Archive for category 真空管アンプ

Date: 4月 27th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(Good Reproductionの和訳・その2)

Good Reproductionを、居心地のよい音、響きとすれば、
居心地のよい部屋というものを考えてみれば、
居心地のよい音、響きがどういうことなのか浮んでくる。

居心地のよい部屋といっても、たとえば真夏と真冬では、
ベースとなる部屋は同じ空間であっても、
何から何まで、真夏と真冬が同じままでは、居心地のよい空間(部屋)とはいえない。

カーテンひとつにしても、真夏と真冬とでは色を変えたくなるし、
花瓶に挿いた花にしても、季節によって変ってくる。

こまかなところが、四季によって変化していってこそ、
居心地のよい部屋へと近づいていくのであれば、
居心地のよい音というものも、そうであるはずだ。

以前書いているように、井上先生は四季によって聴きたい音は変っていく、といわれた。
真冬は真空管アンプ、それもマッキントッシュの真空管アンプの音が恋しくても、
真夏になるとすっきりとした音のトランジスターアンプに切り替える──、
そんな話をよくされていた。

音の季節感について話されていたわけだが、
実のところ、井上先生が話されていたのは、
Good Reproductionについてだったのか、と、いまごろ気づいている。

Date: 4月 26th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(Good Reproductionの和訳・その1)

300Bのプッシュプルアンプについて書いてきていて、
グッドリプロダクション(Good Reproduction)のことに触れ始めている。

グッドリプロダクションについては、これまで何度か書いてきている。
Good Reproductionを心地よい音、としてきた。

たしかに心地よい音、響きである。
でも、それだけでは何か足りないような気も、ずっとしていた。

無理に日本語にすることなく、グッドリプロダクションでいいではないか──、
とも思うけれど、それでももっとぴったりとくる言葉はないものかと、
これを書きながらも思っている。

最近おもうようになったのは、
Good Reproductionとは、居心地のよい音、響きだということだ。

Date: 4月 24th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その17)

伊藤先生は、無線と実験の349Aのプッシュプルアンプの記事に、こう書かれている。
     *
 他人の作ったものばかり食べている人にはわかりますまいが、本当の食通は他人に嘲笑わても厨房に入りたがるものです。
 一番大切なことをいいましょう。「誰がこれを食べるのか」ということなのです。若い人か、年寄りか、肉体労働をしている人か、どんな条件(部屋)の雰囲気で食べるのか、とそれまで考えてやるべきでしょう。アンプにしてみればスピーカーとの組合わせなのです。プリ・アンプもカートリッジももちろん大切には違いありまんが、それにも増してスピーカーとの関係を大切にしなければなりません。
 測定ではわからないのです……というと、学識のある方に嘲笑われますが、こればかりは如何にもなりません。
 それはスピーカーというものは前述したように府議名もので、アンプに較べて完璧なものが存在しないのです。あるスピーカーを捉えて、こんなアンプならいい音がするだろうなどと極めて無責任な考え方で音を出すのです。私にはそうしか方法がないのです。スピーカーの気嫌を取結ぶためにアンプを組んでいるのです。
 そして、スピーカーからきめてかかるのが一番良い音を出す途への近道なのです。
 良いスピーカーほど癖のあるもので、どんなアンプでも良く鳴るものにはろくなものはありません。
 ここでいう癖は忌(いや)な音というのではありません。誤解しないでください。
     *
349Aのアンプを作りたい、ということを伊藤先生に話したことがある。
「349Aはいい球だよ」といってくださった。
そしてアンプを自作するのならば、まず一時間自炊をしなさい、ともいわれた。

この時のことは別項「伊藤喜多男氏の言葉」に書いている。

平成の三十年間は、夕食に関しては、毎日とまではいかないけれど、自炊してきた。
「誰がこれを食べるのか」も、
三十年間ということは20代の私から50代の私まで、となる。
若い私から初老の私ということになる。

贅沢な自炊をしてきたわけではない。
伊藤先生は、こうもいわれた。
「いきなり300Bにいっても、300Bという球のほんとうの良さはわからないよ」
「349Aから始めるのはいいことだよ」

贅沢な自炊をしたくてもできない時期がけっこう続いた。
でも、それでよかったのだろう、たぶん。

Date: 4月 23rd, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その16)

ここまで読まれた方のなかには、
ならば349Aのプッシュプルアンプを作った方がいいのではないか、
そう思われる人もいよう。

私もそうおもう時がある。
とにかく349Aのプッシュプルアンプのデクレッシェンドしていく音の美しさに魅了された。
しかも、それ以降、その美しさを、どのアンプでも聴くことがかなわなかった。

なので思い始めていたことがある。
真空管の電極の大きさが、あのデクレッシェンドの美しさに深く関係しているのではないのか、と。
だとしたら300Bのアンプでは、
いまも耳に残っているといえる、あの美しい音は出せないのかもしれない。

むしろ出せない可能性が高いのではないか。
ならば349Aを、いままた探してくるか。

349Aも、ずいぶん高くなった。
三十数年前は一本五千円程度だった。
ベースにでは、ガラスの上部に、349Aと入っている、
いわゆるトップマークの349Aでも、八千円から一万円くらいだった。

私のなかには、いまさら、という気持が少しある。
だから349Aの代りに、45という選択もあるな、と実は考えていた。

直熱三極管で、電極のサイズも大きくない。
それに45は、瀬川先生がAXIOM 80のために作られたアンプの真空管でもある。

にもかかわらず300Bのプッシュプルアンプを目指そうとしているのは、
別項「MQAのこと、349Aプッシュプルアンプのこと」でのことが関係している。

デクレッシェンドしていく音楽の美しさに、ここで再び出逢えたからである。
ならば300Bプッシュプルアンプでも、トータルで出せる──、
そう確信できたからだ。

もっともそのためにはメリディアンのULTRA DACが前提となるけれど……

Date: 4月 19th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その15・追補)

(その15)を読んでくれた友人のOさんからメールがあった。
伊藤先生の349Aプッシュプルアンプの記事は、1973年5月号に載っている、ということだった。

国会図書館が雑誌の電子化を始めていて、
記事そのものは公開されていないけれども、目次はインターネットで検索できるようになっている。

1973年5月号に伊藤先生以外の製作記事も載っている。
それらの記事のタイトルは、真空管の型番と、
アンプの形式のあとに「設計と製作」とついている。

伊藤先生の349Aのアンプも基本的には同じだが、
「WE-349App8Wパワー・アンプの設計と製作の心得」というように、
製作のあとに「心得」とついている。

Date: 4月 18th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その15)

伊藤先生の349Aのプッシュプルアンプの製作記事は、
1973年の無線と実験に載っている。

私が持っているのは記事をコピーしたものをさらにコピーしたもので、
何月号なのかははっきりしない。

記事の冒頭に《昭和48年の御代》と書かれているから、
1973年であることは間違いない。
251ページから255ページにわたって掲載されている。

回路図には出力トランスの一次側インピーダンスは8kΩとなっているが、
実際のアンプは10kΩである。

出力トランスはラックスのCSZである。
この10kΩ(カタログには載っていないはず)という値が、
最終的にはネックとなり、片チャンネル、出力トランスが断線してしまい、
修理が非常に困難になってしまっていた。

そんなわけで伊藤先生の349Aプッシュプルアンプを聴いたのは一度きりである。
けれど、その一度きりはじっくりと聴くことができた。

アナログプレーヤーはEMTの927Dstで、
イコライザーアンプの出力をアッテネーターと通して349Aのアンプに入力。
スピーカーはJBLの2ウェイで、
ウーファーが2220、ドライバーは2440(2441ではなかったはず)でホーンは2397。

エンクロージュアはステレオサウンド 51号で、細谷信二氏担当の記事、
ジェンセン型のモノである。

この構成からわかるように、スピーカーはナロウレンジ、高能率である。
349Aプッシュプルアンプも、実はナロウレンジといえる。

製作記事の最後のページには、測定結果が載っている。
周波数特性グラフをみると、低域特性は、-3dBポイントがおおよそ70Hzである。

349Aは五極管で、出力段は三極管接続でもUL接続でもなく、
五極管接続で、出力トランスの二次側からのNFBはかけられていないのは、既に書いてる通り。

それに位相反転段と出力段とのあいだのカップリングコンデンサーの容量からいっても、
低域特性が最低域までフラットになるわけがない。

些細なことだが、回路図では0.05μFとなっているが、
使われいてるのは0.047μFである。

回路図と実際のアンプを比較していくと、コンデンサーの容量は、わずかだが違うところがある。
もっとも特性的にはほとんど差違はないといっていいくらいの違いである。

ナロウなスピーカーにナロウなアンプ。
カートリッジもまだSFLは登場していなかったから、こちらもワイドレンジとはいえない。
EMTのイコライザーアンプも、入力と出力にトランスがあるし、
トランジスター式とはいえ、古い回路構成である。

なのにまったくナロウレンジとは感じなかった。

Date: 4月 16th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その14)

私が、心底美しいと感じた最初の真空管アンプは、
伊藤先生のEdのプッシュプルアンプだった。

このアンプとそっくりなアンプを自作したい、と思ったのが、
真空管アンプについて勉強するようになったきっかけでもある。

アンプだけではなかった、
Edという、初めて見る(知る)真空管も美しい、と感じていた。

私はST管があまり好きではない。
いかにも真空管という感じがしているからで、
シーメンスのEdのような形が、私の好きな真空管である。

それでも音を聴くと、結局ウェスターン・エレクトリックの真空管ということになる。
伊藤先生のEdのシングルアンプを聴いたのは、
349Aプッシュプルアンプの一年ぐらいあとである。

その時のことは別項で書いているのでくり返さないが、
やっはりウェスターン・エレクトリックなのか……、と実感させられた。

なんだろうなぁ、と、伊藤先生のアンプの音を思い出す度に考える。
349Aプッシュプルアンプの出色の音の良さは、
音楽がデクレッシェンドしていくときの美しさにある。

すーっと音がひいていく。
それまで、そんなふうにデクレッシェンドの美しさを表現してくれるアンプと出逢ったことはない。

アンプだけではない、そういう音そのものを聴いたことはほとんどない。

五味先生は「五味オーディオ教室」、
《はじめに言っておかねばならないが、再生装置のスピーカーは沈黙したがっている。音を出すより黙りたがっている。これを悟るのに私は三十年余りかかったように思う》
と書かれていた。

スピーカーは沈黙したがっている──のかもしれない。
けれど、アンプやプレーヤー、その他のことによって、素直に沈黙できないでいるのかもしれない。

Date: 4月 15th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その13)

私にとって、最初のグッドリプロダクションのスピーカーはスペンドールのBCII、
最良のグッドリプロダクションのスピーカーはロジャースのPM510である。

BCIIを自分の手で鳴らすことはなかったけれど、
PM510は自分のモノとして鳴らしている。

このPM510を鳴らすためのアンプとして計画していたのが、
伊藤先生が無線と実験に発表された349Aのプッシュプルアンプである。

この349Aプッシュプルアンプが、私にとって最初の伊藤アンプである。
それ以前に真空管アンプは、自作のモノも含めていくつか聴いていたが、
まさか伊藤先生製作のアンプが、こんなにも早く聴ける日がくるとは思ってもいなかった。

東京に台風が接近して大雨だったある日、349Aアンプをじっくり聴く機会があった。
この時から、PM510を349Aプッシュプルアンプで鳴らそうという夢が始まった。

PM510は、まさしくグッドリプロダクションのスピーカーだった。
瀬川先生が、ステレオサウンド 56号に書かれた文章を、
手に入れる前に何度も何度も読み返していた。
     *
 JBLが、どこまでも再生音の限界をきわめてゆく音とすれば、その一方に、ひとつの限定された枠の中で、美しい響きを追求してゆく、こういう音があっていい。組合せをあれこれと変えてゆくうちに、結局、EMT927、レヴィンソンLNP2L、スチューダーA68、それにPM510という形になって(ほんとうはここでルボックスA740をぜひとも比較したいところだが)、一応のまとまりをみせた。とくにチェロの音色の何という快さ。胴の豊かな響きと倍音のたっぷりした艶やかさに、久々に、バッハの「無伴奏」を、ぼんやり聴きふけってしまった。
     *
《バッハの「無伴奏」を、ぼんやり聴きふけってしまった》とある。
まさにグッドリプロダクションである。

ぼんやり聴きふけりたい──、
そのためには、出てくる音のどこかにもどかしさを感じるようであってはだめだ。

HL Compactの音を聴いていて、
この場に瀬川先生がおられたら、HL Compactの音をどう表現されるだろうか──、
何度もそう思った。

音にもどかしさを感じるだけでなく、
そのもどかしさを言葉として表現できないもどかしさも感じていた。

瀬川先生なら、きっと、そのもどかしさを的確に表現されるはず──、
そう思っていた。

Date: 4月 15th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その12)

300Bのアンプについて書いてきていたのに、
いきなりスピーカーのことを書き始めたのは、
ここで書いている300Bプッシュプルアンプは、
私にとってのグッドリプロダクション・アンプであるからだ。

ハーベスのHL Compactは、聴けば聴くほど、私はもどかしさを募らせていた。
聴く機会は多かった。

悪いスピーカーではない。
そんなことはわかっている。
それでも、聴き惚れることがない。
その音のどこにも、そういう要素が感じられない。

しかももどかしさが、どこかにある。
もどかしさがあるから、心地よくない。

私は、HL Compactの登場によって、ハーベスのスピーカーへの興味を失ってしまった。

HL Compactが1987年、それから16年後の2003年、
HL Compact 7ES3が出てきた。

このスピーカーも評価がよかった。
けれどハーベスのスピーカーに興味を失っていた私は、特に聴きたいとも思っていなかった。
それでも偶然、あるところで耳にしたHL Compact 7ES3の音は、
どうしても拭えなかったHL Compactのもどかしさがなかった。

HL CompactからHL Compact 7ES3のあいだに登場した他のハーベスのスピーカーは聴いていない。
だから何もいえないのだが、HL Compact 7ES3は、グッドリプロダクションである。

HL Compact、HL Compact 7ES3、
どちらもグッドリプロダクションだ、と思っている人は少なくない、と思う。
そういう人には、私がここで書いていることはわかってもらえないかもしれない。

けれど私と同じようにHL Compactに、なにかしらもどかしさを感じていた人もいると思う。
その人は、ここで書きたいと思っているグッドリプロダクション・サウンドを理解してくれるはずだ。

Date: 4月 15th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その11)

High Fidelity ReproductionとGood Reproduction、
高忠実度再生と心地よい再生、

瀬川先生が、スピーカーを分類するときに使われていた。
私にとってのグッドリプロダクションのスピーカーといえば、
イギリスのスピーカーで、それもBBCモニターの流れを汲むモノである。

スペンドール、ロジャース、ハーベス、チャートウェルなどのメーカーがあった。
いまもブランドだけは残っているところもある。
ハーベスは、いまも生き残っている会社である。

ハーベスのデビュー作、Monitor HLは、フレッシュだった。
いいスピーカーだ、と思ったし、欲しい、とも思った。

スペンドールのBCIIよりも、その響きは明るかった。

そのハーベスも創立者のハーウッドが高齢のため引退し、アラン・ショウが引き継いでいる。
アラン・ショウによる最初のモデルは、HL Compactだった。

HL Compactの評価は高かった。
HL Compactが登場した時は、まだステレオサウンドにいたから、
皆がほぼ絶賛に近い褒め方だったのをみてきている。

けれど、私の耳には、ずいぶん変ったなぁ、と感じたし、
変ったこと自体は設計者が違うわけだし、時代の変化もあり、当然のことと受け止めても、
私がBBCモニター系のスピーカーに感じていたグッドリプロダクションといえるところが、
HL Compactからは消えていた。

消えていた、というのが大袈裟すぎるのであれば、かなり薄れてしまっていた。
HL Compactを聴いて、何か致命的な欠陥があるとは感じなかった。
バランスのいいスピーカーに仕上がっていた。

けれど、その音が私にとってはグッドリプロダクション(心地よい音と響き)ではなかった。

どうも、このグッドリプロダクションは、少し誤解されているようであるが、
やわらかくてあたたかくて、耳にやさしい感じで鳴る音だから、
グッドリプロダクションではない、と私は考えている。

確かに、そういう音は、心地よい音につながっていくことは多い。
けれど、どこかにもどかしさを感じてしまうと、
どんなに上質な、そういう音であっても、もうグッドリプロダクションではなくなる。

Date: 4月 14th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その10)

6SN7による位相反転回路と出力段300Bとのあいだに、
E80CCによる増幅段を挿入するのであれば、
最初からE80CCの前段に入力トランスをおくことで、
ノイマンのV69aと同じ構成にすることができる。

こちらのほうが回路的にもすっきりしていて、信号が通る真空管の本数も少なくなる。
しかも私が考えているA10型300Bプッシュプルアンプにも、入力トランスを使うつもりだから、
よけいに6J7、6SN7による増幅段建位相反転回路は不要──、
そう受けとられがちになるだろう。

別項の「現代真空管アンプ考」で書いている(目指している)アンプならば、
そういう構成にするけれど、ここでの300Bプッシュプルアンプは、
そういうアンプはまったく考えていないし、
聴き手である(作り手でもある)私自身の、音楽の聴き手としての生理というか、
もっといえばオーディオマニアとしての生理、本能といったものに、
直截に向きあってのアンプに仕上げたいからである。

向きあって、と書いた。
(むきあって)は剥きあって、でもある。

剥くことによって、仕上げられるアンプというものがある、と考えるからだ。
それに剥くは無垢でもあり、
誰かに聴かせるためのアンプではない。

Date: 4月 11th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その9)

ウェストレックスのA10は、初段が6J7(五極管)で、
位相反転回路が一種のオートバランス型で、ここには6SN7が使われている。

そして出力段が350Bのプッシュプル(五極管接続)となっている。
350Bを四本使用のパラレルプッシュプルがA11である。

実際には6J7による前段回路が、初段の前にあるが、
一般的なオーディオアンプとして、A10のレプリカの製作記事では、
この6J7による回路は省かれる。

伊藤先生が無線と実験に発表された349Aのプッシュプルアンプは、
初段がEF86、位相反転回路がE82CC、出力段が349Aとなっていて、
やはり前段の6J7の回路は省かれている。

NFBは出力トランスの二次側からではなく、出力段からでもなく、
位相反転回路から初段へとかけられている。

A10そのままの回路では、300Bの深いバイアス電圧に対して十分な電圧とはならない。
6SN7による位相反転回路の出力電圧は上側の6SN7が30V程度で、
下側は2V弱高くなる。

30Vちょっとでは300Bには足りない。
だから位相反転回路と出力段のあいだにE80CCによる増幅段を挿入する。

信号部には、300Bの二本を含めて、計五本の真空管を使う。
電源部もダイオードではなく整流管にするから、
真空管は六本使うことになる。

この回路で300Bプッシュプルを作りたい、と考えている。
300Bは固定バイアスではなく、自己バイアスにする予定。

NFBのかけ方も、A10に準ずる。
出力トランス、出力管からNFBを戻すようなことはしない。

もちろんそうしたほうが周波数特製も歪率も良くなるのはわかっていても、
そういうことは、ここでの300Bプッシュプルアンプには必要ない、と決めてかかっている。

Date: 3月 18th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その8)

それにしても、ウェスターン・エレクトリックはこういう回路にするのだろうか。
ウェスターン・エレクトリックの機械は、映画館で使われる。
つまりお金を稼ぐ機械である。

だからこそ、音と同じくらいに信頼性の高さが求められる。
故障しにくいこと、故障したとしても修理がすばやく確実に行えること。
そういったことが求められている。

にもかかわらずのTA4767は部品点数を増やし、配線を複雑にする回路を選択している。
故障は部品点数が少なければ発生率は低くなるし、
簡単な回路で配線がシンプルであるほど、修理もしやすくなる。

なのにウェスターン・エレクトリックはそうしない。
そういう回路構成のアンプもある。
けれどそうでないアンプの方が多い。

私が初めてきいた伊藤先生製作のアンプ、
ウェスターン・エレクトリックの349Aのプッシュプルアンプは、
ウェストレックスのA10の回路をベースにしたもので、
位相反転にはオートパランスの一種といえる回路を採用している。

A10も、上側の信号経路と下側の信号経路とでは、信号が徹真空管の数が違う。
もちろんA10も入力トランスを備えている。

こうなるとウェスターン・エレクトリックは意図的に、
上側と下側の信号経路が、いわばアンバランス的になるようにしているとしか考えられない。

あえて、そんなことをするのか。
本当のところは設計者に訊くしかないけれど、もうそれは無理なこと。
想像するしかないことだが、結局のところ、音のはずだ。

伊藤先生はTA4767型の300Bプッシュプルアンプを、《作って見て納得した》と書かれている。
頭で考えれば、V69a型300Bプッシュプルアンプのほうが、
特性的にも音的にも、TA4767型よりも優秀である、ということになる。

けれど、音は理屈で推し量れるとは限らない。
だから私が作りたい300Bプッシュプルアンプは、そういうアンプである。

348Aも310Aも、いまではいい球が入手し難い。
だから私はウェストレックスのA10型の300Bプッシュプルアンプを構想している。

Date: 3月 18th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その7)

誠文堂新光社から1987年に出た伊藤先生の「音響道中膝栗毛」の巻末に、
300Bのプッシュプルアンプの回路図が二つ載っている。

一つはウェスターン・エレクトリックのTA4767をベースにしたモノ、
もう一つはテレフンケンのV69aをベースにしていて、
どちも真空管は前段に348A、出力段に300B、整流管には274Bを使っている。
真空管の本数も348A、300Bが二本ずつ(片チャンネル)で、274Bが一本と同じ。

さらにどちらも入力トランスを搭載している。
けれど前段(348A)の使い方が、この二つの300Bプッシュプルアンプでは違う。

V69aをベースにしたアンプは、
入力トランスからの信号を348Aにそのまま渡している。
つまり前段、出力段ともにプッシュプル動作となっていて、
位相反転回路はない。

入力トランスを使うからこそ、これ以上真空管の本数を減らせないといえる回路で、
伊藤先生は《回路が簡単で安定性が良好であるから》と書かれている。

以前、別項で書いているように、私は349Aのプッシュプルアンプを製作しようとしていた。
その時、V69aと同じ回路構成で作ろうと考えてもいた。
348Aもメッシュタイプも手に入れていた。

プッシュプルアンプならば、こういう回路がいちばん理に適っている、ともいえる。
なのに、考え直した。

伊藤先生の、TA4767をベースにした300Bプッシュプルは、
348Aの前段で位相反転を行っている。
しかもここでの位相反転回路はカソード結合型ではなく、
オートバランス型と呼ばれる回路の一種である。

入力トランスからの信号を上側の348Aが受け増幅する。
この348Aの出力は二つに分岐され、一つは300Bへ、
もう一つは抵抗分割回路を経て、下側の348Aに渡される。
下側の348Aの出力が下側の300Bへと行く。

つまり上側の信号経路は348A→300Bなのに対し、
下側は348A→抵抗アッテネーター→348A→300Bとなる。

そのため部品数はV69a型アンプよりも多くなる。
当然配線もその分複雑になる。

Date: 3月 4th, 2019
Cate: 真空管アンプ

Western Electric 300-B(その6)

そういう300Bプッシュプルアンプならば、ウェスターン・エレクトリックの300Bでなくとも、
数多くある互換球の300Bでいいじゃないか、という考えをもつ人はいよう。

ウェスターン・エレクトリック以外の300Bでは、PSVANあたりかな、と思いはする。
それでも実際にPSVANの300Bで作ろうとしたら、
私のなかにあるウェスターン・エレクトリックの300Bの印象へと少しでも近づけようとする。

そうなるとフィラメントの点火も、定電流点火にしたくなる。
ウェスターン・エレクトリックの300Bと、それ以外の300Bの音の違いは、
理由はあれこれあるだろうが、そのひとつとしてエミッションに起因しているような気もする。

そうであれば安定化という意味でも、
ウェスターン・エレクトリック以外の300Bだと定電流点火にしたくなる。

つまり定電流点火をやらなくするためにも、
私にとってはウェスターン・エレクトリックの300Bなのである。

それじゃ300Bのフィラメントの点火には何も工夫しないかというと、
いくつかのことはやろうと予定している。

ひとつは、別項で何度も書いているCR方法である。
この方法は、スピーカーユニットに対して、これまで効果的であった。
同じことを300Bのフィラメントにも試してみたい。

300Bのフィラメントの定格は5V、1.2Aである。
つまり直流抵抗は約4.16Ωである。

300Bのフィラメントに対して、
4Ωの無誘導巻線抵抗と4pFのコンデンサーを直列接続したものを並列に接続する。

まだ他の真空管でも試していないが、何らかの効果は得られる(はず)と確信している。

同じことを電源トランスの巻線、
つまりフィラメント点火用の巻線にも施す。

あとはフィラメント用の配線材に銀線を使ってみたい。
このくらいのことならば、大がかりではない。

もう回路も決めてある。
コンストラクションもおおまかに決めている。