Date: 6月 21st, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その6)

アナログプレーヤーはメカニズム主体のオーディオ機器であり、
メカニズム主体であることがアナログプレーヤーの魅力ともなっている。

手抜きの感じられない精緻でしっかりしたメカニズムは、それだけで頼りになる印象を使い手に与える。
このプレーヤーなら信じられる──、
そういうおもいを抱かせてくれるプレーヤーを欲してきたし、使ってもきた。

そんな私だから、トーンアームに関しても電子制御という方式に対しては、
これまではそっけない態度をとってきた。
触ったこと・聴いたことがない、ということも関係しているが、それだけではない。
やはりメカニズムだけで、そこに電子制御ということを介入させないでほしい──、
そういう気持が強かった。

だがアナログプレーヤーを構成するターンテーブルとトーンアームを、
まったく同じに考え捉えるわけにはいかない。

ターンテーブルは静止しているが如く静かにブレずに回転してくれればいい。
いかなる変動に対しても影響を受けることなく、毎分33 1/3回転、45回転を維持してくれればいい。
ターンテーブルは、いわば回転する土台である。

それに対してトーンアームはどうか。
トーンアームはカートリッジの支持体であり、
カートリッジレコードの外周から内周への移動を支える。

Date: 6月 21st, 2014
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(その9)

その4)に自転車のカーボンフレームのコピーについて書いた。
アメリカ、ヨーロッパの有名ブランドのフレームも、
本国で作られるモデルもあるが、中国、台湾で作られるモデルもある。

けれどこれらのカーボンフレームに使われるカーボン繊維の多くは日本製である。

カーボンフレームやカーボンホイールをバラしていって、見事なコピーを作れても、
カーボン繊維そのものを作れる(コピーできる)わけではない。

いつの日かカーボン繊維も中国製、台湾製になるだろうが、
その時は日本のカーボン繊維は、いまよりも優れているのではないだろうか。

先のことはわからないから、
日本のカーボン繊維よりも中国、台湾のカーボン繊維が優れる時代も来るかもしれない……。

それでもいわゆる素材の、日本の強みというのは確かにある。
ふり返ってみれば、日本のオーディオは、新素材の積極的な導入でもあった。

ドーム型振動板にベリリウムを取り入れたのも早かった、
カートリッジのカンチレバーにもベリリウムは1970年代に取り入れられていた。

ベリリウムだけでなくボロン、チタン、マグネシウムも登場したし、セラミック、カーボン、人工ダイアモンドなど、
他にもいくつもあって、すべてを書き連ねないが、
実にさまざまな素材がオーディオ機器に取り入れられていった。

このことは日本のオーディオが海外のオーディオに先駆けて、ということとともに、
日本のほかの業種よりも、日本のオーディオは新素材の導入に積極的であったのではないか。

Date: 6月 20th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その5)

ソニーのPS-B80のステレオサウンドでの評価はどうだったかというと、あまり芳しいとはいえなかった。
51号のベストバイには選ばれているものの、柳沢功力氏のコメントを読んでもそうだし、
55号のベストバイには選ばれていなかった。
59号では岡先生と菅野先生が一点ずつ入れられていたものの、写真だけの掲載だった。

PS-B80より一年ほど前に登場していたPS-X9の方が、59号においても評価は高かった。

そういうわけでステレオサウンドだけを読んでいても、PS-B80の音については知ることが出来なかった。

PS-B80のプレーヤーシステムとしての評価はあまりいいものではないことはわかるのだが、
それを電子制御トーンアームのもつ可能性に重ねてみてはいけない。

電子制御トーンアームの可能性はどうだったのか。
読者としてもいちばん知りたかったのは、このことである。

1980年の11月ごろに、ステレオサウンド別冊としてAUDIO FAIR EXPRESSが出た。
当時晴海で行われていたオーディオフェアを取材した一冊である。

このムックの中に、「海外からのゲスト12氏 オーディオフェアについてこう語る」という記事がある。
ここに登場しているのは、オルトフォンの技術担当副社長イブ・ピーターセン、
SME社長A・ロバートソン・アイクマン、ロジャース社長ブライアン・P・プーク、
QUAD社長ロス・ウォーカー、コス取締役副社長グレゴリー・コーネルス、
スレッショルド社長ネルソン・パス、タンノイ社長ノーマン・クロッカー、
タンノイ広報担当取締役T・B・リビングストン、アルテック プロ機器担当副社長ロバート・T・デイビス、
JBL開発担当副社長ジョン・M・アーグル、KEF社長レイモンド・E・クック、
リン セールスマネージャ チャールス・J・ブレナン。

SMEのアイクマンはこう語っている。
     *
会場ではどうしてもアームやプレーヤーが気になるんですが、中でもリニアモーターを使ったパイオニアのアームですね。技術的な説明もひじょうによくされていたし、製品としてもたいへんに興味を感じました。技術的なチャレンジとしても意味のあるものですね。それから、ソニーの電子制御アーム、これも私にとって興味をいだかずにはいられないもののひとつでした。
     *
アイクマンが、電子制御トーンアームの、どういうところに興味をもったのかは、
この記事からはこれ以上のことはわからないが、
トーンアーム専門メーカーをひきいてきたアイクマンが興味をもつということは、
実際の製品の出来はともかくとして、可能性としては注目してもいい、
(私は実物も見ていないけれど)注目すべきものだった、ともいえよう。

Date: 6月 20th, 2014
Cate: 新製品

新製品(フィデリティ・リサーチの場合・その4)

ステレオサウンド 49号に「ロングランコンポーネントの秘密をさぐる」という記事があり、
グレースのF8シリーズとフィデリティ・リサーチのFR1シリーズがとりあげられている。
記事は井上先生と菅野先生の対談による。

グレース(品川無線)の創設者は朝倉昭氏、フィデリティ・リサーチの創設者は池田勇氏、
記事はF8シリーズ、FR1シリーズについて語られているともいえるし、
朝倉氏、池田氏について語られているともいえる内容だ。

この記事を読めば、池田勇氏がどういう人なのか、おぼろげながら掴める。

ボザークについての、井上先生の発言がある。
     *
赤坂の事務所に物すごい箱に入ったボザークがあって、あの重たいボザークが絶妙に鳴っていた。いま考えてみると、スピーカーとカートリッジが相補い合って絶妙な音を出していたんだけれど、それはすばらしい音だった。
     *
このとき井上先生が聴かれたのはFR1EとヘッドアンプのFTR2ということなので、
おそらく1965年ごろのことである。
フィデリティ・リサーチは、最初赤坂にあり、その後東中野に移っている。

菅野先生はFR1の音について、こう語られている。
     *
ぼくがFR1で最初に聴いたレコードはフルートだったんです。フルートの高調波が吹く息と渾然一体となって打ち震えるがごとき音を聴いた時、空白広告で期待したものにさらに輪をかけて強烈な印象を受けましたね。
     *
空白広告とはフィデリティ・リサーチの創立時のオーディオ雑誌への広告のことである。
何を発売するのかはふせたままの広告だった、ときいている。

フィデリティ・リサーチの創業は1964年なので、私は空白広告は見たことはないが、
その後の私が見てきたフィデリティ・リサーチの広告も、空白の多いものであった。

Date: 6月 19th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その4)

ソニーは電子制御のトーンアーム技術にバイオ・トレーサーと名称をつけていた。
ステレオサウンド 49号に掲載されたPS-B80の広告のキャッチコピーは、こう書いてあった。
     *
スタティックバランスアームの黄金時代は、もう10数年も続いてきました。
しかし──
5つの、「電子の眼」を持ち、128ワード×4ビットの「電子頭脳」を持ち、
垂直・水平ふたつのリニアモーターで駆動する電子制御アームの出現は、
ひょっとしたら、流れを変えてしまうかも知れません。
     *
トーンアームの透視図も載っていた。
とはいっても、この透視図を見ても、具体的にどういう仕組みになっているのかを完全に理解するのは無理だったし、
これだけでは、ソニーのバイオ・トレーサーがどの程度の可能性をもつ技術なのかも判断もできなかった。

それでも、とにかく新しい技術が登場してきたことはわかるし、
少しでも理解したい、とは思っていた。

ただPS-B80に搭載されていた電子制御トーンアームは、新しい形とはいえなかった。
試作品がそのまま登場してきたような仕上りだった。

パイプ部とヘッドシェルに関しては通常のトーンアームと同じ。
軸受けまわりがずいぶんと違う。
PS-B80は超軽の金属ケースからアームパイプが出ている。

この長方形の金属ケース内にセンサーや垂直・水平のリニアモーターが内蔵されているわけだが、
それにしても大きい、と感じさせる。

Date: 6月 19th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その3)

ソニーのPS-B80について、新製品のページを担当されていた井上先生は、
未来指向のアイデア豊かな製品ということで興味深いと思います、と、
山中先生は、
実際に使ってみると大変ユニークで、
ある面ではこれからのトーンアーム、フルオートプレーヤーとしての一つのあり方を示していると思います、
とそれぞれ語られている。

ここだけ読めば評価されているのかと思えるのだが、
この発言に続いて同時期の新製品、パイオニアのExclusive P3について語られているのを読むと、
そうも思えないところもあった。

井上先生は、
エレクトロニクス・コントロールでいくら努力しても、やはり基本的なメカニズムがしっかりしていないと、
どっしりと腰のすわった音を出すことが難しいということをはっきりと示しています、と、
山中先生はメカニズムが基本であり、全てであるということを改めて考えさせられる製品です、と発言されている。

ここでのメカニズムは主に回転系のことを指しているわけだが、
トーンアームも含めて、というふうにも読める。

PS-B80については井上先生が紹介記事を書かれているけれど、
音については触れられず、機能解説であった。

そうでなくともアナログプレーヤーはメカニズムが肝心と思っていた私は、
PS-B80を聴いてみたいとは思わなかった。

Date: 6月 19th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その2)

電子制御トーンアームはあった。
B&Oのリニアトラッキングアーム搭載のアナログプレーヤー、Beogram4002、6000などがそうである。
電子制御によってリニアトラッキングアームを実現している。

ここで書きたいのは1980年前後から国産のアナログプレーヤーに採用されはじめた電子制御である。
ソニーのPS-B80(200000円)、ビクターのQL-Y5(69800円)、QL-Y7(96000円)、
これらが早くに電子制御のトーンアームを搭載している。

記憶違いでなければソニーのほうが早かった。

その後、デンオンからDP-57M(69800円)、DP57L(79800円)、DP67L(95000円)、
DP100M(960000円)らが登場、
ソニーはローコストモデルにも電子制御トーンアームを搭載するようになり、
ビクターも新製品をいくつか出していた。

これらはすべてリニアトラッキングアームではなく、一般的な弧を描くタイプのトーンアームである。

トーンアームの電子制御に当時最も積極的だったイメージがあるのはソニーである。
少なくともステレオサウンドに載っていた広告を見ていて、私はそう感じていた。

そのソニーのPS-B80がステレオサウンドに載ったのは49号、新製品紹介のページであり、
広告も49号がはじめてである。

Date: 6月 18th, 2014
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その1)

アナログプレーヤーの魅力はメカニズムの魅力ともいえる。
電子制御に頼らずに、モーターという駆動源があれば、他に電気を必要としない。
それだけに正確で静粛な回転を得るには、
精度が高くも強度も高いメカニズムが必要になり、そういうものはどうしても高価になってしまう。

ここに電子制御が加われば、メカニズムの精度、強度を落としてもカタログ上のスペックでは、
昔ながらのアナログプレーヤーよりも優れた数値となる。

電子制御によってアナログプレーヤーは大量生産ができるようになった、ともいえる。
そのせいもあって、音のいいプレーヤーとなると、メカニズムのしっかりしたモノということになっている。
私自身も、マイクロの糸ドライヴも使ってきたし、EMTのリムドライヴを愛用してきた。

どちらも回転系に電子制御のかかっていないプレーヤーである。

アレルギーとまではいかないまでも、アナログプレーヤーに電子制御は必要なのか、とずっと思ってきていた。
そういえば、瀬川先生は、ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’79」で、
DDモーターでもクォーツロックをかけたプレーヤーは、
音がハードになるとか、味もそっけもなくなるという批判が聞かれるようになってきたし、
確かな裏づけはないものの、クォーツロックでないプレーヤーのほうが、
ひと味ちがった音をもっているように思える、と発言されている。

いまでも回転系に電子制御は必要なのか、と思っている。
けれど、アナログプレーヤーで電子制御を取り入れてみたら、どうなるのか、と期待しているのが、トーンアームだ。

Date: 6月 18th, 2014
Cate: 「オーディオ」考

十分だ、ということはあり得るのか(その7)

マーラーを聴くにも十分だ、という言葉の裏には、
それ以前の音楽、具体的にはマーラーの交響曲ほど複雑でない交響曲、
ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスなどの交響曲を聴くのに十分でも、
マーラーを聴くには十分でないことがある──、
そういうニュアンスもこめられていることが多い。

これは私の独りよがりではなく、
1970年代以降マーラーの交響曲が積極的に録音されるようになり、
1980年代にはいりデジタル録音の登場とも重なって、さらにマーラーの録音は増えていっていたおりに、
この類の発言は目にしたこともあるし、耳にしたこともある。

ベートーヴェンの交響曲の名演として、いまでもフルトヴェングラーがよく聴かれる。
フルトヴェングラーの録音はすべてモノーラル。
しかも当時の録音の水準からすると、いくつかは音がいいとはいえない録音もある。
有名なバイロイトの「第九」にしても、ライヴ録音とはいえ、
もう少しまともに録れたのでは……、といいたくなる。
それでも私も、ほかの人もベートーヴェンを愛する人ならば、フルトヴェングラーの録音を聴く。

フルトヴェングラーのベートーヴェンだけではない。
他の指揮者の古い録音であっても聴く。
けれどベートーヴェンにはそれほどいい音は必要ではない、ということではない。

Date: 6月 18th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor, 型番

JBL Studio Monitor(型番について・続余談)

リニアテクノロジーは、LTspiceという回路シミュレーターを公開している。
この回路シミュレーターは無料で使える。
これまではMac用はなかったけれど、昨年秋に公開されたことを先月に知った。
さっそくダウンロードした。

このときにリニアテクノロジーのtwitterのアカウントもフォローした。
昨日のツイートに、LTC4320と書いてあった。

4320という型番の製品がリニアテクノロジーにあるのか、と思って、
他にどんな型番の製品があるのか検索してみたら、LT4320というのもあった。

こちらはMOS-FETを使って整流回路を構成するパーツで、
資料には理想ブリッジダイオードコントローラーとある。
これはそのままオーディオにも使える製品である。
それに4320という型番がついているのだ。

他愛のないことだけど、これだけのことで使ってみたい気にさせてくれる。

Date: 6月 17th, 2014
Cate: ステレオサウンド

ガロ

テレビは持っていない。
テレビ無しの生活が、ありの生活よりもずっと長くなっているけれど、
テレビ嫌いなわけではなく、むしろテレビ好きであり、
思い出したように実家に帰省したとき、何をしているかといえば、こたつにもぐってずっとテレビばかり見ている。

いまでもときどき友人宅に遊びに行った時にテレビを見ることはあり、
本人はそれほど真剣に見ているつもりはないけれど、「何、そんなに真剣に見ているんだ」とよくいわれる。

だからテレビを持たない生活を送っている。

海外ドラマが好きなので、Huluに加入している。
先月、Huluで「ゲゲゲの女房」が公開された。
NHKの朝の連続テレビ小説で、数年前の話題作をいまやっとMacで見た。

ひとりのマンガ好きの男として見ていて、いろいろおもうことはかなりあった。
ドラマの中では「ゼタ」という名称だが、ガロについて語られている。

ガロがどういう雑誌であったのかは検索すれば、すぐにわかることだ。
オーディオに関係することでおもったのは、ステレオサウンドはガロではなかったな、ということだった。

Date: 6月 17th, 2014
Cate: 試聴/試聴曲/試聴ディスク

試聴ディスク考(その7)

ステレオサウンド 44号の発売とともに、
ブレンデルのモーツァルトのピアノ協奏曲のレコードを買ったわけではない。
45号が出てもまだ買っていなかった。
近所のレコード店に置いてなかったというのも理由のひとつだが、
他に買いたいレコードはかなりの数あったから、つい先延ばしにしていた。

なのでしばらくは黒田先生の試聴ディスクを一枚も聴かずに、その試聴記を読んでいた。
それぞれのレコードの5つのチェックポイントについては、
特集記事の前半にまとめられているから、黒田先生の試聴記を理解するには、
チェックポイントのページと行き来しながら読む必要があった。

これが10枚すべての試聴ディスクを持っていて聴き込んでいればそんな手間は必要なかっただろうが、
そのころは私はそうする必要があった。

44号、45号の黒田先生の試聴スタイルは、いまでも意義のあることだったと考えているが、
ページ数に制限があれば、読者にわずかとはいえ負担を強いることになる。
それう厭わずに読む人もいれば、そうでない人もいるのが現実だ。

ステレオサウンドの誌面構成は納得のいくものではあったけれど、
読みやすさという点では問題があり、黒田先生の意図をうまく読者に伝えていたかについては疑問も残る。

このやり方はあれこれ考えて細部を見直しても、誌面に限りのある実際の本に向いているとはいえない。
そのためか、このスタイルの試聴は44号と45号限りだった。

Date: 6月 17th, 2014
Cate: オリジナル

オリジナルとは(あるスピーカーの補修・その16)

昭和49年だから1974年、いまから40年前にオーディオラボオガワで岩崎先生は講演をされていたことが、
今回メールのやりとりでわかった。

エアリーズのウーファーの補修を担当してくれたSさんは、
当時10代だったので、そのときの岩崎先生の講演をきかれてはなかったけれど、
岩崎先生の話は耳にされていて、オーディオラボオガワの専務に確認されたところ、
当時の写真が残っていた。

その写真のコピーがエアリーズのウーファーに同封されて、岩崎先生のご家族のところに戻ってきた。

もしオーディオラボオガワ以外のところに補修を依頼していたら、
こんなことはなかったわけだ。

Sさん(女性の方である)からのメールを読んでいて、
喜ばれているように感じた。
岩崎先生のご家族の方も喜ばれている。

私も、オーディオラボオガワを選んで良かった、と喜んでいる。

Date: 6月 17th, 2014
Cate: 試聴/試聴曲/試聴ディスク

試聴ディスク考(その6)

ステレオサウンド 44号、45号で黒田先生が試聴ディスクとしてあげられた10枚は、
すべて買いたい、と思ったけれど、このころはまだ中学三年。
そんな余裕はなかったから、ブレンデルのモーツァルトのピアノ協奏曲を選んで買った。

このころの私は五味先生の影響を強く受けたばかりのころだから、
カラヤンのヴェルディの序曲・前奏曲集は真っ先に外した。
クライバーの「こうもり」は欲しかったけど、二枚組ということで後回しに。
こんなふうに一枚一枚リストから削ってのブレンデルのレコードだった。

黒田先生は試聴曲として第22番の第三楽章の冒頭1分20秒ほどを使われている。
この時間のなかでの5つのチェックポイント。
実際に聴きながら、こういうところに気をつけて試聴されているのかと、初心者なりに納得していた。

その上で黒田先生の試聴記をもう一度読む。

44号、45号での黒田先生の試聴記は、
曖昧さの排除ということで、各チェックポイントについて30字以内で書かれている。
一枚のディスクに5つのチェックポイントだから、一枚の試聴ディスクにつき150字、
10枚のディスクだから、1500文字の試聴記となっていた。

具体的にこんなふうに書かれていた。
4343でのブレンデルのモーツァルトのピアノ協奏曲についての試聴記である。

❶音像はくっきりしていてい、しかもピアノのまろやかなひびきをよく示す。
❷木管のひびきのキメ細かさをあますところなく示す。
❸ひびきはさわやかにひろがるが、柄が大きくなりすぎることはない。
❹しなやかで、さわやかで、実にすっきりしている。
❺ひびきの特徴を誇張しない。鮮明である。

これだけではわかりにくいと感じる人もいるだろう。
ここでの黒田先生の試聴記は、
あくまでも各レコードについてのチェックポイントについての文章を読んだ上での試聴記である。
しかも、黒段背性と同じように、10枚のディスクを聴いていればこそ掴みやすい試聴記でもある。

Date: 6月 16th, 2014
Cate: 試聴/試聴曲/試聴ディスク

試聴ディスク考(その5)

ステレオサウンド 44号と45号で黒田先生が使われた試聴ディスクは次の通り。

ヴェルディ/序曲・前奏曲全集(カラヤン/ベルリンフィルハーモニー)
モーツァルト/ピアノ協奏曲第22番(ブレンデル、マリナー/アカデミー室内管弦楽団)
シュトラウス/「こうもり」(クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団、プライ、ヴァラディ、ポップ他)
珠玉のマドリガル集(キングズ・シンガーズ)
浪漫(タンジェリン・ドリーム)
アフター・ザ・レイン(テリエ・リピダル)
ホテル・カリフォルニア(イーグルス)
ダブル・ベース(ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ)
タワーリング・トッカータ(ラロ・シフリン、エリック・ゲイル他)
座鬼太鼓座

カラヤンのヴェルディをいちばん長く聴かれている(約4分30秒)、
ほかのレコードは1分強から2分ほどである。

誌面にはB&Kの測定器(Type 2112、Type 2305)による各レコードのレベル記録グラフが掲載されていて、
それぞれのレコードのチェックポイントについての解説も載っている。

ヴェルディの序曲集では仮面舞踏会の前奏曲が試聴曲として使われていて、
まず出だしでは、「ヴァイオリンによるピッチカートが左から鮮明にききとれるか」、
それから「フルートとオーボエのピアニッシモによるフレーズの音色が充分にかわるか」とある。

こんな感じで、各レコードの五つのチェックポイントについて書かれているし、
各レコードについての試聴レコードとして寸評もある。