1981年か82年ごろか、あるオーディオ誌に連載をお持ちのあるオーディオ評論家が、
「ACに極性があるのを見つけたのは私が最初だ」と何度か書いているのを見たことがある。
なぜ、こうもくり返し主張するのか、声高に叫ぶ理由はなんなのか……。
少なくとも、このオーディオ評論家が書く以前から、
ACの極性によって音が変化することは知られていた。
私でも、1976年には知っていた。
この年に出た五味先生の「五味オーディオ教室」に、次のように書いてあったからだ。
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音が変わるのは、いうまでもなく物理的な現象で、そんな気がするといったメンタルな事柄ではない。
ふつう、電源ソケットは、任意の場所に差し込みさえすればアンプに灯がつき、アンプを機能させるから、スイッチをONにするだけでこと足りると一般に考えられているようだが、実際には、ソケットを差し換えると音色──少なくとも音像の焦点は変わるもので、これの実験にはノイズをしらべるのがわかりやすい。
たとえばプリアンプの切替えスイッチをAUXか、PHONOにし、音は鳴らさずにボリュームをいっぱいあげる。どんな優秀な装置だってこうすれば、ジー……というアンプ固有の雑音がきこえてくる。
さてボリュームを元にもどし、電源ソケットを差し換えてふたたびボリュームをあげてみれば、はじめのノイズと音色は違っているはずだ。少なくとも、どちらかのほうがノイズは高くなっている。
よりノイズの低いソケットの差し方が正しいので、セパレーツ・タイプの高級品──つまりチューナー、プリアンプ、メインアンプを別個に接続して機能させる──機種ほど、各部品のこのソケットの差し換えは、音像を鮮明にする上でぜひ試しておく必要があることを、老練なオーディオ愛好家なら知っている。
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これを読んだとき、もちろん即試してみた。お金もかからず、誰でも試せることだから。
たしかにノイズの量、出方が変化する。
もっともノイズでチェックする方法は、
現在の高SN比のオーディオ機器ではすこし無理があるだろう。
音を聴いて判断するのがイチバンだが、テスターでも確認できる。
AC電圧のポジションにして、アース電位を測ってみるといい。
もちろん測定時は、他の機器との接続はすべて外しておく。
ここで考えてみてほしいのは、
なぜ五味先生はACの極性によって音が変化することに気づかれたかだ。
マッキントッシュのMC275に電源スイッチがなかったためだと思う。
五味先生が惚れ込んでおられたMC275だけでなく、マッキントッシュの他のパワーアンプ、
MC240も、MC30などもないし、マランツのパワーアンプの#2、#5、#8(B)にも電源スイッチはない。
マッキントッシュの真空管アンプで電源スイッチがあるのは、超弩級のMC3500、マランツは#9だけである。
MC275の電源の入れ切れは、
コントロールアンプのC22のスイッチドのACアウトレットからとって連動させるか、
壁のコンセントから取り、抜き挿すするか、である。
あれだけ音にこだわっておられた五味先生だから、おそらく壁のコンセントに直に挿され、
その都度、抜き差しされていたから、ACの極性による音の変化に気付かれたのだろう。
なにも五味先生に限らない。
当時マランツの#2や#8を使っていた人、マッキントッシュの他のアンプを使っていた人たちも、
使っているうちに気づかれていたはずだ。
だから五味先生は「老練なオーディオ愛好家なら知っている」と書かれている。
そして、誰も「オレが見つけたんだ」、などと言ったりしていない。