オーディオのロマン(ソニー SS-R10・その1)
1996年だったか、ソニーからコンデンサー型スピーカーシステムSS-R10が登場した。
ペアで300万円という価格もそうだったが、それ以上にソニーからコンデンサー型、ということでも、
驚いた記憶があるし、ながくオーディオをやっている人ならば、
ソニーとコンデンサー型スピーカーとが結びつきにくかっただろう。
唐突に登場してきた感があった。
ソニーはコンデンサー型マイクロフォンは、それ以前から手がけていたのだから、
それほど唐突でもないだろう、といわれるかもしれないが、
ソニーのスピーカーの流れを知っていれば、唐突といえたし、
SS-R10の技術を活かした普及クラスの製品や、後継機種が登場したわけでもない。
唐突だな、は、いつしか唐突だったな……、に私の中では変っていた。
2010年秋、瀬川先生の文章を集中的に入力していた数ヵ月がある。
そのとき気づいた。
ステレオサウンド 5号、瀬川先生の「スピーカーシステムの選び方まとめ方」、
その中に、こう書いてあった。
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コンデンサー型スピーカーについては、中〜高域の透明な美しさにくらべて、低音域の厚みが不足したり、力強さがないなどという意見がよく聞かれる。その当否は別として、QUADのスピーカーを中域から上で使うようにして、低域をふつうのコーン型のウーファーに分担させるという、ソニーの大賀氏のアイデアを実際に聴かせて頂いて仲々よい音質だったので、使いこなしのひとつのヒントとしてご紹介させて頂く。
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聴かせて頂いて、とあるから、大賀典雄氏のシステムだったのだろう。
つまり大賀氏は、この時期(1967年ごろ)、QUADのESLを鳴らされていたことになる。
これがSS-R10と結びついた。
私のなかでむすびついただけであって、事実かどうかはわからない。
けれど、SS-R10開発のゴーサインは、大賀氏が出されたのではないだろうか。
SS-R10はコンデンサー型とは思えない重量である。
スピーカー本体が78kg、別筐体のネットワークが18kg、100kg近い。
QUADのESLはネットワークは内蔵されていて、18kg。
ずいぶんと違う。
どちらも3ウェイである。
ソニーという会社とQUADという会社の規模の違いともいえそうな、
この重量の違い、いいかえれば物量投入の違いは、
QUADのESLを鳴らしながらも、
低音をコーン型ウーファーで補っていた大賀氏の不満から生じたもののような気もする。