Archive for category 日本のオーディオ

Date: 1月 17th, 2019
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(上原晋氏のこと・その6)

上原晋氏のリスニングルームに庭に面している一辺はアルミサッシである。
おそらく、ではあるが、リスニングルームの設計段階、
それに完成した当初は、このサッシを背にしてスピーカーを置かれていたはずだ。

庭の景色をながめての音楽鑑賞を描かれていたように思う。
そのことはリスニングルームのカベに飾られていた写真からもうかがえる。

花の写真があったが、長男の嵩史氏によると、庭に咲いている花であろう、とのこと。
ならば庭をながめながら、だったはずだ。

けれど意に反して、満足のえられる音が出なかったのか。
それでラックスの冊子、それに現在のように、
作業室へと通じる引き戸側にスピーカーを移動された、と推測できる。

そういえば、瀬川先生がステレオサウンド 54号に書かれていることを思い出す。
     *
 部屋の基本的な音、響きについては十分に満足をし、成功したものの、実は当初予測し切れなかった小さな誤算がひとつあった。
 以前から私は、部屋の中でのスピーカーの置き方として、長方形の部屋の場合、長手方向の壁面をスピーカーの背面として使ってきた。つまり部屋を長手方向に使うのではなく、短手方向に、左右のスピーカーのさらに外側を広くあけて使う、という置き方をしてきた。それはかつて、6畳ないし8畳という、決して広くない空間で、できるかぎり音の広がりと奥行き、定位といったステレオエフェクターを最大限に活かすために、体験的にあみ出した方法だった。
 スピーカーの二つの間隔がせますぎ、なおかつスピーカーの左右両わきに十分な空間がとれないと、どうしても音の広がりが得られない。いったんスピーカーを十分に広げて音の広がりを体験してしまった耳には、ひどくもどかしく感じられる。それを6畳ないし8畳、あるいはせいぜい本誌試聴室の15畳の広さで実験してみた場合、部屋を短手方向に使う以外にないようだ。ここ数年来の本誌のテストでも御承知のように他のリポーターが部屋を長手方向に使う場合でも、私だけは頑固に短手方向に使うということを一貫して行なってきたというのも、その主張のあらわれに他ならない。
 にもかかわらず、自分のリスニングルームを計画した時、部屋の短辺の壁面が内寸(実効寸法)で4・5メートル以上とれれば、部屋を長手方向に使っても2つのスピーカーの間隔はほぼ十分にとれ、従来のように部屋を短手方向に使う必要がないと、この部屋に関しては最初から決めてかかり、当然、視覚的な窓の配置等を含めたインテリアもその方向で仕上げてしまった。
 ところが、スピーカー運び込み、初めて鳴らしてみた時に、予測しないトラブルが生じた。十分聴き慣れていたはずのJBL♯4343が、部屋の短辺に置いたのではひどくこもった、まるで魅力のない音でしか鳴らない。魅力がないどころか、その音はむしろ、欠点だらけといいたいほどひどいバランスで、一時は♯4343を手離すことさえ考えた時期もあった。転居してしばらくの間は、♯4343はそうして部屋のすみに放り出されていた。ある日フト思いついて、部屋の長辺のほうに左右の両はしを十分にあけた形で、♯4343を置いてみた。するとどうしたことだろう、長手方向でまったくサマにならなかった♯4343が、これまた一変して予測もしなかった、たいへん見事な音で鳴り始めたではないか。
 この♯4343の置き方がヒントになって、各種のスピーカーを部屋の長手方向、短手方向に置き変えてみた結果、少なくとも音の響きの美しさを活かしながら、細かな音をよく聴き分けるには、やはりこの部屋でも短手方向に使う方がすぐれていることが確認できた。前述のようにこの形で聴くかぎり、視覚的にはやや落着きのない結果になってしまった。リスニングルームを計画するにあたっての小さな、しかし重大な誤算であったと反省している。
 この体験を通して確認できたことは、従来さまざまな部屋で体験していたことだが、同じ部屋の中で、同じスピーカーが、置かれる場所(面)によってまるで別物といいたいほど性格を変えるということだ。そのことからも、リスニングルームを計画するにあたって、スピーカーの位置をあらかじめ決めて、つくり付けにしてしまうというようなことは、とうてい私にはできないと再確認した次第である。
     *
瀬川先生は
《リスニングルームを計画するにあたっての小さな、しかし重大な誤算であったと反省している》
と書かれている。

上原晋氏も同じように思われていたのだろうか。

Date: 12月 8th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(韓国、中国は……・その4)

ここまで書いてきて、そうだ、と思い出したことがある。
なので、ちょっと脱線してしまう。

もう十年くらい前になるか、
Red Rose Musicのアンプのことが、ちょっと話題になっていた。
Red Rose Musicは、マーク・レヴィンソンが、マークレビンソン、チェロに続いて興した会社。

最初はオーディオプリズムの真空管アンプをベースに、
マーク・レヴィンソンがチューニングを施した製品だった。
その後、トランジスターアンプが、それからスピーカーシステムが登場した。

これらは、中国のメーカーによるモノだった。
アンプはDussun、スピーカーシステムはAurum Cantus製で、
しかも中国では、それぞれのブランドで安価に売られていた。

写真を見る限り、外観はRed Rose Musicブランドであっても、
Dussunブランド、Aurum Cantusブランドと同じである。

中は違っている、といわれていた。
マーク・レヴィンソンがチューニング(モデファイ)している、ということだった。

けれど、それもアヤシイといわていた。
どちらも内部を見たことはない。
そのウワサが事実なのかどうかはなんともいえないが、
少なくともマーク・レヴィンソンにとって、
Red Rose Musicの製品として売るだけの良さがあったのだろう。

もっといえば、どこか琴線にひっかかってくるものがあったのだろうか。
琴線と書こうとして、(きんせん)と入力したら金銭と出てしまい、
それもまたマーク・レヴィンソンらしい理由かも──、と思ってしまう。

金銭か琴線なのかは措くとして、
少なくともRed Rose Musicブランドとして恥ずかしくないクォリティを持っていると、
マーク・レヴィンソンは判断したはずだ。

それから十年ほどが経っている。

Date: 12月 4th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(上原晋氏のこと・その5)

上原晋氏のリスニングルームは、ちょっと変形なため広さをややつかみにくいが、
20畳はあろう。

私だったら、これだけのスペースがあればためらうことなくSuper Red Monitor(SRM)を入れる。
もっと狭いスペースでも、SRMを鳴らしたいと思ったなら入れる。
たとえ六畳間であっても、SRMを設置できるのだから、SRM12Xを含めて、
SRMシリーズの他の機種はもう目に入らない、とでもいったほうがいい。

結局、欲しいと思えたスピーカーの大きさなんて、ほとんど気にしない。
もちろん物理的に部屋に入らないほどの大きなモノならば、あきらめるが、
部屋に入る以上は、そこを、それを目指す。

上原晋氏がSRM12Xを選ばれたのか、その理由はわからない。
リスニングルームの片隅には、いまは鳴らされていないQUADのESLがあった。

おそらくSRM12X導入前は、このESLを鳴らされていたのだろう。
リスニングルームの完成は前にも書いているように1978年だから、
SRM12Xもちょうどその頃からなのだろう。

となるとESLは以前のリスニングルームに鳴らされていたのか。
そのときの部屋の広さはどのくらいだったのだろうか。

狭くはなかったように勝手に思っている。
おそらく空間の広さに応じてのスピーカーの選択ということ、
つまりバランスを重視しての選択をされていたのではないのか。

私もESLを鳴らしていた。
六畳弱の狭い部屋で鳴らしていた。
しかも部屋は横長に使っていた(長辺側にスピーカーを置いていた)。
ESLと私との距離は、ごく短い。
手を伸ばせば、誇張でなくもう少しでESLに届くほどだった。

ESLと壁との距離も最低限しか確保できなかった。
アンプはSUMOのThe Goldだった。
そんな極端なアンバランスな環境のもとで、私はESLを鳴らしていた。

上原晋氏は、こんなことは決してやらない人なのだろう。

Date: 11月 28th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(上原晋氏のこと・その4)

ステレオサウンド 55号から、菅野先生によるタンノイ研究が始まった。
一回目は、やはりオートグラフである。
二回目が、SRMとCLMの比較であり、
四回目(58号掲載)で、SRMシリーズを全機種試聴というものである。

SRMシリーズには、オリジナルとなるSuper Red Monitor(SRM)、
これをやや小型化したSRM15X、
12インチ口径同軸搭載のSRM12XとSRM12B、
10インチ口径のSRM10Bの五機種があった。

つまりABCシリーズのArden、Berkeley、Cheviot、Devon、Eatonのラインナップが、
そのままSRMシリーズでも展開されていた。

SRMシリーズは、大掴みに言えばABCシリーズのエンクロージュアを強固にしたものだ。
SMM12Xは、だからABCシリーズのCheviotに相当するモデルともいえる。

CheviotとSRM12Xの外形寸法はほぼ同じだが、重量はCheviotが25kg、SRM12Xが30kgである。
SRM12Xだけでなく、SRMシリーズは、ABCシリーズの相当モデルよりも重量は増えている。

私はSRMシリーズはほとんどが聴いていない。
かろうじてSRMを、わすかな時間聴いたことがあるだけだ。

参考までに、ステレオサウンド 58号での菅野先生の評価を引用しておく。
     *
 SRM12Xは、ユニット口径が12インチの同軸型で、3149と称されるユニットが内蔵されている。トゥイーターとのクロスオーバーも、15インチユニットとは異なり、1・4kHzにとられている。最大連続入力100W、ピークなら350Wというヘヴィデューティな設計で、92dB/W/mの音圧レベルだから、相当な能力をもっているといえるだろう。一連の音質調整をこのシリーズはすべて備えていることはいうまでもない。つまり、ロールオフ4段、ハイエナジー5段でコントロールが可能。エンクロージュアはバスレフ型で、パイプダクトが下部に一本ある。たいへんバランスのよいシステムで今回の試聴機種の中では最も強く印象づけられた製品であると同時に、SRMシリーズの中にあって、堂々と存在の独自性を誇り得る機種でもあると思う。12インチ口径のユニット3149の音質はたいへん優れていて、全帯域のバランスとしては、むしろ15インチ口径のK3808や、K3838、3828よりよいと思われる。ごく低い領域は15インチ口径が勝ることは当然だが、しかしエンクロージュアを小型化した場合には、絶対、12インチ口径の低音のほうが質がよいはずだ。
(中略)
 SRM12Xは、SRMシリーズの中で最も一般向きとして受け入れられる製品だと思う。30cmのデュアルコンセントリックのバランスはたいへん好ましく、音の質感はタンノイの重厚さを保ちながら、シリーズ中、もっともカラーレイションの少ないものといってよい。聴き応えのあるタンノイ特有の説得力は強いが、中低行きがよくコントロールされているので、固有の癖と感じられる音ではない。スケール感は十分で,15インチユニットの大型フロアータイプとまではいかなくても、一般家庭の20畳ぐらいまでの部屋なら不足はないはずだ。
     *
いまこうやって菅野先生のSRM12Xの評価を読み返していると、
上原晋氏らしい選択とおもえてくる。

Date: 11月 28th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(上原晋氏のこと・その3)

上原晋氏のリスニングルームに入って、まず思ったのは、
ラックスのアルティメイトシリーズの冊子ではよくわからなかった部屋の形である。

大きく捉えれば五角形の部屋である。
とはいえ正五角形ではないし、
あくまでも大きく捉えれば、であって、平行面の少ない部屋である。
この部屋の形は、数枚の写真だけで正確に伝えるのは難しい。

天井はもっとも高いところでは4mを優に超えている。
教会の建物のように天井は傾斜している。
1978年に完成したリスニングルームとのことだった。

基本的な設計は上原晋氏自身によるもの、らしい。
リスニングルームは、そのように変形とはいえ、建物の外観はごく普通である。
ラックスの冊子にもあるように、
左右のスピーカーの間にある扉を開けると、上原晋氏の作業室といえる空間がある。

この空間も、また変形である。
つまりリスニングルームを、そういう設計(形)にするために生じた空間を、
仕事場にされていたし、その隣は暗室であった。

リスニングルームには、上原晋氏撮影の写真が飾られていた。
長男の嵩史氏によれば、晩年はオーディオはあまりやられていなかったようだ。

写真に集中されていた、とのこと。
理由はよくわからない、とのことだった。

でも上原晋氏のシステムを眺めていると、
なんとなくではあるが、そうかもしれない、とはおもえてくる。

スピーカーは前述したようにタンノイのSRM12Xだ。
このスピーカーは型番の数字が示すように12インチ口径の同軸型ユニットを搭載している。

SRMは、Super Red Monitorの略で、
15インチ口径搭載のSuper Red Monitorがあるし、SRM15Xもあった。
さらには外観的はほぼ同じである、Classic Monitor(CLM)もあった。

けれど上原晋氏はSRM12Xを選ばれている。
アナログプレーヤーにも同じことがいえる。

回転数が合わないということで、別のプレーヤーをいまは使用されているが、
リスニングルームには、ラックスのPD131が置いてある。
上級機のPD121ではなく、131の方があった。

Date: 11月 27th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(上原晋氏のこと・その2)

アルティメイトシリーズは1983年に発売になった。
ラックス最後の真空管アンプということだけでなく、限定販売でもあった。

けれど翌1984年には、
ウェスターン・エレクトリックの300Bを採用したシングルアンプMB300を出す。
その後も、ラックスは真空管アンプを出しつづけているし、
現在も真空管アンプはラインナップのなかに、いつもある。

アルティメイトシリーズは、すぐに完売した、ともきいている。
限定ということも売行きを加速したのかもしれないが、
真空管アンプは、まだまだ商売になる、とラックスは思ったのだろうか。

このことについて、あれこれ書くつもりはない。
アルティメイトシリーズは、ラックスにとって特別な製品であったのだろう、
カタログの他に、冊子もつくっている。

ラックスの製品で、こういうことはあったのかどうか知らないが、
他のメーカーをながめてみても、あまり例がないことだろう。

冊子がつくられることは、ままある。
けれど、それらの冊子は、
各オーディオ雑誌に製品が取り上げられた記事をまとめたものである。

アルティメイトシリーズの冊子のような例は、少なくとも私には他に知らない。

この冊子をみたことがある人ならば、
そこに上原晋氏のリスニングルームが載っていることを記憶されていることだろう。

タンノイのGRFメモリーが置かれてあった。
このタンノイを、アルティメイトシリーズのアンプで鳴らす、という記事である。
この記事のせいだろうか、
上原晋氏は、GRFメモリーを鳴らされていた、と思われた人は少なくないはず。
けれど、実際はタンノイのSRM12Xを鳴らされていた。

冊子の記事をよく読み、よく写真をみれば、なんとなくわかることなのだが、
GRFメモリーは、冊子のために一時的に上原晋氏のリスニングルームに持ち込まれたものだ。

Date: 11月 25th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(Made in Japan・その1)

何年くらい前からだろうか(オーディオ以外のところで)、
Made in Japanを誇らしげに謳っているのをよくみかけるようになった。

それらをみかけるたびに思っているのは、
ずっと以前のMade in Japanと、現状でのMade in Japanは、
意味するところは必ずしも同じではないはず、ということだ。

ずっと以前のMade in Japanは、いわばMade by Japaneseだった。
日本でつくられるイコール日本人によってつくられたモノであった。

いまはMade in JapanイコールMade by Japaneseなわけではなくなりつつある。

Made by JapaneseであるモノとMade by Japaneseではないモノ。
どちらが優れているとかそういうことではない。

ただMade in Japanを、誇らしげに(ことさらに)謳っているのをみると、
Made in Japanとは、どういうことなのかを問い正しくなる、ということである。

Date: 11月 24th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(上原晋氏のこと・その1)

昨日(11月23日)は、兵庫と大阪に行っていた。
大阪ハイエンドオーディオショウが第一の目的ではなかった。
大阪ハイエンドオーディオショウをみたのが、二時間足らずだったのはそのためである。

兵庫は宝塚に行っていた。
ラックスの上原晋氏のリスニングルームに行っていた。

上原晋氏は、ラックスの技術部長、技術顧問、常務だった人である。
2015年12月に亡くなられている。
故人のリスニングルームを訪問してきた。
いまは長男の上原嵩史氏が、維持され鳴らされている。

上原晋(すすむ)氏の名前は、ラックスというオーディオメーカーに興味のある人ならば、
ある世代よりも上ならば、たいていの人が知っている。

それまで上原晋氏のことを知らなかった人でも、
1982年に発表されたアルティメイトシリーズ、
プリメインアンプLX38u、コントロールアンプCL36u、パワーアンプMB88uの記事で、
上原晋氏の名前と存在を知ったであろう。

ステレオサウンド 65号(1982年12月発売)に、
「ラックスのアルティメイト・シリーズに見るオーディオ工芸家 上原 晋論」が載っている。
永井潤による文章だ。

アルティメイトシリーズのアンプ三機種は、いうまでもなく真空管アンプである。
型番末尾につく「u」はアルティメイト(ultimate)を表わしている、と発表されているが、
じつのところ上原晋の「u」でもある。

記事にもあるが、このアルティメイトシリーズが、
ラックス最後の真空管アンプとなる予定だった。

Date: 11月 7th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(韓国、中国は……・その3)

1970年にトランジスタ技術別冊として「世界の名器に挑戦」というムックが出ている。
出ていることは知っているけれど、手にとって読んだことはない。

内容は、海外の有名アンプのコピー(クローン)を製作するというもの。
コントロールアンプでは、マランツのModel 7T、JBLのSG520、
マッキントッシュのC27とC26、ダイナコのPAT4、QUADの33、CMラボラトリーズのCC2。
パワーアンプは、マランツのModel 15、JBLのSE400S、ダイナコのStereo 120、
アコースティックのModel I、QUADの303、アルテックの351C、CMラボラトリーズの350、
プリメインアンプはJBLのSA600が取り上げられている。

おもしろい企画だと思うし、この時代ならではの企画でもあろう。

スピーカーシステムでは、同じ企画はいくつもある。
自作のパラゴン、自作のハーツフィールドなどの記事は、過去にいくつもあった。

どこまで本物に迫れるか。
自作する人の腕の見せどころでもあるし、
本物に迫ろうとすればするほど、本物を買った方が結果としては安くつくのではないのか。

それでも人は作る。

AliExpressでオーディオに関するものを検索していくと、
1970年代の日本のオーディオのありかたと重なってくるところがあるようにも感じる。

そういえば、そのころ日本にはジムテックというメーカーがあった。

Date: 11月 4th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(韓国、中国は……・その2)

AliExpressには、クレルのKSA50そっくりのアンプが見つかる。
内部の写真も見ることができる。

1980年代には、クレルの偽物が話題になったことがある。
外観はクレルのKSA50、KSA100とそっくり。
けれど中身はすかすかで、持ってみれば軽いから、音を聴かずとも偽物とわかる。

その偽物のクレルとAliExpressで売られているKSA50のクローンは、そこが違う。
中身もKSA50そっくりに造られている。

おそらく回路もKSA50そのままなのだろう。
この時代のクレルのパワーアンプの回路図はインターネットで検索すれば、すぐに見つかる。
使用しているトランジスターは、多少違っている可能性はあるだろうが、
互換性のあるトランジスターに置き換えられている、と思う。

コンストラクションは、ほぼそのままといえる。
ヒートシンクとファンの位置関係もKSA50の通りだし、
シャーシーの構造は同じとはいえないものの、近づけるよう努力の跡はわかる。

アレンジが加えられているように見えない。
KSA50の音を、できるかぎり再現しようとしたアンプなのか、とも思えてくる。

音は実際のところ、聴いてみないとなんともいえない。
購入しない限り、聴く機会もないだろう。
だからよけいにあれこれ想像してしまう。

KSA50は35年以上前のアンプである。
それのクローンを、中国のどこか(誰か)が製造している。

AliExpressでは、売れた台数が表示されている。
AliExpressでだけで売っているのではないだろうけど、
それほど売れているわけではないようだ。

にも関らず、これだけのクローンアンプを製造し続けている理由を知りたい。

Date: 10月 25th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(韓国、中国は……・その1)

五年前にQUADの405を手に入れたときに、405について検索した。
ファンサイトがいくつかあった。
それらを見ていて、405のクローン基板が売られているのを知った。
AliExpressで売られていた。

価格は、かなり安い。
そして関連製品として、いくつかのアンプが表示される。
それらを見ていると、なぜ、この価格で提供できるのか、と不思議になる。

それから度々AliExpressを見るようになった。
クローンアンプの種類は増えていっている。

QUADの405の基板だけでなく、シャーシーも登場したし、
他のメーカーのアンプのクローンも出てきた。
マークレビンソン、ゴールドムンド、アキュフェーズ、クレル、
それからFMアコースティック、ダールジールなども、最近ではある。

どの程度のクローンなのか、そのレベルは買ってみないことにはわからない。
意外にしっかりとコピーしたモノかもしれないし、
値段相当でしかないのかもしれない。

それ以前に、こういうクローンを製造していることを、
全面的に悪と否定する人は、日本のオーディオマニアのなかには少なからずいよう。

褒められたことではない。
けれど、オリジナルそっくりのクローンアンプを製造できるようになったら、
それだけでも、そのメーカー(個人かもしれない)の技術力は、それだけ高くなっていく。

オリジナルとなるアンプを購入して研究しているのか、
あらゆる伝手を使って、回路図なり、技術的資料を入手しているのか、
とにかくそうやってクローンアンプを製造する。

これは単なる金儲けの手段とは思えない。

Date: 9月 17th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(メタルテープ)

カセットテープ、カセットデッキに強い関心をもてなかった私だけれど、
メタルテープの登場には、やはり目を奪われた。
スゴいテープが出てきた、と思った。

自分でも使ってみたい、と思ったけれど、
そのころ私が使っていたカセットデッキはメタルテープ対応ではなかった。
それでも、メタルテープの実力は何度か聴いている。

結局、何を録音するのかを冷静に考えれば、
カセットデッキにメタルテープというのは、もったいないのかも……、とおもいもあった。

だからオープンリールテープがいつメタル化するのだろうか、とも思っていた。
オープンリールデッキにメタルテープ、それも2トラック38cm/sec。
どういう音がするのだろうか、と想像力をたくましくしていた時期があった。

価格もいったいどれだけ高価になるのだろうか、とも想像していた。
10号リールのメタルテープ、相当に高価になったはずだ。

結局、オープンリールのメタルテープはあらわれなかった。
どこも開発しようとしなかったのか。
そうとは思えない。

どこかはやっていたはずだ。
その音を聴いた人もいるはずだ。
どんな音がしたのだろうか。

Date: 9月 5th, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(パイオニア Exclusive 3401・その4)

パイオニア Exclusive 3401がおそらく、というより間違いなく意識していたであろうJBLの4320。
サテングレーと呼ばれる塗装仕上げの4320も、
パイオニア Exclusive 3401と同じく、エンクロージュアの六面すべてグレー塗装である。

そのためエンクロージュアの単体としてはのっぺりした印象になりがちなところを、
フロントバッフルの上下をはさむかっこうでヒサシ的出っ張りがある。

この出っ張りがなければ、4320のスタイルはずいぶん印象の違うものになっていたはずだ。
4331、4333も4320と同じエンクロージュアだったが、
4331も4333もAタイプになり、この出っ張りはなくなった。

代りにフロントバッフルが別の色で塗装されることで、
全体のアクセントがはっきりとし、平板な印象にはなっていない。
しかもこの時代の4300シリーズのスピーカーは、
フロントバッフルが周囲よりも少し奥に引っ込んでいる。

ところがパイオニア Exclusive 3401はほぼ立方体に近い。
4320のような出っ張りもないし、フロントバッフルを他の色で塗装しているわけでもない。
フロントバッフルは奥に引っ込んでいない。
いわゆる面一(つらいち)である。

外観的アクセントがほとんどないといえるパイオニア Exclusive 3401において、
中音域のホーンの周囲の処理と、ホーントゥイーターがアクセントになっている。

特に中音域ホーンの上下を半円筒状のものでサンドイッチしている処理は、
なかなかのものである。

これはフロントバッフルによる乱反射を抑えるためのもの、とのこと。
ホーン型の場合、ホーンの形状、材質、精度も重要だが、
実際の使用において、ホーン開口部周囲の処理もまた重要であるにもかかわらず、
忘れがちな傾向にあるとも感じている。

パイオニアはExclusive 3401以前から、この点を忘れていない。
PT100というマルチセルラホーンのトゥイーターでも、
ホーンの上下を1/4球状のものでサンドイッチしている。

PT100のことは、八年ほど前に別項「同軸型はトーラスか」で触れている。

Date: 8月 23rd, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(パイオニア Exclusive 3401・その3)

習作的といいたくなる製品は、多くのメーカーに多かれ少なかれある。
特にスピーカーシステムに多くみられるが、
その中でもパイオニアのスピーカーシステムは習作的といいたくなる製品が、
他のメーカーよりもはっきりと多い、と感じていた。

習作的といっているが、興味深いことでもある。
こういうことを考えているのか、と感心する(反対に呆れるか)ことがあるからだ。
そこでの音はともかくとして、勉強になることは確かだ。

とはいえパイオニアのスピーカーシステムで、Exclusiveの名称がつくのに、
習作的なモノとなると、そこは否定的なことをいいたくなる。

Exclusiveのイメージは、アンプによってつくられていた。
そのイメージからすれば、3301と2301は習作的でしかなかった。
3401によって、どうにかExclusiveのスピーカーといえるモノが登場した──、
当時そんなふうに感じていた。

Exclusive 3401は、ステレオサウンド 46号の特集には登場していないが、
新製品紹介のページには出ている。

その後、47号のベストバイでは、井上先生が☆☆、山中先生が☆☆☆をつけられていた。
51号のベストバイでは誰にも選ばれていない。
けれど49号のSTATE OF THE ART賞には選ばれている。

聴いていないスピーカーだけに、そういう評価なのか、と思いそうになった。
Exclusive 3401Wが、ステレオサウンドの総テストに登場するのは、54号。

黒田先生、菅野先生、瀬川先生が試聴されていて、
黒田先生と瀬川先生が特選であった。

瀬川先生の試聴記の最後に、
《初期の製品の印象はあまりよくなかったが、ずいぶん練り上げられてきたと思う》とある。
そうだったのか……、と納得したものだった。

54号に登場しているのはExclusive 3401W。
Exclusive 3401との違いはエンクロージュアの仕上げだけでなく、
3401Wにはハカマがついているし、トゥイーターの取り付け位置は最初から固定で、
つまり左右対称のユニット配置になっているから、メクラ板はない。

そして、そこにはExclusiveのネームプレートがついている。

Exclusive 3401は、写真をみるかぎり、フロントバッフルのどこにもExclusiveの文字はない。
国産スピーカーだけでなく、海外のスピーカーであっても、
フロントバッフルに型番やメーカー名が入っているモノはある。

Exclusive 3401には、それがない。3401Wにはあるのに。
そのことがグレイの塗装仕上げとともに、
このスピーカーがモニタースピーカーとして開発されたモノだと、私にはおもえる。

Date: 8月 23rd, 2018
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(パイオニア Exclusive 3401・その2)

Exclusive 3401の広告は、ステレオサウンド 46号に載っていた。
「曲は終り、針が止まった。雨の音だけが残った。」
というキャッチコピーがあった。

その下にサランネットを外した正面からのExclusive 3401、
その右ページにはサランネットを付けた状態で、少し斜めからの写真があった。

グレイといっても、JBLのスタジオモニターのグレイとは少し違っていた。
わずかに緑が入っているようにも感じた。

Exclusive 3401をみれば、JBLの4320、4333をそうとうに意識しているのことは、
誰の目にも明らかなくらい、ユニット配置、バスレフポートの位置、
エンクロージュアのプロポーションなど、近いところが多い。

トゥイーターの位置も左右どちらかに取り付けられるようになっているところもそうだし、
ウーファーの口径、外観もJBLのウーファーを感じさせるものだし、
スコーカーのホーンもExclusive 2301が、JBLの2397をおもわせるホーンなのに対し、
こちらはJBLのスタジオモニター共通のショートホーンである。

トゥイーターのホーン開口部は、エレクトロボイスのトゥイーターっぽい感じもあるが、
なんとなくJBL的にみえるといえば、そうみえなくもない。

JBLのスタジオモニターも、4331A、4333Aのように、
型番末尾にAがつくようになってから、
エンクロージュアの形状とフロントバッフルの色が変更された。
4320、4331、4333では六面すべてサテングレー仕上げだった。

Exclusive 3401も六面すべてグレー仕上げである。
そのためか正面からの写真では、やや平面的な印象も受けるし、
引き締まった印象は薄い。

それでもExclusive 3401は、気になった。
46号の広告ではExclusive 3401Wは登場してなかった。
グレーのExclusive 3401だけであったから、
パイオニアがモニタースピーカーを開発したのか、とも思っていた。

けれど46号の特集「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質を探る」では取り上げられてない。