Archive for category BBCモニター

Date: 9月 7th, 2011
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その9)

山中先生は、この点どうかというと、パトリシアン600を使われていることからもわかるように、
背の高いスピーカーシステムに対して、瀬川先生のように拒否されるところはないわけだが、
以前書いたように、QUADのESLを、ぐっと思いきって上にあげて前に傾けるようにして聴くといいよ、
と、ESLを使っているときにアドバイスしてくださったことから、
むしろ瀬川先生とは反対に背の高いスピーカーシステム、
もしくは目(耳)の高さよりも上から音が聴こえてくることを好まれていたのでないか、とも思う。

スピーカーシステムの背の高さ(音が出る位置の高さ)を強く意識される方もいれば、
ほとんど意識されない方もいる。
これはどうでもいいことのように思えても、スピーカーシステムの背の高さを強く意識されている方の評価と、
そうでない方の評価は、そこになにがしかの微妙な違いにつながっていっているはず。

だから、なぜその人が、
そのスピーカーシステムを選択されたのか(選択しなかったのか)に関係してくることがあるのを、
まったく無視するわけにはいかないことだけは、頭の片隅にとどめておきたい。

メリディアンのM20もQUADのESLも、そのまま置けば仰角がつく。
フロントバッフル(もしくはパネル面)がすこし後ろに傾斜した状態になる。
これは何を意味しているのか、と思うことがある。
そして、メリディアンのM20をつくった人たち、QUADのピーター・ウォーカーは、
どんな椅子にすわっていたのか、とも思う。
その椅子の高さはソファのように低いものなのか、それともある程度の高さがあるものなのか。

私の勝手な想像にすぎないが、椅子の高さはあったのではないか、と思っている。
このことはESL、M20がかなでる音量とも関係してのことのはずだ。

Date: 9月 6th, 2011
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その8)

井上先生は「見えるような臨場感」、「音を聴くというよりは音像が見えるようにクッキリとしている」と、
瀬川先生は「精巧な縮尺模型を眺める驚きに緻密な音場再現」、
「眼前に広々としたステレオの空間が現出し、その中で楽器や歌手の位置が薄気味悪いほどシャープに定位する」、
こんなふうに表現されている。

どちらも視覚的イメージにつながる書き方をされている。
それこそガリバーが小人の国のオーケストラや歌手の歌を聴くのと同じような感覚が、そこにはある。
いうまでもなく、これは正しくLS3/5Aを設置して、正しい位置で聴いてこそ得られるものであって、
いいかげんな設置、いいかげんな位置で聴いていては、このような音場感は得られないし、
そうなるとLS3/5Aはパワーも入らないし、低域もそれほど低いところまでカヴァーできないし……など、
いいところなどないスピーカーシステムのように思われるだろうが、
それは鳴らし方・聴き方に問題がある、といえる。

とにかく、そういうLS3/5Aが小音量時に聴かせてくれる、
「見えるような臨場感」を、私は、LS3/5Aをすこしばかり上から眺めるような位置で聴きたい、と思う。

スピーカーシステムの位置と耳の位置の、それぞれの高さの関係については、
使っているスピーカーシステムによっても、その人の聴き方にも関係してくることであって、
ここには正解は存在しない、といえる。

たとえば瀬川先生は、背の高いスピーカーシステムを好まれない。
というよりも、音楽之友社から出ていた「ステレオのすべて」の1976年版のなかで、
菅野先生、山中先生との鼎談「オーディオの中の新しい音、古い音」でこう語られている。
     *
たとえば見た目から言ったってね、ぼくはご在じの通りね、昔から背の高いスピーカー嫌いなんです。どうしても目の高さよりね、音の出て来る位置が高くなっちゃうとね、なんだか全然落ち着かないわけね。これは本当に、この部屋に入って来て座った時から、見れば見るほど、ますます大きくなっていく感じがするわけね。すごい背が高い。
 ちっとも小さくならない、慣れても。たとえばこういう大きいスピーカーだったらぽくはどうしたって横倒しにしちゃいたいぐらいの感じです。これは横倒しにできないスピーカーだけれども。
     *
ここで語られている「この部屋」とは山中先生のリスニングルームであり、
「横倒しにしちゃいたい」スピーカーシステムは、エレクトロボイスのパトリシアン600のことである。

Date: 9月 5th, 2011
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その7)

CDの登場は、アナログディスクにはつきものであったサブソニックから解放されたことであり、
LS3/5Aにかぎらず、1970年代に開発されたBBCモニタースピーカーに共通してあった耐入力のなさは、
ある程度解消されていった。
あきからにLS3/5Aから得られる音量は、CDによって増していた。
もっとも、増した、といっても、あくまでもLS3/5Aでの話ではある。

CDの普及とともに、LS3/5Aサイズの小型スピーカーシステム用のスタンドがいくつか出はじめたことも関係してか、
LS3/5Aは、CD登場以前とは異る聴き方がされるようになってきた。

それまでは(アナログディスク時代)は、スタンドは使わず、
しっかりした造りの机の上に、手の届く距離に置いて聴く、というスタイルが多かったのではないだろうか。
すくなくとも私は、瀬川先生や井上先生がLS3/5Aについて書かれたものを読んで、
そういう使い方をイメージしていた。

こういう置き方を含め、低域の適切なコントロールなど、
制限された使いこなしの中でうまく鳴らしたとき、LS3/5Aの魅力は最大に発揮される──、
こんなふうにも思っていた。

実際にそうやって聴くLS3/5Aのひっそりとした親密な空気をかもしだす雰囲気は、
聴く音楽も音量も聴取位置も限定されるけれど、そんなことを厭わず鳴らしたときの魅力は、
何度でも書きたくなるほどのものを、私は感じている。

でも、いい変えれば、やや面倒なスピーカーシステムといえなくもなかったのが、
CDの安定した低域によって、すこしばかり気軽に鳴らせるようになった。

いまLS3/5Aをお使いの方は、スタンドに乗せて、という方が多いのかもしれない。
けれども、私にとっては、机の上に置くスピーカーシステムであり、
つまりこのことはスピーカーを上から眺めるようなかたちで聴く、ということでもある。

Date: 9月 5th, 2011
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その6)

CDが登場する以前、アナログディスクがメインのプログラムソースであったころには、
LS3/5Aを鳴らすコツのひとつとして低域の適切なコントロールがあげられていた。
サブソニックによってLS3/5Aの小口径のウーファーがフラフラしていたら、
ただでさえ耐入力不足のところに、さらに不利な再生条件になってしまう。

ステレオサウンドでの組合せでQUADの405がよくとりあげられていたのも、このことが関係している。
405は大出力になると低域をカットするような設計になっている。
同じことは管球式パワーアンプについても、いえる。
アウトプットトランスを背負っていないOTLアンプは関係ないが、
アウトプットトランスの性格上、管球式パワーアンプの周波数特性をみると、
1W出力時と定格出力時とでは、低域のカットオフ周波数が、定格出力時ではどうしても高くなってしまう。
これはアウトプットトランスの性格上避けられないことでもある。

1982年にラジオ技術別冊として出た「集大成 真空管パワー・アンプ」の巻頭に、
管球式パワーアンプ15機種の回路図と実測データが載っている。
QUAD II、サンスイ AU111、ダイナコ MKIII、ダイナベクター DV8250、テクニクス 20A、40A、
デンオン POA1000B、フッターマン H3、マイケルソン&オースチン TVA1、マッキントッシュ MC275、MC3500、
マランツ Model 98、ラックス MQ36、MQ68C、SQ38FD。
測定を担当されたのは、オーディオノートの創設者、近藤公康氏。

これら15機種のなかでOTL方式なのは、テクニクスの20A、ラックスのMQ36、フッターマンのH3だけで、
残り12機種はすべてアウトプットトランスをもつ。

周波数特性は1W出力時、10W出力時、定格出力時の3つのデータが載っている。
出力に余裕があるアンプ、もしくは設計の新しいアンプでは、
!W出力時と10W出力時の周波数特性はほぼ同じか、すこしだけ低域のカットオフ周波数が上昇する傾向があるが、
小出力のものでは1Wと10W出力時でもずいぶんカットオフ周波数が違うものがあり、
定格出力時では200Hzあたりから低域のレスポンスが下降していくアンプもある。

ソリッドステートの優秀なパワーアンプの周波数特性と比較すると、
なんというひどい周波数特性なんだ、ということになりそうだが、
LS3/5Aのようなスピーカーシステムにとっては、これはむしろいい方向に働くこともある。

Date: 9月 4th, 2011
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その5)

メリディアンのM20はパワーアンプ内蔵の、メリディアンがアクティヴラウドスピーカーシステムと呼ぶもので、
使用ユニットはウーファーが11cm口径のベクストレン・コーン型、トゥイーターは35mm口径のソフトドーム型で、
トゥイーターを2発のウーファーで挟み込むインライン配置、つまり仮想同軸配置を採用している。
内蔵パワーアンプはウーファー用が70W、トゥイーター用が35Wの出力によるバイアンプ仕様。

見た目はこれといった特徴的なところはない、地味な印象のほうが強いスピーカーシステムだから、
期待はほとんどしていなかった。
だから、音が鳴ってきた瞬間に、M20が醸し出す、いい雰囲気の音に、どきっとした。
LS3/5Aの音をスケールアップした音が、いまここで鳴っている──、
その事実に、とにかく嬉しくなった。

実は試聴の前に、サランネットを外してユニットを見たわけではなかった。
もともと期待していなかったスピーカーシステムだったから、
サランネットを外すことなく音を聴くことになったわけで、だからこそ驚きは大きかった。

試聴が終り、好奇心からネットを外すと、そこにはLS3/5Aで見慣れたウーファーがあった。

ウーファーのメーカーについては発表されていないが、あきらかにKEFのB110である。
LS3/5Aと同じウーファーを奥行きが38cmと、かなり深いバスレフ型エンクロージュアにおさめている。
内容積は、LS3/5Aにくらべかなり余裕をもったものとなっている。

トゥイーターはLS3/5Aに搭載されているKEFのT27ではないが、
これも見た目から判断するとKEFのユニットだと思われる。

KEFの105のような厳格さは、メリディアンのM20にはない。
もっと音楽を楽しんで聴く、という目的のためには、
結果として、わずかな音の演出を認めているようにも聴き手には感じられるM20の音は、
艶っぽく、底光りする音で、品位も高く、LS3/5Aには求められなかったスケール感がある。

そのスケール感は大型フロアー型のようなスケールの大きさではないけれど、
当時(1980年代まで)のイギリス的な家庭で楽しむ音量としては、充分なスケールがあった。

いま、この音を聴かせてくれたM20(現物)を、そのまま持ち帰りたくなるくらい、
私にとってはLS3/5Aの、正しく延長線上にあるスピーカーシステムだった。

Date: 9月 3rd, 2011
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その4)

Reference Systemは一度聴いてみたかった。
XA75に内蔵されているパワーアンプではなく別途、サブウーファー用にパワーアンプを用意すれば、
より高品質な音が得られる可能性は、Reference Systemにはあったことだろうが、
写真でみるかぎりでは、大型エンクロージュアの上に、ポツンとLS3/5Aが乗っかっている感じで、
システムとしてのまとめ方のよさ──
しかもそれがロジャース純正であるだけにそういったことをより強く求めたくなるものだが──、
残念ながら備えていなかったように思える。

LS3/5Aのよさをいささか損なうことなく、スケール感をもうすこし欲することは無理な要求なのだろうか……。
KEFの105(Uni-Qユニット採用の105ではない)は、
それに近い印象を受けていたけれど、LS3/5Aの底光りする品位の良さまでは、
KEFの音は磨きあげられていないようも感じた。
105も、もちろん高品位でこれ単体で聴いている分には、その点に関しては申し分なく感じけれども、
すこし厳格すぎる性格、というか真面目すぎる性格が禍しているのだろうか、
音楽をより魅力的に響かせる方向での音の磨き方ではないようなところがある。

LS3/5Aの音には、私は、磨かれることで底光りしている音は、黒光りしている、とも感じている。
この光りの感じに、私は惚れてきたところがある。

だから、この磨きあげられることで生れてくる光りが音の中にはあり、
あとすこしのスケール感を……、ということになると、
そう難しくはないようなことに思えがちだが、意外に、そういう要求を満たしてくれるスピーカーシステムは少ない。

私がステレオサウンドにいたころ、ひとつだけ出合えた。
メリディアンのM20である。

Date: 9月 3rd, 2011
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その3)

LS3/5A──、私にとってのLS3/5Aは最初に聴いたものも、
そののち手に入れたものもロジャースの15Ωタイプだったので、
私にとってのLS3/5Aといえば、ロジャース製のモノということになる。

ロジャースのLS3/5Aが、
パワーに弱い(音量を上げられない)、低音は出ないなどのいくつかの欠点をもっていながらも
日本では高い評価と人気を獲得したこともあってなのかどうかははっきりとしないが、
イギリスの各スピーカーメーカーからも、LS3/5Aが登場した。
KEF、スペンドール、チャートウェル、オーディオマスターなどがある。
これらすべて同一条件では聴いたわけではないし、チャートウェルのLS3/5Aは聴いたこともない。

同じ規格でつくられてはいても、製造メーカーが異るとLS3/5Aの音も微妙に違ってくる。
LS3/5Aに高い関心をもつ者にとっては、
どのLS3/5Aが音がいいのか、もしくは自分の求める音に近いのかが気になるところだろうが、
私はといえば、それぞれのメーカーの音の差に関心はあるけれど、
それでも私にとってのLS3/5AはロジャースのLS3/5Aであり、
ロジャースのLS3/5Aは他社製のLS3/5Aよりも、多少劣る面を持っていたとしても、
それはそれでいいではないか、と思っているところがある。

私が気になるのは、LS3/5Aそれぞれの音の違いではなくて、
LS3/5Aの良さを受け継いで、あとほんのすこしスケール豊かに鳴ってくれるスピーカーシステムに関して、である。

LS3/5Aの欠点を解消するために、ロジャースからはサブウーファーが2度、登場している。
最初はL35Bと呼ばれるもので、33cm口径のウーファーをW46×H83×D42cmの密閉型エンクロージュアにおさめ、
このエンクロージュア上部の指定された位置にLS3/5Aを置くようになっている。
LS3/5Aとのクロスオーバ周波数は150Hzで、
専用のエレクトロニック・デヴァイディングネットワークXA75にはパワーアンプも搭載されており、
L35BとXA75、そしてLS3/5Aによるシステムを、ロジャースはReference Systemと名づけていた。
1978年の製品だ。

2度目は、1990年代なかばごろに登場したAB1がある。
このモデルはLS3/5AのウーファーB110を採用し、シンメトカリーロデット方式とよばれるエンクロージュアを採用、
このサブウーファーの出力は、B110から直接ではなく、
エンクロージュア上部サイドに設けられているポートから、となっている。
AB1にはLS3/5A用の出力端子が備えられていて、バイアンプ仕様のReference Systemとは異り、
それまでLS3/5Aを鳴らしてきたシステムにそのまま組み込める簡便さをもっていた。

Date: 8月 9th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×十九 K+Hのこと)

30年近く前に読んだ記事の中に、新時代の戦闘機はコンピューターによる制御を組み込むことで、
それまでは腕のいいベテランパイロットにしかできなかったアクロバット飛行が、
ふつうの技倆のパイロットでも安全に可能になる、とあった。

つまりアクロバット飛行は、わざと不安定な飛行状態をつくりだすことによって可能になるもので、
安定に飛行するように設計されているのを、そういう不安定な状態にもっていき制御することの難しさがある。
だからあえて不安定な飛行をする設計をしたうえで、コンピューター制御によって安定な飛行状態にする。
そんな内容だったと記憶している。

それが実現されているのかどうかは、わからないが、
少なくともこの記事は、より高性能を求め実現するためにはハードウェアの進歩だけでは限界があり、
ハードウェアとソフトウェアがひとつになることで進化できる、と、いまだったらそう読み取れる。

私がK+HのO500Cについて触れてきたのは、実のはこのことを、
非常に高いレベルで実現したスピーカーシステムだとみているからだ。

これまでにもアンプをスピーカーシステム内に組込み、それだけでなく電気的な補整を行っているものはあった。
けれど、それらがO500Cのレベルにまで達していたかというと、私の目にはそうは見えない。
多くがハードウェアのみであったり、ソフトウェアでのコントロールを導入していても、
ハードウェアとソフトウェアの融合とまでいえるところには達していなかったのではないか。

私が知らないだけで、他にもO500Cと同じレベルに達しているスピーカーシステムがある可能性はある。
でも、まだごく少ないはずだし、おそらくそれはプロ用のスピーカーシステムであろう、O500Cがそうであるように。

ここまでお読みくださって、なぜドイツのメーカーのK+Hのことを書いているのに、
タイトルは「BBCモニター考」なのか疑問に思われただろう。

あえてこのタイトルにしたのは、O500Cを生み出すに至った測定方法は元をたどれば、
BBCの研究開発にいくつくからだ。
「現代スピーカー考」に書いたこととダブるからこれ以上は書かないが、
BBCに在籍していたショーターが実現を夢見ていたスピーカーシステム像が、
K+HのO500Cによって実現された、と私はそう思っているからだ。

Date: 8月 9th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×十八 K+Hのこと)

部屋に残響特性がなかったとしたら、
ようするに無響室で聴くのと同じことだから部屋とスピーカーシステムとの相性は存在しなくなる。
でも、誰ひとりとして無響室でスピーカーと向き合って音楽を聴きたいと思っている人はいない。

スピーカーシステムの累積スペクトラムは、スピーカーシステム残響特性だと書いた。
あるスピーカーシステムの累積スペクトラムで、
たとえば100Hzあたりの減衰がなかなかおさまらずに、しかもうねったような感じになっていたら、
そしてそのスピーカーシステムを設置した部屋に100Hzの強烈な定在波が発生していたら……。
部屋の悪いところ、スピーカーシステムのそういう悪いところが一致したら、どうなるかは容易に想像がつく。

ならばスピーカーシステムの累積スペクトラムが、K+HのO500Cのように見事な特性だったら、
部屋のクセがスピーカーのクセを強調するということはなくなる。
それで、その部屋固有の響きが消えてなくなるわけではないけれど、
部屋の悪さがスピーカーシステムによってことさら強調されることはなくなるはずだ。

結局、音が鳴り止んでも、つまりアンプからの入力がゼロになっても、
どんなスピーカーシステムでも、ほんのわずかとはいえ、ユニットからエンクロージュアから音が出ている。
この音が尾を引くようなスピーカーシステムは、部屋の影響を受ける、というか、
部屋の悪さと相乗効果を起しやすいため、場合によっては手がつけられなくなる。
この問題点は、グラフィックイコライザーで、
その問題となっている周波数をぐっとレベルをさげたところで解消されることはない。

グラフィックイコライザーだけでなく、パラメトリックイコライザー、トーンコントロールも含めて、
電気的に周波数特性を変化させることで解消できることはあるし、うまく作用するところもある。
けれどそうでないところも確実にある。
どんなにいじっても電気的には解消できない問題点がひどく発生することもあるし、
そういう電気的な周波数変化でいじってはいけないところがある。

Date: 7月 23rd, 2011
Cate: BBCモニター, イコライザー

BBCモニター考(余談・グラフィックイコライザーのこと)

グラフィックイコライザーは進歩してきている。
まず素子数が増えてきて、S/N比も向上してきて、最近では低価格化の方向へも向っている製品もある。
そしてアナログからデジタルへと処理そのものが変化している。

道具としてグラフィックイコライザーが変化・進歩してきているわけだから、
グラフィックイコライザーに対する見方も、変化していって当然だと思う。

昔のグラフィックイコライザーのイメージを引っ張ったまま、
現在の良質なグラフィックイコライザーを判断することはできない。
グラフィックイコライザーに対する捉え方・考え方は、柔軟でありたい。
必要と感じたら使ってみる、試してみたいと思ったら臆せず使ってみる、というふうに、である。

ただひとつ気をつけたいのは聴取位置からすぐに手の届くところにグラフィックイコライザーを、
使いはじめたころは、どうしても置きたくなる。
早く使いこなせるようになるためにも、すぐにツマミをいじれるように、と近くに置いてしまう。
このやり方は、ある期限を決めておいたほうがいい。
そうしないと、いつまでたっても椅子から立たずにいじれることに、面白さとともに楽さをおぼえてしまうからだ。

それまでだったら、どこか気になる音が出ていたら、こういう音を出したいと思ったら、
椅子から立ち上がりスピーカーのところに行ったり、アンプやプレーヤーのところへ向った。
それがグラフィックイコライザーが聴取位置のすぐ近くにあれば、
つい楽な方を選んでしまうことに、本人が気がつかぬうちに陥っている。
そうなってくると、グラフィックイコライザーに頼り過ぎることへ向う危険性が生れてくる。

グラフィックイコライザーは、アナログだろうがデジタルだろうが電気的に信号処理することに変りはない。
この電気的だけの信号処理に頼り過ぎてしまうと、つまり電気的だけで合せてしまうと、
ある録音(レコード)ではうまくいくけれども、もっといえば、あるレコードのある一部分(パッセージ)だけは、
とてもうまくなっても、そこからはずれてしまうと精彩を欠いた音になったり、
そのまま違う録音を鳴らしたら、ひどい場合には音楽を変質させてしまうこともないわけではない。

そうなると、今度は、いまどきのグラフィックイコライザーの中にはメモリー機能を搭載しているものもあるから、
音楽のジャンルや録音、レーベルの違いなどによって、イコライザーカーヴをいくつも設定して、
それらを再生するたびに違うカーヴを呼び出すことになる。

それでも音楽は時間とともに変化していくものである。ひとつの曲の中でも音楽は変化している。
グラフィックイコライザーに頼り過ぎた使い方から生じたカーヴは、いわゆるスタティックなバランスであって、
ごく狭い範囲ではそれが活きることはあっても、動的な音楽の変化には対応し切れず、
中には曲の途中でカーヴをいじるということになる。

こうなってしまったら、グラフィックイコライザーに頼り過ぎである。

椅子から立ち上ること、離れることを忘れてしまっては、うまくいかない。
それに似た陥し穴が、いまPCオーディオ、コンピューターオーディオと呼ばれているものにもある。

Date: 7月 19th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×十七 K+Hのこと)

平行面が存在していたら、定在波が発生する。
物理現象である定在波は、律義なことに、どんなに狭い面積であっても平行面があれば、そこに発生する。
このくらいのごく小さな平行面ぐらい見逃してよ、といったことは通用しない。

この定在波が、スピーカーからの音に悪影響を与える。
無響室でどれだけフラットな周波数特性を誇っていたスピーカーシステムでも、
定在波がひどく発生している部屋にもちこみ、聴取位置で周波数特性を測れば低域にピーク・ディップを生じる。
このピーク・ディップを、電気的に、つまりグラフィックイコライザーによる補整で抑え込むというのは、
ひとつの手法ではあるけれども、音響的なピーク・ディップを電気的に完全に補整することはまず無理だと思う。
とくに音響的なディップは、電気的に補整することはまず無理だと思っていい。
グラフィックイコライザーの使いこなしをきちんと身につけて、じっくりと取り組むことで、
定在波による音の癖をある程度抑え込む、というよりも、うまくごまかすことはできても、解消できるとはいえない。

グラフィックイコライザーにできること、と、できないことがある、ということ。
使いこなせれば万能というわけではない、ということ。
でも、そのことを踏まえて使いこなせれば、グラフィックイコライザーは有効な手段でもある。
グラフィックイコライザーの有効性を唱える人の中には、
グラフィックイコライザーに頼り過ぎではないか、と思われる人もいる。

グラフィックイコライザーに頼り過ぎる前に、いろいろやることはある。
そうやっていくうちに気がつくのは、ひどく癖のある部屋なのに、
スピーカーシステムによって癖の感じ方に差がある、ということだ。

部屋の癖の影響をもろに受けてしまって精彩を欠く鳴り方しかできないスピーカーシステムがある一方で、
不思議なことに、それほど癖の影響を受けていないかのように鳴ってくれるスピーカーシステムがある。

これを部屋とスピーカーシステムの相性という一言で片づけてしまっていいのだろうか。
以前は指向特性の狭いスピーカーシステムのほうが部屋の影響を受けにくい、などといわれていた。
だけど、私の経験では指向特性と部屋の影響、特に定在波の悪影響を受けやすい、受けにくいは関係ない、といえる。

関係してくるのは、スピーカーシステムの累積スペクトラムとインパルス応答だと思う。

Date: 7月 9th, 2011
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その2)

BBCモニターの開発過程における試聴プログラムソースに、
音楽だけではなくアナウンサー(主に男性)の朗読も使われていたのはよく知られていることだ。

そのこととLS3/5Aのサイズのことを一緒くたにして、
LS3/5Aというスピーカーはアナウンサーの声のチェック用モニターであって、
音楽を聴くために開発されたスピーカーではない──、
こんなことを言う人が、残念ながらいる。

KEFの創立者であるレイモンド・クックも、音楽以外にアナウンサーの声でチェックしている、と、
音楽之友社から出ている「ステレオのすべて ’75」の中で語っている。
レイモンド・クックは、BBCモニターの開発にも携わっていた人だから、
その開発手法のよいところは、そのまま受け継いでいるからだろうと思われるが、
クックは、音楽を聴いているとマスクされてしまうピーク、あるいはディップといった欠点が、
アナウンサーのスピーチでは聴きとれるからだ、としている。

「ステレオのすべて ’75」の、クックの発言は日本語訳がわかりにくいところがあるうえに、
省略されていると思われるところもある。
だから読み手側でクックの発言を深読み、というか、補うような読み方をしなければならない。

私なりの読み方では、次のようなことだと思う。
音楽がプログラムソースでは、音の強弱がある。ピアニッシモもあればフォルティッシモもあって、
大編成のオーケストラで優秀録音であればダイナミックレンジは広い。
その反対にアナウンサーのスピーチに、音楽のような、広い音の強弱はない。
クックのいうアナウンサーのスピーチは、朗読家による小説の朗読の類いではなく、
おそらくニュース原稿を読むアナウンサーのそれであろう。

それに音楽とスピーチとでは、録音に使うマイクロフォンの数とその使い方が大きく違う。
モノーラルならばスピーチの録音に使われるマイクロフォンの数は1本、
そこに凝った録音手法は使われることはない。

こういう違いのある音楽の音源と、スピーチの音源の両方を使い、
スピーカーシステムの開発を行っている、ということであって、
スピーチ用のスピーカーシステムとして作っているわけではない、ということだ。

Date: 6月 17th, 2011
Cate: BBCモニター, LS3/5A

BBCモニター考(LS3/5Aのこと・その1)

今年、ロジャースは創立65周年にあたり、記念モデルとしてLS3/5Aを復刻している。
ロジャースは2008年にもLS3/5Aを復刻している。

このふたつの復刻LS3/5Aは当然おなじものなはずはなく、細部の使用は異っている。
2008年版は、オリジナルのLS3/5Aを範として、現在入手できるスピーカーユニットで再現したもの。
今回の65周年LS3/5Aは、元のユニット、
つまりウーファーはKEFのB110、トゥイーターはKEFのT27そのものをできるかぎり再現したものが、
使われている、とのこと。

それ以上の情報をまだ得ることはできないが、少なくとも写真を見るかぎり、
B110、T27そっくりに仕上がっている、といえる。
B110の振動板のてかり具合も、(あくまでも写真の上ではあるが)見事に再現されている。

2008年版LS3/5Aには興味をもてなかったのに、これは気になっている。
できるだけ早く聴いてみたい、とさえ思っている。

ウェブサイトに公開されている写真を見て、私と同じように思う人もいる一方で、
どうせ中国製だから、と音も聴かずに、関心をもたない人もいるはずだ。

確かに中国製なのだろう。
でも写真のままのLS3/5Aが登場してきたら、そのことはさほど気にすることはないはずだ。
ここまでのものが作れる、という事実に、日本製だろうと、イギリス製だろうと、中国製だろうと、
それは本質的な違いとなって音に現れることなのだろうか。

もちろん中国で作られている製品のすべてが良質なものでないことはわかっている。
ひどいものがある。けれど、素晴らしいものも、やはりある。

たとえばTADのスピーカーシステムは、中国で生産されている。
このことはオーディオアクセサリー誌だったと思うが、記事になっているからご存じの方も多いだろう。

何も知らずにTADのスピーカーシステムを見て、聴いて、中国製だとわかる人がいるだろうか。

心情的にはイギリス製であってほしい、という気持は、これを書いている私にもある。
でも音を聴かずに、実物を見ずもせずに、ただ中国製だから、ということで、関心をなくしてしまうのは、
もったいないこと、というよりも愚かに近い行為だと思う。

Date: 6月 11th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×十六 K+Hのこと)

累積スペクトラムを、私はスピーカーシステムの残響特性と捉えている。
いうまでもなく、そのスピーカーシステムを設置して鳴らす実際の部屋にも、
それぞれの部屋固有の、千差万別の残響特性がある。

残響特性が、スピーカーシステムにも、部屋にも存在しているために、互いに影響しあい、
部屋が変れば同じスピーカーシステムがまったく別物のように響くことだってある。

オーディオ・コンポーネントの間にも、相性はある。
それは使いこなしでどうにかある領域もあれば、やはりそれぞれの機器同士の相性は、
これからどんなにオーディオ機器が進歩していったとしても、
スピーカーの発音原理がいまのままである以上、スピーカーとアンプとのあいだには相性は残り続ける。

そういう相性とすこし性格の異るところで、部屋とスピーカーシステムの相性がある。
スピーカーシステム選びの難しさの要因のひとつが、ここにある、ともいえる。

極端な話、無響室で聴くのであれば、無響室とスピーカーシステムとの相性は存在しない。
だが、そんなところで音楽を聴くわけではない。
恵まれた環境であったとしても、部屋の広さは有限であり、有限である以上残響が生じる。

残響はその部屋の固有音であり、
累積スペクトラムで表示される音が鳴り止んだときのスピーカーシステムの固有音があり、
このふたつがどういうふうに干渉しているのか、くわしく知りたいところでもある。

置き場所を変えてみる、向きをこまかく調整していく──、そういったスピーカーシステムの調整とは、
スピーカーシステムの残響特性と部屋との残響特性との折り合えるポイントを見つけていくことでもある気がする。

相性のいい部屋とスピーカーシステムであればそれほど苦労しなくてもすむことを、
相性の悪い部屋とスピーカーシステムであれば、たいへんな苦労となっていく。

でも、どちらかがほぼ理想的な残響特性をもっている(実現できている)としたら、
この部屋とスピーカーのシステムの相性の問題は、ずっと軽減されるはずだ。

Date: 6月 11th, 2011
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(余談・続×十五 K+Hのこと)

アナログ技術だけだった時代のオーディオよりも、
デジタル技術をとりいれることによってオーディオは、
ハードウェアとソフトウェアの融合が一歩も二歩も先に進んだ、
そしてK+HのO500Cは、その成功例のひとつだ、と私は思っている。

技術は進歩していても、2000年の時点で、O500Cがあれだけの特性を実現できたのは、
ハードウェアの進歩だけではなくて、
スピーカーのコントロール/マネージメントというソフトウェアがあってこそもののはずだ。

今日現在、O500Cの後継機種の情報はなにもない。それでも必ず出てくるはずだと思っている。
なぜかといえば、O500Cが、1976年に登場したO92からつづくFollow-up modelであるからだ。
しかもO500Cはフラッグシップモデルでもある。
そしてハードウェアとソフトウェアが、もっとも緊密に融合したスピーカーシステムでもあるからだ。
このO500Cが、このまま消えてしまうのは、なんとももったいないことであり、大きな損失ではないだろうか。

O500Cは実物を見たこともないから音も聴いたわけではない。
それでもひとついえることは、従来のスピーカーシステムよりも部屋の影響を受けにくい、
部屋との相性をそれほど問題にしなくてもすむスピーカーシステムだと予想する。

それはO500Cのインパルスレスポンスと累積スペクトラムの特性の見事な優秀さ、からである。