真空管アンプの存在(KT88プッシュプルとタンノイ・その1)
「タンノイはいぶし銀か」を書き始めたところ。
タンノイの同軸ユニットにはフロントショートホーンが不可欠だ、と、
以前から書いていることをくり返している。
もうひとつ不可欠(フロントショートホーンほどではないが)といえるのが、
KT88のプッシュプルアンプである。
世の中に出ているすべてのKT88プッシュプルアンプを聴いて書いているのではない。
タンノイに接いで聴いているのは、マッキントッシュのMC275、
マイケルソン&オースチンのTVA1、ウエスギ・アンプのU·BROS3、
それからジャディスのJA80(これはパラレルプッシュプル)だけである。
けれど、このどれでタンノイを聴いても、よく鳴ってくれる。
真空管アンプの音が出力管だけで決るわけでないことは重々承知しているが、
それでもタンノイにはKT88プッシュプルだ、と口走りたくなるほど、
それぞれに魅力的、ときには魅惑的な音をタンノイから抽き出してくれる。
JA80で鳴らしたGRFメモリーの音は、フロントショートホーンがついていないけれど、
もうこれでいいのかもしれない……、
そんなふうなある種の諦観に近いところに誘われている感じさえした。
やや白痴美的な音でもあった。
CDで聴いていたのに、以前一度だけ聴いたことのあるカートリッジの音を思い出してもいた。
グラドのSignature IIである。
1979年に199,000円もしていたカートリッジで、
瀬川先生が熊本のオーディオ店に来られた時に持参されていた。
このカートリッジのことは、「ラフマニノフの〝声〟VocaliseとグラドのSignature II」で書いている。
甘美な音がしていたカートリッジだった。
私も、欲しい、と思った。
高校生にはとても手が出せない価格だったけれど。