真空管アンプの存在(その64)
真空管アンプは、ソリッドステート(半導体)アンプにくらべて、真空管そのものの構造から、
どうしても物理的なノイズに関しては不利な面がいくつかある。
その代表的なひとつが、ヒーターおよびフィラメントの存在であり、その点火方法であろう。
ときどき、こんな記述をみかける。
「EL34のフィラメントが赤く灯り……」
書いているご本人は、ヒーターと表記せずに、あえてフィラメントとすることで、
言葉の雰囲気に酔われているのかもしれないが、真空管においてヒーターとフィラメントは異る。
フィラメントとは熱電子源である。つまり直熱管においてのみ、フィラメントは存在する。
ヒーターは熱源ではあるが、熱電子源ではない。ヒーターで熱せられたカソードから熱電子が放出されるからだ。
EL34やKT88などは、傍熱管だからヒーターであって、フィラメントは持たない。
ECC82、ECC83といった電圧増幅管も傍熱管だから、フィラメントはない。
これもチョークコイルを、わざわざチョークトランスと呼ぶ人がいるのと同じことなのかもしれない。
トランスは “transformer” であり、”transformer” の意味を調べれば、
チョークはコイルであってトランスではないことはすぐにわかる。
ヒーターよりもフィラメントと、コイルよりもトランスと、とあえて誤記することが、
字面のうえでかっこいい、と思っているのだろうか。
意味さえ通じれば、そんなこまかなことはいいじゃないか、という反論もあろうが、
そういうこまかなことをきちんとせずに、おろそかに取り扱っていたら、それはその人の音に出てしまう。