オーディオ 夢モノがたり(その10)
カートリッジの発電方式にはいくつかある。
代表的といえるのはMM型とMC型であり、MC型カートリッジといっても、
その内部構造は実にさまざまである。
空芯コイル、鉄芯入りコイルといった違いだけでなく、
コイルの形状、その取り付け方、マグネットを含む磁気回路、
ダンパー、リード線の引き出し方の違いなど、多種多様である。
MC型カートリッジの教科書といえるのが、
1978年のステレオサウンド別冊「図説・MC型カートリッジの研究」である。
長島先生の本であり、HIGH-TECHNIC SERIESの二冊目である。
この本についてはこれまでにも何度か触れている。
いまもよく開く一冊である。
この本に、オルトフォンのカッターヘッドDSS731/732の構造図が載っている。
カッターヘッドは、ウェストレックス、ノイマンが有名であり、
ウェストレックスには10A、ノイマンにはDSTというカートリッジがあった。
どちらもラッカー盤検聴用カートリッジといわれている。
ウェストレックス、ノイマンに対してオルトフォンの場合は、
たしかにカートリッジはいくつもある。
カートリッジの種類、数はウェストレックス、ノイマンよりもはるかに多い。
けれどオルトフォンのカートリッジの構造は、
ウェストレックス10A、ノイマンDSTとは異る。
「図説・MC型カートリッジの研究」を読んだ時から、
なぜオルトフォンには、DS731/732の構造のままカートリッジが存在しないのか、
と思っている。
カッターヘッドをそのままカートリッジに置き換えたような構造が、
いかに大変なのかは理解している。
この種のカートリッジが、これまでにどれだけ登場したのかを振り返れば、わかることだ。
使いこなしも難しい。一般的なカートリッジとはいえない。
それでもこの種のカートリッジには夢がある、といえよう。
ダイアモンドの針先の真上で発電する。
この困難なことに挑戦してきたカートリッジの設計者がいて、実際の製品が登場してきた。
私も、ときどき思い出しては考えている。
どうすれば実現できるのか。
実現できそうな構造を考え出せるのか。
その度にDS731/732の構造図を見ていた。