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Date: 6月 6th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その10)

ステレオサウンド 53号に、こんな記事が載った。
それまでのステレオサウンドにはなかった記事(私が読みはじめた41号なので、それ以降ということだが)。
タイトルはかなり長めで、
「プロフェッショナルたちがあなたの装置のトラブルや不磨をチェックするとこうなります」で、
筆者名のところにははじめてみる宇田川弘司とあった。

宇田川氏については記事中にはなにもふれられていなので、どんな経歴の方なのかは私は知らない。
それにこの記事のタイトルにある「プロフェッショナルたち」からわかるは、
この記事は宇田川氏だけでなく、
ほかの方々(どんな方なのかは不明)も登場して連載記事にする予定だったのだろう。

この記事は53号だけで終ってしまった。
ステレオサウンドをずっと読んでこられた方でも、この記事をおぼえている方はそんなに多くないようにも思う。
地味な印象の記事だった。

この記事に登場した読者の川畑さんは、
JBLの4331Aに2405のコンシュマー版の077をつけ加えられたスピーカーシステムを使われている。

この4331Aに対して、宇田川氏は私見として
「プロ用のウーファーはオーバーダンピングぎみになりがちだから」と語られている。
そして川畑さんの不満を解消するためにパワーアンプとスピーカーのあいだに直列に抵抗をいれられた。

つまりパワーアンプの出力インピーダンスを高くしてしまうわけだ。
たとえば1Ωの抵抗を直列にいれれば、この1Ωぶんだけパワーアンプの出力インピーダンスは高くなる。
仮にパワーアンプの出力インピーダンスが0.1Ωだったら1+0.1で1.1Ωになる。
当然ダンピングファクターは低くなる。
0.1Ωだと80あったダンピングファクターが、1.1Ωだと7.2727となってしまう。

宇田川氏は音を聴きながら直列にいれる抵抗の値を1Ω、0.5Ωと変えられ、
さらにパワーアンプが管球式かトランジスターかによっても抵抗値を変えられている。

こういう手法があることは、ステレオサウンド 53号を読む以前にも何かで読んだ記憶があり知ってはいた。
知ってはいたけれど……、である。

Date: 5月 30th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その9)

定電圧出力アンプと定電流出力アンプの違いは、負荷に対する出力インピーダンスの違い、ともいえる。
つまり負荷インピーダンスよりも十分に低い出力インピーダンスであれば定電圧出力、
負荷インピーダンスよりも十分に高い出力インピーダンスならば定電流出力ということになる。

十分に低い、十分に高いとはどのくらいの値のことになるのか。
低い方はすんなりいえる。
パワーアンプの出力インピーダンスが0.1Ωならば十分に低い値といえる。
パワーアンプのカタログに載っているダンピングファクターは、
負荷インピーダンスを出力インピーダンスで割った値である。

出力インピーダンスが0.1Ωでスピーカーのインピーダンスが8Ωならば、ダンピングファクターは8/0.1=80。
0.4Ωの出力インピーダンスでも8/0.4=20。
ダンピングファクター20といえば、マランツのModel 2がそうである。

出力インピーダンスが1Ωだとダンピングファクターは8。これでも低いといえば低いのだが、
やはり十分に低いということになると、ダンピングファクター10をこえたあたりからであり、
つまり負荷インピーダンスに対し出力インピーダンスは1/10以下ということ。

では十分に高い方もスピーカーのインピーダンスよりも10倍高い値、
つまり80Ωほどの出力インピーダンスをもつパワーアンプであれば定電流出力となるのかといえば、
必ずしもそうとはいえない。

なぜかといえば負荷となるスピーカーのインピーダンスカーヴが大きく変動するからである。
それもf0において高い方へ、と。

公称インピーダンス8Ωのスピーカーで、f0でのインピーダンスも10Ω程度であれば、
出力インピーダンスが80Ωでも定電流出力といえるけれど、
実際にはf0でのインピーダンスの上昇はそんなものではない。
20Ω、30Ωくらいにはすぐなるスピーカーは多いし、古い設計のスピーカーであればもっと上昇する。

JBLのD130のインピーダンスカーヴをみると、約90Ω。
アルテックの604-8Gでは100Ωをすこしこえている。
こういうスピーカーが負荷であれば、出力インピーダンスが80Ωあったとしても、
foにおいては十分な高い値どころか、逆にわずかではあるが低い値になってしまう。

f0でのインピーダンス上昇を含めて全体にわたり定電流出力を実現するには80Ω程度では十分とはいえない。

Date: 5月 29th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その8)

f0は最低共振周波数のこと。
そのf0でインピーダンスが上昇するのは共振しているからであって、
つまりはf0においてはそれほどパワーを必要としないわけである。

このことはスピーカーの教科書的な本に書いてあることだから、
オーディオに興味を持ちはじめてすぐのころには知識としては持っていた。

確かに共振しているからパワーは少なくといい、という理屈はわかる。
でも同時にオーディオの初心者として疑問だったのは、
共振しているものを完全に制御するのに、そうでない周波数よりも、より大きなパワーを必要とするのではなのか、
そんなことを漠然と感じていた。

振動板が静止していて、それを動かすのであればf0でインピーダンスが高くてパワーが少なくていい、
というのは素直に理解できるのだが、スピーカーの振動板は音楽を鳴らしているときにはつねに動いていてる。
その動いている状態でf0のインピーダンスが上昇し、
定電圧出力のパワーアンプではパワーが少ししか入らないということは、
音楽信号によって動いている振動板を制御できるのだろうか──、そう考えたわけだ。

もしかすると共振して動いている状態の振動板を制御するのには、意外にもパワーを必要とするのかもしれない。
だとしたらインピーダンスとパワーが比例関係にある定電流出力の方がいいのではないか──、そうも考えた。

実際のところスピーカーの実動作を正しく解析できるわけでもなく、そう考えるだけに留まっているのだが、
スピーカーはいつのころから定電圧駆動が前提となっていったのか、そのことについても考えていた。

D130が生れた1948年は、まだそんなことは前提として決っていなかった(はず)と、
同時代のアンプの回路図を見ていると、そう思えてくる。

Date: 5月 27th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その7)

定電流出力のパワーアンプは定電圧出力のパワーアンプが、
負荷インピーダンスの変化に関係なく一定の電圧を供給するのに対して、
負荷インピーダンスが変化してもつねに一定の電流を供給する。

オームの法則では電流の二乗に負荷インピーダンスをかけた値が電力だから、
負荷インピーダンスが高い周波数では、定電流出力のパワーアンプを使った場合には出力が増すことになる。
この出力の、負荷インピーダンスに対する変化は、定電圧出力と定電流出力とでは正反対になるわけだ。

もちろん、どの周波数においても、8Ωならつねに8Ωというスピーカー(純抵抗ごときスピーカー)ならば、
定電圧出力パワーアンプでも定電流出力のパワーアンプでも、出力においては差は生じないことになるが、
現実のスピーカーシステムはf0ではインピーダンスが上昇するし、
中高域においてもインピーダンスが多少なりとも変動するものが大半であることはいうまでもない。

スピーカーの駆動において、定電流出力がいいのか、定電圧出力がいいのかは、
日本でも1970年代ごろのラジオ技術でかなり論議された、と聞いている。
いまでもラジオ技術では定電流駆動についての実験記事が載ることがある。

実は私も、定電圧出力か定電流出力かについては、
オーディオに興味を持ちはじめたころ、疑問に思った時期がある。

電圧と電流とでは、電力に結びつくのは電流である。
スピーカーを駆動するにはパワーが必要である。
とくに低能率のスピーカーにおいてはより大きなパワーを必要とする。
ということは電流をいかに供給できるか、ということであって、
それならば定電流出力のほうが、実は本質的ではないか、と考えたわけだ。

もちろんオームの法則はすでに知っていたからf0においてインピーダンスが上昇すれば、
f0における出力は、仮に40Ωになれば5倍の出力になるわけで、
スピーカーの周波数特性はインピーダンス・カーヴそのままになることは想像できたし、
定電圧出力を前提にスピーカーシステムはまとめられていることも知ってはいた。

にもかかわらず、それでも……と思うところもあった。

Date: 5月 25th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その6)

真空管アンプの歴史を調べてみたからといって、
ランシングが実際使っていたアンプの詳細がはっきりしてくるわけではない。

だから、どこまでいっても憶測に過ぎないのだが、
ランシングが使っていたアンプはNFBはかけられていたても、
出力トランスはNFBループに含まれていなかった、と思う。

出力段はプッシュプルだったのではないか、と思う。
D130のように高能率のスピーカーでは、ハム、ノイズが目立つ。
だから、少なくとも直熱三極管のシングルアンプということはなかったはず。

せいぜいいえるのは、このくらいのことでしかない。
にも関わらず、わざわざ「D130とアンプのこと」というテーマをたててまで書き始めたのは、
スピーカーとアンプとの関係の変化について考えてみたかったからである。

現在のスピーカーは定電圧駆動されることを前提としている。
つまり定電圧出力のパワーアンプで鳴らしたときに特性が保証されているわけだ。

定電圧アンプとは負荷インピーダンスの変化に関係なく一定の電圧を供給するというもの。
スピーカーはf0附近でインピーダンスが上昇するのがほとんどである。
定電圧アンプはf0でインピーダンスが数10Ωに上昇していてもインピーダンスが8Ωであっても、
10Vなら10Vの電圧を供給する。

オームの法則では電力は電圧の二乗をインピーダンスで割った値だから、
電圧は負荷インピーダンスの変化に関係なく一定だから、
インピーダンスの高いところでは電力(つまりパワーアンプの出力)は小さく、
インピーダンスの低いところでは大きくなる。
これはカタログを見ても、出力の項目に8Ω負荷時、4Ω負荷時のそれぞれの値をみればすぐにわかることである。

現在市販されているパワーアンプのほぼすべては定電圧出力といえる。
定電圧があれば定電流がある。
パワーアンプにも定電流出力がある。

Date: 5月 24th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その5)

リークのPoint Oneにしろウィリアムソン・アンプにしろ、
1940年代後半に出力トランスを含んで、あれだけのNFBをかけられたのは、
パートリッジ製の出力トランスがイギリスにはあったから、といえるのではないだろうか。

この時代に、アメリカでパートリッジのトランスがどれだけ流通していたのかは、私は知らない。
当時のアメリカの雑誌にあたれば、そのへんのことは掴めるだろうが、
いまのところははっきりしたことは何も書けない。

ただマッキントッシュのA116、マランツのModel 2の登場時期からすれば、
パートリッジのトランスが流通していたとしても、それほどの量ではなかったのかもしれない。

それにウィリアムソン・アンプの発表と同時期に
アメリカではオルソン・アンプが話題になっていることも考え合わせると、
少なくともランシングが生きていた時代のアメリカのパワーアンプは、
メーカー製も自作も含めて、出力トランスがNFBループに含まれることはほとんどなかったと推測できる。

1947年7月にマサチューセッツの単グルウッドで行われたRCAのラジオ・テレビショウで、
オーケストラの生演奏とレコード再生のすり替え実験で使われたアンプが、オルソン・アンプである。
ここで使われたスピーカーはLC1Aで、12台がステージの前に設置されている。

オルソン・アンプの回路構成は、6J5で増幅した後にボリュウムがはいり(いわばここがプリ部にあたる)、
双三極管6SN7の1ユニットで増幅した後に6SN7ののこりのユニットによるP-K分割で位相反転を行ない、
出力段は6F6を三極管接続したパラレルプッシュプルとなっている。
NFBはかけられてなく、出力トランスもパートリッジの分割巻きといった特殊なものを使わずにすむ。

しかもオルソン・アンプの回路図には調整箇所がない。
ウィリアムソン・アンプには、出力管のカソードに100Ωの半固定抵抗、グリッド抵抗に100Ωの半固定抵抗がある。

この時代としては特殊で高性能なトランスも必要としない、調整箇所もなし、ということで、
アマチュアにも再現性の高いように一見思えるオルソン・アンプだが、
たとえば電源部の平滑コンデンサーの定格は450V耐圧の50μF、40μF、20μFという、
当時としては大容量の電解コンデンサーを使っている。ウィリアムソン・アンプのこの部分は8μF。

いまでこそ450V耐圧の50μFの良質なコンデンサーは入手できるものの、
オルソン・アンプが発表されたころの日本製のコンデンサーには、
これだけの耐圧とこれだけの容量のものはなかったはず。

しかもオルソン・アンプの電源トランスのタップは390Vとなっていて、
これを5Y3(整流管)と50μFのコンデンサーインプットだから
出力管の6f6にかかるプレート電圧は定格ぎりぎりに近く意外に高い。
そのためRCA製の6F6を使えば問題なく動作したオルソン・アンプだが、
日本製の6F6ではすぐにヘタってしまいダメになった、という話を聞いたか、読んだことがある。

とはいえランシングはアメリカに住んでいたわけだから、こんな問題は発生しなかったわけだ。

Date: 5月 23rd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その4)

A116の回路構成は、ウィリアムソン・アンプにかなり近いものになっており、
それまでの15W-1、50W-1とはこの点でも異っている。
もちろんマッキントッシュの独自のユニティ・カップルド回路と組み合わせたものである。

このA116のほぼ2年後にマランツのModel 2が登場する。
Model 2はダンピングファクター調整機構をもっていて、そのため通常の電圧帰還のほかに電流帰還もかけている。
さらにModel 2は出力管のEL34をUL接続している。
UL(Ultra Linear)接続が「Audio Engineering」誌に発表されたのが1951年11月号のこと。

Model 2や、その後のマッキントッシュのアンプについて書いていくと脱線していくだけだからこの辺にしておくが、
アメリカにおいて出力トランスがNFBループに含まれるようになり、
しかも安定したNFBがかけられるようになっていったのは1950年代の半ばごろ、といっていいと思う。

1949年9月29日に自殺したランシングは、これらのパワーアンプを聴いてはいない。
いったいどんなアンプだったのか。
ウィリアムソン・アンプ以前に、出力トランスをNFBループにいれたアンプとして、
やはりウィリアムソン・アンプと同じイギリスのリークのPoint Oneがある。

Point One(ポイントワン)という名称は、歪率0.1%を表したもので、
1945年に登場したType 15は出力段にKT66の三極管接続のプッシュプルを採用し、
歪率0.1%で15Wの出力を実現していたパワーアンプである。

リークの管球式パワーアンプといえば、BBCモニタースピーカー用のアンプとしても知られている。
そのアンプのひとつ、1948年に登場したTL12は、
Type 15と同じでKT66の三極管接続のプッシュプルの出力段をもち、
初段はEF36、位相反転はECC33のカソード結合で、一見ムラード型アンプと同じにみえるが、
初段と位相反転段のあいだにはコンデンサーがはいっている点が異る。

TL12の回路図を見て気づくのは、出力トランスが分割巻きになっていることだ。
TL12の内部写真でトランスの底部(端子側)をみると、パートリッジ製のように思える。
だとするとウィリアムソン・アンプと同じ銘柄の出力トランスということになる。

Date: 5月 23rd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その3)

1951年には50W-2がマッキントッシュから出ている。
50W-1からの変更点については詳しいことははっりきしないが、
50W-2でも出力トランスはNFBループに含まれていない。

マッキントッシュのパワーアンプで出力トランスがNFBループに含まれる(2次側からNFBをかけている)のは、
1853年発売のA116からである。
A116は業務用として開発されたアンプで、その後のMC30、MC60とはシャーシー・コンストラクションも、
シャーシーの仕上げも異る。型番のつけ方も、これアンプだけ違っている。

A116は実際にウェスターン・エレクトリックのトーキーシステムに採用されている。
話は少し脱線してしまうが、このA116について、伊藤先生が語られている。
     *
マッキントッシュを使ったアンプリファイアーの番号はA116というんですが、これはたぶんマッキントッシュの型番だと思います。というのは、これと同じところにウェスターン26というアンプリファイアーがあるんです。このアンプの年代が1954年8月になっていて、中のサーキットはA116とまったく同じなんです。(中略)
このA116、すなわちウェスターン26ですね、これは私も見ましたし音も聴きました。ちょうど映画がシネマスコープになりはじめたころで、シネマスコープはアンプが4台必要ですから、それまでのウェスターンの製品ではとても大きくて取り付けられなかったんです。(中略)
(A116は)いわゆるハイフィデリティー用でしょう。だから高域から低域まで、スキーンと伸びたすばらしい音がしました。だけどね、このアンプをトーキーに使ったときに、一つの問題があったんです。それは、あまりに帯域が広いために、余計なビンビン、バリバリ、ドンドコというノイズが出てきて困ったことがあるんです。もっとも、トーキー用にするために方々にフィルターを入れて取ってはいますけどね。やはり、アンプリファイアーの癖として、フレケンシー・レンジの広い奴はトーキーに持ってくると困るねえ。……それで泣いた事があります。
(ステレオサウンド別冊 世界のオーディオ〈マッキントッシュ〉「劇場やスタジオでつかわれたマッキントッシュ」より)
     *
A116は伊藤先生が語られているように業務用アンプとして日本にもはいってきており、
仙台日活劇場、田川東洋劇場、京都東洋現像所試写室、東映京都撮影所試写室、大映京都撮影所試写室、魚津大劇、
スイト会館(大垣)、内田橋劇場(名古屋)、知多キネマ(半田)、鶴城映画劇場(西尾)、
大映東京撮影所試写室に設置、使用されていた。

A116はさらにRCAの放送設備用アンプとしても使われており、
RCAの製品としての型番はM111229、50W-2もM111236という型番になっている。

Date: 5月 22nd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その2)

日本においてはウィリアムソン・アンプのことが広く知れ渡るようになったのは、
1947年の「Wireless World」の記事ではなく、2年後の49年の同誌8月号に掲載された、より詳細な記事であり、
この記事が翌50年のラジオ技術3月号に掲載されてから、ということだ。

アメリカではどうだったのだろうか。
当時の日本と比べれば、出力トランスの優秀なものはいくつもあったと思う。
けれどパートリッジ製のトランスと同等の性能のトランスで、
出力トランスの2次側から20dBものNFBをかけて高域で発振しないトランスは、
それほど多くはなかったのではなかろうか。
だからこそ、ウィリアムソン・アンプはアメリカでは注目されていったように思う。

JBLのD130は1948年に登場している。
ウィリアムソン・アンプの最初の記事の1年後なのだが、
アメリカに住むランシングがこのときウィリアムソン・アンプを手にしていたとは思えない。

ランシングがどんなアンプを使っていたのか、で、もうひとついえることは、
自作の真空管アンプ、もしくは電蓄の真空管アンプに近いものであった可能性がある、ということ。

いわゆるハイファイアンプと呼べる真空管アンプが登場するのは、もう少し後のことである。
マッキントッシュがユニティ・カップルド回路で特許を取得したのが1948年、D130と同じ年。
マッキントッシュの設立は翌49年1月のことである。
マッキントッシュの最初のアンプはパワーアンプ15W-1、50W-1である。

一方マランツの設立は1951年で、最初のアンプはコントロールアンプのModel 1で、
パワーアンプのModel 2の登場は1956年のことである。

マッキントッシュの15W-1、50W-1の回路がどうなっているのかは知らない。
回路図を見たことがないからだが、1951年に登場した20W-2の回路図を見ると、
出力トランスの2次側からのNFBはない。
おそらく15W-1、50W-1も出力管とそれにともなう出力の違いはあっても、
基本的な回路は20W-1と同じと考えていいはずだ。

となるとマッキントッシュの最初のパワーアンプも出力トランスの2次側からのNFBはなかった、といえる。
NFBは出力管のカソードから初段管のカソードへとかけられている。
もちろんプッシュプル構成なのでNFBの経路は2つあるわけだ。

Date: 5月 22nd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その1)

6年ぐらい前のことになるが、
このときはmixiをやっていて、そこで「JBLのランシングはどんなアンプを使っていたのか」という質問を受けた。

JBLブランドのアンプが登場するのはランシングが亡くなってから、
真空管からトランジスターへ移行してからである。
ランシングが、どんなアンプで自らのスピーカーユニットを鳴らしていたのかは、
いくつかな資料を見てもまったく手掛かりがない。

確実にいえることは、真空管アンプだ、ということだけ。
真空管アンプといっても、いろいろな形態がある。
どんな真空管アンプなのか、は、もう想像するしかない。

真空管アンプで、20dBもの高帰還アンプとして登場したウィリアムソンアンプは、
イギリスの雑誌「Wireless World」の1947年4/5月号で論文発表されている。

ウィリアムソン・アンプは、電圧増幅段に使われているのはL63/6J5、
出力段はKT66を三極管接続にしたプッシュプル。
位相反転は2段目のP-K分割。初段とこの位相反転とのあいだは直結となっている。
NFBは出力トランスの2次側から初段のカソードへとかけられている。

いまウィリアムソン・アンプの回路図を眺めても、
ウィリアムソン・アンプの登場を体験していない世代にとっては、
当時の人が受けた衝撃の大きさはなかなか理解しにくいが、
真空管アンプの歴史を少しでも調べていった人ならば、その大きさの何割かは実感できると思う。

ウィリアムソン・アンプは、イギリスの雑誌に発表されたことからもわかるようにイギリスで生れた。
そしてウィリアムソン・アンプの要となる出力トランスは、分割巻きのトランスで知られるパートリッジ製である。

このパートリッジ製の出力トランスの優秀性のバックアップがあったからこそ、
20dBものNFBを安定にかけられた、ということだ。
つまり当時ウィリアムソン・アンプを実現するには、
パートリッジ製と同等の性能をもつ出力トランスが必要だったことになる。

Date: 4月 24th, 2012
Cate: D130, JBL, 異相の木

「異相の木」(その6)

この項の(その2)でも書いているように、(その1)を書いてから(その2)までを書くのに三年以上あいている。
(その2)を書こうと思ったのは、別項でJBLのD130について書き始めたからである。

D130は、私がこれまで使ってきたスピーカーとは異る。
私が聴く音楽、求めている音、そして理想とするスピーカー像からしても、D130はぴったりくるモノではない。
それでも、昔からD130の存在は気になっていた。

気になっていた、といっても、ものすごく気になる存在というレベルではなく、
なんとなく、すこし気になる程度の存在であったD130が、
ここにきてすごく気になる存在になってきた。

これはD130が、私のなかで「異相の木」として育ってきたからなのかもしれない。
最初は芽がでたばかり、という存在のD130が、D130の存在を知って30年以上経て、
いつしか、どうしても視界にはいってくる気になる木になっていた。

これまでは、いままで使ってきたいくつかのスピーカーシステムという木の陰にかくれていたからか、
ここにくるまで気がつかなかったのだろう。

でも、いまははっきりと視界のなかにいるD130は、私にとっては「異相の木」だという確信がある。
だから、欲しい、という気持ではなく、
一度本気で使ってみなければならない、という気持が日増しに強くなっている。

黒田先生が「異相の木」をステレオサウンド 56号に書かれて、読んだ時から30年以上経ち、
私にとっての、オーディオにおける「異相の木」をやっと見つけることができた──。
というよりも気づくことができた、というべきかもしれない。

Date: 3月 29th, 2012
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その20)

ステレオサウンド 124号の座談会の中から井上先生の発言を抜き書きしてみる。
     *
そもそもスピーカーというものは物理特性が非常に悪いものなんです。ところが上手に鳴らすと巧いこと鳴ってしまう。その意味で、僕は20cmクラスのフルレンジが一番面白いのではないかと思っています。
僕がスピーカーの開発に携わってから30年。レコードを聴きはじめてからは、もう60年。最初好きだったのはローラとかジェンセンの25cmのユニット。英国のフェランティというスピーカーもありましたね。そういったものが家に転がっていたものだから、子供の頃からそれで遊んでいた。もともとシングルコーン派なんですね。
(中略)
要するに、僕はホーンやマルチウェイをイヤというほどやってきたんですね。しかしマルチウェイのクロスオーバーを突き詰めて考えると色々な問題が生じてくる。減衰が18dB/オクターヴでも、24dBでも、12dBでもおかしい。これらの場合は、3ウェイでも2ウェイでも、現実にはユニット同士の位相がすべてバラバラなんです。振幅特性よりも位相特性を考えると、クロスオーバーの減衰は6dBしかないというのが僕の意見。もちろんこれは何を重視するかによって変りますよ。
それでフルレンジをベースとして、ある程度はレンジを広げたい、ということでいま使っているのがボザークのB310。これのネットワークの減衰特性は6dBです。低域は30cmウーファーか4発。中高域は、16cmスコーカーが2発と、二個一組のトゥイーターが4発で、すべてコーン型ユニットで構成され、中域以上はメタルコーンにゴムでダンピングをした振動板を使っている。僕の持論ですが、低音楽器の再生を考えると、本来ならウーファーは30cmなら4発、38cmなら2発必要なんです。そんな理由からボザークを選んで使って30年近くが経ちました。
     *
ステレオサウンド 124号の座談会は出席者が9人と多かったせいもあってか、
それとおそらくは座談会のまとめの段階で誌面のページ数の制約によって、
実際はもっともっといろいろと語られているであろうことが削られているようにも思える。
それは編集上仕方のないことであって、文句を言うことでもない。
だから、井上先生が、フルレンジの良さについて具体的に語られているのは、
124号ではなく、ステレオサウンド別冊の「いまだからフルレンジ 1939-1997」を参照する。

この別冊は、1997年当時の現行フルレンジユニット15機種、
往年の名器と呼ばれるフルレンジユニット12機種の紹介と、
巻頭に「フルレンジの魅力」という井上先生が文章がある。

「いまだからフルレンジ 1939-1997」は井上先生監修の別冊である。

Date: 3月 28th, 2012
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その19)

ステレオサウンド 124号の特集は、オーディオの流儀──自分だけの「道」を探そう、と題されて、
第一部が「独断的オーディオの流儀を語る」で、
朝沼予史宏、井上卓也、上杉佳郎、小林貢、菅野沖彦、長島達夫、傅信幸、三浦孝仁、柳沢功力、
以上9氏による座談会。
第二部は「流儀別システムプラン28選」という組合せの紹介、という二部構成になっている。

座談会のページは、各氏の紹介囲み的に各ページにあり、そこには各人がそれぞれの流儀について書かれている。
井上先生は、こう書かれている。
     *
録音・再生系を基本としたオーディオでは、再生音を楽しむための基本条件として、原音再生は不可能であるということがある。録音サイドの問題にタッチせず、再生側のみのコントロールで、各種のプログラムを材料として再生音を楽しむこと、の2点が必要だ。再生系ではスピーカーシステムが重要だが、電気系とくらべ性能は非常に悪い。しかし、ルーム・アコースティック・設置条件、駆動アンプ等の調整次第でかなり原音的なイリュージョンが聴きとれるのは不思議なことだ。
スピーカーは20cm級全域型が基本と考えており、簡潔で親しみやすい魅力がある。プログラムソースの情報量が増えれば、マルチウェイ化の必要に迫られるが、クロスオーバーの存在は振幅的・位相的に変化をし、予想以上の情報欠落を生じるため、遮断特性は6dB型しかないであろう。
ステレオ再生では、音場再生が大切で、非常に要素が多く、各種各様な流儀が生じるかもしれない。
     *
そして、井上先生はシンボル・スピーカーとして、
パイオニアExclusive 2404とアクースティックラボStella Elegansを挙げられている。

Stella Elegansは、ドイツのマンガーのBWTを中心としたシステム。
BWTは、Bending Wave Transducerの頭文字をとったもので、
ジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットと同じベンディングウェーヴ型(非ピストニックモーション)で、
口径は20cmで、振動板はジャーマン・フィジックスと同じで柔らかい。
Stella Elegansは、BWTに22cm口径のコーン型ウーファーをダブルで追加している。

井上先生は、座談会のなかでも20cm口径のフルレンジについて語られている。

Date: 2月 25th, 2012
Cate: 4343, JBL

4343と2405(その6)

ステレオサウンド 47号には、前号(46号)の特集、モニタースピーカーの測定結果が掲載されている。
この測定結果も実に興味深いものだが、ここではその一部、つまり2405に関することだけを書く。

47号には10機種(アルテック602A、キャバス・ブリガンタン、ダイヤトーンMonitor1、JBL・4333A、4343、
K+H・O92、OL10、スペンドールBCIII、UREI・813、ヤマハNS1000M)の実測データが載っている。
これらのデータで首を傾げてしまったのが、4333Aと4343の超高域周波数特性だった。
いうまでもなく4333Aと4343のトゥイーターは2405。
なのに実測データをみると、同じトゥイーターが付いているとも思い難い違いがあった。
4333Aと4343ではLCネットワークに違いはあるというものの、2405に関してはローカットだけであり、
47号に掲載されている超高域周波数特性の、
それも20kHz以上に関してはLCネットワークの違いによる影響はないもの、といってよい。
なのに、47号のデータはずいぶん違うカーヴを描いている。

もしかすると2405のバラツキなのかも……、と思ったりしたが、確信はなかった。
ステレオサウンドで働くようになって、2405はバラツキが意外と多い、という話も耳にした。
このときはそうかもしれないぁ、ぐらいに受けとめていた。

ステレオサウンドを離れてけっこう経って、ある方からある話を聞いた。
実はNHKはJBLのスタジオモニターの導入を検討していたことがあった、という話だった。
最終的にはJBLは採用されなかったのだが、その大きな理由が2405の、予想以上のバラツキの大きさだった。
導入台数が1ペアとか2ペアといったものではなく、
ひじょうに大きな台数であっただけにバラツキの大きさは無視できない問題となった、ときいた。

結局、2405の、それもアルニコ時代のものは、
クサビ状イコライザーとダイアフラム間の精度(工作精度、取付け精度)にやや問題があり、
周波数特性でのバラツキが出ていた、らしい。
(おそらく、この問題はシリアルナンバーが近いから、連番だから発生しない、ということではないはずだ。)
この点は後期のものでは改良されたようで、
それがいつごろからなのかははっきりしないものの、
少なくともフェライト仕様の2405Hでは解消されている、ときいている。

もちろん2405のアルニコ・モデルすべてに大きなバラツキがあるわけではないけれど、
バラツキのまったくないスピーカーユニットというのも、少し極端な言い方をすれば、ひとつもない、といえる。
スピーカーユニットは、大なり小なりバラついているモノである。

この事実を、どう受けとめるかは、結局はその人次第のはずだ。

Date: 2月 21st, 2012
Cate: 4343, JBL

4343と2405(その5)

JBLのトゥイーター、2405を最初に写真で見た時、
ホーン型といわれてもすぐにはどういう構造なのか理解できなかった。
JBLのホーン型トゥイーターの075は写真を見れば、すぐにわかる。
それに較べると2405は、不思議な形をしているものだ、と感じた。

仮に075が2405と同じ周波数特性をもっていたとして、
4343のトゥイーターとして075(そのプロ仕様の2402)がついていたら、
4343の印象とずいぶんと違ったものになっていたことは間違いないし、
そうだとしたらステレオサウンド 41号の表紙を見た時に、これほど強くは魅かれなかった可能性もある。

2405は、075とは違う系統のトゥイーターのようにも思えていた。
だとしたら、2405はどうやって生れてきたのか。

10年ほど前か、2405は最初オーディオ用のトゥイーターとして開発されたものではなくて、
警察がスピード違反を取り締まるため、その測定用のモノとしてつくられ、
聴感上も特性上も好ましいモノだったので、のちにオーディオ用として使われていった、という話を聞いた。

この話をしてくれた人も細部の記憶があやふやで、それが事実なのかはっきりとはしなかった。
075の形、2405の形を見れば、それも頷けるものの、もっとはっきりとしたことが知りたかった。

スイングジャーナル 1978年6月号にJBLproのゲイリー・マルゴリスのインタヴュー記事が載っている。
そこに24045のことが語られている。
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最初このツイーターは、ある鉄道会社の依頼で列車の連結台数を数える超音波の発信器として作ったのですが、これが特性的にも聴感的にも優れたもので、現在2405と呼ばれるものです。
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2405についての話は細部は違っていたものの、
もともと測定用の超音波発生器として開発されたものであることは事実だった。