Archive for category デザイン

Date: 9月 21st, 2014
Cate: デザイン

TDK MA-Rというデザイン(その5)

TDKのMA-Rは、パイオニアのCT-A1、アイワのAD-F55Mの広告以外にも、
ステレオサウンド 55号ではビクターのKD-A66、ティアックのC3の広告にも登場した。
56号ではアカイのGX-F90、59号ではアカイのGX-F95、ティアックのV3RX、V5RXの広告でもだ

ステレオサウンドは姉妹誌にテープサウンドという隔月刊誌があった。
そのせいだろう、ステレオサウンドにはカセットデッキの広告はそんなに多くはなかった。
カセットデッキの広告といえばテープサウンド、FM誌ということになる。

それでもカセットデッキの広告にMA-Rがよく登場していた印象が、いまも残っている。
広告だけでなく、カタログにもMA-Rは使われていった。
トリオ、サンスイもMA-Rを使っていた。

MA-Rが装着されていれば、写真を見ると同時にメタルテープ対応のデッキだと読者に伝わる。
MA-Rは、どんなデッキであってもMA-Rであることがすぐにわかる。モノクロの小さな写真であってもだ。

こんなカセットテープはそれまではなかったし、MA-R以後も登場していない。
TDKはMA-Rのテープ走行機構をRSメカニズムと呼んでいた。

RSとはReference Standardの略だ。

RSメカニズムは使い勝手においても配慮されていた。
カセットテープにはツメがある。
このツメを折れば、そのカセットテープには録音できない。
誤録音を防ぐためであるわけだが、一度ツメを折ったカセットテープに録音するにはツメのあったところにセロハンテープを貼る。
これが私は嫌いだった。

Date: 9月 21st, 2014
Cate: デザイン

TDK MA-Rというデザイン(その4)

カセットテープをバラしてみたことがある人なら、中に薄いシートが入っていることを知っている。
緩衝材のようなシートである。

このシートを試しに外してカセットテープをデッキに装着して、再生ボタンを押してみる。
再生ボタンでなくてもいい、テープ走行をさせてみる。
スピーカーシステムから音は出さない方がいい。

テープの走行ノイズをチェックする。
内部のシートの有無で、走行ノイズに変化が生じることを確認できる。

薄いシートだけれど、なくてはならないシートである。

TDKのMA-Rは透明のハーフである。
MA-Rの内部にも薄いシートは入っている。
つまりTDKは、透明なカセットテープを実現するために、透明なシートも実現している。

MA-Rの広告(写真)を初めて見たとき、内部のシートがなくなっているのか、と思った。
すぐに違うことがわかった。
広告にはMA-Rの分解図もあった。そこにはシートが描かれている。

MA-Rの驚きは、こんなところにもあった。
その驚きは、しばらくすると、TDKがMA-Rにかけた意気込みを感じさせてくれるようになっていった。
またTDKというテープメーカーへの信頼へともなっていった。

Date: 9月 16th, 2014
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(真空管アンプのレイアウト・その12)

ステレオサウンド、無線と実験、ラジオ技術を読みながら、初歩のラジオも講読していた時期がある。
初歩のラジオも、そのころはDCアンプの製作記事も載っていたし、真空管アンプの記事もあった。
そして初歩のラジオには、実体配線図が三つ折りで毎号ついていた。

この実体配線図は,いわば塗り絵であった。
読んでいたのは中学二年の時。
真空管アンプを製作しようにも、そんな予算(小遣い)はない。
作る予定などまったくないアンプの実体配線図のワイアリングを、色鉛筆で一本一本塗りわけていた。

お金がないから、こんなことをやっていた。
でも、そのおかげというか、伊藤先生のアンプに出合ってから、
今度は伊藤アンプの実体配線図を自分で描いた。

無線と実験の古い記事は写真が不鮮明でしかも小さすぎるから無理だったが、
サウンドボーイではカラー写真が載っていたし、
無線と実験もあとになってから、写真も鮮明になり、サイズも大きくなった。
実体配線図が描きやすくなった。

写真ではっきりと確認できなくとも、
真空管アンプは回路図と真空管の規格表があれば、どのフックアップワイアーがどこに接続されているのかは、
容易に判断できるし、回路図も必然的に頭にはいってくる。

掲載されているアンプの内部写真とまったく同じに絵によるワイアーをはわせていく。
描き終ったら、中学二年の時のように色鉛筆で塗っていく。

お金はほとんど必要としない。
やろうと思えば、ほとんどの人にできることだ。
これをやっていた。

Date: 9月 16th, 2014
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(真空管アンプのレイアウト・その11)

何度も書いているように、私にとって真空管アンプとは伊藤先生のアンプが判断の根本にある。
プリント基板に頼らない手配線が必ずしもいい、とはいわない。

無線と実験、ラジオ技術になどに発表されている真空管アンプの製作記事を読むと、
なんともいえない気持になることもある。

高価で珍しい真空管を使っている。
内部の部品もそこそこのものを使っている。
けれど、絶望的にワイアリングが拙いアンプが、ときどきある。

真空管アンプを作りはじめたばかりの人の制作例ではなく、
その雑誌に長いこと記事を書いている人のアンプの内部がそうであると、
正直「またか……」と思ってしまう。

この人は、これまでにどれだけの数の真空管アンプを作ってきたのだろうか。
どうしても、そう思ってしまう。

数をこなせば上達するわけではない──、
まさしく、その見本となっている。

ただ漫然とアンプを、数だけ作っていたのでは悪い手癖が身についてしまうだけである。
それは身についてしまうと、残念なことに抜け難い。

そうなる前に気づくべきことに気づかずに、作ってきた人なのだろう。
伊藤先生とは対極にある真空管アンプである。

Date: 9月 15th, 2014
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(真空管アンプのレイアウト・その10)

とにかく知人から、早く作ってほしい、とせかされていた。
だから知人と一緒に秋葉原に行き必要な部品を買い、そのまま知人宅に行き組み立てることになった。

部品点数も少ないから、それで困るわけではない。
回路図は頭にはいっている。
そんなに複雑な回路でもない。

あとは部品を眺めて大きさを把握して、おおよその位置にラグ板を配置していく。
そして部品を取り付け、フックアップワイアーで、
それぞれのラグ板、入出力端子、アッテネーターなどを接続していく。

ここの枝ぶりは、伊藤先生の流儀で、すこしの余裕の持たせてやっていく。
20年以上の前のことだから、製作時間がどのくらいかかったのかは正確に憶えていないが、
夜には完成した、このパッシヴのネットワークを使ってマルチアンプのシステムから音が出た。

後日、このパッシヴのネットワークの内部を、知人が井上先生に見せたらしい。
「よく出来ているじゃないか、いまメーカーのエンジニアでも、こういう配線ができる人はほとんどいない」
ということだった。

意外だった。
だからといって、私がメーカーのエンジニアよりも優れているというわけではない。
私はプリント基板、それも高周波を扱うものは無理である。
メーカーのエンジニアは、そこはプロである(はずだ)。

得手不得手が違う、という話なのだが、
それでも1990年くらいで、
すでにメーカーにフックアップワイアーによる配線をまともに出来る人がほとんどいない、という事実は、
アメリカ、ヨーロッパのガレージメーカーに求めるのも無理な話だと思わせた。

Date: 9月 15th, 2014
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(真空管アンプのレイアウト・その9)

プリント基板でなければ成り立たない機器があるのはわかっている。
けれど部品点数が、半導体アンプにくらべて少ない真空管アンプでは、
しかも部品そのものもそれほど小さくない、ということも考え合わせれば、
なぜプリント基板を使うのだろう……、と疑問に感じる。

市販品の真空管アンプの中には、プリント基板に真空管のソケットを取り付けているものも少なくない。
そういうアンプにかぎって、プリント基板の固定もさほど考慮されていない。

以前のアメリカ製の真空管式のコントロールアンプに多く見受けられたのは、
フレキシブルな、といえるプリント基板にソケットをとりつけて、
この基板をゴムで、いちおうフローティングしている。

こういうつくりの真空管アンプを見ると、残念に思う。
しかも昔のアンプとは異り、トーンコントロールやその他の機能も持たないから、
内部の配線はずっと簡略化されているのだから、
もう少し気を使ってワイアリングをやってくれたら、どんなにいいアンプになっただろうか……、と思うからだ。

以前、知人に頼まれてパッシヴのクロスオーバーネットワークを作ったことがある。
ようするにコンデンサーと抵抗とアッテネーターといった受動素子だけによる、
減衰量-6dBのチャンネルデヴァイダーである。

市販のシャーシーにラグ板をいくつか取り付けて、部品、フックアップワイアーをハンダ付けしていく。
プリント基板は使わなかった。

ラグ板の端子にはそれぞれの部品のリード線が接触するようにからげてハンダ付け。
あくまでもラグ板は部品の固定のためである。

Date: 9月 14th, 2014
Cate: デザイン

TDK MA-Rというデザイン(その3)

ステレオサウンド 54号でTDKのMA-Rをセットした広告を出したパイオニアは、
57号では自社ブランドのカセットテープを発売していたこともあって、MA-Rではなくなっている。

54号と57号でのCT-A1の広告で使われている写真はまたく同じアングルによるもので、
違いはCT-A1にセットされているカセットテープの違いだけ。
しかもCT-A1は、通常のカセットデッキとは違い、カセットテープをユーザーが直に装着するようになっている。

パイオニアがフルオープンローディング方式と呼ぶ、この機構にはだから開閉ボタンがない。
垂直にカセットテープを装着するデッキでは、カセットテープの収納ケースの同じようになっている。
開閉ボタン押せば、フタが開く。下部を支点にして上部が開くから斜めにカセットテープを挿入する。
そしてこのフタを閉じればいい。

このフタがあることで通常のカセットデッキでは、
装着しているカセットテープの全面が見えるわけではない。
多少なりともカセットテープの一部が隠れてしまう。

CT-A1では、そんなフタが存在しないから、カセットテープを視覚的に隠すものは存在しない。
こういうカセットデッキはCT-A1と同じパイオニアのCT710、CT910、ダイヤトーンのM-T01ぐらいか。

そういうカセットデッキであるCT-A1だから、ステレオサウンド 54号と57号の広告の写真を比較すると、
カセットテープのデザインの重要性をはっきりと見る者に意識させる。

Date: 9月 13th, 2014
Cate: デザイン

TDK MA-Rというデザイン(その2)

カセットテープ、カセットデッキの最盛期は、メタルテープが登場し、
いくつかのメーカーからドルビー以外のノイズリダクションが搭載されるようになった1980年あたりだろう。

このころ各社からカセットテープが発売されていた。
1980年版のHI-FI STEREO GUIDEには、アイワ、アカイ、オーレックス、クラリオン、デンオン、ダイヤトーン、
フジフイルム、ジュエルトーン、Lo-D、ラックス、マクセル、ナガオカ、ナカミチ、オットー、サンヨー、シャープ、
ソニー、TDK、テクニクス、ビクター、アンペックス、BASF、フィリップス、スコッチのブランドが並んでいる。

いくつかのブランドはOEMであるが、これらのブランドが数種類のカセットテープを発売していたし、
カセットデッキを製造しているブランドもある。

そういったブランドは、当然だが、自社のカセットデッキの広告、カタログには、
同じブランドのカセットテープを使う。

カセットデッキの広告、カタログに掲載されている製品写真は、
多くがカセットテープがセットされているものである。
同ブランドのカセットテープがあるのに、
他社製のカセットテープをセットして広告に使うことは、それまでなかった。

TDKのMA-Rの広告がステレオサウンドに掲載されたのが51号、
九ヵ月後の54号のパイオニアとアイワの広告の写真には、MA-Rがセットされたカセットデッキがある。
パイオニアがCT-A1、アイワはAD-F55Mである。

パイオニアは1981年ごろから自社ブランドのカセットテープを発売し始めるから、
54号(1980年春)の時点では他社製のカセットテープを使うのもわかる。
けれどアイワはメタルテープの発売は1981年ごろからだから、
54号の広告時点では自社ブランドのメタルテープを持たなかったとはいえ、他社製のテープを使っている。
それもひと目でTDKのMA-Rとわかるカセットテープを使っている。

Date: 9月 13th, 2014
Cate: デザイン

TDK MA-Rというデザイン(その1)

ステレオサウンド 51号に東京電気化学工業の広告が載っている。
東京電気化学工業のブランドはTDKで、同社初のメタルテープ、MA-Rの広告だった。

MA-Rの広告を初めて見たのは51号だったのか、
そのころはFM誌も他のオーディオ雑誌(月刊)も買っていたから、ステレオサウンドではなかったかもしれない。

とにかくMA-Rの広告に載っていた写真を見て、どきっ、としたことはいまでもはっきりと憶えている。

トランスルーセントに、亜鉛ダイキャストのハーフ。
それまで見慣れていたカセットテープの印象とはまったく違っていた。
クリアーだった。

メタルテープの登場は少し前からオーディオ雑誌でも話題になっていた。
カセットテープの枠をさらに拡げただけでなく、
おそらくメタルテープの登場がエルカセットにとどめをさしたともいえる。

TDKはメタルテープの発売にあたって、まずMA-Rを、それからMA(通常のプラスチック製ハーフ)を出した。
他のメーカーであれば、逆だっただろう。
まずMAを出して、その上位版としてMA-Rを華々しく登場させる。

だがTDKは違っていた。
だからこそMA-Rは、いまでもその登場が印象に残っている。
こんなカセットテープはTDKのADくらいである。

Date: 7月 23rd, 2014
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(整理と省略・その5)

セブン・イレブンのコーヒーのドリップサービスがヒットし、
ほかのコンビニエンスストアでも同様のサービスが始った。

ファミリーマートにも、サンクスにも、ドリップマシンが置いてある。
ローソンもやっているが、こちらは店員が操作してくれる。

この三つの中で、セブン・イレブンとほぼ同じといえるのはファミリーマートである。
セブン・イレブンのドリップマシンが黒なのに対し、ファミリーマートのそれは白を基調としている。

どちらのマシンもアイスコーヒーとホットコーヒー、それにサイズの違いに対応している。
にも関わらずセブン・イレブンのドリップマシンには、
店員による日本語のシールが、ベタベタ貼られているケースが圧倒的に多いのに、
ファミリーマートでは、少なくとも私が見た範囲では、そういうシールは貼られていない。

機能として、セブン・イレブンのマシンもファミリーマートのマシンも差はないといえる。
なのに対照的な扱われ方をされているのは、なぜなのか。

セブン・イレブンのマシンでは、客の操作ミスが頻繁だったから、店員がシールを貼ることで対処。
ファミリーマートのマシンは、おそらく客の操作ミスはあまりないものと思われる。
シールが貼られていないのは、貼る必要がないから、のはずだ。

セブン・イレブンのマシンは英語表記で、略語表記も使われている。
ファミリーマートのマシンは日本語表記で、ボタンの配置も違う。

Date: 2月 23rd, 2014
Cate: デザイン

オーディオ・システムのデザインの中心(その16)

最近の、一部のオーディオ機器のデザインを見て思うのは、
このアンプなり、CDプレーヤーなり、スピーカーなり、アナログプレーヤーを開発した人は、
オーディオはコンポーネントであることを、どう考えているのか、である。

つまりオーディオは組合せである。
どんなに優れたスピーカーシステムであっても、
そのスピーカーシステムだけ持っていても音は出せない。
アンプだってそうだ。優秀なアンプを持っていても、
スピーカーを接ぎ、CDプレーヤーなりアナログプレーヤーを接続しなければ音を聴くことはできない。

そして、これらのシステムを構成するオーディオ機器は、
ほとんどの場合、同一空間に設置される。
リスニングルームと呼ばれる空間に、スピーカーシステムが置かれ、
アンプ、プレーヤーが置かれる。

リスニングルームにはオーディオ機器だけが置かれることはない。
最低でも椅子があったり、アンプやプレーヤーを置くラックもある。
照明器具もある。

ようするにオーディオ機器のデザインは、そういう場でのデザインとして語るべきではないのか。
オーディオ機器のデザインについて語る時、
最低でもシステムを構成する他のオーディオ機器との関係性・関連性を無視するわけにはいかない。
というよりも重要なことではないかと考えている。

だが、最近の、一部のオーディオ機器のデザインを見ていると、
自分だけよければそれでいい、とでも考えているかのようなデザインのモノが目立つようになってきた。
しかも、それらは美しい、とはいえないモノばかりである。

Date: 2月 8th, 2014
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(その20)

ステレオサウンド 3号には、もう一機種、
デザインについて考えていくうえで興味深いプリメインアンプが載っている。
パイオニアのSA81というアンプだ。

このSA81のデザインについての瀬川先生の評価はこうだ。
     *
どこかで見たようなデザインだと思ってよく考えたら、マランツのプリの左右をそのままひっくり返した形であった。パイオニアほどのメーカーが、いまどき何ということか。特に、他の機種がパイオニアとしてのオリジナルなカラーで統一してしかもそれが成功しているのに、これひとつだけ別物のような感じがする。
     *
瀬川先生が厳しく書かれているSA81のパネルは、
安っぽくしたマランツModel 7といいたくなる程度である。

瀬川先生でなくとも、SA81のデザインに関しては、厳しいことをいいたくなる。
ほんとうに、なぜパイオニアは、この時代に、こういうデザインのアンプを送り出したのだろうか。

Date: 1月 24th, 2014
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(その19)

SQ301は、もしかすると上原晋氏のデザインなのかもしれない、と思ったこともある。

1983年にラックスはアルティメイト(ultimate)シリーズの管球式アンプを、三機種発表した。
コントロールアンプのCL36u、パワーアンプのMB88u、プリメインアンプのLX38uであり、
LX38とCL36のフロントパネルは、SQ301から続いているデザインである。

そしてこのアルティメイト・シリーズの型番の末尾につけられた「u」は、
アルティメイトの頭文字であるとともに、このシリーズをひとりで担当された上原氏の「u」とみることもできる。

このアルティメイト・シリーズに関する記事は、
ステレオサウンド 65号に永井潤氏が、66号に柳沢功力氏が書かれている。

上原氏のデザインの可能性もある。
それを確かめるために、65号をひっぱりだしてみると、
上原氏のデザイナーとしてのデビュー作はSQ505とある。

SQ505は1968年の新製品で、
この年、大阪デザインハウスの最優秀デザイン賞を受けている。

SQ301はそれ以前に登場しているから、上原氏のデザインでないことは確かである。

SQ505はステレオサウンド 8号のアンプ特集でとりあげられている。
SQ505のデザインについて、瀬川先生は次のように書かれている。
     *
ツマミの配置は、意匠的にも人間工学的にも優れたものだ。ただし、ボリュームと同軸のバランスのツマミは、もう少し形を整えないと、ボリュームの操作にともなって一緒に廻ってしまい、具合が悪かった。ロータリ・スイッチの手ざわりが、もう少し柔らかくなれば申し分ないと思う。
     *
一部注文をつけられているが、デザインに関しては優れたものと認められている。

Date: 1月 18th, 2014
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(その18)

「世界のオーディオ」のラックス号掲載の「私のラックス観」の最後は、こう結んである。
     *
 いろいろなメーカーとつきあってみて少しずつわかりかけてきたことだが、このラックスというメーカー、音を聴いてもデザインを見ても、また広告の文章でさえも、一見、ソフトムードを漂わせているかに見える。しかしこのやわらかさは、京ことばのやわらかさにも似て、その裏には非常に頑固というか自身というか、確固たる自己主張があるように思う。このメーカーは、ときとしてまるで受精直後の卵子のように固く身を閉ざして、外からの声を拒絶する姿勢を見せることがある。その姿勢は純粋であると同時に純粋培養菌のようなもろさを持ち、しかも反面のひとりよがりなところをも併せ持つのではなかろうか。
 本物の高級品は、たいていの場合、ひとりの優れた頭脳が純粋に発想し、それが永い時間あたためられ煮つめられ、世に出て愛用者の手に渡ることによってまた、少しずつ改良されながら洗練の極みに達する。かつてのラックスのパーツ類には、そういう本ものの匂いがあった。かつてのマランツやマッキントッシュにもそれがあった。いまならたとえばSME。この優雅なアームはいまなお世界中の愛好家に支持されて常に品不足の状態である。ハッセルブラッド(カメラ)また然り。完成度の高い製品は、国境を越えて多くの支持者を生む。しかしもしもそこに、ひとりよがりな考えが入りこんだが最後、奇抜なだけがとりえ、といった製品しか生まれない。ラックスの製品には、ときとして僅かとはいえひとりよがりな部分が嗅ぎとれる。おせっかいと言われるかもしれないが、人の意見も聞くべきは聞き、取り入れる面は取り入れて、本当の意味で多くの人に理解され支持される完成度の高い、洗練された製品を生み、育てて欲しい。
     *
この瀬川先生の、ラックスに対する指摘の鋭さには感服するとともに、
同時にこれはラックスへの期待のあらわれでもあるように感じている。

頑固、ひとりよがり、純粋培養菌のようなもろさ──、
これを書かれたのは1975年。
ステレオサウンド 3号が1967年、8号は1968年。

これらのこともラックスの、いわば伝統のひとつだったのかもしれない。

いまのラックス(それも一部の機器のデザイン)は、というと──、
ここで書くのはやめておこう……。

Date: 1月 18th, 2014
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(その17)

そうなるとステレオサウンド 3号の下段の文章も参考にすることができる。

3号では瀬川先生はラックスのアンプのデザインについて書かれているのだろうか。
この時代のSQ38はSQ38Dであり、SQ301と共通のパネルデザインにはまだなっていない。

SQ301のところにはデザインについては触れられていない。
PL45のところに目的の文章はあった。
     *
パネルレイアウトを含めて、ウォールナットのケースを持った全体のイメージは、高級感を表現して仲々好ましい。デザインにどことなくマランツを下敷きにしたという印象は拭い去りにくいが、パネルのパターンやツマミ、レバースイッチなどにオリジナリティを盛り込もうとしている意図は十分に感じとれる。
このデザインは、細部を除いては、SQ301と全く共通のものだが、SQ77Tのところでも指摘したように最近のラックス独特の斜めカットはちょっと考えすぎで、かえって手ざわりがよくないし、スイッチポジションを表示するポインターとしての機能も、少々あいまいのように思われる。
     *
SQ77Tのデザインについては、どう書かれているのか。
     *
ツマミのレイアウトはSQ77を踏襲しているが、この配列には抵抗なく馴れることができて、人間工学的にたいへんよく考えられている。しかしツマミの形には問題がある。丸形ツマミの一部を斜めにカットしたユニークな形だが、この形ではポジションの指示があいまいで、つまんだ感じも指によく馴じむとはいいにくい。
     *
これらを読んでいると思い出す文章がある。
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」シリーズの一冊目でラックス号にのっている、
瀬川先生の「私のラックス観」だ。