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Date: 6月 17th, 2020
Cate: ディスク/ブック

Bach: 6 Sonaten und Partiten für Violine solo(その1)

東京で暮すようになって、初めて行ったクラシックのコンサートは、
ヘンリク・シェリングだった。

いま思うと、なぜシェリングを選んだのか、もう定かではない。
クラシックのコンサート、それも海外の演奏家のコンサートには、
それまでの熊本での暮しでは行っていなかった。

39年前のことである。
あのころ、東京を感じさせてくれたのは、雑誌のぴあだった。
こんなにも東京では、あちこちで毎日いろんなことが催されているんだ──、
とにかく驚いていた。

ぴあも毎号買っていたわけではなかった。
学生で、しかもロクにアルバイトもしていなかった。
年中金欠だった。

ときどきぴあを買っては、東京を感じていた、ともいえる。
関心あるのはクラシックのコンサートと映画だった。

それ以外のページも眺めていた。
お金さえあれば、今日はここに行って、明日はあそこ……、楽しいだろうなぁ、
そんなことを妄想していた。

シェリングのコンサートを知ったのは、ぴあだったような気がする。
シェリングのコンサートがあるんだ、くらいで受け止めていたのではないだろうか。

ぴあも毎号買えなかったのだから、オーケストラのコンサートのチケットは高くて無理だった。
それでもシェリングはS席を、かなり無理して買ったものだった。

そうやって聴きに行ったにも関らず、演奏された曲をすっかり忘れてしまっている。
それでも、この日聴いたヴァイオリンの音は、
初めて聴くヴァイオリンのナマの音だった。

Date: 6月 17th, 2020
Cate: 単純(simple)

シンプルであるために(その2)

 どういう訳か、近ごろオーディオを少しばかり難しく考えたり言ったりしすぎはしないか。これはむろん私自身への反省を含めた言い方だが、ほんらい、オーディオは難しいものでもしかつめらしいものでもなく、もっと楽しいものの筈である。旨いものを食べれば、それはただ旨くて嬉しくて何とも幸せな気分に浸ることができるのと同じに、いい音楽を聴くことは理屈ぬきで楽しく、ましてそれが良い音で鳴ってくれればなおさら楽しい。
(虚構世界の狩人・「素朴で本ものの良い音質を」より)
     *
五年半前の(その1)も、同じ書き出しだ。

別項「218はWONDER DACをめざす(番外)」で書いていることが、
ここでの瀬川先生が書かれていることと重なってきたからだ。

《いい音楽を聴くことは理屈ぬきで楽しく、ましてそれが良い音で鳴ってくれればなおさら楽しい。》
まさにそうだった。
四人が、その場にいた。

みな同じだった(はずだ)。

この時のオーディオは、《難しいものでもしかつめらしいものでもなく》、
ただただ楽しいものだった。

Date: 6月 17th, 2020
Cate: ショウ雑感

2020年ショウ雑感(その24)

Pro-Jectのアナログプレーヤー、Xtention 10TAの発売が中止になった、
ステレオサウンド・オンラインの記事にあった。

《搭載アームの供給が困難になったため》と記事にはある。
それ以上のことは書かれていないか、
記事にあるXtention 10TAの写真をみれば、トーンアームがJELCO製なのはすぐにわかる。

その19)で書いているように、
JELCO 市川宝石株式会社は4月から休業しているが、どうも廃業するようだ、という話もある。

休業なのであれば、Xtention 10TAの発売延期となるだろうが、
実際は発売中止である。

記事には、《同型アームを搭載した「Xtention 9TA」については、アームの確保ができている》ため、
継続して販売される、とある。

ということは、確保分が終了すれば、Xtention 9TAの販売も終了となるか、
別のトーンアームを搭載して、型番に変更が加わるかもしれない。

ステレオサウンド・オンラインの記事の終りには、
「※4月13日の発表記事はこちら」とあり、
Xtention 10TAについての記事へのリンクがある。

その記事を読むと、《オルトフォン製9インチショートアームを搭載》とある。
Xtention 10TA発売中止の記事で、
JELCOのことについて一言も触れていないのは、そういう理由からなのか。

コロナ禍が、あらわにすることはまだ続くだろう。

Date: 6月 16th, 2020
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(post-truth・その7)

誰が読んでいるのかわからない、いいかえると、
どれだけの知識や経験をもっているのかまったく不明な人たちに向けて書くのであれば、
きちんとしたオーディオの知識を身につけておくべきである。

こう書いてしまうと、たいしたことではないように受け止められるかもしれないが、
では、きちんとしたオーディオの知識とは、いったいどの程度のレベルのことなのか。
どれだけの知識をもっていればいいのか。
そのことについて書いていくのは、なかなか難しい。

「重量級のCDプレーヤーは、回転の慣性質量も大きくなるんですかね」の人も、
オーディオの勉強を、まったくしていなかったわけではないだろう。
少なくとも慣性質量という言葉は知っているのだから。

でも、その知識があまりにも断片すぎるのではないのか。
そんな気がする。

断片すぎる、ということは、知識の量が圧倒的に少ない、ということなのか。
そうともいえるし、これは以前書いていることなのだが、
知識の量だけでは理解には到底近づけない。

知識の有機的な統合があってこその理解である。
これはどういうことかというと、
これも以前書いていることのくり返しなのだが、
分岐点(dividing)と統合点(combining)、それに濾過(filtering)だ。

Date: 6月 16th, 2020
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(post-truth・その6)

「重量級のCDプレーヤーは、回転の慣性質量も大きくなるんですかね」は、
あきらかに間違いだから即座に否定したわけだが、
もし私が悪意で「そうだよ」といったとしたら、
その人は、「やっぱり! そうですよね!」と大きな声で喜んだはずだ。

オーディオにおいて仮説を立てるのはよくあることだ。
仮説を立てて、検証していくことで学べることはある。

「重量級のCDプレーヤーは、回転の慣性質量も大きくなるんですかね」も、
その人にとっての仮説であったのだろう。
ずいぶん稚拙な仮説ではあっても、その人にとっては大事な仮説だったのかもしれない。

でも、仮説を立てるにも、ある程度の知識は必要となる。
CDの回転がどういう性質のものなのか、大ざっぱにわかっているだけで、
そして慣性とはどういうことなのかを、これも大ざっぱにわかっているだけで、
「重量級のCDプレーヤーは、回転の慣性質量も大きくなるんですかね」という仮説は、
仮説ですらないことに気づくものだ。

私が「そうだよ」といって、周りにいた人が誰も否定しなければ、
その人は、SNSやブログなどに、その仮説は正しかった、と書いたのかもしれない。

インターネット普及前は、こんなことは起らなかった。
間違った仮説を発表できる場は、なかったといえよう。
せいぜいが、その人の親しい人とか、その人にオーディオのことを訊いてくる人に、
話すくらいでしかなかった。

けれど、インターネット普及後は違う。

ここで考えることがある。
オーディオをやっていくうえで、技術的な知識は必要なのか。

私は基本的には必要ない、と考えている。
オーディオのプロフェッショナルになるのであれば技術的知識は必要だが、
そうでなければ、所有しているオーディオ機器を自分で接続して使えるだけの知識があればいい。

ずっとそう思ってきた。けれど状況はインターネットの普及によって変ってきた。
その人が間違っている仮説を、さも正しいことのようにインターネットで公開した、としよう。

ほとんどの人が、まったく相手にしない。
けれどほんのわずかでも、それを信じてしまう人がいる。

そんな人はいないだろう、と思われるかもしれないが、
この項の前半で例に挙げた人は、
CDは角速度一定、アナログディスクは線速度一定という間違いを書いているサイトを、
大半のサイトが正しいことを書いているにも関らず、信じてしまった。

ごく少数ではあっても、あきらかな間違いを信じてしまう人がいる。
しかもインターネットは不特定多数の人に向けての公開である。
母数は、周りにいる人だけの時代よりもずっと大きい。

Date: 6月 15th, 2020
Cate: 218, MERIDIAN

218(version 9)+α=WONDER DAC(その9)

LAN用のターミネーターを最初に作ったとき、
端子は手持ちのLANケーブルの両端を利用した。

このケーブルについていた端子は、透明の硬めのプラスチック製で、
よくみる端子でもある。

オーディオと関係のないところで使う分には、特に気にも留めないのだが、
オーディオで使うとなると、気になる点もある。

ツメのところである。
硬めのプラスチックのツメの共振は、どうなんだろう……、と考えてしまう。

それでも最初はターミネーターの効果を、とにかく知りたかったので、そのまま使った。
でも、どうしても気になる。

カーボン抵抗でターミネーターを作ったときには、実は端子も変えている。
白い樹脂製の端子を採用しているLANケーブルを買ってきて、その端子を使った。
バッファローのケーブルで、パッケージに「折れないツメ」とある。

指で弾いた音も、違う。
メリディアンの218に手を加える際にも、
LAN端子の薄っぺらい金属部にはアセテートテープを貼っている。
この部分の雑共振を少しでも減らしたいからである。

カーボン抵抗のターミネーターが、予想よりもよく感じたのは、
抵抗の違いだけでなく、端子の違いも作用してのことだろう。

同じ抵抗で端子のみを変更した比較試聴は行っていない。
ほんとうはきちんと行った上で端子を決めるべきなのはわかっていても、
DALEの無誘導巻線抵抗でのターミネーターの自作には、バッファローのケーブルの端子を使った。

ターミネーターとしての端子の比較試聴は行っていないが、
端子のみの比較は、ターミネーター自作のあとにやっている。

LANケーブルの端子部分を切り取って、218に挿しただけの比較試聴である。
少なからぬ違いがあった。

Date: 6月 15th, 2020
Cate: 「ネットワーク」

オーディオと「ネットワーク」(post-truth・その5)

ある人がCDプレーヤーを、数ヵ月前に買い替えた。
その人は、重量級のCDプレーヤーを購入した、と喜んでいる。

その人が、それまで使っていたCDプレーヤーよりも重量があるから、
その人にとっては確かに重量級といえる(感じる)のだろうが、
重量という数値だけで判断するならば、傍からみれば、それほど重量級ではない。

かといって軽量級ではないのも確かだから、本人が喜んでいることに水を差すことはいわずにいた。
でも、その人がこんなことをいった。

「重量級のCDプレーヤーは、回転の慣性質量も大きくなるんですかね」

CDプレーヤーでもターンテーブル(スタビライザー)をもつモノがある。
エソテリックの製品がそうだし、
47研究所の4704/04 “PiTracer”もそうだ。
古い製品では、パイオニアがPD-Tシリーズもそうだった。

これらの製品であれば、ターンテーブルプラッターの分だけ慣性質量は増す。
けれど、それ以外の大半のCDプレーヤーは、センターをクランプしているだけでディスクを回転させる。

CDプレーヤー本体の重量がどれだけあろうと、
ディスクの回転に関する慣性質量にはまったく関係ない。

それにCDプレーヤーにおいて、
つまり線速度一定の回転系において、慣性質量が増すことのデメリットはある。
もちろんターンテーブルプラッターをもつことで、
ディスクの回転のブレを抑えられるというメリットもある。

「重量級のCDプレーヤーは、回転の慣性質量も大きくなるんですかね」の発言には、
その場にいた複数の人から、つっこみがあった。

その人は「重量級のCDプレーヤーは、回転の慣性質量も大きくなるんですかね」であって、
「重量級のCDプレーヤーは、回転の慣性質量も大きくなるんですよね」ではなかった。

いちおう疑問形になっていたのだから、まだいいほうなのかもしれない。
でも、その人のなかでは、確信に近かったのではないか、とも感じた。

誰にも勘違いというのはある。
それでも、その人は、(その4)で書いている人と同じにみえる。
同じ人ではない。
(その4)の人と、ここで書いている人は、30以上齢が離れている。
世代はずいぶん離れている。

それでも、どの世代にもいる、ということなのか。
それともたまたまなのか。

Date: 6月 14th, 2020
Cate: 憶音

憶音という、ひとつの仮説(その8)

瀬川先生の「虚構世界の狩人」を読んだことも、
憶音について考えるきっかけに なっている。
     *
「もう二十年も昔の事を、どういう風に思い出したらよいかわからないのであるか、僕の乱脈な放浪時代の或る冬の夜、大阪の道頓堀をうろついてゐた時、突然、このト短調シンフォニィの有名なテエマが頭の中で鳴ったのである。」
「モオツアルト」の中でも最も有名な一節である。なに、小林秀雄でなくなって、俺の頭の中でも突然音楽が鳴る。問題は鳴った音楽のうけとめかただが、それを論じるのが目的ではない。
 だいたいレコードのコレクションというやつは、ひと月に二〜三枚のペースで、欲しいレコードを選びに選び抜いて、やっと百枚ほどたまったころが、実はいちばん楽しいものだ。なぜかといって、百枚という文量はほんとうに自分の判断で選んだ枚数であるかぎり、ふと頭の中で鳴るメロディはたいていコレクションの中に収められるし、百枚という分量はまた、一晩に二〜三枚の割りで聴けば、まんべんなく聴いたとして三〜四カ月でひとまわりする数量だから、くりかえして聴き込むうちにこのレコードのここのところにキズがあってパチンという、ぐらいまで憶えてしまう。こうなると、やがておもしろい現象がおきる。さて今夜はこれを聴こうかと、レコード棚から引き出してジャケットが半分ほどみえると、もう頭の中でその曲が一斉に鳴り出して、しかもその鳴りかたときたら、モーツァルトが頭の中に曲想が浮かぶとまるで一幅の絵のように曲のぜんたいが一目で見渡せる、と言っているのと同じように、一瞬のうちに、曲ぜんたいが、演奏者のくせやちょっとしたミスから——ああ、針音の出るところまで! そっくり頭の中で鳴ってしまう。するともう、ジャケットをそのまま元のところへ収めて、ああ、今夜はもういいやといった、何となく満ち足りた気持になってしまう。こういう体験を持たないレコード・ファンは不幸だなあ。
 しかし悲しいことに、やがて一千枚になんなんとするレコードが目の前に並ぶようになってしまうと、こういう幸せな状態は、もはや限られた少数のレコードにしか求めることができなくなってしまう。人は失ってからそのことの大切さに気がつく、とはよくぞ言ったものだ。
     *
レコードのジャケットを半分みえただけで、
そのレコードおさめられている音楽が、一瞬のうちに頭のなかで鳴ってしまう、という経験は、
音楽好きの人ならば、きっとあったはずだ。

でも、いまでは《ひと月に二〜三枚のペースで、欲しいレコードを選びに選び抜いて、
やっと百枚ほどたまった》というような聴き方は、とおい昔のことになっているかもしれない。

瀬川先生が、この文章を書かれたころからすると、レコード(録音物)の価格は、
相対的に安くなってきている。
それにいまではインターネットにアクセスできる環境があれば、
ほぼ聴き放題の状態を簡単に得られる。

月に二〜三枚のペースで、百枚ということは三年から四年ほどかかる。
いまでは百枚(それだけの曲数)は、聴く時間さえ確保できれば、それで済む時代だ。
三年から四年かかる、なんてことは、いまでは悠長すぎるのかもしれない。

けれど、それだけの時間をかけながら、音楽を聴いてきたからこそ、
一瞬のうちに頭のなかで音楽が鳴ってくる、はずだ。

この経験は憶音に関係してくることのように感じているけれど、
そういう経験をもたない人も現れ始めていても、不思議とはおもわない。

Date: 6月 13th, 2020
Cate: 憶音

憶音という、ひとつの仮説(その7)

別項で、コーネッタについて書いている。
いつかはタンノイ……、いつかはコーネッタ……、というおもいはずっと持ち続けていたけれど、
いまさらコーネッタなのか……、というおもいもないわけではない。

なのにコーネッタなのは、ここでのテーマである憶音という仮説について、
検証してみたいから、という気持もあるのだろう。

それでも思うのは、MQAを聴いていなければ、実行にうつすことはしなかっただろう、ということ。
MQAで音楽を聴いていると、確かめたいことが次々と出てくる。

こんな仮説を、誰かがかわりに検証してくれることはないのだから、
自分でやるしかない。

Date: 6月 13th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その5)

コーネッタに取り付けるユニットの違いは、わかりやすい。
HPDじゃなくて、IIILZ(モニターゴールド)なんですよ、と自慢気に語る人がいたとして、
肝心のエンクロージュアはどうなのだろうか。

ステレオサウンドのキットを組み立てたものだから、それで安心、とか、
何かが保証されているわけではない。

ステレオサウンドの古くからの読者ならば、
海外製のスピーカーシステムは、オリジナル・エンクロージュアでなければならない──、
これは、いわば常識ともいえる。

コーネッタにおけるオリジナル・エンクロージュアは、
ステレオサウンドのSSL1ということになる。
これは間違いないわけだが、
くり返すが,組み立てなければならないのがキットだから、
そこから違ってくる要素が大きすぎることに気づいていない人が、どうもいるように感じる。

ヤフオク!にも、ときどきコーネッタは出てくるようである。
そのコーネッタが、どの程度の技術によって組み立てられたものなのかを、
写真だけで判断するのは容易なことではない。

しかもコーネッタは、そうとうに古い。
1977年に登場しているだから。

私はやってしまったわけだが、
こういうモノを、ヤフオク!で落札してしまうのは、控えた方が賢明である。

実物をみて、音を聴いて納得したのであればいいが、
写真だけで判断してしまうことは、場合によってお金をドブに捨てるようなことにつながる。

私がいえるのは、後悔しない範囲の金額にとどめていたほうがいい、ということぐらいだ。
そのくらい運試しと思っていた方がいい。

Date: 6月 13th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(その4)

くり返しになるが、コーネッタというスピーカーシステムは、
ステレオサウンドが販売していたエンクロージュア・キットSSL1と、
タンノイの10インチ口径の同軸型ユニットを組み合わせたものである。

SSL1はキットだから、買った人が組み立てることになる。
アンプのキットでも、組み立てる人の技倆になって、結果は違ってくる。

スピーカー(エンクロージュア)のキットも、まったく同じというか、
むしろそれ以上に難しいのかもしれない。

井上先生は、よくいわれていた。
まったく同じエンクロージュアを二つ作ることは、
木工のベテランであっても、そうとうに困難なことである、と。

接着剤の量の、ちょっとした違いや、
その日の気温や湿度、
その他にもさまざまな要因が絡んできて、
しかもスピーカーのエンクロージュアは大型になればなるほど、
ホーン型であったりすればなおのこと、製作日時をより必要とする。

そのためにどうしてもバラツキが生じてしまう。

コーネッタ(SSL1)のキットは、
ある程度は、購入者が組み立てやすいようにと配慮されている。
この点が、記事中のプロトタイプとの違いの一つでもある。

それでも木工の初心者には、そうとうに難しいキットといえるだろう。

コーネッタは、あのころのタンノイのスピーカーを鳴らしている人、
憧れている人からみれば、挑戦してみたくなる存在であったはずだ。

インペリアル工芸だったと記憶しているが、
コーネッタを、15インチ口径用に大型化したエンクロージュアを製品化していた。

コーネッタのキットを購入した人、
ステレオサウンドの記事を見て、板の切り出しから自作した人、
少なくない数のコーネッタが誕生したのではないだろうか。

アメリカにも、コーネッタを自作したマニアがいる、とfacebookのコメントにあった。
ステレオサウンドのキットだけに絞っても、
出来上がりはピンからキリまで、といっていいだろう。

ましてキットには頼らずに自作したモノとなれば、
もっとピンからキリまでなのかもしれないし、
むしろ逆に、これだけの工作に挑戦する人だから、
それなりの技術をもっている人ともいえるだろうから、
むしろ一定の品質の幅におさまっているのかもしれない。

Date: 6月 13th, 2020
Cate: High Resolution

MQAで聴きたい三味線(その4)

食指が動かない、といってもしようがない。
まず、MQAで聴ける三味線で、しかも独奏のタイトルということで、
一枚購入したのは「はなわちえ 津軽三味線独奏集 Vol.1」である。

flac、WAV、MQAが192kHz、24ビット、
DSFが5.6MHzと11.2MHzが用意されている。

いうまでもなく私が購入したのは、MQAである。
元は11.2MHzのDSD録音とあるから、
そこが、MQAで聴きたい私としては、すこしばかりひっかかるところなのだが、
あまりこまかなことばかりいっていると、どれも買えなくなってしまう。

そうなってしまっては、オーディオマニアゆえの癇癪みたいなものである。

とにかくひさしぶりに聴く三味線である。
自分のシステムで聴いたのは、三十年以上前のことになる。

出している音も変っているので、記憶の上での比較も何にもならない。
はなわちえという人の演奏も初めて聴くわけだから、
とにかく、いまここで鳴っている音だけに耳を傾ける以外にない。

聴いていると、はなわちえの、この三味線をコーネッタで鳴らしたら、とやっぱり思ってしまった。
コーネッタはコーナー型だから、部屋のコーナーにそうやって設置すれば、
試聴位置はかぎられてしまうし、スピーカーに近いところにもなる。

まさに一人で聴くためのかたちになるわけで、
そうやって鳴ってくる三味線(独奏)を、どう感じるのかに興味がわいてくる。

7月1日のaudio wednesdayで、鳴らす。

Date: 6月 12th, 2020
Cate: 218, MERIDIAN

218(version 9)+α=WONDER DAC(その8)

これで充分かな、と思ったのはほんとうのところだ。
でも、結局は、DALEの無誘導巻線抵抗でターミネーターを作ったら……、
ということになってしまう。

金属皮膜抵抗にしてもタンタル抵抗にしても、DALEよりは安い。
DALEの無誘導巻線抵抗だと、抵抗十二本で、五千円をこえる。

218をversion 9にするのには、さほど費用はかかっていない。
手間がかかっているだけである。

+αは、そこそこ費用がかかる。
コトヴェールのDMJ100BT、iFi-AudioのiPurifier SPDIF、
ルンダールのLL1658にしても、
それからアンカーのモバイルバッテリー、LL1658に施したCR方法の部品など、
計算してみると、意外に使っているな、と感じていた。

それでも、結果に大満足しているのだから、高いとは感じていない。
音を聴けば、払った金額のことは、もう頭にはない。

こうやって書いているから思い出しているだけで、
ターミネーターにしても市販のアクセサリーは、DALEで作った場合よりもずっと高価だ。

DALEの無誘導巻線抵抗を使うほどでもない──、
そんな結果になれば、218を使っている人にもターミネーターの自作を勧めやすくなる。

DALEの無誘導巻線抵抗でターミネーターを作ったのは、
ブログを書き上げてからだったから、夜おそくになってしまった。

とりあえず218に挿すだけ挿して、音を聴くのは明日になってからでもいいや、と思っていた。
でも、とりあえず一枚、というか、一曲だけ聴いて寝よう、と思ったのがいけなかった。

それまでのターミネーターと比較試聴するまでもなく、音がいい。
一度元に戻して、どれだけの違いがあるのかしっかりと把握しておかなければ、という気持は、
この音の前には、どうでもいいことのように思えてしまう。

一曲が一枚になり、さらに二枚になり三枚まで聴いてしまった。

ここでもDALEの無誘導巻線抵抗なのか、という、
私にとっては当り前すぎる結果に落ち着いてしまった。

Date: 6月 11th, 2020
Cate: 218, MERIDIAN

218(version 9)+α=WONDER DAC(その7)

+αは、200Vで終りではない。
その次にやったのは、LAN用のターミネーターである。

メリディアンの218には、四つのLAN端子がある。
一つは使うが、ほとんどの人にとって残りの三つを使うことはない。

これらはメリディアンのアクティヴ型スピーカー用であるからだ。

LAN用のターミネーターは、オーディオ用アクセサリーとして市販されている。
それにGoogleで検索すれば、自作に必要な情報はすぐに得られる。
ハンダ付けがきちんとできれば、失敗することなく自作できる。

使っていないLAN端子にターミネーターを挿すことによる音の変化については、
とりあえずは知ってはいた。

知っていたけれど、試す箇所が、私のシステムにはなかったものだから、そのままだった。
218では試せる。

すでに試したことがあり、その効果がわかっていれば、
最初から抵抗に、DALEの無誘導巻線抵抗を使う。

でも今回は、とりあえずということで、
金属皮膜抵抗とタンタル抵抗を、それぞれ八本ずつ買ってきた。

ターミネーター一つあたり四本の抵抗を使う。
金属皮膜抵抗のターミネーターを二つ、
タンタル抵抗のターミネーターを二つ作って、
あれこれ挿し変えて、どんな感じになるのかを試すつもりだった。

まず一箇所に挿す。
その音の変化を聴いてしまうと、残り二つの端子にもすぐに挿してしまった。

最初は、順列組合せで、
一つの端子、次は二つの端子(これは三通りある)、
最後に三つの端子すべてに、という順序でやるつもりだった。

挿してしまったら、抜きたくない、と心境になり、
結局、どの抵抗のターミネーターを、どの端子に挿すか──、
なんていうことが面倒になってしまった。

同時に、三つのターミネーターの抵抗をすべて違う抵抗にするのはどうか、と考えた。
翌週、また秋葉原に行き、今度はカーボン抵抗を買ってきて作った。

これで金属皮膜抵抗、タンタル抵抗、カーボン抵抗、
三種類のターミネーターをとにかく挿してみた。

これが意外にも好結果だった。

5月のaudio wednesdayに持っていたのは、これである。

Date: 6月 11th, 2020
Cate: ディスク/ブック

鉄腕アトム・音の世界(その2)

鉄腕アトム・音の世界」は、5月のaudio wednesdayに持っていくつもりでいた。

でも、誰も来ないだろうことは予想できていたし、
実際に誰も来なかったのだから、持っていかないことを選択した。

6月のaudio wednesdayには持っていくつもりは、最初はなかった。
前の晩に用意していて、ふと「鉄腕アトム・音の世界」が目に留った。

200Vの昇圧トランスが持っていくモノに加わってからは、
CDの枚数は少なくしたい、と思うようになってきた。
それにiPhoneには、MQAのライブラリーが充実してきているから、
CDを持っていかなくても済むといえば、そうなりつつある。

audio wednesdayに来る人の大半は、
私と同世代か上の世代の人たちである。
「鉄腕アトム」のアニメも、きっと見ていた人たちのはずだ。

その人たちがどういう反応をするのかに興味があったし、
5月のaudio wednesdayに持っていこうとしたのは、
音楽ではなく、こういうCDをアルテックはどんなふうに鳴らしてくれるか、
という点に興味があったからだ。

喫茶茶会記のアルテックで聴いてると、私のシステムで聴くよりも楽しい。
音そのものもそうだが、いっしょに聴いている人たちの反応があるから、
よけいに楽しい。

大きな驚きがあった、という感想を伝えてくれた人がいた。
翌日、amazonで注文した、とのことだった。

「鉄腕アトム・音の世界」に収録されている音たちは、
それまで世の中に存在しなかった音である。