電子制御という夢(その5)
ソニーのPS-B80のステレオサウンドでの評価はどうだったかというと、あまり芳しいとはいえなかった。
51号のベストバイには選ばれているものの、柳沢功力氏のコメントを読んでもそうだし、
55号のベストバイには選ばれていなかった。
59号では岡先生と菅野先生が一点ずつ入れられていたものの、写真だけの掲載だった。
PS-B80より一年ほど前に登場していたPS-X9の方が、59号においても評価は高かった。
そういうわけでステレオサウンドだけを読んでいても、PS-B80の音については知ることが出来なかった。
PS-B80のプレーヤーシステムとしての評価はあまりいいものではないことはわかるのだが、
それを電子制御トーンアームのもつ可能性に重ねてみてはいけない。
電子制御トーンアームの可能性はどうだったのか。
読者としてもいちばん知りたかったのは、このことである。
1980年の11月ごろに、ステレオサウンド別冊としてAUDIO FAIR EXPRESSが出た。
当時晴海で行われていたオーディオフェアを取材した一冊である。
このムックの中に、「海外からのゲスト12氏 オーディオフェアについてこう語る」という記事がある。
ここに登場しているのは、オルトフォンの技術担当副社長イブ・ピーターセン、
SME社長A・ロバートソン・アイクマン、ロジャース社長ブライアン・P・プーク、
QUAD社長ロス・ウォーカー、コス取締役副社長グレゴリー・コーネルス、
スレッショルド社長ネルソン・パス、タンノイ社長ノーマン・クロッカー、
タンノイ広報担当取締役T・B・リビングストン、アルテック プロ機器担当副社長ロバート・T・デイビス、
JBL開発担当副社長ジョン・M・アーグル、KEF社長レイモンド・E・クック、
リン セールスマネージャ チャールス・J・ブレナン。
SMEのアイクマンはこう語っている。
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会場ではどうしてもアームやプレーヤーが気になるんですが、中でもリニアモーターを使ったパイオニアのアームですね。技術的な説明もひじょうによくされていたし、製品としてもたいへんに興味を感じました。技術的なチャレンジとしても意味のあるものですね。それから、ソニーの電子制御アーム、これも私にとって興味をいだかずにはいられないもののひとつでした。
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アイクマンが、電子制御トーンアームの、どういうところに興味をもったのかは、
この記事からはこれ以上のことはわからないが、
トーンアーム専門メーカーをひきいてきたアイクマンが興味をもつということは、
実際の製品の出来はともかくとして、可能性としては注目してもいい、
(私は実物も見ていないけれど)注目すべきものだった、ともいえよう。