世代とオーディオ(その14)
音は消えていってしまう。
それをマイクロフォンでとらえ電気信号に変換して、テープレコーダーが磁気に変換してテープに記録しないかぎり、
音は消えていく宿命である。
音が電波に変換される。
この電波もまた誰かが受信しないかぎり音にはならないし、
受信されても音に再び変換されるわけだから、ここでも録音しないかぎり消えていく。
エアチェックして記録として残すことについて、少し考えてみたい。
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菅野 これも個人によって全く考え方がちがうと思いますね。たとえば、自分があまり関心のないジャンルというものがある。ぼくにとってはFMチューナーがそうです。ぼくはFMチューナーで、レコードに要求するだけの音を聴こうとは思わないんですよ。まあ、そこそこに受信して鳴ってくれればいい。だから大きな期待をもたないわけで、FMチューナーなら、逆に値段の高いものに価値観を見出せないわけです。
亡くなられた浅野勇先生みたいにテープレコーダーが大好きという方もいる。「もうこのごろレコードは全然聴かないよ、ほこりをかぶっているよ」とおっしゃっていたけれど、そうなると当然レコードプレーヤーに関しては、大きな要求はされないでしょう。やはりテープレコーダーの方によりシビアな要求が出てくるはずですね。
そのようにジャンルによって物差しが変わるということが全体に言えると同時に、今度はその物差しの変わり方が個人によってまちまちだということになるんじゃないでしょうか。
柳沢 ぼくもやはりFMチューナーは要求度が低いですね。どうせ人のレコードしか聴けないんだから……といった気持ちがある。
瀬川 そうすると、三人のうちでチューナーにあたたかいのはぼくだけだね。ときどき聴きたい番組があって録音してみると、チューナーのグレードの差が露骨に出る。いまは確かにチューナーはどんどんよくなっていますから、昔ほど高いお金を出さなくてもいいチューナーは出てきたけれども、あまり安いチューナーというのは、録音してみるとオヤッということになる。つまり、電波としてその場、その場で聴いているときというのは、クォリティの差がよくわからないんですね。
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この座談会はステレオサウンド 59号「ベストバイ・コンポーネント その意味あいをさぐる」からの引用だ。
チューナーの音は、チューナーからの信号をアンプに入力して聴くよりも、
いったん録音してそれを聴く方が、チューナーの差がはっきり出てくる──、
それまでチューナーの聴き比べをやったことはなかった私には、意外な事実であり新鮮な驚きだった。