Archive for 10月, 2013

Date: 10月 13th, 2013
Cate: 数字

100という数字(補足)

MC型カートリッジで、出力電力が100nWを超えているのはオルトフォンのSPU-Synergyであり、
その出力電力の高さを超えるものは現れないだろう、と書いた後に、
マイソニックのカートリッジの存在を忘れていたことに気づいた。

マイソニックのMC型カートリッジは、
Webサイトのトップページ
「Source(ソース)インピーダンスは低く、出力エネルギーは高く!」と表示されているように、
どのモデルもインピーダンスは確かに低く、出力電圧を二乗して、インピーダンスで割った値は100nWに達する。
出力電力の高いMC型カートリッジばかりである。

マイソニックのことを忘れていたのは、うっかりでもあるし、
マイソニックのカートリッジを聴く機会がなかったこともある。

オルトフォンのカートリッジは、私にとって最初のMC型はMC20MKIIだったし、
その後もいくつものオルトフォンのカートリッジは聴く機会があった。
いわば馴染みのあるカートリッジのブランドであり、存在だから、
カートリッジに関することを書く時でも、すぐに頭に浮んでくる。

マイソニックのことを忘れていた(というよりも頭になかった)のは、そのためである。

マイソニックのカートリッジ、
どういう音を聴かせるカートリッジなのだろうか。

Date: 10月 13th, 2013
Cate: ショウ雑感

2013年ショウ雑感(その2)

現在のオーディオ・ホームシアター展がオーディオフェアと呼ばれていたころ、
オーディオ雑誌でオーディオフェア開催の記事を読むたびに、
東京および東京近郊に住んでいる人はいいなぁ、と思っていた。

熊本と東京では遠すぎる。
学生が小遣いを貯めてオーディオフェアに行ける距離ではない。

とにかく東京で暮らすようになったらオーディオフェアに行く、
10代のころ、そう思っていた。

それに東京はオーディオフェアだけではない。
メーカーのショールームもいくつもある。
そこでは定期的なイベント(試聴会)が行われていて、
このことも地方に住むオーディオマニアにとっては、羨ましいかぎりだった。

東京にずっと住んでいる人にとっては、それが当り前のことであって、
特にありがたいこととは思っていないのかもしれない。

たとえば瀬川先生のファンの人で、
東京生れ、東京育ちにも関わらず、
オーディオフェアにもメーカーのショールームにも行ったことがない、という。
それも、どこか誇らしげに、である。

そんなところには、私は行かない──、そんな人がいた。

行く行かないは、その人の勝手だから、私がとやかくいう筋合いのことではないのだが、
その人が不思議なのは、瀬川先生に会えなかったことを悔しがっていたことだ。

なぜなの? と私は思っていた。
オーディオフェアでも瀬川先生は講演を何度もやられていたし、
ショールームでもいくつかのところで定期的にイベント(試聴会)をやられていた。

その人が住む東京で、これらは開かれていたにも関わらず、
その人は一度も行かずに、瀬川先生が亡くなられてから、
会えなかった……、と悔しがる、その心境が正直理解できなかった。

その人は、簡単に会場まで行けば、そこで瀬川先生と会うことができたにも関わらず、
自分の意志で一度も行かなかったのだから。

Date: 10月 12th, 2013
Cate: 数字

100という数字(その4)

SPU-Synergyは磁気回路にネオジウムマグネットを採用している。

実は、この点もSPUシリーズの乱発とともに気にくわなかったところでもある。
ネオジウムマグネットが強力であることは、
スピーカーユニットに搭載されていることでも知ってはいても、
なんとなく「ネオジウムマグネットは優れた磁石です」という謳い文句を素直に信じられない。

どんな物質にもメリット・デメリットがあるわけだから、
ネオジウムマグネットの良いところばかり喧伝されているのを目にしてしまうと、
なんとなく眉に唾をつけてしまいたくなるところがないわけではない。

そんなわけで、SPU-Synergyの出力電力を計算してみたのは、
登場から一年以上は経っていた、もっとだったかもしれない。

0.5mVの二乗を2Ωで割る。
その値は125nWとなる。

出力電力100nWを超えるカートリッジが、オルトフォンから登場した。
しかもSPUシリーズの中からである。

99nWではなく100nWをはっきりと超えているどころか、
SPUの41.66nWの三倍以上の出力電力という高効率である。

電卓があれば数秒で終る計算なのに、SPU-Synergyが登場した時にやらなかった。
計算していれば、SPU-Synergyに対する見方もずいぶん変っていた。
登場時に気づけたはずのことを、一年以上経ってから気がつく。
何事も先入観はよくない──、このことをあらためて思い知らされた。

今後も、この100nWを超える出力電力は破られないだろう。

SPU-Synergyは、幸いいまも現役のSPUである。
まだまだこれから先も、SPU-Classicとともにずっと作り続けてほしいSPUであるし、
JBLのD130のパートナーとして考えているカートリッジが、このSPU-Synergyである。

高効率同士の変換器の組合せから得られる「音」がきっとあるはずだと信じているからだ。

Date: 10月 12th, 2013
Cate: 数字

100という数字(その3)

オルトフォンのSPUは、MC型カートリッジの中でも出力電圧は低い部類となる。
けれど出力電力となると、一転して非常に高い、といえる。

ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIESの2号に長島先生が、
カートリッジの出力電力について書かれた文章を読んでから、ずっと望んでいたことがある。
それは出力電力がSPUの二倍以上の100nWを超えるモノが登場することである。

出力電力の計算は難しいものではないから、
出力電圧がある程度高くて、インピーダンスが低いMC型カートリッジが出てきた時には計算していた。
なかなか100nWに達するモノは出てこないばかりか、
SPUに匹敵するカートリッジすら、そう多くはない、というのが実情だった。

出力電力100nWに達する(超える)カートリッジは、望めないのか……。
そのことを忘れかけていたころ(2006年)に、
オルトフォンからSPU-Synergyが登場した。

数あるオーディオ機器のなかで最も息の長いSPUだが、
SPU-Goldの登場以降、実に様々なSPUが登場した。

SPUには関心の高かった私だったが、さすがにそれは乱発としか思えなかったし、
SPU-Classicを製造しつづけてくれれば、それで充分だ、と思い始めていた。

そんなふうにSPUを見ていた時に、SPU-Synergyは登場した。
SPUとしては、過去最大の出力電圧0.5mVを実現していながらも、インピーダンスは2Ωである。
すぐに計算していれば気がついたことなのに、
この時はそんな感じだったため、計算することをしなかったばかりか、
SPU-Synergyにさほど興味を抱くこともなかった。

Date: 10月 12th, 2013
Cate: 数字

100という数字(その2)

数字はおもしろいし、やっかいだとも思う。
100という数字にしても、
100dB/W/mと99dB/W/mとのあいだに歴然とした差が存在するわけではない。
そんなことは頭ではわかっていても、心情的・感覚的には99dBよりも100dBは、
はっきりと大きな数字として印象に残る。

重量にしてもそんなところがある。
スピーカーシステムの重量として、99kgと100kgと表示されているのがあれば、
100kgの方が実際に重いわけなのだが、それ以上の開きを感じることもある。

実際に持ち上げようとしてみて、99kgと100kgの違いをはっきりと感じとれるわけはないだろう。
それでも、桁がひとつ増える100という数字は、単なる数字とは割り切れない何かを感じている。

100という数字が、そんなふうに作用するカタログ上の項目では、他にはS/N比がある。
私が、ひとつ100という数字に注目している項目に、カートリッジの出力電力がある。

出力電圧はカタログに載っているが、出力電力はまず載っていない。
だから出力電圧とインピーダンスから算出することになる。

カートリッジの出力電力については、別項でふれている。
出力電圧の二乗を負荷インピーダンスで割った値が出力電力となる。

出力電圧が高いMM型は、出力電力ではMC型よりもずっと低くなる。
MC型でもハイインピーダンス型よりもローインピーダンス型の方が、
電力ということに関しては有利になることが多い。

別項で例にあげているオルトフォンのSPUだと、41.66nWとなる。
シュアーのV15 TypeIIIの出力電力は0.2606nWと、かなり低い。

Date: 10月 12th, 2013
Cate: ショウ雑感

2013年ショウ雑感(その1)

昨日(11日)から、ハイエンドショウが始まった。
18日からは、オーディオ・ホームシアター展が始まる。
ジャンルがヘッドフォンに限られるが、ヘッドフォン祭りが、26日から始まる。

そして11月にはいれば、2日からインターナショナルオーディオショウが始まる。

秋のオーディオショウの季節が到来した、といえる。

以前はハイエンドショウとインターナショナルオーディオショウは同じ日程で、
会場も交通会館と東京フォーラムと接近していたため、
両方に行く人は多かったはずだ。

いまは開催時期が違う。
そのためインターナショナルオーディオショウには行くけれど……、という人もいよう。
それにインターナショナルオーディオショウは行くけれど、
オーディオ・ホームシアター展は行かない、という人もいることだろう。

おそらく、このブログを読んでくださっている人の多くは、
インターナショナルオーディオショウには行くけれど(もしくは行きたい)……、という人だろう。

ハイエンドショウは、インターナショナルオーディオショウと比較すれば、
あれこれ言いたくなるのはわからないわけではない。
中には、行く価値はない、とまで決めつけている人もいる。

なにもこれはハイエンドショウだけに限らず、
インターナショナルオーディオショウに対しても、そんなふうに決めつけている人はいる。

所詮ショウなんだよ、とか、あんな環境では……、とか、
そんな人はあれこれ言う。

私にしてみれば、なぜ、行かない理由をあれこれ言う必要があるんだろうか、と思ってしまう。
行きたくなければ黙っていればいいじゃないか。

それに実際に行けば、会場に入れば、
何がしかの楽しさは、きっとあるし、何も見つけられないのであれば、
そこでのショウの内容が、その人のレベルよりも低いからなのではなく、
別のところに理由はある、と言いたい。

Date: 10月 12th, 2013
Cate: 数字

100という数字(その1)

このへんは世代によって違うのかもしれないし、
同世代でも私と同じような印象を持っている人が多いのかそれとも少ないのか、
はっきりとはわからないものの、
少なくとも私は、カタログに載る項目で、100という数字、もくしは100を超える数字を見つけると、
なんとなく嬉しくなる気持がある。

たとえばスピーカーの出力音圧レベル。
いまや90dB/W/mでも、比較的能率が高いと認識されているけれど、
やはり私にとっての高能率スピーカーといえば、出力音圧レベルが100dBを超えているモノである。

99dBでも、充分高能率ではある。
100dBと99dBの差はわずか1dB。
99dBでも、ほとんど100dBといってもいい、とは私だって思っている。

それでも、やはり99dBと100dBの、わずか1dBの差は決して小さくはない差である。

100dB/W/mというのは、
なにかひとつレベルを超えた、という感じもあるし、
ひとつの境界線という印象も持っている。

100という値は、パワーアンプの出力に関しても、同じ印象を持っている。
いまでこそ、以前では考えられなかった大出力が安価で、しかも安定性も高く得られる状況からすれば、
100Wの出力は、決して大きくはない。

これに関してはスピーカーの出力音圧レベルとは反対の状況にあるわけだが、
そうであっても、プリメインアンプの出力が100W+100Wを超えていると、
少なくとも1970年代後半からオーディオをやっている者にとっては、やはり大出力の実現であった。

パワーアンプでは100Wを超える出力をもつモノは一般的になっていたけれど、
A級動作で100Wを実現、もしくは超えた出力をもつアンプが登場した時は、
ついにA級動作でも100W、という感慨に近いものがあった。

Date: 10月 11th, 2013
Cate: デザイン

オーディオのデザイン、オーディオとデザイン(ヒンジパネルのこと・その1)

いつからヒンジパネルがアンプやチューナーに採用されるようになったのか。
私がオーディオに興味をもった1976年には、
すでにヒンジパネルをとりいれているオーディオ機器は珍しくはなかった。

ヒンジパネルは、ウッドケースとともに普及機と高級機との差別化のために利用されていた印象もある。

ヒンジパネルがあるアンプやチューナーでは、
ヒンジパネルを閉じていれば、フロントパネルは実にすっきりする。

私がいま所有しているオーディオ機器では、
このヒンジパネルをもつモノはパイオニアのExclusive F3だけである。
このExclusive F3はヒンジパネル内に六つの小さなツマミ(ボタン)がある。
ヒンジパネルを閉じていれば、ツマミはチューニング用のツマミだけ、というすっきりぶりである。

ヤマハの同価格帯のチューナー、CT7000もヒンジパネルをもち、
ヒンジパネルを閉じた状態ではチューニング用のツマミと電源スイッチのレバーだけである。

ヒンジパネルを閉じた時のすっきりした感じの見事さは、
Exclusive F3よりもCT7000の方が上である。

アンプでもチューナでも、ヒンジパネル内には、使用頻度の低いツマミやボタンがおさめられている。
CT7000にしても、Exclusive F3にしても頻繁に触れ動かすのはチューニング用のツマミであり、
その意味ではヒンジパネルは閉じていても、特に使用上の不都合はあまり感じない。

ただExclusive F3の電源スイッチはヒンジパネルの中にあるので、
使うたびに毎回開け閉めをする必要はある。

Date: 10月 11th, 2013
Cate: オーディオ評論

「新しいオーディオ評論」(その3)

無線と実験、ラジオ技術にも新製品紹介のページはある。
無線と実験は巻頭のカラーページをあてているから、ラジオ技術よりも新製品紹介に力を入れている、といえよう。

ラジオ技術の新製品紹介は、ページ数が少ない。紹介される機種数もわずかである。
書店売りをやめる前からラジオ技術に載る広告の量は少なかった。
新製品紹介のページが少ないということは、このこととも関係があるはずだ。

この二誌は、数年間、新製品がどこからもまったく登場しない状況になったとしても、
特に誌面づくりに困ることはないだろう。

基本的にはどちらも技術誌であり、自作記事、それに関連する記事がメインであるからである。

だがこの二誌以外のオーディオ雑誌は、ありえない話とは言え、
もしそんな状況になってしまったら、どういう誌面をつくっていくのだろうか。

まず新製品がまったく登場しなくなれば、多くのオーディオ雑誌が年末の号で行っている賞、
それぞれに名称がつけられているが、ほぼすべてなくなることだろう。

これだけでも大きな変化である。
月刊誌ならば、賞の号は12冊出るうちの一冊だが、
季刊誌にとっては4冊のうちの一冊であり、大きな変化はより大きな変化となってくる。

新製品が登場しなくなれば、ベストバイにしても毎年やる必要があるだろうか。

ひとつひとつ具体的には書かないけれど、
オーディオ雑誌がこれまでやってきた企画を、
もし新製品がまったく登場しなくなったら、という視点から見てみると、
それらの記事が成立するための条件がはっきりとしてくる。

つまりは、無線と実験、ラジオ技術の二誌はオーディオ評論の割合が低いから、
特に大きな変化とはならないのに対し、
この二誌以外のオーディオ雑誌は、いわゆるオーディオ評論によって成り立っている、ともいえるし、
そのオーディオ評論、あえて、ここでは現在のオーディオ評論と限定するけれど、
オーディオ評論とはいったい何なのか、の問いを書き手、編集者だけでなく、読み手にもつきつける。

Date: 10月 10th, 2013
Cate: 測定

FLEXUS FX100(その1)

昨日、こういう製品が出ているのを知った。
NTi AUDIOFLEXUS FX100という、測定器である。

NTi AUDIOでは、FLEXUS FX100をアナログ&デジタルオーディオアナライザーと呼んでいる。
FLEXUS FX100の詳細については、NTi AUDIOのページを参照して欲しいし、
YouTubeには、FLEXUS FX100に関する動画が公開されている。

こういう機器が、いつのまにか登場していたのか、と思っていた。
これまでオーディオ機器の測定は、アンプにしてもスピーカーにしても、
一台の測定器ですむわけがなく、いくつも測定器を揃える必要があった。
それだけでもけっこうな金額になるし、場所だって必要となる。

メーカーならばいざ知らず、個人できちんとした、といえるレヴェルの測定器を揃えるのは、
けっこう面倒なことといえる面もあった。

測定器はオーディオマニアにとって、絶対に必要なモノかといえば、
そうとはいえないモノだけに、一台の機器であらゆる測定が行えるモノ、
そんな都合のいいモノが出てきて欲しい、と思っていた。

1977年ごろ、ポータブル型のスペクトラムアナライザーのIvieが登場した。
いまから見ると、こんなレヴェルなのか、と思えるかもしれないが、
それでも当時Ivieの登場は話題になったし、かなり高価だった。

Ivieを欲しい、と思った人は少なくなかっただろう。

Date: 10月 10th, 2013
Cate: よもやま

妄想フィギュア(その2)

このブログを書き始めのころに、「妄想フィギュア」を書いている。

このときは、どこかのフィギュアメーカーが、
オーディオ機器のフィギュアを出してくれないか、と思っていたのだが、
今日、このニュースをみかけて、メーカーに頼っていたことに気付かされた。

3Dプリンターを使いこなせれば、
個人レヴェルでもオーディオ機器のフィギュアの製作が可能になる。

そう簡単にはできないのはわかっているし、
インターネットでは3Dプリンターでの失敗例の写真を掲載しているサイトがあって、
これを見ていると、いきなり成功するのは大変なことなのだ、とわかる。

それでも、3Dのデータを公開していけば、
ほかの人の力を借りて、より精巧な3D出力を可能にすることだって考えられる。

往年の大型スピーカーシステム、
タンノイのオートグラフ、JBLのハーツフィールド、パラゴン、エレクトロボイスのパトリシアン・シリーズ、
これらの精巧なフィギュアを、私は欲しい。

EMTの930stや927Dst、トーレンスのリファレンスといったアナログプレーヤーも欲しい。

これらのフィギュアのための3Dデータをつくることは、
オーディオ機器の資料を残していくことにもなるはずだ。

Date: 10月 9th, 2013
Cate: 「スピーカー」論

「スピーカー」論(その5)

アンプからの電気信号(シグナル)に対してハイフィデリティであることは、
技術の追求においては無視できないことではあるものの、
オーディオがいまもモノーラル録音、モノーラル再生であるのなら、
アンプからの電気信号を正確に振動板のピストニックモーションへと変換することを実現できれば、
それでもってスピーカーのハイフィデリティは達成された、ということになる。

けれど、われわれが再生しようとしているものは、
ステレオフォニック録音のステレオフォニック再生である。
だから正確なピストニックモーションと不要共振の徹底した排除だけでは、
ハイフィデリティとはとても言い難い。

もっともこれがステレオフォニックではなく、バイノーラル録音・バイノーラル再生であれば、
正確なピストニックモーションと不要共振の徹底した排除を実現したスピーカーでも、
ハイフィデリティということができる。

完全とまではいかなくても、
ステレオフォニックな録音のステレオフォニックな再生という条件よりも、
はるかにハイフィデリティに近づいている、といえるはずだ。

もちろんその場合、スピーカーの配置は、ステレオフォニック再生とは違ったものになる。
もっともバイノーラルの再生は、すでにヘッドフォンという、
かなり理想に近いオーディオ機器(変換器)が存在しているので、
わざわざスピーカーをバイノーラル再生に用いることは無駄なのかもしれない。

ヘッドフォンは、バイノーラル再生に対しては、かなり理想に近いといえても、
だからといってステレオフォニック再生にとってもそうであるかといえば、
これはスピーカーにおける正確なピストニックモーションと徹底した不要共振の排除だけでは、
ハイフィデリティとはいえないのと同じで、
われわれはいったいどういう録音物を再生しようとしているのかを、
はっきりとさせておかなければならない。

Date: 10月 9th, 2013
Cate: オーディオ評論

「新しいオーディオ評論」(その2)

ステレオサウンドは季刊誌だから三ヵ月に一度、
オーディオアクセサリー、アナログもステレオサウンドと同じく季刊誌。
ステレオ、無線と実験、書店売りはしていないけれどラジオ技術は月刊誌だから、毎月出る。

どのオーディオ雑誌にも新製品が紹介されている。
新製品が紹介されていないオーディオ雑誌はないし、
新製品がまったく発売されないこともない、ということである。

一時期、日本のメーカーの新製品ラッシュが批判された。
そのころと比べれば、いつの日本のメーカーの開発スパンは長くなってきている。
それでも、どのオーディオ雑誌を手にとっても、毎号、多くの新製品が並んでいる。

一社あたりの新製品の数は以前よりも少なくなっていても、
メーカーの数が増えていれば、トータルとしての新製品の数は、以前よりも多くなる。

しかも昔以上に、ケーブルを含めたアクセサリー関連の新製品が増えてきている。
これらも当然誌面で取り上げられるから、
新製品のページが足りなくなることはあっても、
今号は新製品が少なくてページがうまらない、という事態にはなっていない。

新製品は編集者にとってはありがたいともいえる。
新製品が出続けているかぎりは、その紹介記事をつくるだけで誌面はうまっていく。
話題を提供してくれるのも新製品であるからだ。

そういう新製品が、ありえないことなのだが、一年間まったく、
どのメーカーからも登場しなくなったらどうなるだろうか。

一年間くらいではそれまで登場してきた、
既に市販されているオーディオ機器を再び取り上げることで記事はつくれる。

新製品がまったくでない状況が一年、二年、三年と続いたら……。
こんな、ほぼ絶対にあり得ないことを考えてみると、気がつくことがある。

Date: 10月 8th, 2013
Cate: 「スピーカー」論

「スピーカー」論(そのきっかけ)

「スピーカーは役者だ」と、(その1)で書いた。
こう考えるように、こう捉えるようになったのには、あるきっかけがある。

そのことがなければ、「スピーカーは役者だ」と考えているのかどうかはなんともいえない。
この結論にいつかはたどり着いたかもしれないが、もっと時間を必要としたことだろう。

なぜ、人は音楽を聴くのか。
しかも飽きずに聴き続けるのか。

ある人にとってはどうでもいいような音楽が、別の人にとってはとても大事な曲にもなるし、
私にとって大事な、大切な曲が、私と違う人にとっては、それこそどうでもいい音楽になることだってある。

聴き手の感受性の違いから、などともっともらしい理由をつけようと思えば、
いくらでもつけられる。

でも結局のところ、音楽は物語のひとつでもあるからこそ、
その音楽のもつ物語の断片でもいいから、自分のそれまでの日々に重なるところがあれば、
その曲は、その人にとっては大切な音楽となるのだから、
もうこのことについては、たとえ心の中でどうおもっていても、言葉にすべきことではない。

特に歌は、直接・具象的な物語を含み、
日本人にとっては日本語の歌は、さらに直接的な物語となるものだから、
大切な日本語の歌を、ひとつでもいいから持っている人は、音楽の聴き手として充分しあわせといえよう。

2002年7月4日、
菅野先生のリスニングルームで、ホセ・カレーラスの「川の流れのように」をかけていただいた。
このとき菅野先生のリスニングルームで聴いていたのは、七人。

「川の流れのように」が鳴り終った時、
聴いていた人の心の裡がどうだったのかは、ひとりひとりが知っていればいいことである。

「川の流れのように」が鳴っている間、その人の人生(物語)が鳴っていたのは間違いないはず、と、
そう確信できるのは、そこにいた人たちの表情を見たからだ。

「川の流れのように」がおさめられているホセ・カレーラスのAROUND THE WORLDは、
私にとって最初に聴いた時から愛聴盤だった。
そこに2002年7月4日の物語が加わった。

そこでの物語を歌ってくれたのは誰だったのか、何者だったのか、何だったのか。
2002年7月4日に聴いたホセ・カレーラスの「川の流れのように」が、
私がスピーカーを役者として捉えるようになった、大きなきっかけである。

Date: 10月 8th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(その8)

これから書くことは、一年ほど前に書いたことのくり返しになる。
別項「私にとってアナログディスク再生とは(リムドライヴのこと)」で、
モーターの回転方向について書いた。

ターンテーブルの駆動方式としては理想と思われたダイレクトドライヴは、
その名の通りモーターの回転がそのままターンテーブルの回転となるため、
ターンテーブルの回転方向(時計廻り)とモーターの回転方向は同じである。

ベルドドライヴもダイレクトドライヴ同様、
モーターの回転数とターンテーブルの回転数は異るけれど、回転方向は時計廻りで同じである。

ところがリムドライヴだけはモーターがターンテーブルとは逆に反時計廻りである。
カラードの301、401にしろ、EMTの927Dst、930stにしろ、
リムドライヴであるかぎり、ターンテーブルは時計廻り、モーターは反時計廻りである。

ターンテーブルとモーターの回転方向が逆ということが、
ターンテーブルの回転の安定性にどう影響・関係してくるのか、
それを理論的に説明することは私にはできないけれど、
よく出来たリムドライヴのアナログディスクプレーヤーに共通して感じられる良さ、
それはこのことと無関係ではないだけでなく、深く関係しているはずだと、直感している。