Archive for 12月, 2016

Date: 12月 8th, 2016
Cate: Noise Control/Noise Design

Noise Control/Noise Designという手法(audio sharing例会でのこと)

S/N比には、物理的なものと聴感上のものとがあり、
どちらもいいほうが、音にとってはありがたいことである。

けれどノイズも音のうちであり、
ノイズを完全に消し去ったから音がよくなるとは限らないのが、オーディオの現状である。
それにノイズを完全に取り除くことも、いまの技術では不可能である。

将来はどうなるのかわからないけれど、
もしノイズが完全になくなったとしたら、それは人にとってほんとうにここちよい音になるのだろうか。

昨晩のaudio sharing例会で、あることを試した。
使っていないケーブルがあれば、誰でも簡単に試せることである。

そんなことで音が変るなんて……、という人もいるだろうが、
昨晩、参加された人の耳にははっきりとした違いとなって聴こえていた。
そのくらいに音が変化する。

この変化はノイズに関係するもので、
同じことを試したからといって、諸条件の違いによっては結果が逆転することもある。
昨晩はうまくいった例といえる。

具体的にどんなことをやったのか、詳細は控えるが、
ノイズコントロールの手法のひとつである。

Date: 12月 7th, 2016
Cate: アナログディスク再生

対称性(その8)

B&OのBeogram以前にもリニアトラッキングアーム搭載のプレーヤーはあった。
マランツのSLT12がそうだし、ナショナル(まだテクニクス・ブランドができる前)のFF253などがあった。
だが1976年ごろは、B&O以外のリニアトラッキングアームのプレーヤーが、
他にどういうモノがあったか、すぐに思い出せる人は少ない。

1977年になると日本からマカラが登場し、
海外ではルボックスからも登場した。
その後、国内からはヤマハ、ダイヤトーン、テクニクス、パイオニアなど、
海外からはハーマンカードン、ゴールドムンドなどからも出てきた。
さらにリニアトラッキングアーム単体も登場してきた。

そういう時代を見て(聴いて)感じるのは、リニアトラッキングアームは、
理想なのか、理想とまではいえなくとも理想にもっとも近いトーンアームの形態なのだろうか、
という疑問である。

レコードのカッティングではカッターヘッドは半径方向に直線に移動する。
リニアトラッキングアームも同じである。
その意味では、カッティング時と再生におけるトレース時の対称性はある、といえる。
一般的なカートリッジの針先が直線ではなく、円弧を描くトーンアームでは、
カッティング時との対称性は崩れてしまっている。

リニアトラッキングアームの問題点は、いくつかある。
これらすべてを解消した、としよう。
そうなったら、通常の円弧を描くトーンアームよりも圧倒的に優れている、となるのか。

カッターヘッドの針先とカートリッジの針先の軌跡。
この点だけで判断すれば、リニアトラッキングアームにまさるモノはない。

けれどカッターヘッドとカートリッジが、構造的に対称性がないといえる。
ウェストレックスのカッターヘッドとウェストレックスのカートリッジ10Aは、
構造的に対称性がある。
10Aというカートリッジならば、リニアトラッキングアームに装着することで、
カッティング時との対称性は非常に高い。

実際のカートリッジは10Aのような構造になっていない。
カッターヘッドと相似の構造とはいえない。
そういうカートリッジが、トーンアームの先に取りつけられている。

Date: 12月 7th, 2016
Cate: 対称性

対称性(その7)

B&Oというブランド名を知ったのは、
私のオーディオのスタートとなった「五味オーディオ教室」でだった。
     *
装置の外観もまた、音を美しく聴く要素のひとつである。

見ているだけで楽しいヨーロッパのオーディオ製品
 私がこれまで見聞したところでは、ヨーロッパでも、ずいぶんレコードは聴かれているが、まえにも書いたように、いわゆるオーディオへの関心はうすい。むきになってステレオの音質に血道をあげるのはわれわれ日本人と、アメリカ人ぐらいだろう。値段に見合うという意味で、国産品の音質は欧米のものと比べてもなんら遜色はない。リッパな音だ。
 ただし、カメラを持ち歩くのが嫌いなので写真に撮れないのが残念だが、ヨーロッパのアンプやレシーバーのデザインだけは、思わず見惚れるほどである。こればかりは、国産品もずいぶん垢抜けて来ているようだが、まだ相当、見劣りがする。B&Oの総合アンプやプレーヤーなど店頭で息をのんで私は眺め、見ているだけで楽しかった。アメリカのアンプにこういうデザインはお目にかかったことがない。
 オーディオ装置は、つづまるところ、聴くだけではなく、家具調度の一部として部屋でごく自然な美観を呈するものでなくてはなるまい。少なくともヨーロッパ人はそう思っているらしい。こうしたデザインは、彼らの卓抜な伝統にはぐくまれたセンスが創り出したもので、この点、日本やアメリカは逆立ちしてもまだかなわぬようである。

いい音を出すだけでは、音楽鑑賞は片手落ち
 本当はこういう美観も、レコード音楽では意外と音を美しく感じさせることに、日本のオーディオ・メーカーはもっと注意すべきだろう。
 自動車でいえば、日本のメーカーはやたらフォーミュラー・カーをつくりたがっている。たしかにマシンがよくなくてはいい乗用車はつくれないだろうが、われわれが望むのは、乗り心地のいい車であってレース用のものではない。第一、街ではスピードも出せやしない。必要なのは、まず乗り心地と、美観だ。
 装置のデザインの洗練味を、もっとメーカーは意図してほしいものである。このことは、やたらと“家具調”になることを欲しているのではないのは、もちろん言うをまたない。音を美しく聴くには、それなりの環境をととのえることもまた必要であり、だからこそ、いい音楽を聴く充実感も一層深まるのだ。
     *
「五味オーディオ教室」に写真はない。
B&Oの総合アンプやプレーヤーが、どれほど美しいのかを目にしていたわけではなかった。
想像していた。

「五味オーディオ教室」からそれほど経たずにB&Oの総合アンプやプレーヤーの写真を見た。
想像していたのとはまったく違っていた。
《店頭で息をのんで私は眺め、見ているだけで楽しかった》という五味先生の気持がわかった。

特にアナログプレーヤーのBeogramを美しく感じた。
そのころのB&Oのアナログプレーヤーは、三機種あった。
Beogram 3400、Beogram 4002、Beogram 6000で、
3400だけが違うデザインで、Beogramの象徴といえるリニアトラッキングアームを搭載していなかった。

私が息をのんで美しいと感じたのは、リニアトラッキングアームのBeogram 4002と6000だった。

1976年当時、リニアトラッキングアームのアナログプレーヤーといえば、
誰もがB&Oを思い出すくらいに、リニアトラッキング型の代名詞的存在でもあった。

B&O以外にもなかったわけではないが、
完成度の高さとデザインからいっても、リニアトラッキング=B&Oであった。

Date: 12月 6th, 2016
Cate: アナログディスク再生

ダイレクトドライヴへの疑問(その29)

ここまで読まれて、ふと疑問に思われた方もいるのではないだろうか。
SMEの3012-R Specialをロングタイプ、ロングアーム、
3009-R、3010-Rをショートタイプ、ショートアームとしている。

3012-Rをロングとするならば、3009-R、3010-Rは標準長なのだからショートとするのは間違っている。
3012-Rを仮に標準長とするならば、3009-R、3010-Rはショートということになるが、
この場合は3012-Rをロングとするわけにはいかない。

このことはわかっていてロング、ショートと書いている。
3012-Rはやはりロングアームであって、これを標準長のアームとするわけにはいかない。
けれどカートリッジを取りつけてトーンアーム単体として見た場合、
やっぱり美しいと思い、この長さがあっての美しさということを考えると、
3009-R、3010-Rは、感覚的に私にとってはショートとなってしまう。

私にとってロングサイズが想像できないのは、SMEの3009 SeriesIIIぐらいである。
このトーンアームを見て、ロングが欲しい、とおもったことは一度もない。
3009 SeriesIIIは使えるカートリッジがやや制約を受けるけれど、SMEの傑作のひとつだと思っている。

フィデリティ・リサーチのNRT40もまた、
私と同じようにロングアームの美しさに惹かれた者によるプロトタイプのように思う。

NRT30でよかったはずである。
トーンアームもFR66SではなくFR64Sがすれば、ターンテーブルプラッターは30cmですむ。

それをわざわざ40cmにしてFR66Sにしているのは、
ロングアームのためのターンテーブルをなんとかしたかったから──、以外の理由があるだろうか。

Date: 12月 5th, 2016
Cate: アナログディスク再生

ダイレクトドライヴへの疑問(その28)

どうすればSMEの3012-R Specialを取りつけて、美しいプレーヤーシステムが出来上るのか。
しばらく考え続けていた時期がある。
現行製品だけでなく、過去の製品も含めて頭の中でイメージを思い浮べていた。

ガラードの301、トーレンスのTD124も候補として考えたこともある。

オーディオクラフトからAR110が1983年に出た。
AR110Lも同時に出た。型番末尾のLが表すようにロングアームがつく。

期待した。
オーディオクラフトの製品でもあるからだ。
でも新製品として、ステレオサウンド試聴室に届いたモデルには、
ある致命的な欠陥があった。
これでは安心して使えない、ということで候補からは脱落した。

そうこうしているうちに、トーレンスからReferenceよりも安価で、
しかもロングタイプのトーンアームが装着できるモデルが登場するというニュースが入ってきた。

Referenceには3012-R Specialは取りつけられない。
無理をすれば取りつけられるのだが、
Referenceは、その価格ゆえに候補として考えはなかった。

待ちに待ったPrestigeが試聴室に到着した。
見て、触れて、音を聴いて、欲しいとは思えなかった。

こんなことをくり返しているうちに気づいた。
ロングアームがトーンアームには、30cm口径のターンテーブルプラッターは似合わないのだ。
ロングアームそのものが16インチのディスクのためにあるということは、
結局ターンテーブルプラッターの径も16インチ(約40cm)前後なければ、
私が求めている美しいバランスは得られないのだ。

Date: 12月 5th, 2016
Cate: アナログディスク再生

ダイレクトドライヴへの疑問(その27)

ラックスから1977年にPD441というターンテーブルが出た。
この機種は、どういう位置づけだったのだろうか。

PD121の後継機ではなかった。
PD121は1979年にPD121Aにモデルチェンジしている。

PD441と同時にPD444も出た。
このモデルはトーンアームを二本装着できた。
通常の位置にショートタイプのトーンアームを、
左奥にロングタイプのトーンアームを取りつけられる。

PD441とPD444と同じデザイン。
PD444は1980年にバキューム機構を装備してPD555になっている。
PD441はしばらくして製造中止になり、PD300が出た。

PD121Aはこの時点でも現行機種だった。

ラックスのターンテーブルの中で、PD121だけは欲しい、と思った。
PD121にロングアーム、つまり3012-R Specialが取りつけられれば……、と思ったことがある。
現実にはPD121Aのデザインのまま、3012-R Specialが取りつけられるモデルはない。

ロングアームが取りつけられるターンテーブルが、トーレンスから1981年に出た。
TD226である。
型番からわかるように、トーンアームを二本装着できる。
ターンテーブルプラッター右側にショートタイプ、左側にロングタイプとなっていた。
そのために横幅は67.5cm。
この横幅はEMTの927Dstと同じ値である。

TD226は欲しいとは思わなかった。
トーンアームは一本でいいのだから……、と思っていたら、
1983年にTD127が登場した。
TD126がショートタイプ用で、TD127がロングタイプ用であった。

TD126の横幅は50.5cm、TD127は56.5cm。
6cmの差がある。
この6cmがどう捉えるか。

数値で判断するとそれほどの違いには思えないが、
実物を前にするとトーンアームベースがそうとうに横に広くなっている。
つまりターンテーブルプラッターとトーンアームのあいだが、
ショートタイプよりも当然ながら広く空いてしまう。

間が抜けたように感じてしまうのだ。

ラックスのPD121を、トーレンスのTD126からTD127のようにしたら、どうなるか。
PD121の横幅は47.2cm。これが6cm程度広くなる。
これにより印象はどう変るか──、容易に想像がつく。

Date: 12月 5th, 2016
Cate: アナログディスク再生

ダイレクトドライヴへの疑問(その26)

SMEの3012-R Specialは、これまで見てきたトーンアームの中で、最も美しい。
ステレオサウンド 57号の広告、58号の記事に登場したときも、美しいと思ったし、
1981年春、無理して購入して自分のモノとして触れた3012-R Specialは、やっぱり美しかった。

音でいえばSMEのSeries Vのほうが優れている。
Series Vも欲しい、と思ったトーンアームである。

3012-R Specialが登場して35年が経った。
改めて美しいトーンアームだと思っている。

3012-Rも金メッキを施したGoldモデルと、
内部配線を銀にし、ナイフエッジを金属にしたProモデルが出た。

日本では金メッキというと、成金趣味と捉えられがちだが、
3012-R Goldの金メッキはしっとりした感じで、これはこれでいいと思う。

価格はずいぶんと高くなったけれど、3012-R Specialよりも音はいいように感じた。
金メッキはトーンアーム全体を適度にダンプしてくれるようで、
金という金属は、オーディオにとっても特別な金属であることを認識することになる。

とはいえ、いま欲しい、つまりもう一度欲しいと思うのは、3012-R Specialである。
Series Vでもなく、GoldでもProでもなく、スタンダードな3012-R Specialがいい。

3012-R Specialに続いて、3009-R、3010-Rも登場した。
パイプのサイズが違うだけのモデルが出てきて、
ますます3012-R Specialが美しいかを感じていた。

ロングアームが音がいい、という人もいれば、そうではない、という人もいる。
使用するカートリッジによっても、そのへんは変ってくるし、
音だけで選ぶならば他のトーンシームがある。

いま、この齢になって欲しいと思うのは3012-R Specialであり、
特にオルトフォンのSPUのGタイプのようにボリュウムのあるカートリッジの場合、
3012-R Special以上に美しさのバランスのとれたトーンアームは他にない。

けれど3012-R Specialう装着して美しいと思えるターンテーブルがない。
このことは以前にも書いたように、プレーヤーシステムとしてバランスがくずれてしまう。

Date: 12月 4th, 2016
Cate:

オーディオと青の関係(その13)

以前書いているように、サンスイの色のイメージは黒である。
AU111というプリメインアンプから、ブラックパネルは始まった、といっていい。

サンスイ・イコール・黒というイメージは、
私ぐらいの世代だけでなく、幅広い世代にとってもそうであるはずだ。

サンスイ(山水電気製作所)は1944年、創業者の菊池幸作氏の、
代々木上原にあった自宅から始まっている。

サンスイは元はトランスメーカーだった。
そのころのサンスイのトランスの色は青だったようだ。

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」サンスイ号で、淺野勇氏が書かれている。
     *
 サンスイといえば、既にパワー・トランスやオーディオ・トランスで知名度の高いメーカーとして自作ファンには誰も知らぬ人もない存在であり、鋳物の立型合わせカバーをダーク・ブルーに塗装したパワー・トランスやチョーク・コイルは高級電蓄のアンプを製作するには欠かせぬ存在となっていた。余談だが、夏場の暑い時期にアンプ作りに熱中すると、このトランスの青色塗装が、手や顔にまで転移して肌着まで青一色のサンスイ色に染まり、身をもってサンスイの宣伝をするような始末となるのは困った。現在のような進歩した塗料の無かった頃である。閑話休題、製品そのものの信頼性の高さは、焼損断線事故の多発した当時の町工場の製品とは一線を画すものがあった。
     *
そのサンスイが輸入をはじめたJBLのスタジオモニターのバッフルが青を採用したのは、
偶然の一致なのだろうし、こじつけめいているのはわかっているが、
何か共通する理由があるのではないかと思ってしまう。

Date: 12月 4th, 2016
Cate: 平面バッフル

「言葉」にとらわれて(その20)

平面バッフルから立体バッフル、
立体バッフルからホーンバッフルと書いてきて、
もう一度立体バッフルに戻っていこうとしている。

何をもってして立体バッフルとするのか。
その場合、平面バッフルとの違いはどういうことなのか。
そんなことを考えていた。

別項でも書いているが、世の中には同じことを考える人が三人はいるそうだ。
同時代に三人いるということは、時代を遡ればもっといるといえる。

立体バッフルということを考えた人も、おそらくいることだろう。
そう思い直して、過去のスピーカーシステムの技術を振り返って見ると、
サンスイのLMシリーズというブックシェルフ型スピーカーシステムのことが浮んできた。

1975年に登場したLMシリーズは、コーン型のウーファーとトゥイーターの2ウェイ仕様である。
LMという型番は、リニア・モーション(Linear Motion)から来ていて、
このシリーズ共通のトゥイーターの構造に由来している。

コーン型ウーファーとコーン型トゥイーターのシステムの場合、
ウーファーの振幅の煽りの影響からのがれるために、
トゥイーターにはバックキャビティが設けられる。

トゥイーター(スコーカーもふくめて)は、振動板の振幅がウーファーよりも小さいため、
バックキャビティの影響は、コーンの振動に対してはほとんどないものと考えられがちだが、
バッフルに取りつけただけのコーン型トゥイーターとバックキャビティのもつ場合とでは、
測定してみると、はっきりと差違が生じる。

サンスイはそのことに注目して、コーン型トゥイーターのバックキャビティにメスを入れた。
それがLMシリーズのトゥイーターのバッフル構造であり、
サンスイはマルチラジエーションバッフルと呼んでいた。

Date: 12月 4th, 2016
Cate: High Fidelity

ハイ・フィデリティ再考(ふたつの絵から考える・その4)

造花は花弁も葉も茎も、本来の植物とはまったく異る素材によるものだ。
その造花を描いた絵も、キャンパスの上に絵具で描かれたもので、
本来の植物とはまったく異る存在といえる。

ふたつの絵がある。
どちらも造花を描いているが、
一枚はその絵をみるものに、対象が造花だとわからせる、
もう一枚はほんものの花を見て描いたとおもわせる、としたら、
どちらがHigh Fidelityなのかということについて、ここでは書いている。

絵描きの目の前にある造花を原音と捉えれば、
造花とわからせる絵がHigh Fidelityということになり、
造花もまた絵と同じで、ほんものの花そのものではないわけだから、
絵とは違う手法で描いたものと捉えれば、
本物の花を見て描いたとおもわせる絵がHigh Fidelityとなる。

絵は平面であるが、造花は立体である。
その意味では、平面の絵よりも立体の造花が、
ほんものの花に、よりHigh Fidelityということになるのだろうか。

ここではあくまでも造花を見ての絵という前提に立っている。
絵の前に造花が存在し、造花の前にほんものの花がある。

しかも造花はほんものの花と同じ大きさにつくられている。
絵は必ずしもそうではなかったりする、時には小さかったり大きかったりすることもある。

こんな堂々めぐりしそうなことを考えていると、あたりまえすぎることに気づく。
録音と再生音。
どちらも音という漢字がついているが、録音は音ではないということだ。

再生音はスピーカー、ヘッドフォンなどから発せられた音なのだから、
音である。

高音、低音も音がつく単語で、こちらも高い音、低い音ということで、音そのものである。

けれど録音は音がついている単語であっても、音そのものではない。
マイクロフォンが捉えた音(空気の振動)が、
なんらかの形で記録されたものであって、
これをプログラムソースとするからわれわれは家庭で好きな音楽を聴けるわけだが、
音そのものではない。

この、当り前すぎることを、ここでは改めて考え直している。

Date: 12月 3rd, 2016
Cate: アナログディスク再生

ダイレクトドライヴへの疑問(その25)

1978年のオーディオフェアには、国内メーカーからいくつかのアナログプレーヤー、
それもプロトタイプといえるモノが展示されていた。

といっても、当時は熊本住いだったから、オーディオ雑誌の記事で知っている程度でしかない。
後に製品化されたモノではマランツのTt1000。
1978年のオーディオフェアでは、Tt700の名で展示されていた。

ビクターはスーパーターンテーブルとして原盤検聴用に開発された、
上下二重ターンテーブル方式のモノを、
トリオはRP6197という型番の、
超重量級のプレーヤー(これが後のケンウッドL07Dにつながっているといえよう)、
テクニクスはカッティングレーサー用のSP02を展示していた。

私がいいな、と思ったのはフィデリティ・リサーチのNFT40というアナログプレーヤーだった。
トーンアームにはFR66Sがついている。

NFT40という型番は、おそらくNon Friction Air Push up Turntableから来ていて、
末尾の40は、40cm径のターンテーブルプラッターを示している、と思われる。

だからロングタイプのFR66Sが、NFT40には取り付けられて展示されていた。

ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’79」の巻末の記事で、
NFT40のことを知った。知ったといっても、
さほど大きくないモノクロのぼんやりした写真から得られたくらいでしかない。

ターンテーブルプラッターは、40cm径とはいえ、
あくまでも30cmLPのためのプレーヤーを意識してのことだろうが、
段差がついて形状となっているように見える。

レコードのかけかえはやりやすそうである。

NFT40は、世に登場することはなかった。
この試作品は、その後、どうなったのだろうか。
どんな音がしたのだろうか。

まったく情報はない。
そんなプレーヤーのことをいまごろ思い出しているのは、
SMEの3012-R Specialのことを、どうしても忘れられないからでもある。

Date: 12月 3rd, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ラックスのアンプ・余談)

ラックスのこととは関係ないが、
電源周波数の違いは、アナログプレーヤーで、シンクロナスモーターの場合、
メーカーはどう対応しているのか。

シンクロナスモーターであれば50Hz用と60Hz用と、
電源周波数が違えばモーターごと交換するのが本来である。

EMTの930st、927Dstなどはそうである。
けれどすべてのシンクロナスモーター使用のモノがそうではない。

モーターを交換せずに、プーリーと進相コンデンサーを交換で対処するモノ、
プーリーだけを交換するモノがある。

はっきりいってプーリーだけの交換ですませてしまうアナログプレーヤーは、
論外といっていい。
どんなに高音質を謳っているモノであっても、
世評が高いモノであっても、
そのメーカーが50Hz、60Hz、どちらの国なのか、
そしてどちらの電源周波数の地区で使うかによっては、問題が生じることがある。

進相コンデンサーも交換するモノであればまだましだが、
それでもお茶を濁している対処法でしかない。

まして高額なプレーヤーで、モーターを交換しないモノは、私は信用していない。

もちろん発振器とアンプによるモーター駆動回路を搭載しているのであれば、
その限りではない。

Date: 12月 2nd, 2016
Cate: マルチアンプ

マルチアンプのすすめ(その38)

1979年にティアックからPA7、MA7というセパレートアンプが登場した。
タンノイ専用を謳っていた。
同時にタンノイから、XO5000というエレクトリックデヴァイディングネットワークが出た。

XO5000もタンノイ専用といっていいいモデルだった。
2ウェイで、クロスオーバー周波数は専用ボードによって、それぞれ設定されていた。

1979年当時の現行製品だけでなく製造中止になっていたユニットも対象としていて、
ユニットごとに専用ボード、八種類が用意されていた。

XO5000が興味深いのは、パラメトリックイコライザーを搭載していることだ。
中心周波数は30Hzから200Hzまで連続可変で、帯域幅は0.3oct.から3oct.まで、これも連続可変。

そしてもっとも興味深いのは、遅延時間がカタログに載っている点である。
カタログには100μsec、200μsec(固定)、0〜400μsec(可変)となっている。

ウーファーに対してディレイを設定できるわけだ。
タンノイのユニットはいうまでもなく同軸型であり、
構造上、ウーファーのボイスコイルよりもトゥイーターのボイスコイルが奥に位置している。

同軸型ユニットの特徴を最大限活かすには、
ウーファーとトゥイーターのタイムアライメントをとることが求められる。

タンノイよりも早く、UREIはアルテックの同軸型604-8Gに対して、
内蔵ネットワークでタイムアライメントをとっていた。

タンノイはXO5000で、タイムアライメントを合せている。
つまりバイアンプドライブで、ということになる。

タンノイすべてのスピーカーシステムの内蔵ネットワークを回路図を見ているわけではない。
だから断言はできないのだが、
タンノイは内蔵ネットワークでタイムアライメントの調整は行っていないはずだ。

けれどバイアンプドライブ時には、タイムアライメントをとる。
ここにタンノイのスピーカーシステムに関する考え方があらわれているのではないだろうか。

Date: 12月 1st, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(続ラックスのアンプ)

同じことをウエスギ・アンプにもおもう。
ここでいうウエスギ・アンプとは現在のそれではなく上杉先生の時代のアンプのことだ。

上杉先生自身がいわれていたように、刺戟的な音は絶対に出さないアンプだった。
そのかわりとでもいおうか、音の力感ということに関しては控えめな表現にとどまっていた──、
そう感じる面をもちあわせていた。

けれど、このことは電源周波数の違いと無関係とは思えない。
上杉先生は兵庫県にお住まいだった。
当然、ウエスギ・アンプはそこでつくられていた。
音決めも60Hz地区である兵庫県で行われていた。

しかもU·BROS3のトランス類はすべてラックス製である。
電源トランスもだ。

この時代のウエスギ・アンプを60Hz地区で聴いたことはない。
なのではっきりしたことはいえないのだが、
U·BROS1とU·BROS3のペアを、60Hz地区で聴いたら、
力感の表現に関しての印象は違ってくるように思われる。

電源周波数の違いで、そのアンプの本質までが180度変ってしまうということはない。
けれど、特質においては意外と変ってしまう面もある。

いまになってU·BROS3を、60Hzで聴いてみたかった、と思っている。

Date: 12月 1st, 2016
Cate:

いい音、よい音(その1)

いい音と書いている。
よい音とは書いていない。
よい音と書くべきか、と迷っているところがある。

よい音だと、
良い音
佳い音
善い音
好い音

いい音だと、
良い音
善い音
好い音
宜い音

まだしばらくは、いい音と書いていく……。