Archive for category 日本のオーディオ

Date: 8月 22nd, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(パイオニア Exclusive 3401・その1)

スピーカーは、いったい何組欲しいのだろうか、と自問自答することがままある。
予算も、置くスペースにも制約がなければ……、と夢みたいなことをおもいながら、
いま手元にあるスピーカーたちの他に欲しい(つまり鳴らしてみたい)スピーカーは、どれなのか。

記憶をたどりながら、あれこれ思い出す。
けっこうな数ある。
それでも日本のスピーカーシステムということに限れば、数はとても減る。
ヤマハのNS1000M、ダイヤトーンの2S305、ビクターのSX1000 Laboratory、
それからパイオニアのExclusive 3401ぐらいである。

この中で聴いたことがないのがExclusive 3401だ。
Exclusive 3401には仕上げが違うExclusive 3401W(ウォールナット仕上げ)もあるが、
私にとってExclusive 3401といえば、グレイ仕上げのExclusive 3401である。

パイオニアのカラー広告で、Exclusive 3401を最初に見た時の印象は、
ヤマハのプリメインアンプA1の広告の印象と並ぶくらいだった。

それまでのExclusiveの名称がつくスピーカーシステムは、3301と2301だった。
3301は中高域の同軸ユニットは、なかなか意欲的でおもしろそうだなとは感じたけれど、
システム全体の印象は、アマチュアの自作スピーカー的であり、
Exclusiveとつかないのであればわかるけれど、
なぜ、このシステムにExclusiveとつけるのか理解に苦しんだし、いまも、そう思う。

Exclusive 2301はExclusiveらしいといえば、まだそういえた。
それでもシステムとしての完成度は3301と2301、どちらも高いとは感じなかった。

コントロールアンプのC3、パワーアンプのM4で出来上っていたExclusiveの製品のイメージを、
どちらのスピーカーも、毀すとまではいかないが損うように感じていた。

その一年後か、Exclusive 3401が出た時は、
やっとExclusiveらしいスピーカーの登場だ、と思った。
それは、いまも忘れていない。

Date: 8月 20th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(その11)

テクニクス、ヤマハを例に挙げただけで、
他のオーディオメーカーの新製品に、新鮮さ、驚きがあるかというと、五十歩百歩だ。

たとえばアキュフェーズ。
別項でC240という、ずいぶん前のコントロールアンプについて書き始めているが、
当時、C240の登場は新鮮であり驚きがあった。

それまでのアキュフェーズのコントロールアンプとは明らかに違っていたし、
だからといってアキュフェーズ以外の製品であったわけでもない。

はっきりとアキュフェーズの製品でありながら、
それまでの製品とは違っていたから、新鮮であり驚きがあった。

C240のデザインに、未消化に感じるところがないわけでもない。
それでも新鮮であり驚きがあった。

おそらくNS1000Mの登場もそうであったのではないか。
私がオーディオに興味をもったころには、すでに定評を得ていた。
発表当時のことは私は知らないが、新鮮であり驚きを受けた人は多かったのではないか。

NS100Mにも欠点はある。
具体例をあげれば、ウーファーを保護している金属ネットがそうだ。
NS1000Mを視覚的に印象づけているわけだが、この部分の鳴きはそうとう音に影響している。

だからといって、取り外してしまえば、もうNS1000Mではなくなってしまうはずだ。

過去の新製品すべてがそうだったわけではないが、
それぞれのメーカーに、数年に一機種か、十年に一機種か、
とにかく力を感じさせる新製品が登場していた。

そういう新製品に、新鮮さ、驚きを感じていた、ともいえる。

Date: 8月 20th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(その10)

その9)を書いたのが四年前。
2014年の9月にテクニクス・ブランドが復活している。
2016年にはヤマハがNS5000の販売を開始した。

ヤマハもテクニクスもインターナショナルオーディオショウに出展するようにもなった。
アキュフェーズ、ラックス、マランツ、デノン、エソテリック、フォステクス、TAD、
これらのメーカーも健在である。

インターナショナルオーディオショウではないが、OTOTENにも、
いくつものオーディオメーカーが、(その9)を書いたあとに登場したメーカーも出展している。

けっこうなことじゃないか、と素直に喜びたいのだが、
ほんとうに喜べる状況なのだろうか、ともおもう。

テクニクスの、この四年間の新製品、
特にアナログプレーヤーのSL1200、SP10の現代版は、
オーディオ雑誌、オーディオ業界だけのニュースではなく、
もっと広いところでのニュースとなっている。

復活したテクニクスを率いている小川理子氏は、メディアによく登場されているし、
本も出されている。それだけ注目されている。

これもけっこうなことじゃないか、と素直に喜びたいのだが、
ほんとうに喜べる状況なのだろうか、このことについても、そうおもう。

ヤマハのNS5000は、このブログでも書いているように2015年にプロトタイプが、
インターナショナルオーディオショウで登場した。
音も聴くことができた。

プロトタイプのNS5000の音に期待がもてた。
けれど製品としてできあがったNS5000の音に、私はがっかりした。
プロトタイプに感じた良さが、製品版からは感じられなかった。
もっとも世評は高いから、それはそれでいいのだろう。

結局、ヤマハはNS1000Mを超えるスピーカーをつくれないのか、と思ってしまう。
もちろんNS5000の方が、NS1000Mよりもいい音と評価する人は大勢いることだろう。

それでもNS1000Mを超えられない、と思ってしまうのは、
NS5000に新鮮さとか驚き、といったことを感じられないからだ。

少なくともプロトタイプには、それらはあった、と感じている。
同じことはテクニクスにもいえる。

SL1200、SP10の現代版をみても、新鮮さ、驚きは悲しいかな、感じられなかった。

Date: 5月 9th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ラックスCL32・その11)

ラックスは、オーディオ機器のデザインに、
少なくとも高い関心をもっていた会社だった、はずだ。

もちろんすべてのデザインが優れていたとはいわないが、
デザインに無関心な会社ではなかった。

けれど1980年のCL34、同時期に出てきたアナログプレーヤーのPD555などに、
首を傾げたくなるところが見受けられるようになってきた。

CL34について、この項で以前書いている。
PD555は、それ以前の製品PD444とよく似た外観である。
PD444がダイレクトドライヴ型に対し、PD555はベルトドライヴになっているし、
バキューム機構も搭載している。

これらの違いが関係してのことだろうが、PD555を正面からみると、
臓物(モーターなど)がキャビネット下部に丸見えになっている。

トーンアーム取付ベースに、オーバーハング修整用の目盛りをつけるなどして、
こまかなところに配慮しているだけに、よけいに上記のちぐはぐさが目につく。

PD444と似た外観にする必要はなかったのではないか。
デザインを新たにして、臓物が露出しないようにしておくべきだったのに、なぜかやっていない。

1980年頃のことだというのは、承知している。
そのころのデザイナーは、いまのラックスにはいないはずだし、
ラックスという会社もいろいろあって、いまに至っている。

なのに、こういうところだけは引き継がれているように感じる。

Date: 1月 1st, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(NIRO Nakamichiの復活・その5)

井上先生からはNIRO時代の中道仁郎氏についてきいている。
試作品を何度も井上先生は聴かれている。

あることについて指摘すると、翌日には手直ししてくる。
しかも井上先生からの指摘をきちんと理解しての手直しである。
見当違いの手直しではない。

たいしたものだよ、と井上先生は感心されていた。
この話をしてくれたということは、
他のメーカーには中道仁郎氏のような人は、そうそういない、ということでもある。

同じ空間で同じ音を聴いて、オーディオ評論家からの指摘がある。
けれど、その指摘をきちんと理解していないから、
手直しが見当違いであったりする。

結局、きちんと音を聴いていない、としか思えない。
いや、聴いている、という反論があるだろうが、
ならば、なぜ、指摘されたところを手直しできないのか。

NIRO時代、中道仁郎氏はひとりでやられていた、ともきいている。
ひとりなのに、翌日にはきちんと手直しして、次のステップに進む。

一方、他のメーカーはひとりということはまずないだろう。
何人かのスタッフが関っているだろう。
なのに……、といいたくなる違いが生じるのは、
NIROが登場したころだけの話ではなく、それ以前からあったことである。

ということは、いまもある、と見ていいだろう。

とにかく中道仁郎氏が、NIRO Nakamichiを2015年に立ち上げられている。

ナカミチ時代に、スピーカーはなかった。
カセットデッキはあった、コントロールアンプ、パワーアンプ、レシーバーもあった。
けれどスピーカーは、B&Wの輸入元であったぐらいだ。

Date: 12月 31st, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(NIRO Nakamichiの復活・その4)

たぶんいまも同じことが行われていると思うが、
オーディオ評論家の元には、メーカーから試作品が持ち込まれることがある。

完成品を聴いて、その評価をするだけがオーディオ評論家の仕事ではなく、
試作品を聴いて、という仕事もある。

そこでのオーディオ評論家とメーカーの人たちとの会話の内容が具体的に漏れてくることはないが、
まったく伝わってこないわけではない。

たいてい気になる点を、オーディオ評論家は指摘する。
メーカーの人は、後日、直して持って来ます、といって帰る。

数日か一週間ほどして、同じメーカーの人が、手直しした、という試作品を持ち込む。
気になった点が、これで直っていることは、まれである、という話は、よく聞いている。

いっしょに試作品の音を聴いて、オーディオ評論家の指摘をメモしていっても、
肝心の担当者が音をよく聴いてなかったり、よくわかってなかったりするから、
こんなやりとりが生じてしまう。

この話をしてくれるオーディオ評論家の人たちも、
ダメなメーカーの名前をいったりはしないが、優秀なメーカーの名前、
それに担当者の名前は話してくれる。

瀬川先生から直接きいた話ではないが、
直接きいた友人が私にはなしてくれたところによると、
デンオンのU氏のことは褒められていた、ということだった。

ここがダメだ、と指摘すると、すぐに手直しした試作品を早いうちに再度持ち込む。
きちんと音を聴いて、音がわかっている人だから、
瀬川先生の指摘が理解できるからこその手直しである。

残念ながら、こういう人は少ない。
私が井上先生からきいたなかでは、中道仁郎氏がそうである。

Date: 11月 19th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(ブームだからこそ・その8)

アナログディスクだけでなく、テープも復活している、と報道されることがある。
カセットテープだけでなくオープンリールテープも、人気が出てきている──、とのこと。

2016年、オープンリールデッキの新規開発のニュースがあった。
Horch House Gmbhという会社が、Project R2Rを打ち上げた。

発表から数ヵ月後に、ルボックスとの共同開発になるとの発表とともに、
外観写真も公開された。
このままうまくいくのかと思っていたら、
現在ではProject R2R関連のページはなくなっている。

こまめにチェックしていたわけではないので、途中経過のすべてを見ているわけではない。
ポシャった、ときいている。

開発はスムーズに運んだ、とのこと。
ネックとなったのは、ノイズリダクションに関することだったらしい。

いまではアナログでの実現が難しい……、
デジタル信号処理でよければ……、という提案もあったらしいが、
それではこの時代に、あえてオープンリールデッキを新規開発する意味合いが大きく薄れてしまう。

結果、このプロジェクトは終ってしまった、そうだ。

その7)で、日本ではアナログディスク制作においても、
デジタルによるマスタリングが行われている、と書いた。

いまではアナログだけでできるエンジニアがいなくなった、ということだ。
これはなにも日本だけではないようだ。

その一方で、BALLFINGERという会社は、
Tonbandmaschine M063というオープンリールデッキを発表している。

Date: 10月 24th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(ブームだからこそ・その7)

ソニーミュージックがアナログディスク生産を再開することは、
オーディオ雑誌だけでなく、新聞でもニュースになってから半年以上が経つ。

新聞の記事では、カッティングマシンをどう調達したのか、
そのへんのことは書かれてなかった。
無線と実験 6月号が、オーディオマニアが知りたいことについて触れた記事だ。

2ページの記事だが、そうなのか……、と考えさせられる写真と説明文があった。

説明文には、こうあった。
     *
カッティングシステムの対向面にあるマスタリングデスクには、DAWと各種イコライザーなどが組み込まれている。モニタースピーカーはB&WのMatrix801S2
     *
このことがどういうことを意味するのか、
最近になってやっと記事になりつつある。

無線と実験 6月号の写真と説明文を読んで、そういうことなのか、と思った。
いまアナログでマスタリングできるエンジニアがいないのでは……、ということである。

DAWとはDigital Audio Workstationの略である。
つまりデジタルでマスタリングしていることを、写真と説明文は伝えていた。
記事本文には、そのことについてひと言も触れられていないけれど、
アナログディスクの現状がどうなっているのかが伝わるようになっている。

無線と実験の、この記事を見て、東洋化成のことが浮んだ。
東洋化成にアナログのマスターレコーダーがないことについて、以前に書いたが、
なぜ導入しないのか、その理由のひとつがわかった、ともいえる。

Date: 9月 1st, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(フィデリティ・リサーチ FR7)

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR7が登場したのは1977年。
40年前のことで、ステレオサウンド 47号の新製品紹介で取り上げられている。

記事では製品写真だけでなく、発電構造図も載っていた。
そこの説明文には、完全なプッシュプル発電をめざしている、と書かれてあった。

たしかにマグネットを左右にふたつ配して、それまで見たことのない発電機構だった。
フィデリティ・リサーチは、FR1からずっとコイル巻枠に鉄芯を使わない、
いわゆる純粋MC型カートリッジを一貫して作ってきたメーカーである。

鉄芯を使わない空芯型は、どうしても発電効率が低くなりがちである。
FR7ではプッシュプル発電により、0.25mV(5cm/sec)の出力電圧を、
内部インピーダンス2Ω(負荷インピーダンス:3Ω)で実現している。

同時期のオルトフォンのSPUが鉄芯型で、同じスペック、
MC20も鉄芯型だが、こちらは0.07mVと低いのをみても、
FR7の発電効率の高さはわかる。

もっともマグネットをふたつ内蔵していることもあって、
FR7はヘッドシェル一体型とはいえ自重30gの重量級ではあった。

FR7の発電機構は、他に例のないものだった。
だから、そこばかりに目が行っていた。

1978年の長島先生の「図説・MC型カートリッジの研究」に、FR7も取り上げられている。
内部構造図もある。

それを見ていて、ふと気づいた。
他のカートリッジとコイルの描き方が少し違うことに気づいた。

構造図はふたつあって、ひとつは内部構造の全体図と、振動系の断面図だ。
断面図のほうのコイルは、通常、巻枠の断面図、つまり縦に二本の直線、
それにコイルの断面図、これは○がいくつも一直線に並んでいる。

巻枠にコイルが巻かれているわけだから、断面図はこうなる。
ところがFR7の断面図は、○だけでなく両側の○と○を結ぶ水平方向の直線も描かれていた。

なぜ、FR7だけ違うのか、と最初は疑問だった。
図面を描き慣れている、見慣れている人ならば、
この断面図が意味するところはすぐに理解できるだろうが、
高校生だった長島先生の解説が必要だった。
     *
発電径の中心をなすコイルは、各チャンネルにそれぞれ二個のコイルが使用され、計四個のコイルが籠型に組み合わされているが、巻枠は全く持っていない。完全に中空で作られた籠型コイルの中心をカンチレバーが貫通した形になっている。これは、ともすれば質量が大きくなりがちなMCカートリッジのコイル部分を少しでも軽量化するため、このような手法が採られたのであろう。コイル用導線はわりと太めの銀線が使用されている。
     *
コイルの巻枠がないから、
同じようにコイルが組み合わされている他社のカートリッジとはコイルの断面が違う。
つまり非磁性体の巻枠もないため、まさしく空芯なのがFR7である。

アナログブームといわれ、アナログディスクの製造枚数は増えいるようだし、
カートリッジの新製品も登場してきている。
高価すぎるカートリッジも登場している。

けれどいまFR7のコイルを巻けるのか、と思う。
40年前に、55,000円で販売されていたカートリッジと同等のカートリッジを、
いま作れるのだろうか。

Date: 8月 26th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(A&Dのこと)

1987年に、赤井電機が三菱電機グループに加わり、
A&Dという新ブランドが登場した。

AKAI & DIATONEで、A&Dである。
A&DのAはanalog、Dはdigitalという意味も込めている、という説明があった。
ききながら、その程度なのか、と思っていた。

A&Dの製品はあまり話題になることはなかった。
1991年ごろにはA&Dというブランドはなくなった。

アポロン(Apollōn)とディオニュソス(Dionȳsos)。
アポロン的とディオニュソス的。
そういう意味を込めてのA&Dであれば、いまも残っていたかもしれない。

Date: 8月 12th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(AT-ART1000・その5)

余韻が短くなってきたな、と感じるのは、
オーディオのことではなく、社会全般のことだ。

小学生のころ、正月は長かった。
田舎町ということもあってだろうが、
大半の店が初売りは5日ぐらいだった、と記憶している。
店によっては7日に開けるというところもあった。

熊本にはポレエルというおもちゃ専門店があった。
ここだけが元日から営業していた。
それが珍しい存在だった。

それからオリンピック。
あのころは、オリンピックが終りしばらくして、
新聞社が出す写真誌(アサヒグラフ、毎日グラフ)が、
オリンピックの特別号を出していた(と記憶している)。

当時と今とでは、印刷のスピードが違う。
編集作業にかかる時間も、いまでは短縮されている。

オリンピックのような大きなイベントが終って、
すぐにでも特別号的なものを出版できるが、あのころは遅かった。

遅かったからこそ、
そこまでオリンピックという四年に一度の大きなイベントの余韻が持続していた、ともいえる。

こんなことを書いているのは、
オーディオでも同じことを感じはじめたからである。

オーディオテクニカのカートリッジAT-ART1000が、
ドイツのオーディオショウで発表された時、これは話題になる、と思った。

話題にはなった。
でも、私が思っていた話題になる、は、もう少し長く持続しての話題になる、だった。

けれど話題の余韻は、短かった。
AT-ART1000という製品の性格上・構造上、もっと持続してほしかった、と思う。

AT-ART1000を絶賛はしないが、このカートリッジは、
カートリッジを愛でる、という感覚からも、持続して取り上げられるモノだと思う。

Date: 7月 30th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(OEM・その5)

エレクトロボイスのPatrician 800の復刻について、
もうすこし記憶をたどっていくと、
1981年以前にも一度限定で復刻していることを思い出す。

1979年暮に、当時の輸入元であったテクニカ販売が、
予約限定販売を行っていた。
50組(100台)のみの復刻だった。

Patrician 800のエンクロージュアは、カナダの家具メーカーによる製造だった。
このことは最初のPatrician 800のころからそうである。

Patrician 800の製造中止の理由は、コストの問題だったらしい。
そのカナダの家具メーカーが、特別に50組製造することになり、
1979年暮の復刻が実現している。

この時の復刻はテクニカ販売からの依頼のようで、
50組のPatrician 800は、日本向けに出荷された、ときいている。
ちなみに、この時のPatrician 800の予約は、一ヵ月足らずで現定数に達したとのこと。

Patrician 800の復刻は、だから好評だった、といえる。
おそらくテクニカ販売に、さらなる復刻の要望が届いたであろう。
とはいえカナダの家具メーカーが応じてくれたかどうかはわからない。

それでサカエ工芸が製造を請け負うことになったのではないか。

つまりPatrician 800には三つのヴァージョンが存在するわけだ。
元々のPatrician 800、
1979年暮に復刻が発表されたPatrician 800、
このふたつのエンクロージュアの製造は、カナダの家具メーカー、
それ以降の復刻(限定ではなくなった)Patrician 800、
このヴァージョンのエンクロージュアは、日本のサカエ工芸による製造、
こう見て間違いはなかろう。

Date: 6月 29th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(OEM・その4)

サカエ工芸のウェブサイトを見ていただくと、
そこにはエレクトロボイスのスピーカーシステムの写真がある。

えっ、と思われたはずだ。
私も驚いた。

そこには《フォスターブランドのエンクロージャー製造を継続する一方、独立系メーカーとして主要オーディオメーカー各社にエンクロージャー供給を開始。パトリシアン他、エレクトロボイス社へのホーム用、PA用各種エンクロージャーを供給。》とある。

1982年に《フォスター電機の主要製造拠点海外移転を機にフォスターグループから独立し、新たに株式会社サカエ工芸として発足》とある。

Patrician 800、Sentry IVB、Interface:D、Georgianの写真が、
サカエ工芸のウェブサイトにある。

Patrician 800もサカエ工芸でつくっていたのか、と驚いた。
Patrician 800の復刻は1981年秋である。

サカエ工芸がフォスターグループから独立したのは1982年、とある。
ということはPatrician 800の復刻モデルの最初のほうは、エレクトロボイスでつくっていたのか、
途中からサカエ工芸製エンクロージュアに変更されたのか。

それともサカエ工芸で最初から復刻モデルを手がけていたのか。
もう一度ステレオサウンド 60号を取り出してきた。
エレクトロボイス訪問記の写真を見た。

Patrician 800の生産ラインとして紹介されている写真は、
エンクロージュアの生産ラインではない。
エンクロージュアはすでにできあがっていて、ユニットを取り付けている写真である。

Date: 6月 29th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(OEM・その3)

エレクトロボイスのPatrician 800復刻のニュースをきいてまず思ったのは、
ティアック製オートグラフと同じで、エンクロージュアは日本製なのかもしれない……だった。

オートグラフや、それ以前のPatricianシリーズほどではないにしろ、
Patrician 800のエンクロージュアは、単なる四角い箱ではない。
コーナーホーン型である。

Sentry IVBもそうである。
30cm口径ウーファーを二基搭載したフロントローディングホーン型である。

だからエンクロージュアは日本製かも……、と思ったわけだ。

ステレオサウンド 60号にエレクトロボイス訪問記が掲載されている。
Patrician 800復刻関連の記事といえる。

Patrician 800の生産ラインの写真もあった。
Patrician 800はアメリカで製造しているのか、
日本製エンクロージュアかも……、というのは私の思い過しだったのか。

今日までそう思っていた。

ここ数日、エレクトロボイスの1828Cを眺めては、
あれこれプランを考えていた。
1828Cは岩崎先生が所有されていたモノだ。

鳴らされていた形跡はない。
岩崎先生は、このホーンドライバーを使って、
何をされようとされたのか──、そんなことも考えながらの自作スピーカーの構想である。

20cm口径ウーファーを、
アルテックの828エンクロージュアの1/2スケールのモノにおさめて、
上に1828Cを置けば、ナロウレンジなシステムではあるがA7のミニチュア版になる。
30cmウーファーと組み合わせて、トゥイーターを加えての3ウェイも考えている。
なのでエンクロージュアに関して、いくつか検索していた。

あるエンクロージュア製造の会社のウェブサイトを見つけた。
サカエ工芸という会社だ。

Date: 6月 29th, 2017
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(OEM・その2)

スピーカーのエンクロージュアも日本製である例がいくつかある。

よく知られるところでは、タンノイのオートグラフとGRFである。
タンノイが手間がかかりすぎるということでやめてしまったエンクロージュアの製造を、
輸入元のティアックがタンノイの承認を得て、日本で始めた。

イギリス製から日本製へと変ったことであきらかになったのは、
タンノイにはオートグラフの図面は存在しなかった、ということ。

そのためティアックではオリジナルのオートグラフを一台分解している。
木工の専門家が分解することで、
図面だけではわからない構造と材料についてのノウハウがわかる。

結果としては図面がなかったことが、
オリジナルに近いモノを製造できることにつながったはずだ。

図面だけでつくられたモノはコピーなのかもしれない、
こうやってオリジナルを分解して、という作業を経たモノはレプリカなのかもしれない。
このへんのことはステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」タンノイ号に載っている。

ヴァイタヴォックスにも国産エンクロージュアのモノが、
輸入元の今井商事から販売されていたこともある。

オートグラフにしてもヴァイタヴォックスにもしても、
ティアック、今井商事がユニットとネットワークを輸入して、
国産エンクロージュアに組み込む作業を行って出荷していた。

こういう例は、そんなにないものだと、その頃は思っていた。
カートリッジと違い、スピーカー・エンクロージュアはサイズが大きく違うためである。

あるスピーカーに関しては、ある時期から国産エンクロージュアになった、という話をきいた。
エレクトロボイスのSentry IVBである。

ちょうどその頃だったか、
エレクトロボイスが、Patrician 800を復刻した。
Patrician 800だけにとどまらず、Baronet、Aristocrat、Regencyも続けての復刻である。