試聴ディスク考(その6)
ステレオサウンド 44号、45号で黒田先生が試聴ディスクとしてあげられた10枚は、
すべて買いたい、と思ったけれど、このころはまだ中学三年。
そんな余裕はなかったから、ブレンデルのモーツァルトのピアノ協奏曲を選んで買った。
このころの私は五味先生の影響を強く受けたばかりのころだから、
カラヤンのヴェルディの序曲・前奏曲集は真っ先に外した。
クライバーの「こうもり」は欲しかったけど、二枚組ということで後回しに。
こんなふうに一枚一枚リストから削ってのブレンデルのレコードだった。
黒田先生は試聴曲として第22番の第三楽章の冒頭1分20秒ほどを使われている。
この時間のなかでの5つのチェックポイント。
実際に聴きながら、こういうところに気をつけて試聴されているのかと、初心者なりに納得していた。
その上で黒田先生の試聴記をもう一度読む。
44号、45号での黒田先生の試聴記は、
曖昧さの排除ということで、各チェックポイントについて30字以内で書かれている。
一枚のディスクに5つのチェックポイントだから、一枚の試聴ディスクにつき150字、
10枚のディスクだから、1500文字の試聴記となっていた。
具体的にこんなふうに書かれていた。
4343でのブレンデルのモーツァルトのピアノ協奏曲についての試聴記である。
❶音像はくっきりしていてい、しかもピアノのまろやかなひびきをよく示す。
❷木管のひびきのキメ細かさをあますところなく示す。
❸ひびきはさわやかにひろがるが、柄が大きくなりすぎることはない。
❹しなやかで、さわやかで、実にすっきりしている。
❺ひびきの特徴を誇張しない。鮮明である。
これだけではわかりにくいと感じる人もいるだろう。
ここでの黒田先生の試聴記は、
あくまでも各レコードについてのチェックポイントについての文章を読んだ上での試聴記である。
しかも、黒段背性と同じように、10枚のディスクを聴いていればこそ掴みやすい試聴記でもある。