeIIの違いは、
ほとんどない、といえる。
定数にわずかな変更があるくらいだ。

ただし電源部は違う。
Independence TypeIIでは、ヒーター用、B電圧、どちらも定電圧化されている。
ヒーター回路は三端子レギュレーターで、
高圧のB電源回路はトランジスター四石(うち二石は誤差増幅、残り二石が制御用)で構成。

Independence TypeIIには、
フロントパネルをゴールド仕上げにしたIndependence TypeIIGがある。
ステレオサウンド 54号の新製品紹介に登場している。

Independence TypeIIGは、高信頼管の採用とともに電源回路が左右独立している。
このIndependence TypeIIGの音にも興味はあるが、
SAEのMark 2500と組み合わせることが前提であれば、Independence TypeIIである。

Mark 2500にゴールド仕上げのフロントパネルに似合わないからだ。

Date: 9月 11th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(コントロールアンプのこと・その18)

メリディアンの218は、固定出力にも可変出力にも設定可能であるから、
SAEのMark 2500とのあいだに音量調整機能は不要といえば、そうである。

昨年まで毎月第一水曜日にやっていたaudio wednesdayでは、
218の機能を使って音量調整をやっていた。

ときおりインターネットでみかけるのは、
コントロールアンプを使うのがいいのか、
それともD/Aコンバーターが218と同じように音量調整機能があるのならば、
パワーアンプと直結してしまうのがいいのか、
デジタル領域での信号処理がイヤならば、
パッシヴ型フェーダーを介したほうがいいのか、
そんなことを悩む人がいる。

私は、どれでもいいじゃないか、と最近では考えるようになった。
どれがいいのか、ということよりも、
それぞれの方式の良さを楽しもう、と思うようになったからだ。

コントロールアンプを介するのならば、
介することの面白さを存分に楽しみたい。

なので、ここでのコントロールアンプ選びとは、
優れたコントロールアンプ選びということではない。

Date: 9月 9th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(コントロールアンプのこと・その17)

プレシジョン・フィデリティのC4は、いい管球式コントロールアンプだった、と思う。
回路的にも面白いと思っている。

それでも内部写真を見ると、回路は洗練されているといえても、
造りはそうではない。

プリント基板の採用だけでなく、プリント基板のパターン含めて、
およそ洗練されているとは言い難い。

プレシジョン・フィデリティのC4の回路そのままで、
Independence TypeIIや上杉先生発表のアンプのように配線していったら、
さらには昔ながらの管球式アンプの配線であったならば──、と思う人は、
私以外にもきっといるはずだ。

(その8)でちょっとだけ触れたKTS Audioというブランドによる
C4をベースにWaltzというコントロールアンプは、まさしくそうである。

プリント基板を使っていないのだ。
世の中、同じことを思う人がやはりいる。

Waltzがどんな音なのかはわからない。
聴く機会はない、と思う。

それでもいい。
管球式アンプにプリント基板を使うことに抵抗を感じる人がいて、
プリント基板を採用した過去のアンプを、手間のかかる配線によってよみがえらせている。
このことが嬉しいのだから。

プレシジョン・フィデリティのC4の程度のいい中古と出逢うことは、期待していない。
ならばWaltzのように、自分でつくるという手がある。

SAEのMark 2500と組み合わせるコントロールアンプとして、
ソリッドステートならば、いまでもマークレビンソンのLNP2なのだが、
管球式ならば、C4の自作ヴァージョンかな、と真剣に考えている。

Date: 9月 9th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(コントロールアンプのこと・その16)

ハルアンプのIndependence TypeIIと
上杉先生のステレオサウンド 45号発表のコントロールアンプ。

回路がまったく違うアンプであり、
上杉先生のアンプは外部電源ということもあって、
左右チャンネル対称といえる部品配置であるが、
プリント基板に頼らない配線ということは共通している。

プリント基板の採用は、大量生産するメーカーにとっては、
品質管理の上でもなくてはならないものであることは理解している。

それでも管球式アンプでは、
プリント基板に頼らないでほしい、という気持が私にははっきりとある。

とはいえラックスでもプリント基板を採用していたし、
ラックス規模のメーカーであれば、
海外の新興メーカーよりも生産台数はずっと多いはずだから、
プリント基板を採用することで、コストを下げることにつながっている。

くり返しになるが、それでも……、とやっぱり心の中でつぶやきたくなる。

ハルアンプと上杉先生のアンプは、プリント基板のメリットも活かしつつ、
プリント基板とは、そうとうに違う。

ベースに銅板かベークライトの板か。
どちらがいいのかは一概にはいえない。

銅板は導体である。
ベークライトはそうではない。

それに指で弾いた音も、銅とベークライトでは違う。

Independence TypeIIの実機を、内部をしげしげと見たことがないのでなんともいえないが、
銅板を使うことでベタアースが可能になる。
ベークライトではそうはいかない。

アースの処理をどうするのかは、昔から論争がある。
Independence TypeIIがベタアースでなかったとしても、
銅板はシールドとしても働く。

同じ回路、同じ部品配置だとしても、
銅板とベークライト板では、そうとうに音は違ってくる。

以前、テフロンのプリント基板が話題になった。
テフロンの電気特性の優秀さゆえに、音が良い、
そんなふうにいわれていたけれど、
テフロン基板と、一般的なガラスエポキシの基板とでは、指で弾いた音がそうとうに違う。

私は、このことが音の違いに大きく影響していると捉えている。

Date: 9月 3rd, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(コントロールアンプのこと・その15)

ハルアンプのIndependence TypeIIに近い配線方法なのが、
ステレオサウンド 45号に掲載されている上杉先生のアンプである。

昔のステレオサウンドには自作のページが、不定期で載っていた。
45号には、
「最新テクノロジィによる真空管式ディスク中心型プリアンプをつくる」というタイトルで、
マッキントッシュのC22の回路をベースに、
シンプルな機能のコントロールアンプを発表されている。

Independence TypeIIは銅板を配線のベースにしているのに対して、
上杉先生の、このアンプはベークライトの板をベースにしている。

ベークライトの板に、穴開け加工をして金属製のビスを立てていく。
配線に必要な数だけ立てていく。

Independence TypeIIでのバインディング端子を、ビスで代用しているわけだ。
もちろん上杉先生のアンプにバインディング端子を使っていい。

上杉先生は部品の入手しやすさを重視しての金属製ビスの採用なのだろう。

45号の時、中学三年生だった私は、
これなら作れそうと思ったほどだった。

記事には穴開け用の方眼紙的な図も載っていた。
この図を使ってベークライトの板に穴を開けていく。
ビスを立てて、部品をハンダ付けして、配線していく。

丁寧に、慌てずにやっていけば、失敗の可能性は低い。
プリント基板を自作するよりもいい方法のように思えた。

自作するほどの予算がなかった私は作ることなく終ってしまったけれど、
これはいまでもいい方法だと思っている。

ただ、当時、私の住んでいた田舎で、
上杉先生のアンプ製作に必要な大きさのベークライトは入手できなかっただろう。

とにかく上杉先生の、このアンプが頭にあたったものだから、
ほぼ一年後のステレオサウンド 50号で、Independence TypeIIを見た時、
この二つのアンプが重なった。

Date: 8月 27th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(コントロールアンプのこと・その14)

いま、目の前にハルアンプのIndependence TypeIIの、
ひじょうに程度のいい中古が出てきたとしよう。
価格も手頃だとして、買うのか、と問われると、欲しいけれど……、となるかもしれない。

Independence TypeIIの回路構成は、はっきりとフォノイコライザーアンプである。
二段差動回路のユニットアンプの二段構成、ラインアンプにカソードフォロワーをもってきて、
入力セレクターとレベルコントロール機能を備えたのがIndependence TypeIIだ。

いまもアナログディスク再生がメインであれば、
SAEのMark 2500と組み合わせるコントロールアンプとしてIndependence TypeIIは、
第一候補といえるけれど、私はそうではない。

再生の軸足はデジタルである。もっといえばMQAである。
そうなるとIndependence TypeIIをラインアンプとしてみた場合、
入力セレクターとレベルコントロール(東京光音製だったはず)、
それにカソードフォロワーだけとなる。

それで音が好ましければ、それでもいい──、
そう言い切れないところが、わたしのどこかにある。

Independence TypeIIのラインアンプだけしか使わないのはもったいない、
そんな気持とともに、メリディアンの218とMark 2500のあいだに、
あえてコントロールアンプを介在させるのだから、
もっと積極的な理由(おもしろさ)が欲しい、というのが本音でもある。

とはいえ実際にIndependence TypeIIと出逢えたならば、買ってしまうだろう。

Date: 8月 26th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(コントロールアンプのこと・その13)

ステレオサウンド 50号の、新製品紹介の記事で、
マッキントッシュのC29とハルアンプのIndependence TypeIIが並んでの掲載は、
当時は感じなかったことだが、いま見るとなかなかに対照的なアンプを、
二台並べたものだな、と感心する。

それが当時のステレオサウンド編集部の意図だったのかどうかはなんともいえない。
注目度のかなり高い機種は2ページで、そこまでではないけれど高い機種は1ページ。
注目度がそれほどでもない機種は1ページに数機種という扱いだったから、
自然とそうなっただけのことだろう。

それでも偶然とはおもしろい。

C29はC28の後継機といわれていた。
C29の少し前に登場したC27はC26の後継機であった。

型番、フロントパネルからいえば、C29はC28の後継機といえる。
けれど回路構成に目を向ければ、C29はC32の機能簡略機である。

C26とC28は、いわゆるディスクリート構成だった。
C27もそうである。

C27の使用トランジスター数はかなり少ない。
この時代、すでに一般的になった差動回路を採用していない。
物理投入を得意とするアメリカとはおもえない最小限度の構成が特徴といえる。

C29はOPアンプによる構成だ。
C32もそうである。

価格的にはC27の上級機にあたるC29がOPアンプ構成である。
あのことは、マッキントッシュのアンプ設計のポリシーを考えていく上で、
見逃せないポイントである。

アメリカの、伝統あるマッキントッシュが、OPアンプを積極的に採用している。
一方の日本の歴史の浅い、規模も小さいハルアンプが、
意欲的な管球式アンプを世に問うている。

Date: 8月 25th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(コントロールアンプのこと・その12)

ハルアンプのIndependence TypeIIは、
ステレオサウンド 50号の新製品紹介の記事に登場している。
     *
井上 ノスタルジックな音は一切なく、強烈なパルス成分をしっかりと再現して、最新のプログラムソースにも十分対応できるだけの能力をもっていますし、また音像が立体的に立ち並んで自然な音情感を聞かせてくれるといった点が、最新の真空管アンプならではのところです。
山中 音と音の切れ目が完全にあるので、おそらく立体感を感じさせるのでしょうね。
井上 楽器の演奏にともなうノイズも、演奏音のなかに埋ずもらずにしっかりと出ますし、妙に人工的に音の輪郭や細部をきわだたせたりしませんね。再生音楽といってもこの製品は、実際の音楽のもつニュアンスを聴かせる性格をもっています。従来の国内の管球式アンプの枠を破って、前向きに真空管をとらえて開発された、その姿勢に魅力を感じる製品です。
     *
Independence TypeIIは51号の439ページに載っている。
となりの438ページには、マッキントッシュのC29が載っている。

Independence TypeIIが376,000円、C29が438,000円。
ほぼ同価格帯のコントロールアンプがとなり同士で掲載されていて、
高校生だった私は、Independence TypeIIのほうに強く惹かれていた。

井上先生が語られている《従来の国内の管球式アンプの枠を破って》、
これはラックスのアンプのことだな、と思いながら読んでいた。

その意味でも、コンラッド・ジョンソン、
プレシジョン・フィデリティと同じ新しい世代の管球式アンプ、
それも国内から登場した初の、そういうアンプが、
私にとってはIndependence TypeIIだった。

コントロールアンプとしての機能は、C29が上だし、
コントロールアンプとしての完成度もC29のほうと、当時も思っていたけれど、
どちらの製品に惹かれるかは、そういうこととはほとんど関係なく、
まずは第一印象こそである。

つまりはパネルデザイン、その製品が醸し出す雰囲気である。
Independence TypeIIは、SAEのMark 2500と組み合わせてもよく似合う。

並べてみたことはないが、想像するに、なかなかいい感じである。
ただし、くり返すが音は聴いたことがないので、なんともいえないが……。

Date: 8月 24th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(コントロールアンプのこと・その11)

この時代の日本の管球式アンプで忘れてはならないのが、ハルアンプだと思っている。
Independenceというコントロールアンプと、
Battlerというパワーアンプを出していた。

南荻窪に会社があった。
1995年から数年、南荻窪に住んでいたことがある。
たまたまなのだが、ハルアンプがあった住所は、私が住んでいたところの斜め向いだった。

住宅街である。
そこには、おそらく当時からあったと思われる建物があった。
いわゆる日本のガレージメーカーだったのだろう。

最初の頃は製造も販売も行っていたが、途中からバブコが販売するようになった。
そのころIndependenceが、II型になって、
外観は変更なしだったが、内部構造(造り)は大きく変っていた。

Independence TypeIIは、プリント基板を使っていなかった。
昔ながらも配線方法かというと、そうてはなく、
プリント基板のかわりに銅板を採用していた。

そこにバインディング端子を立てて、部品、配線をハンダ付けしていた。
ユニークなやり方だった。

回路的にも、管球式コントロールアンプにめずらしく差動回路採用。
差動回路二段増幅ユニットアンプのあとにCR型イコライザーがあり、
それによるゲインロスをおぎなうため、さらに差動二段のユニットアンプがある。

これがIndependence TypeIIのイコライザー回路だ。
ラインアンプは、というと、カソードフォロワーだけで構成されている。
つまり増幅はしていない。

すべて管球式コントロールアンプの回路を把握しているわけではないが、
Independence TypeIIのような回路構成のアンプは、そうはないはずだ。

Independence TypeIIも、聴きたくても聴けなかったアンプの一つだ。

Date: 8月 19th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(コントロールアンプのこと・その10)

私がステレオサウンドを読み始めた頃と、
ラックスのCL32が登場した時期と重なっていて、
CL32の記事はよく目にしていた。

それらのほとんどに書いてあったのは、
だまって本機を見せられたら、管球式アンプだとわかる人はいないだろう──、
そういうことだった。

当時はマークレビンソンのJC2に影響を受けた日本のメーカーから、
薄型のコントロールアンプがいくつも登場していた。
そんななかでのラックスのコントロールアンプCL32は、
真空管を横置きとすることで、薄型を実現していた。

同時期のCL35/IIIが、プリメインアンプのSQ38FDIIと同じデザインだっただけに、
CL32の薄型はよけいにきわだっていた。

真空管を横置きするのは、マランツのModel 7もである。
けれどModel 7は薄型ではない。
おそらくJC2が登場していなければ、CL32は違うプロポーションになっていたであろう。

結局は、薄型の筐体におさめられる薄型の電源トランスができれば、
薄型の管球式コントロールアンプはさほど困難ではない、というわけだ。

ただし管球式アンプの電源トランスは、ソリッドステートアンプの電源トランスよりも、
高電圧と低電圧の巻線が必要になるため、サイズは大きくなりがちだ。

ラックスはトランスメーカーでもあったからこそ、
外部電源とせずに薄型の管球式コントロールアンプが実現できたのだろう。

CL32の評価は、当時は高かった。
中学生だった私はLNP2に憧れながらも、CL32の音を聴きたい、と思っていた。
真空管のよさが聴けるコントロールアンプというふうに、思えていたからだった。

あのころCL32に関する文章を読んでいても、
新しい世代の管球式コントロールアンプというふうには思えなかった。

他の国産メーカーが管球式アンプをやめていくなかで、
ラックスはトランジスターアンプを主としながらも、継続していた。

管球式アンプの歴史をもつラックスがつくった管球式アンプの新製品、
それも薄型のコントロールアンプ、
私の目には、そう映っていた。

Date: 8月 18th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(コントロールアンプのこと・その9)

ステレオサウンド 49号の新製品紹介の記事冒頭の対談で、
井上先生と山中先生は、C4について次のように語られている。
     *
井上 この製品をみていると、音的にも内容面でも現在は本当に従来からあるオーソドックスな管球アンプのイメージは完全に改めなくてはならない時代になったことをはっきりと感じますね。前号で紹介したコンラッド・ジョンソンは、管球式コントロールアンプとして新しい時代の音を聴かせてくれたのですが、内部をみてみると割合トラディショナルな回路構成になっていました。それが、このプレシジョン・フィデリティでは、内容的にも管球式アンプの新しい動きが顕著にみられます。このアンプでは、真空管はもはや新しいディバイスとして扱われているといってもいいのではないでしょうか。
山中 多分昔のオーソドックスな管球アンプを実際には体験していない人達が、ソリッドステートアンプをつくってきて、そして真空管という新しいディバイスを再発見し、そのメリットを活かそうとしたアンプといえばその意味あいをはっきりさせることができると思います。
     *
コンラッド・ジョンソン、プレシジョン・フィデリティに続いて、
アメリカではビバリッジ、ミュージックリファレンス、カウンターポイントなどが登場してくる。

これらのブランドの管球アンプは、井上先生、山中先生が語られているグループに属する。
新しい管球アンプといえるわけだが、
造りという面では、その新しいさを諸手をあげて歓迎はできないレベルだ。

ここまで書いてきて、一つ忘れていたブランドを思い出した。
パラゴンオーディオである。

ステレオサウンド 47号、五味先生のオーディオ巡礼に登場している。
日本に正規の輸入元はなかったはずだ。
このブランドの実力は、どれほどだったのだろうか。

このパラゴンオーディオの製品もそうだが、
どの管球式アンプもプリント基板を使っている。

これらのブランド以前にも、プリント基板を使っていた管球式アンプはある。
有名なところではダイナコがある。
それから日本のラックスもそうだった。

ラックスといえば、
コンラッド・ジョンソン、プレシジョン・フィデリティよりも先に登場していたCL32、
この薄型の管球式コントロールアンプは、新しい管球式アンプの流れのなかでは、
ほとんど語られることはなかったように感じている。

Date: 8月 17th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(コントロールアンプのこと・その8)

プレシジョン・フィデリティのC4は一度、個人宅で聴いている。
聴いている、といっても、ほかのコントロールアンプと比較したわけではなくて、
あくまでも、その方の音を聴いた(聴かせてもらった)ということなのだから、
C4の音がどうだった、ということは何もいえない。

その後、C7aは聴く機会があった。
C7aはC4の廉価版といえるコントロールアンプ、というよりも、
ボリュウムつきフォノイコライザーアンプである。

ようするにC4のラインアンプを省いた構成がC7aであり、
フォノイコライザーの回路構成はC4とほぼ同じであり、
真空管アンプの回路としてはめずらしくカスコード接続を採用している。

C4の存在があったため、C7aには期待していた。
けれど、その期待に応えてくれた、とはいえなかった。

C4と比べても未完成という印象がつよい造りだったし、
ましてマランツのModel 7を基準にしてみれば、実験機? という印象すらわく。

実のところ、C4の実力はどれほどだったのだろうか。
高かったはず、といまでも思っている。

アメリカのオーディオメーカーは、日本に輸入されなくなってずいぶん経っていて、
ウワサも聞こえなくなってくると、解散した、倒産したものとつい考えがちだが、
意外にも活動を続けているブランドがあったりする。

プレシジョン・フィデリティはどうなのか、と検索してみると、
さすがに解散していたようだった。

けれどC4を高く評価している国があることを知った。
韓国である。

KTS Audioというブランドが、
C4をベースにWaltzという型番のコントロールアンプを出している。

WaltzもC4同様、洗練されたパネルフェイスではない。
C4とWaltz、どちらのパネルフェイスが好きかといえば、
愛矯が感じられるC4の方である。

Waltzは、なんとなく以前のエアータイトのコントロールアンプをどこか思わせる。
そこが個人的気になっていて、好きになれない。

とはいえ、内部の写真をみると、C4とは、いい意味で別物といえる。

Date: 8月 16th, 2021
Cate: 戻っていく感覚

SAE Mark 2500がやって来る(コントロールアンプのこと・その7)

1970年代後半に登場してきた新世代の管球式コントロールアンプの走りは、
コンラッド・ジョンソンのPreamplifierといっていいだろう。

丸いツマミが六つ、左右対称にフロントパネルに配置されている。
そのことでマランツのModel 7に重ねて語られることもあったが、
デザインの完成度という点では、コンラッド・ジョンソンは素人のそれである。

でも、音の評価は高かった。
シイノ通商が輸入元だったことも関係しているのだろうが、
実物を見る機会はほとんどなかった。

私は20代のころ、一度だけ見ているくらいだ。
当時は内部写真も見れなかった。
いまではインターネットのおかげで内部写真も、すぐに見ることができる。

次に登場したのが、プレシジョン・フィデリティのC4である。
この管球式コントロールアンプは、コンラッド・ジョンソン以上に気になった。

C4もデザインに関しては、素人のそれでしかないが、音の良さはかなりのレベルであったようだ。
ステレオサウンド 49号での新製品紹介でも、井上先生、山中先生の評価は高い。

49号と同時期に出た別冊「コンポーネントステレオの世界 ’79」の巻頭でも、
瀬川先生の高い評価が読める。
     *
78年度の動きのひとつに、真空管をもういちど新しい増幅素子として見直そうという動きがみえはじめたのはおもしろい。すでに海外に限らず、いまの三十才代以下の若手のエンジニア達は、学校でいきなりトランジスターから勉強をはじめた世代である。そうした彼等が、真空管を過去の素子としてはじめは退けていたが、トランジスターを一応手中に収めてこんにちのアンプを完成させたとき、ある部分はトランジスターよりも優れた面を持つ真空管という素材を、こんにちの技術でもういちど洗い直してみようと考えるのは当然かもしれない。
 そのあらわれが、たとえばコンラッド・ジョンソン(本誌48号)や、おそらくこれから紹介されるプレシジョン・フィデリティ(スレッショルドの社長のプライベートブランド)C4などのコントロールアンプにみられる。これらはおそらく、マランツ、マッキントッシュまでの管球時代を知らない人たちの作品だろう。また、オーディオリサーチのSP6のように、一旦は管球から出発しながらソリッドステートの方向に進み、再び管球に戻ってきたという製品もある。
 私自身は右の製品のすべてを良く聴き込んだわけではないが、プレシジョン・フィデリティのコントロールアンプは、管球特有の暖かい豊かさに、新しい電子回路の解像力の良さがうまくブレンドされた素晴らしい音質と思った。残念な点は、パネルフェイスが音質ほどには洗練されていない点であろう。そのことが残念に思えるほど逆に音は素晴らしい。
     *
聴きたくなるではないか。