スピーカーの述懐(その73)
ルドルフ・ゼルキンが言っている。
“One should not play music; one should let the music play itself.”
(音楽を演奏すべきではない。音楽に自ら奏でさせるべきだ。)
スピーカーの鳴らし方も同じではないか。
ルドルフ・ゼルキンが言っている。
“One should not play music; one should let the music play itself.”
(音楽を演奏すべきではない。音楽に自ら奏でさせるべきだ。)
スピーカーの鳴らし方も同じではないか。
オーディオマニアとして、無視できないキーワードがいくつかある。
方式や回路、部品や材質といった、いわば側面的、部分的な要素によって音が決まるわけではないことは、もちろん承知の上で、
それでも心惹かれてしまうキーワードといえるものがある。
それは人によって、世代によっても違ってくるものだろう。
私にとってのそういったキーワードが、他の人にとってはことさらを関心を抱くことさえないものだったりする。
そういうものだとわかった上で、私が惹かれてしまうのは、管球式OTLアンプがあり、直熱三極管がまず挙げられる。
つい先日、ヤフオク!でRCAの3A5という真空管を落札した。
新品を十本まとめての出品だった。
高くなりそうだったら諦めるということで、最初からこのぐらいで落札できたらいいな、と思う金額で入札した。
結果、その金額の七割くらいで落札できた。
3A5という真空管について詳しく知りたい人は検索してみてほしい。
3A5は電圧増幅用の直熱三極管だ。そんな真空管を手に入れて、どんなアンプを作りたいのか、具体的なことは何も決めたなかった。
十本落札できたら、こんなアンプも組めるなぁといったぼんやりした案はいくつかある。そのうちのどれかを作ることになるだろうが、
準備を進めるうちに気が変って、案そのものが変更になるかも──と自分でも思う。
アンプとチューナーにおけるデザインのペア性について忘れないうちに書いておきたいのは、薄型のチューナーのことだ。
マークレビンソンのJC2の登場は、国産アンプへいくつかの影響を与えたといえる。
まずアンプの薄型化である。
ヤマハのC2は、JC2の登場がなければ違ったスタイリングになっていたかもしれないし、JC2がなくとも、あのスタイルだったのかもしれないが、それでも、その登場は少し遅れたのかもしれない。
JC2はトーンコントロールを始め、いくつかのファンクションを、音質向上のためという名目で省いているが、
C2はトーンコントロールもしっかりと備えた上で薄型に仕上げているのは、ヤマハらしい。
C2の上級機のCIは、改良モデルが登場することはなかった。
C2はC2a、C2xと改良モデルが続いたロングセラーモデルだが、
ペアとなるパワーアンプのB2は最初から存在していたが、チューナーはなかった。
T2はしばらく登場しなかった。T2は薄型チューナーの先駆けでもあった。
このころ国産各社から薄型のチューナーが登場した。
パイオニアのF26、テクニクスのST9038Tなどがあった。
それ以前から、やや薄型のチューナーとしてラックスのT110があったが、10cmを切る薄さと比較すると、私の中では薄型チューナーの先駆けと感じるのは、上に挙げた三機種あたりからだ。
T2は新鮮に感じていた。C2とペアになるチューナーなんだ、と受け止めていたし、薄型のすっきりした印象は、チューナーは性能的にもサイズ的にも、こういう薄型チューナーで満足できる方がいいんじゃないか──、そんなふうに思わせた。
そういえば──と思い出すのは、五年前、大滝詠一の“A LONG VACATION”の金蒸着CDが三十万円を超える値がついてヤフオク!で落札されたことだ。
1980年代の終りごろから金蒸着CDがいくつかのレコード会社から出た。通常のアルミ蒸着CDよりも少し高かったけれど、
むちゃくちゃ高価だったわけではない。
五千円しなかったと記憶しているが、そのぐらいだったはず。
それが未開封とはいえ三十万円以上で落札。
ロジャースのLS3/5Aが登場したとき、ペアで十五万円だった。その後、少しずつ値が上がり、1980年代半ば頃には、ペアで十六万円を超えていた。
それが六十万円を超えて取り引きされるようになった。
新品未開封のCDか中古のスピーカーという違いはある。
当時の価格を知る者からすると、適正価格とはいったいどういうことなのか、と考える。
特に製造中止になったモノの適正価格は──と考えながらも、インターネットオークションがここまで普及してしまうと、
考えるのは無駄なことのようにも思える。
そんなことをぼんやり考えながら、ステレオサウンド 237号のベストバイのページを開く。
ペアで40万円以上80万円未満のスピーカーシステムのところを見る。
グッドマンのLS3/5Aの落札価格と同じ価格帯であるわけだが、
ベストバイに選ばれているスピーカーのどれらを買うことになったら、私ならどれを選ぶだろうか。
どれだろう──、と他人事みたいにページを眺めていて、世の中に、これだけのスピーカーシステムとグッドマンのLS3/5Aしか存在してないのであれば、
LS3/5Aを選ぶかもしれない──と思ったりした。
これは極端な設問であって、まったく現実的ではないし、
個人的にLS3/5Aの現在の相場は少しおかしいと感じていても、
魅力的なスピーカーシステムということでは、選択肢に加わってくる。
そこでまた適正価格とは──を考えてみるのだが、はっきりとしたことは何も浮かばない。
パイオニアのExclusive F3、ケンウッドのL01T、アキュフェーズのT104の三機種。
この中で音を聴いているのは、Exclusive F3だけだ。
音を聴いているといっても、私がいま住んでいるところは専用アンテナを用意できないし、
受信環境もいいとはいえないなので、音が鳴っているというレベルでしかなく、
その音について語れるわけでもない。
だから瀬川先生が書かれたものを読むしかないわけで、この三機種には音の共通性があるように感じている。
少なくともExclusive F3とT104は、どちらかといえば女性的な音であり、ウェットなはず。
L01Tも、そういう面を持っていると思っているし、L02Tにさほど惹かれないのは、そういう面が希薄かなと感じているからでもある。
Exclusive F3、T104、L01T、この三機種はそれぞれペアとなるアンプがある。
Exclusive F3にはExclusive C3が、T104には C240が、L01TにはL01Aという存在がある。
T104とC240、L01TとL01Aと比べると、Exclusive F3とExclusive C3は、デザインとして統一感があまりないと感じる。
私が別格のチューナーと感じているマランツのModel 10BとセクエラのModel 1は、Model 10Bには Model 7という存在がいるが、Model 1には、そういう存在はいない。
QUAD、ウーヘルのチューナーにもペアとなるアンプがあった。
ヤマハのCT7000とオーレックスのST720にも、そういう意味でのペアがいない。
CT7000には、ヤマハのプリメインアンプCA2000、CA1000IIIがあったではないか、と思われる方もいるだろうが、
この二機種とペアとなるチューナーはCT1000であり、価格的にもサイズ的にもそうである。
CT7000は、サイズ的にも合わないし、ヤマハのデザインらしいという点では共通していても、
デザインのペア性では、CT7000はペアとなるアンプを持たない存在だ。
別項で書いているアルテックのA4のネットワークは、クロスオーバー周波数500HzのN500Fが純正だが、
いまのところ、6dB/oct.のネットワークで鳴らしている。
これがベストなのかどうか、いまの段階でははっきりしたことは言えないが、
A4が収まる部屋とはいえ、劇場ほどの広さはない空間では、
かなりの音量を求めても、
ネットワークの減衰カーヴは6dBでも問題はないように感じている。
一般的な並列型ネットワークでの接続だが、直列型に変更するのは、すぐにできる。
A4のような大型スピーカー、つまりウーファーと中高域のドライバーとがかなり離れている場合、
並列型と直列型は、どういう変化を見せるのか、楽しみにしている。。
LS3/5Aが、いまも高い評価で、中古市場でもなかなかの値段がついているのは知っている。
11Ω仕様のモデルよりも15Ω仕様のモデルは、さらに高く取り引きされている。
ヤフオク!に、グッドマンのLS3/5Aが出品されていた。
15Ω仕様である。
グッドマンのLS3/5Aがある、ということは知っていた。とはいえなんとなく知っていた、という程度で、
実物を目にしたことはなかった。
今回、ヤフオク!に出品されているのを見て、やっぱりあったのか、と思ったし、
スピーカー端子を見て、相当に古いモノだな、とも思っていた。
どんな音がするのか、聴いてみたいと、LS3/5Aに興味がある人ならば、そう思うだろう。
私が出品されているのに気づいた時点で、すでに30万円を超えていた。
どこまで値が上がるのか。50万円を突破するのか、と思っていたら、66万円を超えていた。
欲しい人が複数いれば、オークションだから値は上がっていく。
なんとしてでも手に入れたい人が二人以上いれば、思わぬ値がつくのはわかっていても、66万円という落札価格を見ると、
どういう人が落札したのかを、勝手に想像してしまう。
LS3/5Aマニアが世の中にはいる。各ブランドから出たLS3/5Aを全て蒐集したい人はいる。
そういう人が落札したのかもしれないし、グッドマンのLS3/5Aは珍しいから、投資目的もあって落札した人なのかもしれない。
どんな人なのかは想像するしかないのだが、落札した人と最後まで応札した人がいるわけで、その二人によって66万円までになってしまったのだが、
ただすごいですね、と感心するだけではおさまらぬ何かを感じている。
グッドマンのLS3/5Aに、66万円の価値があるのか。それを判断するのは誰か。
グッドマンのLS3/5Aに、それだけの価値はない──、と言いたいわけではない。聴いたことがないグッドマンのLS3/5Aだし、
もしかすると、その音を聴くと、それだけのお金を払っても手に入れたいという気持はわかる──、となるかもしれない。
でも、私はグッドマンのLS3/5Aを聴いたことがない。これ以上のことは言えないのだが、落札した人はグッドマンのLS3/5Aを聴いたことがあるのかは、気になる。
メリディアンの218を導入して、五年以上。
最初の一年は、あれこれ手を加えてはaudio wednesdayに持参して、その音を聴いてもらっていた。
私が使っている218と同じ手を加えたのは、つい最近一台頼まれてやったので、四台になる。
いま鳴らしている218に、大きな不満はない。これが最高とは言わないけれど、このサイズと価格で、MQAの音を見事に再生してくれるのを聴いていると、
218に、これ以上、手を加えるのは終りにしよう、三年ほど前に思った。
でも同じ仕様の218が、私のを含めて五台なのは、うーんと思うところがある。
もう一段階やろうと考えていたことがある。材料の選定と、別の材料の手持ちが心細くなっていたので、手をつけなかったが、
使えそうな材料を見つけたし、もう一つの材料もヤフオク!で手に入れたから、ようやくやろうと考えている。
早ければ4月のaudio wednesdayに持っていく予定だ。
アルテックのA4のエンクロージュアは、210と呼ばれるモノで、外形寸法はW82.6×H213.4×D100.3cmのフロントショートホーン型だ。
これに左右にウイング(サブバッフル)がつくと、横幅は204.5cmとなる。この状態での重量は201kgと発表されている。
A4は、この210エンクロージュアに、15インチ口径のウーファーを二発収め、なんらかのホーン型トゥイーターを上にのせたシステムである。
ウーファーは515が標準で、中高域を受け持つコンプレッションドライバーは288とマルチセルラホーンの1505の組合せがよく知られている。
今回のA4は、515Eと288-16Kが使われている。どちらもフェライトマグネットである。
210の上に1505がのることで、システムの高さは42.5cm増す。
213.4cm+42.5cmで、255.9cmとなる。
三年ほど前、私が行った時は、ドライバーとホーンが210の上になかったので、まずドライバーとホーンを210の上まで持ち上げなければならない。
だから脚立が必要となる。とはいえ脚立が一つしかなかったから、持ち上げるだけでも一仕事だ。
(その1)でチューナー篇から書き始めたのは、たまたま目の前にあったステレオサウンド別冊の表紙にセクエラがあったからだ、と書いている。
そうなのだが、もう一つ理由があって、チューナーはほぼ新製品が登場しないからだ。
ステレオサウンドのベストバイでも以前はチューナーのカテゴリーがあった。
いまではない。当然だろう。
いまチューナーの新製品といえば、毎年登場するわけではない。マッキントッシュとアキュフェーズが比較的新しい製品を出しているとはいえ、
昔と今とではチューナーの存在は薄くなりつつある。
チューナーを持っていないオーディオマニアがいても不思議ではない。
この項のチューナー篇を書いていて、ケンウッドのL02T以降のチューナーには、関心がない。
セクエラのModel 1が復活した時は、おおっ、と思ったが、それが最後だった。
これから先もチューナーの新製品は、数は少ないだろうが登場するだろう。高価なチューナーも現れるかもしれないが、その登場に昂奮することはないと思っている。
L02Tはすでに書いているように、どうしても欲しいとまでは思っていない。
私が欲しいと思っているチューナーの中で新しいモノとなると、アキュフェーズのT104である。
マランツのModel 10Bとセクエラを別格として、この二つのモデルよりも身近なチューナーとして欲しいモノは、
パイオニアのExclusive F3、ケンウッドのL01T、アキュフェーズのT104が並ぶわけだが、
ここまで書いてきて思い出すのは、ステレオサウンド 55号のベストバイである。
55号のベストバイの巻頭には、オーディオ評論家それぞれのベストバイ観があり、My BestBuyとして、各ジャンルから三機種ずつ選んでいる。
瀬川先生のチューナーのベスト3が、Exclusive F3とL01TとT104なのを思い出している。
渋谷でaudio wednesdayをやるようになって、毎回、MQAと通常のCDとの聴き比べをやっている。
先日のaudio wednesdayでも初参加の方が二人いらっしゃったのでやった。
D/Aコンバーターは、メリディアンの218。
渋谷のぴあ分室のシステムの中では218が、もっとも安価な製品。それでも218と通して聴くMQA-CDのフルデコードの音は、鮮明だ。
鮮明な音という表現はよく使われるが、この「鮮明な音」もまた、使う人によって随分と違ってくる。
こんな音を鮮明というのか、この人は、と思ったことは数えきれないほどある。
鮮明な音も、また誤解されてすぎていると感じている。
MQAで、マイルス・デイヴィスとカルロス・クライバーを鳴らした。
鮮明だ、と驚かれていた。
そうだろう、そうだろうと心の中で思っていた。
なのでこれからも新しく参加された方がいらっしゃったら、MQAとの比較を行っていく。
渋谷に場所を移して四回のaudio wednesdayを終えて感じているのは、何か流れが生まれてきたかなぁ、だ。
ダイヤソウルのスピーカーは、audio wednesday以前に昨年8月に二度聴いている。その時の印象では、クラシックを鳴らすのは難しいな、だった。
それでもスピーカーを他のモノにすることはできないから、鳴らしていくしかない。
8月のころと、ずいぶん印象は私の中で変ってきた。8月に一緒に聴いた人も、変ったという感想だった。
何かを大きく変えたわけではない。ちょっとしたことをやっただけだ。
スピーカーケーブルやラインケーブル、電源コードにインシュレーターなどといったアクセサリーを持ち込んで交換したわけではない。
高価なアクセサリー類をいっぱい持ち込んで、それまでの音とはガラッと違う音を出すことは、誰にでもできる簡単なことだ。
それで「どうだ!」と自慢する人もオーディオマニアの中にはいると聞いている。その程度のことを音響調整と豪語する、らしい。
それはそれで、聴いた人が満足していれば、私があれこれ言うことではない。
お好きにどうぞ、と言うだけだ。
そんなレベルのことはaudio wednesdayではやりたくない。やるつもりは全くない。
そういうことではなくて、音を良くしていく流れを作っていく(生み出していく)ことこそ大事だし、音響調整だと思っている。
アルテックのA4と同規模のスピーカーシステムに、ヴァイタヴォックスのBassBinがある。
アメリカのアルテック、イギリスのヴァイタヴォックス。
どちら一つだけ聴く機会をもらえるのであれば、BassBinと即答する。
BassBinは、一度、夢に登場したことがある。A4は、いまのところない。
A4にしてもBassBinにしても、これだけの規模のスピーカーとなると、その音を想像しようとしても、なかなか難しい。
想像するための元となる音がないからともいえる。
アルテックのA7、A5があるではないかといわれそうだが、規模が違いすぎるとしか思えない。
長いことオーディオをやっていると、不思議な縁が生じてくることがある。
三年ほど前に、連絡があった。部屋の奥にしまい込んだままになっているスピーカーを鳴らしたいから、手を貸してほしい、と。
そのスピーカーがA4だった。
大きいことはわかっていても、実際に目の前にA4があると、でかい……、という言葉しか最初は出てこない。
劇場に置いてあるのならば、このきぼスピーカーは必要だな、と思うだろうが、広いとはいえ個人の住宅に置かれたA4は、見上げることになる。
そして脚立が必要になる。
アルテックのA4ときいて、どんなスピーカー、すぐに思い浮かべられる人は意外に少ない。
A5やA7は、ある程度キャリアのあるオーディオマニならば、ほぼみんな知っている。
使用ユニットや仕様について細かなことは知らなくても、こういうスピーカーというイメージは、すぐに思い描ける。
ところがA4となると、どんなスピーカーでしたっけ? もしくはそんなスピーカー、ありましたっけ? だったりする。
無理もないと思う。A4を見たこと(聴いたことではなく)がある人だって少ない。A4を知っている人でも写真でしか知らない──、そういう存在である。
ステレオサウンド 60号に、そのA4が登場している。
*
瀬川 ただ、幸か不幸か、日本の住宅事情を考えますと、きょうはここは54畳ですね。ここでA4を鳴らすと、もうA4では部屋からはみ出しますね。大きすぎる。A5になって、どうやら、ちょうどこの部屋に似あうかな、でも、もうすこし部屋が広くてもいいなという感じになってくるでしょう。
ただ現実にはわれわれ日本のオーディオファンは、A5を6畳に入れている人が現にいますよね。一生懸命鳴らして、もちろん、それはそれなりにいい音が出ているけれども、きょうここで聴いた、この開放的な朗々と明るく響く、しかもなんとも言えないチャーミングな声が聴こえてくる。このアルテック本来の特徴が残念ながら、われわれの部屋ではちょっと出しきれません。どんなに調整しこんでも……。
逆に菅野さんが言われたように、このシリーズはクラシックが鳴りにくいと言われた、それがむずかしいと言われた。むしろ6畳なんかでアルテックを鳴らしている人は、そっちのほうに挑戦してますね。
つまり、このスピーカーは、ほっとくとどこまでも走っていきたくなるあばれ馬みたいなところがある。そこがまた魅力でもあるんだけれども、そこをおさえこみ、おさえこみしないと、6畳ですぐそばじゃとっても聴けないですね。そこをまたおさえこむテクニックはたいしたものだと、ぼくは思います。実際、そういう人の音をなん度も聴かせてもらっているけれども。
でも、それが決してアルテックの本領じゃない。やっぱり、アルテックの本領は、この明るさ、解き放たれた自在さ、そしてこれは今日的なモニタースピーカーのように、原音にどれほど忠実かという方向ではないことは、このさい、はっきりしておかなくちゃいけない。物理的にどこまで忠実に迫ろうかというんじゃなくて、ひとつの音とか音楽を、ひとりひとりが心のなかで受けとめて、スピーカーから鳴る音としてこうあってほしいな、という、なにか潜在的な願望を、スッと音に出してくれるところがありますね。
実にたのしいと思うんです。この音を聴いてても、ぜったい原音と似てないですよ。だけど、さっきサウンド・トラック盤をかけた、あるいはヴォーカルをかけた、あのときの歌い手の声の、なんとも言えず艶があって、張りがあって、非常に言葉が明瞭に聴き取れながら、しかも力がある。しかし、その力はあらわに出てこない。なんともこころよい感じがする。
あの鳴り方は、これぞ〈アメリカン・サウンド〉だ、と。
*
A5、A7も劇場用スピーカーだが、A4はさらに大きな劇場用スピーカーである。
どんなスピーカーですか、訊かれて、A7の四倍くらいの大きさです、とつい言ってしまったが、そのくらいの規模である。
ステレオサウンド 60号を読みながら、私が求める音ではないだろうけど、一度聴いてみたい……、でも聴く機会は訪れないだろうな……と思っていた。
ステレオサウンドで働いていた時も、その機会はなかった。
クリスチャン・マクブライドの“conversations with christian”。
このCDも知らないしクリスチャン・マクブライドも知らなかった。
昨晩のaudio wednesdayに初めて来られたKさんが持ってこられたCD。
一曲目を希望された。
ジャケットを見れば、ジャズなんだろうな、と思いながらボリュウムは、やや大きめにセット。
最初に鳴ってきたベースの音。そして女性ヴォーカル。聴き覚えのある声。アンジェリーク・キジョーだった。
2019年のOTOTENでブースにはいったとき、ちょうどかかっていたのが、アンジェリーク・キジョーの“Summer Time”だった。
それからだ、アンジェリーク・キジョーを聴くようになったのは。
アンジェリーク・キジョーが、“conversations with christian”に参加していることを全く知らなかっただけに、これだけでも驚きだったけれど、
このアルバム自体が、驚きだった。
2011年に発売のディスクだが、昨晩来られた人は、Kさん以外、初めて聴くディスクだった。みんなにとって驚きだったようだ。
一曲目だけでなく個人的関心から二曲目、三曲目、十三曲目も聴いた。
ビリンバウというブラジルの民族楽器が聴ける十三曲目。
ここで、また別の驚きがあったけれど、ここでは省く。
とにかく昨晩のaudio wednesdayでの最大の収穫は、この“conversations with christian”だった。
TIDAL、Qobuzでは96kHz、24ビットで聴ける。