100という数字(その3)
オルトフォンのSPUは、MC型カートリッジの中でも出力電圧は低い部類となる。
けれど出力電力となると、一転して非常に高い、といえる。
ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIESの2号に長島先生が、
カートリッジの出力電力について書かれた文章を読んでから、ずっと望んでいたことがある。
それは出力電力がSPUの二倍以上の100nWを超えるモノが登場することである。
出力電力の計算は難しいものではないから、
出力電圧がある程度高くて、インピーダンスが低いMC型カートリッジが出てきた時には計算していた。
なかなか100nWに達するモノは出てこないばかりか、
SPUに匹敵するカートリッジすら、そう多くはない、というのが実情だった。
出力電力100nWに達する(超える)カートリッジは、望めないのか……。
そのことを忘れかけていたころ(2006年)に、
オルトフォンからSPU-Synergyが登場した。
数あるオーディオ機器のなかで最も息の長いSPUだが、
SPU-Goldの登場以降、実に様々なSPUが登場した。
SPUには関心の高かった私だったが、さすがにそれは乱発としか思えなかったし、
SPU-Classicを製造しつづけてくれれば、それで充分だ、と思い始めていた。
そんなふうにSPUを見ていた時に、SPU-Synergyは登場した。
SPUとしては、過去最大の出力電圧0.5mVを実現していながらも、インピーダンスは2Ωである。
すぐに計算していれば気がついたことなのに、
この時はそんな感じだったため、計算することをしなかったばかりか、
SPU-Synergyにさほど興味を抱くこともなかった。