Archive for category JBL

Date: 6月 27th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その16)

ヤマハのB4の出力インピーダンス可変機能に、
真空管アンプ時代のときのダンピングファクター可変機能と同じようにプラスしていくだけでなく、
-1Ωという、マイナスしていくようにしたのは、スピーカーケーブルの抵抗成分を打ち消すためである。

B4は1978年の新製品である。
このころはスピーカーケーブルで音が変ることがすでにひろく常識となりつつあったころである。
そしてケーブルによって音が変化するというのであれば、
ケーブルの理想はケーブルが、つまりは存在しないこと、長さ0mということであり、
それに近づけるためにオーレックスとトリオはリモートセンシング技術を応用して、
スピーカーケーブルまでもNFBループに含めてしまった。

オーレックスの方式はクリーンドライブ、トリオはシグマドライブと名付けていた。
これらの技術はB4よりも約2年あとに登場している。
たしかフィデリックスもリモートセンシングは採用していた、と記憶している。

クリーンドライブは通常のスピーカーケーブルのほかに1本ケーブルを追加、
シグマドライブは2本追加することになる。

スピーカーケーブルまでがNFBループに含まれるということは、
NFBループが長くなってしまう、ということでもある。
アンプの中だけの済んでいたNFBループがアンプの外にまで拡がってしまい、
そのためループの大きさはスピーカーケーブルの長さによっては、
アンプ内だけのときと比較すると何倍にもなってしまう。

クリーンドライブは聴く機会がなかったけれど、シグマドライブは何度か聴く機会はあった。
確かに、その効果はあるといえばある。理屈としては間違っていない、と思う。
ただ、スピーカーケーブルの種類、その長さ、引回し方、それとスピーカーケーブルをとりまくノイズ環境、
これらによって、ときとしてシグマドライブにしてもクリーンドライブにしても不安定になることも考えられる。

その点、ヤマハのB4はスピーカーケーブルの抵抗成分だけを、
アンプの出力インピーダンスをマイナスにすることで打ち消し、
ケーブルの長さ0mに疑似的に近づけようとしているだけに不安定要素は少ない。

もっとも抵抗成分を打ち消しても、ケーブルのパラメータとしてはほかの要素がいくつも絡み合っていて、
それらに対してはクリーンドライブやシグマドライブのほうが有効といえる。

ヤマハにしてもオーレックス、トリオにしても、
このとき、これらのメーカーはスピーカーケーブルをアンプ側に属するものとして捉えていた、ともいえる。
別項「境界線」で書いていることとも関係している。

Date: 6月 23rd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その15)

何度か書いているようにfacebookでaudio sharingという非公開のグループをやっている。
現在94人(私も含めて)の方が参加されていて、
このブログへのコメントはfacebookにてもらうことが多くなっている。

今朝、昨夜書いた「D130とアンプのこと」の(その14)へのコメントがあった。
ヤマハのB4の出力インピーダンス(ダンピングファクター)の連続可変についての記事のことだった。
ステレオサウンドでは47号の新製品紹介でB4は登場しているけれど、
この機能についての音の変化にはふれられてなかった。
その後もB4の、この機能についての記述はステレオサウンドにはなかった。

コメントには長岡鉄男氏のダイナミックテストからの引用があった。
1978年のFM fanからの引用ということになる。
     *
出力インピーダンスのツマミを動かすと、かなりの音色変化があり、右へ動かせばゆったり、おっとり、左へ動かせばしゃっきり、がっちりとなる
     *
ということはスライドコントロールを右へ動かせばB4の出力インピーダンスは高くなり、
つまりダンピングファクターは小さくなり、
中央よりも左へ動かせば出力インピーダンスはマイナスへと変化していったことがわかる。

コメントしてくださったMさんはJBLの4343をお持ちで、B4も所有されている。
ご自身の音の印象も長岡氏の印象と同じとのこと。

B4は、この出力インピーダンス可変機能の他に、出力段のA級/B級の動作切替えもできる。
A級動作時は30W、B級動作時は120Wの出力をもっている。

同じ回路構成の同じアンプでもA級動作とB級動作の音は基本的なクォリティは同一であっても、
動作を切替えれば微妙な音のニュアンスにおいては差がある。
A級動作の音とB級動作の音とどちらがいいかをではなく、B4はひとつのアンプで、
出力段の動作切替え、出力インピーダンスの可変機能、
このふたつの機能をうまく利用することで、音の変化はかなり広く調整が利き、
積極的な使い方が可能といえば、そういえるアンプである。

こういう機能は不要だ、こんな機能にお金をかけるくらいならば、
その分の費用を音質向上に向けてほしい、とか、
それらの機能を省いて価格を安くしてほしい、という意見もあると思う。

でも、使い手がその気になれば、B4のように一台でそうとうに楽しめるアンプという存在は、
やはりいつの時代にも存在してほしい、と私は思っている。

楽しむことは学ぶことでもあるからだ。

Date: 6月 22nd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その14)

管球式アンプではいくつか搭載されているモデルがあったダンピングファクターの可変機能だが、
トランジスターアンプとなると、あまり多くないのではないか。
私が知らないだけなのだろうが、
私が思い出せるダンピングファクターを可変できるトランジスター式のパワーアンプは、
ヤマハのB4とマークレビンソンのML3、ML9ぐらいである。

マークレビンソンの2機種は連続可変ではなくスイッチによる3段階(HIGH、MID、LOW)切替えである。
具体的に、どの程度ダンピングファクターを変化させているのかは発表されていない。
ML9は聴いたことがない。
ML3はステレオサウンドの試聴室で一度か二度聴いているけれど、
ダンピングファクターを切替えてみることをしてなかったように記憶している。
いま思えばもったいないことをしたと思う。

ただステレオサウンドのバックナンバーを読み返しても、
ML9、ML3でダンピングファクターを変えての試聴記は載っていない。

あくまでも推測にすぎないが、ML9、ML3のダンピングファクターの変化幅はそれほど大きくないような気がする。
そのためあまり効果がみられず、誰もふれなかったのかもしれない。

ヤマハのB4はダンピングファクターは発表されている。
正確には発表されているのは出力インピーダンスで、1Ωから-1Ωまで連続可変となっている。

出力インピーダンスがもっとも高い値(1Ω時)にはダンピングファクターは8、
フロントパネルにあるスライドコントロールを中央にもってくれば、
出力インピーダンスは下りダンピングファクターの値は高くなる。
そして中央をこえてさらにツマミを動かすと出力インピーダンスはマイナスになっていく。
いわゆる負性インピーダンス駆動となる。

1988年にヤマハはAST(Active Servo Technology)方式を発表した。
このASTは別の会社が商標登録しており、すぐにYST(Yamaha Active Servo Technology)と変更されたが、
このAST方式はバスレフ型スピーカーと負性インピーダンス駆動を組み合わせたものだ。

ヤマハB4の、この機能による音の変化はどうだったのだろうか。
機会があれば、いまこそ試してみたいと思っている。
それもネットワークを内蔵した一般的なスピーカーシステムだけでなく、
フルレンジユニットを、ネットワークを介することなくB4と直接結線して、
ダンピングファクターを変えた音を聴きたい。

Date: 6月 18th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・続余談)

RiceとKelloggによるコーン型スピーカーユニットがどういうものであったのか、
少しでも、その詳細を知りたいと思っていたら、
ステレオサウンド別冊[窮極の愉しみ]スピーカーユニットにこだわる-1に、高津修氏が書かれているのを見つけた。

高津氏の文章を読みまず驚くのは、アンプの凄さである。
1920年代に出力250Wのハイパワーアンプを実現させている。
この時代であれば25Wでもけっこうな大出力であったはずなのに、一桁多い250Wである。
高津氏も書かれているように、おそらく送信管を使った回路構成だろう。

このアンプでライスとケロッグのふたりは、当時入手できるあらゆるスピーカーを試した、とある。
3ウェイのオール・ホーン型、コンデンサー型、アルミ平面ダイアフラムのインダクション型、
振動板のないトーキング・アーク(一種のイオン型とのこと)などである。

これらのスピーカーを250Wのハイパワーアンプで駆動しての実験で、
ライスとケロッグが解決すべき問題としてはっきりしてきたことは、
どの発音原理によるスピーカーでも低音が不足していることであり、
その不足を解決するにはそうとうに大規模になってしまうということ。

どういう実験が行われたのか、その詳細については省かれているが、
ライスとケロッグが到達した結論として、こう書かれている。
「振動系の共振を動作帯域の下限に設定し、音を直接放射するホーンレス・ムーヴィングコイル型スピーカー」
 
ライスとケロッグによるコーン型スピーカーの口径(6インチ)は、
高域特性から決定された値、とある。エッジにはゴムが使われている。
しかも実験の早い段階でバッフルに取り付けることが低音再生に関して有効なことをライスが発見していた、らしい。
磁気回路は励磁型。
再生周波数帯域は100Hzから5kHzほどであったらしい。

実用化された世界初の、このコーン型スピーカーはよく知られるように、
GE社から発売されるだけでなく、ブラウンズウィックの世界初の電気蓄音器パナトロープに搭載されている。

以上のことを高津氏の文章によって知ることができた。
高津氏はもっと細かいところまで調べられていると思うけれど、これだけの情報が得られれば充分である。
Rice & Kelloggの6インチのスピーカーの周波数特性が、やはり40万の法則に近いことがわかったのだから。

Date: 6月 13th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その13)

ダンピングファクターは値が高けれどいいのか、というと、必ずしもそうとはいえない、と考えている。

まずダンピングファクターにも周波数特性がある。
良心的なメーカーは、ダンピングファクターの値の横に、たとえば50Hzとか100Hzとか書いている。
これは50Hzなり100Hzにおけるダンピングファクターの値である、ということ。
ダンピングファクターは高域にいくにしたがって、その値は小さくなる。
つまり出力インピーダンスは高くなる。

NFBを多量にかけてダンピングファクターの値を良くしているアンプの多くは、
低域においては非常に高い値を示すけれど、それ以上の周波数においては低下していく。

さらに良心的なメーカーだと、数ポイントのダンピングファクターの値を表示しているところもある。

けれど、ただ値だけを表示しているメーカーの方が多い、といえよう。

ダンピングファクターが重要になるのは主に低域においてだから、それでも充分だろう、という意見もきく。
果してそうだろうか、と私は思っている。
できるだけ可聴周波数帯域では一定のダンピングファクターのほうが好ましいのではなかろうか。

それに同じ値のダンピングファクターであっても、
NFBを多量にかけてその値を実現したアンプと、
出力段の規模を大きくして物量を投入することで、それほどNFBをかけずに同じ値を実現しているアンプとでは、
スピーカーに対する駆動力は、当然のことながら同じとはいえない。

ダンピングファクターの値=スピーカーに対する駆動力と考えたいのだが、現実には必ずしもそうではない。
さらにダンピングファクターが同じであっても、
トランジスターアンプと出力トランスを搭載する真空管アンプとでは、また少し違ってくる。

出力トランスの存在は、そのトランスの2次側の巻線(ここには直流抵抗が存在しているが)によって
スピーカーをショートさせていることになるからだ。

ダンピングファクターはわかりやすい数値のようでもあるが、
実際にはアンプを比較する上でそれほと役に立つ数値ではない。
とはいえ、マランツの管球式パワーアンプのようにひとつのアンプで、
ダンピングファクターが変えられるとなると、話は違う。

Date: 6月 7th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その12)

ステレオサウンド 53号の記事中には、
4331Aのウーファーについてオーバーダンピングぎみと書いてある。
けれど4331Aのウーファーは2231Aだから、
JBLのウーファーのラインナップのなかではオーバーダンピングぎみとはいえない。
JBLのウーファー、同口径のフルレンジユニットの中では、
D130は確かにオーバーダンピング型のコーン型ユニットである。

だから、この抵抗を挿入する実験は、むしろD130やアルテックの604や515のような、
誰がみてもオーバーダンピングぎみではなくて、
オーバーダンピングと断言できるユニットを使ってやってみるほうが、その効果は如実に出てくると推測できる。

1956年に登場したマランツのModel 2にはダンピングファクターコントロール機能がついている。
この機能を使わない状態でのModel 2のダンピングファクターは20だが、
それを5から1/2(0.5)の範囲で連続可変となっている。

ダンピングファクター20ということは、
8Ωのスピーカー(負荷)に対してはアンプの出力インピーダンスは0.4Ωであり、
この値をダンピングファクター5のときは1.6Ωにして1/2(0.5)のときは16Ωにまで変化させていることになる。
0.4Ωと16Ωとでは20倍違う。

出力インピーダンスを20倍も高くできる機能を搭載している理由は、Model 2の登場した年代にある。
この時代に生きてきたわけではないけれど、
どういうスピーカーが存在していたかはわかっている。
JBLのD130、130A、アルテックの604、515が全盛のときであり、
JBLのLE15が登場するのはもうすこし先1960年になってからである。

ダンピングファクターのコントロールは、オーバーダンピングのユニットに対して有効だったのだろう。
それは単にトーンコントロールで低音を増強するというのではなく、
スピーカーに対する制動そのものを変化させるわけだから。

つまりD130のようなオーバーダンピングのユニットが登場した理由のひとつには、
これらのユニットが生れた同時代のアンプのダンピングファクターは決して高い値ではなかったこと、
その裏付けでもある、と考えてもいいはずだ。

マランツはその後のModel 5、Model 8、Model 9にも、
やり方は変えているものの、抵抗挿入によってダンピングファクターをコントロールできるようにしている。

Date: 6月 7th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その11)

パワーアンプとスピーカーのあいだに抵抗を挿入する手法は、
いまではほとんど話題にならないけれども、
私がオーディオをやりはじめたころにはまだ雑誌で見かけることもあった。

抵抗を入れればダンピングファクターがコントロールできる。
けれど、というか、当然ながら、というか、
それまでなかった抵抗がそこに加わるわけだから、挿入された抵抗器の固有音が加わることになる。
どんな手法にもメリットとデメリットがあるわけで、
その手法をどう判断するかは、自分にとってデメリットよりも、もたらされるメリットが大切がどうかである。

この手法も抵抗器に良質なものを選べば、いまも試してみる価値(というよりも面白さ)がある、と思う。
実際にやる場合に注意すべき点は抵抗値が大きくなればなるほど、
その抵抗による電力損失が大きくなるということで、抵抗の容量の大きなものを必要とする。

オームの法則から電力は電流の二乗×抵抗値だから、
高能率のスピーカーでしかも音量の制約つきであれば、
デールの無誘導巻線抵抗の容量の大きなもので、いくつか抵抗値を変えて実験してみて、
その音の変化を自分のものとできれば、いい経験(勉強)になる。

オーディオマニアはどうしてもなにか比較したときに、どちらが音がいいかの判断をすぐにしがちだが、
ときに大事なのは、どちらがいい音かではなくて、そこでどういう音の変化をしていくのか、
そのことを経験値として自分の中に蓄積していくことである。

蓄積していったことはすぐには役に立たないことの多い、と思う。
それでもいろんなことを試してみて、そうやっていくつものパラメータを自分の中に蓄積していく。
それが、あるレベルを超えれば、それまでどちらかといえばやみくもにやってきていた使いこなしに、
光が射し込んでくる瞬間がきっとくる。

いい音で聴きたいという気持が、ときには音の判断にあせりを生じさせる。
いい音を出すということは、人との競争ではないのだから。
だからこそ先を急がないでほしい、と思うことが最近多くなってきたのは、
そういう空気が色濃くなりはじめてきているのか、それとも私が歳をとったからなのか……。

Date: 6月 6th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その10)

ステレオサウンド 53号に、こんな記事が載った。
それまでのステレオサウンドにはなかった記事(私が読みはじめた41号なので、それ以降ということだが)。
タイトルはかなり長めで、
「プロフェッショナルたちがあなたの装置のトラブルや不磨をチェックするとこうなります」で、
筆者名のところにははじめてみる宇田川弘司とあった。

宇田川氏については記事中にはなにもふれられていなので、どんな経歴の方なのかは私は知らない。
それにこの記事のタイトルにある「プロフェッショナルたち」からわかるは、
この記事は宇田川氏だけでなく、
ほかの方々(どんな方なのかは不明)も登場して連載記事にする予定だったのだろう。

この記事は53号だけで終ってしまった。
ステレオサウンドをずっと読んでこられた方でも、この記事をおぼえている方はそんなに多くないようにも思う。
地味な印象の記事だった。

この記事に登場した読者の川畑さんは、
JBLの4331Aに2405のコンシュマー版の077をつけ加えられたスピーカーシステムを使われている。

この4331Aに対して、宇田川氏は私見として
「プロ用のウーファーはオーバーダンピングぎみになりがちだから」と語られている。
そして川畑さんの不満を解消するためにパワーアンプとスピーカーのあいだに直列に抵抗をいれられた。

つまりパワーアンプの出力インピーダンスを高くしてしまうわけだ。
たとえば1Ωの抵抗を直列にいれれば、この1Ωぶんだけパワーアンプの出力インピーダンスは高くなる。
仮にパワーアンプの出力インピーダンスが0.1Ωだったら1+0.1で1.1Ωになる。
当然ダンピングファクターは低くなる。
0.1Ωだと80あったダンピングファクターが、1.1Ωだと7.2727となってしまう。

宇田川氏は音を聴きながら直列にいれる抵抗の値を1Ω、0.5Ωと変えられ、
さらにパワーアンプが管球式かトランジスターかによっても抵抗値を変えられている。

こういう手法があることは、ステレオサウンド 53号を読む以前にも何かで読んだ記憶があり知ってはいた。
知ってはいたけれど……、である。

Date: 5月 30th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その9)

定電圧出力アンプと定電流出力アンプの違いは、負荷に対する出力インピーダンスの違い、ともいえる。
つまり負荷インピーダンスよりも十分に低い出力インピーダンスであれば定電圧出力、
負荷インピーダンスよりも十分に高い出力インピーダンスならば定電流出力ということになる。

十分に低い、十分に高いとはどのくらいの値のことになるのか。
低い方はすんなりいえる。
パワーアンプの出力インピーダンスが0.1Ωならば十分に低い値といえる。
パワーアンプのカタログに載っているダンピングファクターは、
負荷インピーダンスを出力インピーダンスで割った値である。

出力インピーダンスが0.1Ωでスピーカーのインピーダンスが8Ωならば、ダンピングファクターは8/0.1=80。
0.4Ωの出力インピーダンスでも8/0.4=20。
ダンピングファクター20といえば、マランツのModel 2がそうである。

出力インピーダンスが1Ωだとダンピングファクターは8。これでも低いといえば低いのだが、
やはり十分に低いということになると、ダンピングファクター10をこえたあたりからであり、
つまり負荷インピーダンスに対し出力インピーダンスは1/10以下ということ。

では十分に高い方もスピーカーのインピーダンスよりも10倍高い値、
つまり80Ωほどの出力インピーダンスをもつパワーアンプであれば定電流出力となるのかといえば、
必ずしもそうとはいえない。

なぜかといえば負荷となるスピーカーのインピーダンスカーヴが大きく変動するからである。
それもf0において高い方へ、と。

公称インピーダンス8Ωのスピーカーで、f0でのインピーダンスも10Ω程度であれば、
出力インピーダンスが80Ωでも定電流出力といえるけれど、
実際にはf0でのインピーダンスの上昇はそんなものではない。
20Ω、30Ωくらいにはすぐなるスピーカーは多いし、古い設計のスピーカーであればもっと上昇する。

JBLのD130のインピーダンスカーヴをみると、約90Ω。
アルテックの604-8Gでは100Ωをすこしこえている。
こういうスピーカーが負荷であれば、出力インピーダンスが80Ωあったとしても、
foにおいては十分な高い値どころか、逆にわずかではあるが低い値になってしまう。

f0でのインピーダンス上昇を含めて全体にわたり定電流出力を実現するには80Ω程度では十分とはいえない。

Date: 5月 29th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その8)

f0は最低共振周波数のこと。
そのf0でインピーダンスが上昇するのは共振しているからであって、
つまりはf0においてはそれほどパワーを必要としないわけである。

このことはスピーカーの教科書的な本に書いてあることだから、
オーディオに興味を持ちはじめてすぐのころには知識としては持っていた。

確かに共振しているからパワーは少なくといい、という理屈はわかる。
でも同時にオーディオの初心者として疑問だったのは、
共振しているものを完全に制御するのに、そうでない周波数よりも、より大きなパワーを必要とするのではなのか、
そんなことを漠然と感じていた。

振動板が静止していて、それを動かすのであればf0でインピーダンスが高くてパワーが少なくていい、
というのは素直に理解できるのだが、スピーカーの振動板は音楽を鳴らしているときにはつねに動いていてる。
その動いている状態でf0のインピーダンスが上昇し、
定電圧出力のパワーアンプではパワーが少ししか入らないということは、
音楽信号によって動いている振動板を制御できるのだろうか──、そう考えたわけだ。

もしかすると共振して動いている状態の振動板を制御するのには、意外にもパワーを必要とするのかもしれない。
だとしたらインピーダンスとパワーが比例関係にある定電流出力の方がいいのではないか──、そうも考えた。

実際のところスピーカーの実動作を正しく解析できるわけでもなく、そう考えるだけに留まっているのだが、
スピーカーはいつのころから定電圧駆動が前提となっていったのか、そのことについても考えていた。

D130が生れた1948年は、まだそんなことは前提として決っていなかった(はず)と、
同時代のアンプの回路図を見ていると、そう思えてくる。

Date: 5月 27th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その7)

定電流出力のパワーアンプは定電圧出力のパワーアンプが、
負荷インピーダンスの変化に関係なく一定の電圧を供給するのに対して、
負荷インピーダンスが変化してもつねに一定の電流を供給する。

オームの法則では電流の二乗に負荷インピーダンスをかけた値が電力だから、
負荷インピーダンスが高い周波数では、定電流出力のパワーアンプを使った場合には出力が増すことになる。
この出力の、負荷インピーダンスに対する変化は、定電圧出力と定電流出力とでは正反対になるわけだ。

もちろん、どの周波数においても、8Ωならつねに8Ωというスピーカー(純抵抗ごときスピーカー)ならば、
定電圧出力パワーアンプでも定電流出力のパワーアンプでも、出力においては差は生じないことになるが、
現実のスピーカーシステムはf0ではインピーダンスが上昇するし、
中高域においてもインピーダンスが多少なりとも変動するものが大半であることはいうまでもない。

スピーカーの駆動において、定電流出力がいいのか、定電圧出力がいいのかは、
日本でも1970年代ごろのラジオ技術でかなり論議された、と聞いている。
いまでもラジオ技術では定電流駆動についての実験記事が載ることがある。

実は私も、定電圧出力か定電流出力かについては、
オーディオに興味を持ちはじめたころ、疑問に思った時期がある。

電圧と電流とでは、電力に結びつくのは電流である。
スピーカーを駆動するにはパワーが必要である。
とくに低能率のスピーカーにおいてはより大きなパワーを必要とする。
ということは電流をいかに供給できるか、ということであって、
それならば定電流出力のほうが、実は本質的ではないか、と考えたわけだ。

もちろんオームの法則はすでに知っていたからf0においてインピーダンスが上昇すれば、
f0における出力は、仮に40Ωになれば5倍の出力になるわけで、
スピーカーの周波数特性はインピーダンス・カーヴそのままになることは想像できたし、
定電圧出力を前提にスピーカーシステムはまとめられていることも知ってはいた。

にもかかわらず、それでも……と思うところもあった。

Date: 5月 25th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その6)

真空管アンプの歴史を調べてみたからといって、
ランシングが実際使っていたアンプの詳細がはっきりしてくるわけではない。

だから、どこまでいっても憶測に過ぎないのだが、
ランシングが使っていたアンプはNFBはかけられていたても、
出力トランスはNFBループに含まれていなかった、と思う。

出力段はプッシュプルだったのではないか、と思う。
D130のように高能率のスピーカーでは、ハム、ノイズが目立つ。
だから、少なくとも直熱三極管のシングルアンプということはなかったはず。

せいぜいいえるのは、このくらいのことでしかない。
にも関わらず、わざわざ「D130とアンプのこと」というテーマをたててまで書き始めたのは、
スピーカーとアンプとの関係の変化について考えてみたかったからである。

現在のスピーカーは定電圧駆動されることを前提としている。
つまり定電圧出力のパワーアンプで鳴らしたときに特性が保証されているわけだ。

定電圧アンプとは負荷インピーダンスの変化に関係なく一定の電圧を供給するというもの。
スピーカーはf0附近でインピーダンスが上昇するのがほとんどである。
定電圧アンプはf0でインピーダンスが数10Ωに上昇していてもインピーダンスが8Ωであっても、
10Vなら10Vの電圧を供給する。

オームの法則では電力は電圧の二乗をインピーダンスで割った値だから、
電圧は負荷インピーダンスの変化に関係なく一定だから、
インピーダンスの高いところでは電力(つまりパワーアンプの出力)は小さく、
インピーダンスの低いところでは大きくなる。
これはカタログを見ても、出力の項目に8Ω負荷時、4Ω負荷時のそれぞれの値をみればすぐにわかることである。

現在市販されているパワーアンプのほぼすべては定電圧出力といえる。
定電圧があれば定電流がある。
パワーアンプにも定電流出力がある。

Date: 5月 24th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その5)

リークのPoint Oneにしろウィリアムソン・アンプにしろ、
1940年代後半に出力トランスを含んで、あれだけのNFBをかけられたのは、
パートリッジ製の出力トランスがイギリスにはあったから、といえるのではないだろうか。

この時代に、アメリカでパートリッジのトランスがどれだけ流通していたのかは、私は知らない。
当時のアメリカの雑誌にあたれば、そのへんのことは掴めるだろうが、
いまのところははっきりしたことは何も書けない。

ただマッキントッシュのA116、マランツのModel 2の登場時期からすれば、
パートリッジのトランスが流通していたとしても、それほどの量ではなかったのかもしれない。

それにウィリアムソン・アンプの発表と同時期に
アメリカではオルソン・アンプが話題になっていることも考え合わせると、
少なくともランシングが生きていた時代のアメリカのパワーアンプは、
メーカー製も自作も含めて、出力トランスがNFBループに含まれることはほとんどなかったと推測できる。

1947年7月にマサチューセッツの単グルウッドで行われたRCAのラジオ・テレビショウで、
オーケストラの生演奏とレコード再生のすり替え実験で使われたアンプが、オルソン・アンプである。
ここで使われたスピーカーはLC1Aで、12台がステージの前に設置されている。

オルソン・アンプの回路構成は、6J5で増幅した後にボリュウムがはいり(いわばここがプリ部にあたる)、
双三極管6SN7の1ユニットで増幅した後に6SN7ののこりのユニットによるP-K分割で位相反転を行ない、
出力段は6F6を三極管接続したパラレルプッシュプルとなっている。
NFBはかけられてなく、出力トランスもパートリッジの分割巻きといった特殊なものを使わずにすむ。

しかもオルソン・アンプの回路図には調整箇所がない。
ウィリアムソン・アンプには、出力管のカソードに100Ωの半固定抵抗、グリッド抵抗に100Ωの半固定抵抗がある。

この時代としては特殊で高性能なトランスも必要としない、調整箇所もなし、ということで、
アマチュアにも再現性の高いように一見思えるオルソン・アンプだが、
たとえば電源部の平滑コンデンサーの定格は450V耐圧の50μF、40μF、20μFという、
当時としては大容量の電解コンデンサーを使っている。ウィリアムソン・アンプのこの部分は8μF。

いまでこそ450V耐圧の50μFの良質なコンデンサーは入手できるものの、
オルソン・アンプが発表されたころの日本製のコンデンサーには、
これだけの耐圧とこれだけの容量のものはなかったはず。

しかもオルソン・アンプの電源トランスのタップは390Vとなっていて、
これを5Y3(整流管)と50μFのコンデンサーインプットだから
出力管の6f6にかかるプレート電圧は定格ぎりぎりに近く意外に高い。
そのためRCA製の6F6を使えば問題なく動作したオルソン・アンプだが、
日本製の6F6ではすぐにヘタってしまいダメになった、という話を聞いたか、読んだことがある。

とはいえランシングはアメリカに住んでいたわけだから、こんな問題は発生しなかったわけだ。

Date: 5月 23rd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その4)

A116の回路構成は、ウィリアムソン・アンプにかなり近いものになっており、
それまでの15W-1、50W-1とはこの点でも異っている。
もちろんマッキントッシュの独自のユニティ・カップルド回路と組み合わせたものである。

このA116のほぼ2年後にマランツのModel 2が登場する。
Model 2はダンピングファクター調整機構をもっていて、そのため通常の電圧帰還のほかに電流帰還もかけている。
さらにModel 2は出力管のEL34をUL接続している。
UL(Ultra Linear)接続が「Audio Engineering」誌に発表されたのが1951年11月号のこと。

Model 2や、その後のマッキントッシュのアンプについて書いていくと脱線していくだけだからこの辺にしておくが、
アメリカにおいて出力トランスがNFBループに含まれるようになり、
しかも安定したNFBがかけられるようになっていったのは1950年代の半ばごろ、といっていいと思う。

1949年9月29日に自殺したランシングは、これらのパワーアンプを聴いてはいない。
いったいどんなアンプだったのか。
ウィリアムソン・アンプ以前に、出力トランスをNFBループにいれたアンプとして、
やはりウィリアムソン・アンプと同じイギリスのリークのPoint Oneがある。

Point One(ポイントワン)という名称は、歪率0.1%を表したもので、
1945年に登場したType 15は出力段にKT66の三極管接続のプッシュプルを採用し、
歪率0.1%で15Wの出力を実現していたパワーアンプである。

リークの管球式パワーアンプといえば、BBCモニタースピーカー用のアンプとしても知られている。
そのアンプのひとつ、1948年に登場したTL12は、
Type 15と同じでKT66の三極管接続のプッシュプルの出力段をもち、
初段はEF36、位相反転はECC33のカソード結合で、一見ムラード型アンプと同じにみえるが、
初段と位相反転段のあいだにはコンデンサーがはいっている点が異る。

TL12の回路図を見て気づくのは、出力トランスが分割巻きになっていることだ。
TL12の内部写真でトランスの底部(端子側)をみると、パートリッジ製のように思える。
だとするとウィリアムソン・アンプと同じ銘柄の出力トランスということになる。

Date: 5月 23rd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その3)

1951年には50W-2がマッキントッシュから出ている。
50W-1からの変更点については詳しいことははっりきしないが、
50W-2でも出力トランスはNFBループに含まれていない。

マッキントッシュのパワーアンプで出力トランスがNFBループに含まれる(2次側からNFBをかけている)のは、
1853年発売のA116からである。
A116は業務用として開発されたアンプで、その後のMC30、MC60とはシャーシー・コンストラクションも、
シャーシーの仕上げも異る。型番のつけ方も、これアンプだけ違っている。

A116は実際にウェスターン・エレクトリックのトーキーシステムに採用されている。
話は少し脱線してしまうが、このA116について、伊藤先生が語られている。
     *
マッキントッシュを使ったアンプリファイアーの番号はA116というんですが、これはたぶんマッキントッシュの型番だと思います。というのは、これと同じところにウェスターン26というアンプリファイアーがあるんです。このアンプの年代が1954年8月になっていて、中のサーキットはA116とまったく同じなんです。(中略)
このA116、すなわちウェスターン26ですね、これは私も見ましたし音も聴きました。ちょうど映画がシネマスコープになりはじめたころで、シネマスコープはアンプが4台必要ですから、それまでのウェスターンの製品ではとても大きくて取り付けられなかったんです。(中略)
(A116は)いわゆるハイフィデリティー用でしょう。だから高域から低域まで、スキーンと伸びたすばらしい音がしました。だけどね、このアンプをトーキーに使ったときに、一つの問題があったんです。それは、あまりに帯域が広いために、余計なビンビン、バリバリ、ドンドコというノイズが出てきて困ったことがあるんです。もっとも、トーキー用にするために方々にフィルターを入れて取ってはいますけどね。やはり、アンプリファイアーの癖として、フレケンシー・レンジの広い奴はトーキーに持ってくると困るねえ。……それで泣いた事があります。
(ステレオサウンド別冊 世界のオーディオ〈マッキントッシュ〉「劇場やスタジオでつかわれたマッキントッシュ」より)
     *
A116は伊藤先生が語られているように業務用アンプとして日本にもはいってきており、
仙台日活劇場、田川東洋劇場、京都東洋現像所試写室、東映京都撮影所試写室、大映京都撮影所試写室、魚津大劇、
スイト会館(大垣)、内田橋劇場(名古屋)、知多キネマ(半田)、鶴城映画劇場(西尾)、
大映東京撮影所試写室に設置、使用されていた。

A116はさらにRCAの放送設備用アンプとしても使われており、
RCAの製品としての型番はM111229、50W-2もM111236という型番になっている。