Archive for category JBL

Date: 2月 11th, 2013
Cate: 4343, 4350, JBL

4343と4350(その7)

このころ(1978年)ロジャースには、LS3/5A専用のサブウーファーが用意されていた。
わりと知られているAB1というサブウーファーではなく、L35Bという型番をもつモデルで、
専用のデヴァイダーとパワーアンプを同一筐体におさめたXA75から成るシステムで、
Reference Systemと名づけられていた。

このシステムのLS3/5Aとのクロスオーバー周波数は150Hzである。
瀬川先生が「コンポーネントステレオの世界 ’79」での組合せでのクロスオーバー周波数よりもずっと低い。
ちょうど半分の周波数で、瀬川先生の体験からすれば、
聴感上・感覚的なエネルギーがうまくつながらない(にくい)周波数ということになる。

ロジャースのReference Systemを聴く機会はなかった。実物を見たこともない。
実際にLS3/5Aとうまくつながるのだろうか。

1990年代なかばに出たAB1は聴く機会があった。
自分で調整した音ではないのでこまかなことはなんともいえないものの、
LS3/5A専用を謳っているものの、これならばLS3/5A単体で鳴らしたほうがいいと、私は感じていた。

AB1はLS3/5A搭載と同じウーファー(つまりKEFのB110)を使っている。
Reference SystemのL35Bで使われているのは33cm口径のユニットである。
これを密閉型のエンクロージュアにおさめ、
エンクロージュアの天板にはLS3/5Aを置く位置が指定してある。

エンクロージュアの寸法はW46×H83×D42cmで、けっこう大きなサイズである。
この上にLS3/5Aがのるわけだが、見た目はすくなくとも専用ウーファーとは思えない。

Date: 2月 10th, 2013
Cate: 4343, 4350, JBL

4343と4350(その6)

見落しといえば、これも見落しなのかもしれない。

ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’79」で、
瀬川先生がチャートウェルのLS3/5Aで組合せをつくられているのは、別項で書いているとおり。

この年の「コンポーネントステレオの世界」は実践的オーディオシステム構成法として、
バランス型のステップアップ型の組合せを予算に合せて、評論家が考えるという企画である。

LS3/5Aの組合せでは予算60万円でまとめられ、
次のステップとして予算が倍の120万円となる。
60万円でまとめたLS3/5Aの組合せをどういうふうにステップアップしていくのか、
瀬川先生はふたつのプランを用意されていた。

そのひとつとしてLS3/5Aにウーファーを足すことで、グレードアップをはかるというもの。
ウーファーにはJBLの136A、
エンクロージュアには当時JBLの輸入元だったサンスイがJBLの強力を得て開発したECシリーズを使い、
専用アンプを用意してバイアンプ駆動する、というもの。

この組合せについて、こう語られている。
     *
マルチアンプそれから3Dの場合、大型のウーファーをあとから追加するときに、よく、できるだけ低いところから足したほうがいいだろう、とお考えになる方が多いでしょう。最近はスーパーウーファーばやりで、数多い製品が登場してきていますが、そうしたものが大体100Hzか、それ以下の80、70Hzといったところから下で使っているので、そうお考えになるのも無理からぬところだと思います。
じつはぼく自身が、かつてマルチアンプをさんざん実験していたころ、たとえばウーファーに15インチぐらいの口径のものをもってきて、その上に小口径のコーン型ユニットを組み合わせた場合、理論的にはその小口径のコーンだって100Hz以下の、70とか60Hzのところまで出せるはずです。特性をみても実際に単独で聴いてみても、100Hz以下が十分に出ています。
したがって、たとえば100Hzぐらいのクロスオーバーでつながるはずですが、実際にはうまくいかない。ぼくにはどうしてなのかじつはよく分らないんだけれど、15インチ口径のウーファーで出した低音と、LS3/5Aのような10センチぐらいの小口径、あるいはそれ以上の20センチ口径ぐらいまでのものから出てくる中低音とが、聴感上のエネルギーでバランスがとれるポイントというのは、意外に高いところにあるんですね。
いいかえると、100Hzとか200Hzあたりでクロスオーバーさせていると、ウーファーから出てくるエネルギーと、それ以上のエネルギーと、バランスがとれなくてうまくつながらないわけです。
そして、ぼくの経験では、エネルギーとして聴感上、あるいは感覚的にうまくクロスオーバーするポイントというのは、どんな組合せの場合でも、だいたい250Hzから350Hzあたりにあるわけです。それ以上に上げると、こんどはウーファーの高いほうの音質が悪くなるし、それより下げると、こんどはミドルバスのウーファーに対するエネルギーが、どうしてもつながらない。ということで、この場合でも、300Hzでいいんですね。
もちろん、そうしたことを確認するなり実験するなりしたい方には、クロスオーバーをもっと下げられたほうが面白いわけで、そういう意味では100Hz以下まで下げられるデバイダーをお使いになるのは、まったくご自由ですよ、ということですね。
     *
「コンポーネントステレオの世界 ’79」は出た時に買って読んでいた。
引用したところも読んでいた。
そして、そうなんだとおもっていた。
にもかかわらず記憶の中から、どこかに落してきてしまっていた。

Date: 2月 10th, 2013
Cate: 4343, 4350, JBL

4343と4350(その5)

オーディオは、音こそがすべて、である。
だから、どんなに理屈の上ではこちらのほうがいいはず、ということでも、
実際に音として聴いたときには、必ずしもそうでないこと起り得る。

そういうときは、どこかに見落しがある。
見落しは、理屈側にあることもある。
正しそうに思えた理屈でも、どこかに見落しがあれば、結果としての音は良くなるとは限らない。
一方で、理屈は正しくても、実際のオーディオ側に不備があって、
その不備をあからさまにしたための結果としての、音が良くならなかった、のかもしれない。

どちらにしろ見落しが、どこかにひそんでいる。

どんなにオーディオのことを、自分は知悉していると豪語している人にも見落しがある。
本人が、それに気がついていないだけのことであって、
まったく見落しのない人には、これまでお目にかかったことがない。

私にだって、どこかに見落しがある。
大事なのは、見落しがある、ということを自覚しているかどうかであろう。
見落しなんてないと豪語していては、そこまでである。

JBLの4ウェイのスピーカーシステムのウーファーとミッドバスのクロスオーバー周波数の件も、
どこかに私が見落している点(こと)があるのだと思う。

JBLは、4350、4343の前に数多くのスピーカーシステムを開発してきている。
そのJBLが、4ウェイのシステムにおいて、
ウーファーとミッドバスのクロスオーバー周波数を300Hz近辺にしている。
ここには、なんらかの理由がきっとある。

Date: 2月 10th, 2013
Cate: 4343, 4350, JBL

4343と4350(その4)

JBLの4343と4350のウーファーとミッドバスのクロスオーバー周波数が、300Hz、250Hzなのには、
以前から疑問も感じていた。
もう少し低くしたほうが、ウーファーに採用されている2231Aというユニットの性質からいっても、
あまり高い周波数までは使いたくない。
300Hzといえば、オーディオ的には中低音ということになるけれど、
音楽的には中域の低いほうといえるだけに、ウーファーはやはり低音と呼べる帯域だけを受け持たせたい──、
そんなふうに考えてもいた。

これは4350を鳴らされている人ならば一度は考えられることではなかろうか。
4343は内蔵のLC型ネットワークだからクロスオーバー周波数を変えるのは困難であっても、
バイアンプ駆動の4350であれば、クロスオーバー周波数の変更はたやすく行える。

250Hzよりも低い周波数──、200Hz、180Hz、150Hz、100Hz、
このあたりまでは試されたことだろう。

私自身は、こういう実験をしたことがないので、実際に4350でクロスオーバー周波数を低くしていったときに、
はたして頭のなかで想像しているように音はよくなっていくのかについては、なんともいえない。
けれど、昨年、4350Bを鳴らされている方から、少しだけこのことに関する話をきいている。

彼も私と同じようなことを考えられていたようで、
クロスオーバー周波数を100Hzまで、段階的に下げてみられたそうだ。

結果は……、というと、予想と反して250Hzがいちばんまとまりが良かった、とのこと。

この話をききながら、そうなのか、と納得しながらも、
一方ではミッドバスの2202用のバックキャビティの容積をもっと増やせれば、
結果である音もまた大きく変ってきて、
やはりクロスオーバー周波数は低くしたほうがいい、という可能性も残されている、とも考えていた。

Date: 2月 7th, 2013
Cate: 4343, 4350, JBL

4343と4350(その3)

JBLによる4ウェイのスピーカーシステムは4350が最初であり、
そのスケールをひとまわり(いやふたまわり)小さくまとめたのが4343の原型といえる4341である。

4350Aは4343(4341)と同じ15インチ口径ウーファー2231Aを搭載している。
4350はダブルウーファー仕様、4343はシングルウーファーという違いがあり、
さらにミッドバスに、4350は12インチ口径の2202、4343は10インチ口径の2121という違うもある。

4343(4341)は内蔵のLC型ネットワークで鳴らされるスピーカーシステムであること、
ミッドバスのバックキャビティがエンクロージュア全体の大きさからしてもそれほど容積が確保できないだろうから、
ウーファーとミッドバスのクロスオーバー周波数が300Hzになっているのは、
きわめて妥当な数字といえる。

4350はカタログ上は250Hzである。
4350はミッドバスの口径も大きいし、エンクロージュア全体のサイズも大きい。
およそサイズ的な考慮かなされた設計とはおもえないスピーカーシステムだけに、
ミッドバスのバックキャビティも確保しようと思えば、かなりの容積まで確保できよう。

そうすればウーファーとミッドバスのクロスオーバー周波数も、
4343と近似の250Hzよりももっと低い値、
たとえば150Hz、100Hzといったところまで下げることもまったく無理なことではないはず。
しかもバイアンプ駆動だから、
クロスオーバー周波数が低くなることにより直列にはいるコイルの巨大化による弊害も関係ない。

ミッドバスの口径は12インチ。
ブックシェルフ型スピーカーシステムでは、ウーファーのサイズとしても大きな口径ともいえるもの。
JBLのカタログでは2202のf0は50Hzで、再生周波数帯域は60〜4000Hzとなっている。

ミッドバスの2202の特性から考えてもクロスオーバー周波数はもっと低くしたほうがいいように思えるし、
ウーファーが横に2本並ぶという構成からしても、やはり低いほうが有利なように思えるのに、
なぜJBLは250Hzをクロスオーバー周波数としたのか。

Date: 2月 6th, 2013
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(続々続々・音量のこと)

伊藤アンプで鳴らすJBLのハイエフィシェンシー・スピーカーの鳴り方は、
4343に代表されるスタジオモニター系のスピーカーを
ハイパワーのトランジスターアンプで鳴らしたときの鳴り方とは、
同じ音量で鳴らしたとしてもそれは当然のこととはいえ、まったく違う。
周波数レンジの広さが違うとか、指向特性の違いとか、そういった違いではない、
もっとスピーカーにとって本質的なことが、そこにはある。
きっとある、と私は感じている。

ハイパワーアンプだから大音量で聴くとは限らない。
ひっそりと鳴らすことだってある。
D130ほどの能率があれば、最大音圧レベルでJBLのスタジオモニターをハイパワーアンプで鳴らすのと、
差はない、といえる。
D130、2200にはスピーカーユニット側に、スタジオモニターではアンプ側にそれぞれ余裕があるからだ。

ひっそりとした音量で鳴らされるJBLのスタジオモニターと、
伊藤アンプで鳴らされた高能率のJBLとのあいだに存在する「差」とは、
いったいなんなのだろうか。

考えてもしかたのないことかもしれない。
それが、スピーカーの違いといってしまえば、そうなのではあるのはわかっていても、
やはり考えてしまう。

そんなふうに考えてしまうのは、ここにランシングがD130を、
どんな音量で鳴らしていたかの手がかりがあると感じているからなのかもしれない。

それに時代が違う。

Date: 2月 2nd, 2013
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(続々続・音量のこと)

マッキントッシュのMC2300は出力にオートフォーマーをしょっている。
一種のバンドパスフィルターでもあるわけだから、
一般的な、出力トランスやオートフォーマーを持たないパワーアンプと比較すれば、
MC2300の周波数特性も多少は狭いといえても充分な周波数特性は確保しているし、
349Aアンプは可聴帯域で、低域も高域も下降し始めているのだから、
このアンプと比較すればずっと広帯域のパワーアンプ、しかも出力も300Wとひじょうに大きい。

8Wと300Wの出力の差は、そのままアンプの規模の違いにもなっている。
349Aはモノーラル構成、MC2300はステレオ仕様という違いもあるのだが、
重量、容積ともにMC2300は物量投入のパワーアンプであり、
349Aのアンプはかわいらしい感じすらする小型のアンプだ。

しかも349Aのアンプは、ウェストレックスのA10の回路そのままだから、
出力トランスの2次側からのNFBはかかっていない。
出力段の349AもNFBループには含まれていない。

そういうアンプが、それまでのイメージをくつがえす音を鳴らしてくれた。
その音は、まさに井上先生がいわれている
「比較的に小音量で鳴らすときにはハイファイというよりは、ディスクならではの蓄音器的なノスタルジックな響き」
なのだった。

8Wはパワーアンプの出力としては小さな数字ではあるものの、
D130系のユニットにとっては、音量の制約は気にすることのない必要十分な出力なのだが、
349Aのプッシュプルアンプで鳴らすJBLのユニットは、
むしろ大音量で鳴らされるよりも小音量で鳴らされることを望んでいるかのような鳴り方に、
私の耳には聴こえた。

Date: 2月 2nd, 2013
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(続々・音量のこと)

Nさんが、MC2300から次にどういうパワーアンプへとうつられたかについては別項にてすこしふれている。
記憶されている方もおられるだろうが、もういちど書いておく。

Nさんはあるところでウェスターン・エレクトリックの350Bのプッシュプルアンプを聴いて、
それ以来、ウェストレックスのA10の回路をベースとしたアンプづくりへと、大きくシフトした。

そのNさんのところで、350Bと同じくウェスターン・エレクトリックの349Aのプッシュプルアンプを聴いた。
伊藤先生が無線と実験に発表されたアンプそのものである。
出力は8W、回路構成はウェストレックスのA10そのまま、使用真空管に違いがだけだ。

このとき鳴ってきた音は、いまでもはっきりと憶えている。
スピーカーは変っていない。2220に2440の2ウェイ。
MC2300で鳴らしていたときには、しっとりとした音は、
このウーファーとドライバーの組合せからは出てこないんだなぁ、と短絡的にも思いたくなるほど、
私が求めている音、好む音とはベクトルが違っていた。

それが、なんともいい音で鳴ってくれる。
これならば、クラシックも聴ける、というよりも、この音が欲しい、とすら思えるほどの変りようだった。

音量は控え目だった。
良質の蓄音器を思わせる音だった。
低域も高域もそれほどのびていない。
はっきりいえばナローレンジの音なのに、
MC2300で鳴らしたときよりもナローであることを意識させない。

無線と実験に載っている349Aのプッシュプルアンプの周波数特性はそれほどよくない。
このアンプもまたナローだった。

Date: 2月 2nd, 2013
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(続・音量のこと)

たとえばQUADのESL。
ピーター・ウォーカーがESLを開発した1950年代、
どのくらいの音量で音楽を聴いていたのかは容易に想像がつく。

当時のQUADのパワーアンプはKT66のプッシュプル構成のII。
出力は15W。しかもESLだから、スピーカーは低能率。
おのずと最大音量と制限されるわけだが、
おそらくピーター・ウォーカーは、それで音量が不足とは思っていなかったはず。

控え目な音量で、音楽を聴くのであれば、ESLとIIと組合せでも音量的な不満は生じない。

D130となると、そこが違ってくる。
だから、ランシングがどのくらいの音量で音楽を聴いていたのかは、
ランシングとともに音楽を聴いたことのある人に訊く以外に、正確なことはわからない。

ただ確たる根拠もなくおもうのは、意外にもそれほど音量は大きくなかったかもしれない、ということ。

私がステレオサウンドにはいったころ、Nさんというジャズの熱心な聴き手の先輩がいた。
彼はJBLの2220を、ステレオサウンド 51号の記事で製作したエンクロージュアにいれ、
中高域は2440と2397ホーンによる2ウェイというシステムだった。
最初のころ、パワーアンプはマッキントッシュのMC2300。

Nさんの住むマンションには何度も何度も行った。
音を聴かせてもらった。

Date: 2月 1st, 2013
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(音量のこと)

この項は、JBLの創始者であるランシングが、
D130をどんなアンプで鳴らしていたのか、ということから始めて、まだ書き続けていて、
それと並行しながら考えていたのは、ランシングがD130で、どのくらいの音量で聴いていたのか、についてである。

1940年代のアンプの出力はそれほど大きくはない。
けれどD130の能率は高い。だから相当な大音量まで問題なく出せたわけで、
アンプの出力によって音量が制約されることは、ほとんど考えられない。
音量の設定に関しては、自由であったはず。

ならばランシングは、どのくらいの音量で聴いていたのか。
手がかりは、まったくない。

なのに、なぜ書くのか、何を書くのか、ということになるのだが、
ひとつだけヒントとなることがある。

ステレオサウンド別冊「HIGH TECHNIC SERIES-1」である。
井上先生が、「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」を書かれている。

そこにJBLの130AにLE175にHL91ホーンを組み合わせた2ウェイの組合せがある。
エンクロージュアはバックロードホーン型の4530で、
アンプはコントロールアンプにラックスのCL32、パワーアンプはダイナコのMKIIIとStereo70で、
ラックスキットのエレクトリッククロスオーバーネットワークA2002を使い、
マルチアンプドライヴというシステムである。

130AはいうまでもなくD130のアルミ製のセンターキャップを紙製に替え、
ウーファーとしてモディファイしたユニットである。

こういう組合せであるから、スタジオモニターとしてのJBLの音ではない。
「比較的に小音量で鳴らすときにはハイファイというよりは、
ディスクならではの蓄音器的なノスタルジックな響き」と表現されている。

このことが意外だったので、ずっと憶えていたわけである。

Date: 1月 13th, 2013
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その35)

ローインピーダンスのMM型カートリッジには、正直懐疑的だった。

いったいどういうメリットがあるというのだろうか、と考えた。
MC型カートリッジならばコイルも振動系に含まれる。
だからコイルの巻数を減らすことは、わずかとはいえコイル部の質量を小さくすることにモなり、
振動系の実効質量にも関係してくるけれど、
MM型カートリッジではコイル部は振動系には含まれない。

Moving Magnetなのだから振動系に含まれるのはマグネットであり、
コイルの巻数を減らしたところで、カートリッジの自重は多少軽くなることはあっても、
振動系の実効質量には関係してこない。

それにどれだけ強力なマグネットを採用したところで、
推奨インピーダンスが100Ωということはカートリッジのインピーダンスは実際には100Ωよりも低いわけで、
従来の1/2とか1/4といったインピーダンスの低下ではないほど大幅にローインピーダンス化してしまえば、
出力電圧は、インピーダンスとともに低下する。

ピカリングのXLZ7500Sの出力電圧は、たしか0.3mVだった。
この値はMC型カートリッジ並でしかない。

そうなると使用にはなんらかの昇圧手段が必要となる。
ピカリングもスタントンもトランスではなくヘッドアンプを推奨していた。
もしくはハイゲインのイコライザーアンプが必要となる。

いったい、こういうカートリッジにどういうメリットがあるのだろうか、と思った。
音は聴かなければなんともいえないものの、技術的なメリットをすぐには見出せなかった。

Date: 1月 12th, 2013
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その23)

SUMOのThe Goldの前に、SL600を鳴らしていたのはアキュフェーズのP300Lだった。
そのP300Lでも、すこしだけアルテックの405Aを鳴らしてみた。
そのときの音の違いから、SL600にThe Goldを接いで鳴らしたら……、と期待に胸ふくらましながらの一週間だった。

3日目ぐらいから何度The Goldに接ぎかえようと思ったことか。
問題ないはず、という確信はあったものの、
それでも最初に決めた1週間を405Aで通したのは、
意外にも405Aで聴く、人の声の気持ちよさに魅かれるところがあったためである。

ほーっ、やっぱり小さくてもアルテックなんだなぁ、と感じつつの1週間がすぎ、
いよいよThe GoldでSL600を鳴らす日が来た。

いままで何の不安も感じさせなかったから大丈夫だ、ということはわかっていても、
それでも最初にSL600を接いで電源スイッチをいれるときは、すこし緊張した。

いい音だった。
P300Lに、これといった大きな不満はなかった。
SL600はパワーアンプを選り好みするという印象を持っている人が少なくないので意外な感じもするのだが、
特別なパワーアンプを持ってこなければ、うまく鳴ってくれない、というスピーカーシステムではない。
とはいえ、The Goldけで鳴らしたSL600の音はよかった。

SL600のほうが405Aよりも周波数レンジも広い。
405Aに感じた粗さもない。
けれど人の声、それも男性の声のリアリティが、405Aほど濃厚に出ない。

SL600での男性の声がよくないわけではない。
うまく鳴っている。鳴ってはいるいるけれど、405Aで感じられた、気配のようなものがすこし足りない。
SL600だけで聴いていればそんなことを思わなかったであろう。

でも1週間、405Aで聴き続けた時間がすでに存在していた。

Date: 1月 7th, 2013
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その22)

1985年12月にSUMOのThe Goldを導入したとき、
鳴らしていたスピーカーシステムはセレッションのSL600だった。

The Goldが届いてまずしたことは分解掃除だった。
そして、いきなりSL600を鳴らすのはコワイと思い、
チェック用として用意していたアルテックの10cm口径のフルレンジユニット405Aを収めたスピーカーで鳴らした。
無事、音が出た。スピーカーが飛ぶこともなかった。

このアルテック405Aで1週間何事もなかったらSL600を安心して接続できるだろう、と決め、
それからの1週間は405Aの(エンクロージュアも凝ったものではない)、
上等とはいえないスピーカーで聴いていた。

10cmのフルレンジで、しかもアルテックのユニットだから低域も高域も伸びてはいない。
ナローレンジな音で、音量はかなりあげられても、
そうすると今度はエンクロージュアの共振が気になってくるような代物だったから、
音量をあげるといっても、それほど大音量で鳴らせたわけではなかった。

このとき感じていたのは、音像定位の安定度の高さ・確かさである。
それは精緻な音像定位といった感じなのではないのだが、
とにかく中央に歌手が気持ちよく定位してくれる。

1週間が経ち、SL600にした。
405Aよりもすべての点で上廻る音が鳴ってくれるものと期待していた……。

Date: 1月 7th, 2013
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その34)

オルトフォン(Ortofon)は、
ギリシャ語で正確を意味するオルトと音を意味するフォンを組み合わせた造語で、
正確な音になり、オルトフェイズは正確な位相ということになる。

カートリッジに関係する造語ではシュアーのトラッカビリティがもっとも有名で、
いまもこのトラッカビリティが技術用語のひとつだと思っている人もいるくらいに、
一時期広く知れ渡った。

トラッカビリティと比較するとオルトフェイズは、それほどうまい造語とはいえない。
けれど、わざわざオルトフェイズという言葉をつくったということは、
オルトフォンとしては、3Ωという低インピーダンスのメリットの中で、
位相の正確さを重視していたと受け取ることもできる。

カートリッジのインピーダンスの低くとることのメリットは、なにもMC型カートリッジだけにいえることではなく、
MM型、MI型でも1980年代にはいり、
ピカリング、スタントンからローインピーダンス型のカートリッジが登場している。

スタントンは1980年に良質の低ロスのコア材に太めのワイアーを、
できるだけ巻数を少なくして、オルトフォンのMC型カートリッジと同じ3Ωという980LZSを、
1985年にもLZ9S(型番がローインピーダンスであることを謳っている)を発表している。
どちらも推奨負荷インピーダンスは100Ωとなっている。

ピカリングは1983年にXLZ7500Sを出している。
XLZ7500Sも、スタントンの980LZSとほぼ同じ技術内容を謳っているのは、
スタントンがピカリングのプロ用ブランドとして誕生しているわけだから、当然といえよう。

Date: 1月 2nd, 2013
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その33)

オルトフォンのMC型カートリッジは、低インピーダンスである。

ステレオサウンド 74号のハーマンインターナショナルが出しているオルトフォンの広告には、こうある。
「必然の数値」。

3Ωという、低い内部インピーダンスこそが、その「必然の数値」ということを、
その広告は謳っている。

3Ωという数値はオルトフォンが「行き着くべくして行き着いたインピーダンスの値」とあり、
「もっとも効率よくいい音を引き出せるコイルの巻数」ともある。

オルトフォンの言い分では、3Ω以上のインピーダンスになれば、
さまざまな問題が発生してくる──、
「コイルの巻数が多いから、エネルギー・ロスが多い」、
「発熱によるサーマルノイズ(熱雑音)が発生する」、
「振動系全体が重くなり、トラッキングアビリティが悪くなる」、
「位相もズレる」
これらをオルトフォンは問題点として挙げている。

この広告のあとしばらくしてだったと記憶しているが、
オルトフォンは「オルトフェイズ」という造語を使っていた(はずだ)。