オーディオ 夢モノがたり(その11)
カッターヘッドを手にしたことのある人なら、
カートリッジとカッターヘッドの大きさと重さの違いにびっくりされるはずだ。
写真を見て、カッターヘッドの大きさはなんとなくわかっていた。
あれだけのサイズだから、けっこうな重さであろうこともわかっていたにもかかわらず、
ウェストレックスのカッターヘッドを手にしたときは、やはりびっくりした。
理屈ではわかる。
ラッカー盤に溝を刻んでいくメカニズムである。
カートリッジのような繊細さとは対極のところにあるモノだ、と。
カートリッジもカッターヘッドも、アンプに接続されている。
カートリッジはイコライザーアンプの入力へ、
カッターヘッドはパワーアンプの出力へ、と接続されている。
カートリッジが扱う電力は、極微小だ。
オルトフォンのSPUで41.66nW、シュアーのV15 TypeIIIで0.2606nW程度である。
(「図説・MC型カートリッジの研究」より)
カッターヘッドを駆動するパワーアンプの出力は、大きいものでは数百Wである。
似ているようでいて、規模において大きく違うカートリッジとカッターヘッド。
だからこそカッターヘッドの構造を置き換えたようなカートリッジの難しさがあることにつながっていく。
オルトフォンのカッターヘッドDS731/732は、
カッティング針がロッキングブリッジと呼ばれる部材に取り付けられていて、
このロッキングブリッジの両端を、それぞれコイルが駆動する。
ロッキングブリッジとコイルとの間には、フレキシブルジョイントが介在している。
このフレキシブルジョイントがなければDS731/732は動作しないはずであり、
オルトフォンのカッターヘッド的構造のカートリッジを考える場合、
この部分をどうするのかが大きな問題である。
カッターヘッドの、あのサイズだからできる構造を、
そのままカートリッジのサイズに持ち込もうとするのは無謀である。
フレキシブルジョイントをなくして、カートリッジとして動作するためにはどうしたらいいのか。
いわゆるコイルにとらわれていては、解決できそうになかった。
リボンならば、という発想に切り替えてみると、なんとかなりそうな構造になる。
ただしリボンといってもフラットなリボンではなく、
いわゆるプリーツ状のリボンということになる。