Archive for 12月, 2008

Date: 12月 27th, 2008
Cate: 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その21)

昨年11月7日の瀬川先生の27回忌に集まってくださった方みんなが知りたかったこと、
けれども誰ひとり知らなかったこと──、瀬川先生のお墓のことだった。

それから1カ月半、12月も終ろうとしていたある日、わかった。
なんとか年内のうちに墓参に行きたかったが、暮ということもあり、
どうしても都合がつかない人のほうが多く、年明けに行くことになった。

みなさんの都合から、今年の2月2日になった。
瀬川先生の妹・櫻井さんも来てくださった。

櫻井さんは、瀬川先生の著書「オーディオABC(共同通信社刊)」のイラストを描かれている方だ。

ステレオサウンドの原田勲会長も来られた。私も含めて7人。
寒い日だったが、晴天だった。東京は、翌日、朝から雪が降りはじめ、積もっていった。

ひとりひとり墓前で手を合わせ、心のなかで瀬川先生に語りかけられている。
みなさんのうしろ姿を見ていた。

私は、他の方たちとは違い、瀬川先生と仕事をしたわけでもないし、長いつきあいがあるわけでもなし、
熊本のオーディオ店で、何度かお会いしただけ(顔は憶えてくださっていた)だから、
語りかけることがあろうはずがない。

だから、瀬川先生の墓前で、私はあることをひとつ誓ってきた。

Date: 12月 27th, 2008
Cate: 挑発

挑発するディスク(その3)

カザルスのベートーヴェンのディスクを聴いた数ヶ月後に、
EMTの930st(正確にはトーレンスの101 Limited)を購入した。衝動買いである。

ただすぐに持って帰れずに、撮影するためにステレオサウンドの試聴室に置いていた。
ちょうどそのころ、ある人が、ノイマンのカートリッジ、DSTとDST62を貸してくれた。

101 Limitedにとりつけて、内蔵のイコライザーアンプ155stをそのまま使い、
最初にかけたレコードは、当然、カザルスのベートーヴェンの第七番である。

凄い音とは、まさにこのことだと思った。

Date: 12月 27th, 2008
Cate: 挑発

挑発するディスク(その2)

カザルスがベートーヴェンの交響曲第七番を振ったとき、92歳のはず。
にもかかわらず、この演奏をつらぬいている強い緊張感の、驚異的な持続、
そのためだろう、音楽の生命力が、一瞬たりとも失われないどころか、
第3楽章、4楽章では、さらに燃えあがっている。

いわゆる、うまい演奏ではない。表現技巧においては、カザルス/マールボロ音楽祭管弦楽団よりも、
数段優れている指揮者/オーケストラはいくらでもあるだろう。

けれど、ベートーヴェンの音楽、とくに交響曲に、私が強く感じている、
いま鳴っている音が次の音を生み出す、そういう感じをこれほど聴かせてくれたものは、そうそうない。
ベートーヴェンの音楽は、そして音の構築物でもある。

カザルス/マールボロ音楽祭管弦楽団による演奏は、
1976年、アメリカのHigh Fidelity誌創刊25周年号に掲載された、歴史的名盤のなかで、
ベートーヴェンの交響曲第七番のベストに選ばれている。

Date: 12月 26th, 2008
Cate: ベートーヴェン

ベートーヴェンの「第九」(その7)

ベートーヴェンの「第九」をコンサートで聴いたのは、小沢征爾/ボストン交響楽団によるもので、
1982年か83年のどちらか、人見記念講堂におけるものが最初である。
実は、このときが、生のオーケストラを聴いた、はじめてのことだった。

それもあってだろう、第4楽章には涙した。
ベートーヴェンの巨きさに、感動してのことだった。いまでも、その感動だけははっきりと残っている。

あれから20数年。ふり返って見ると、「第九」をコンサートで聴いたのは、これ一度きりである。

バーンスタインもジュリーニも、いまは、もういない。
この人の演奏ならば、聴きたい、ホールに足を運んで聴きたい、
そう思える指揮者が、いまはすぐに頭に浮かんでこない。
それもさびしいものだなぁ、と思っていたら、数日前、ある名前を目にした。

グスターボ・ドゥダメルとシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ。

今日も、この名前を目にした。
彼らが、この先、日本で、「第九」をやってくれるかなんて、わからない。
でも、もし聴けるのであれば、ぜひとも行きたい。

Date: 12月 25th, 2008
Cate: 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その20)

ラックスのアームレスプレーヤーのPD121をデザインされたのは瀬川先生だと、
一時期(4、5年ぐらい)、そう勘違いしていたことがある。

なにかの時に、「PD121は瀬川先生のデザインだ」という話が出て、それを信じていた。
瀬川先生のデザインと言われて、何の疑いも持たなかった。素直にそう思えた。
いまでも、そう信じてられる方もおられるが、
PD121のデザイナーは、47研究所の主宰者の木村準二さんである。

木村さんは、瀬川先生といっしょにユニクリエイツというデザイン事務所を興されている。
このときおふたりのもとで働いておられたのが、瀬川先生のデザインのお弟子さんのKさんだ。

木村さんから直接、Kさんからも、PD121は木村さんのデザインだと聞いている。

PD121のモーターは、テクニクスのSP10(最初のモデルの方)と同等品である。
同じモーターを使いながら、SP10の素っ気無く、暖かみを欠いている外観と較べると、
PD121の簡潔で大胆なデザインは、手もとに置いておきたくなる、愛着のわく雰囲気と仕上がりだ。

ステレオサウンド 38号を見ると、EMIの930stの他に、
瀬川先生は、PD121とオーディオクラフトのAC-300の組合せを使われていたのがわかる。
写真には、EMTのXSD15がついているのが写っている。

930stには、当然、TSD15がついてる。
なにも同じカートリッジを使われることはないのに、と思うとともに、
EMTに、そこまで惚れ込んでおられたのか、とEMTに惚れ込んだ一人として嬉しくなる。

エクスクルーシヴのP3とオーディオクラフトのAC-3000MCにつけられていたカートリッジは、
オルトフォンのMC30だったのかもしれないし、MC20MKIIだったのだろうか。
それとも、やはりEMTだったのか。

Date: 12月 24th, 2008
Cate: 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その19)

瀬川先生が、終の住み処となった中目黒のマンションで使われていたアナログプレーヤーは、
パイオニア/エクスクルーシヴのP3だ。

ステレオサウンド 55号のアナログプレーヤーの試聴記事において、P3について、
ひとつひとつの音にほどよい肉づきが感じられる、と書かれていたのを思い出す。
同時に試聴されたマイクロの糸ドライブ(RX5000 + RY5500)とEMTの930stと同じくらい高い評価をされていた。

だから瀬川先生にとっての最後のアナログプレーヤーがP3であることは、自然と納得できる。
ひとつ知りたいのは、トーンアームについてだ。

P3オリジナルのダイナミックバランス型で、オイルダンプ方式を採用している。
アームパイプは、ストレートとS字の2種類が付属している。
パイプの根元で締め付け固定するようになっている。
同様の機構をもったトーンアーム(針圧印加はスタティック型の違いはある)が、
オーディオクラフトのAC-4000MCだ。アームパイプは5種類用意されていた。

4端子のヘッドシェルが使えるS字型パイプの他に、
ストレートパイプのMC-S、テーパードストレートパイプのMC-S/T、
オルトフォンのSPU-Aシリーズ専用のS字パイプのMC-A、EMTのTSD15専用のS字パイプのMC-Eだ。
アームパイプはいずれも真鍮製だ。

この他にも、あらゆるカートリッジにきめ細かく対応するために、軽量カートリッジ用のウェイトAW-6、
リンやトーレンスのフローティングプレーヤーだと、
標準のロックナットスタビライザーではフローティングベースが傾くため、軽量のAL-6も用意されていた。

出力ケーブルも、標準はMCカートリッジ用に低抵抗のARR-T/Gで、
MM/MI型カートリッジ用に低容量のARC-T/Gがあった。

AC-3000MC専用というわけではないが、
SPUシリーズをストレートアームや通常のヘッドシェルにとりつけるための真鍮製スペーサーOF-1、
やはりオルトフォンのカートリッジMC20、30のプラスチックボディの弱さを補強するための
真鍮製の鉢巻きOF-2などもあり、実に心憎いラインナップだった。

AC-4000MC(AC-3000MC)の前身AC-300Cについて、
「調整が正しく行なわれれば、レコードの音溝に針先が吸いつくようなトレーシングで、
スクラッチノイズさえ減少し、共振のよくおさえられた滑らかな音質を楽しめる(中略)
私自身が最も信頼し愛用している主力アームの一本である」と、
ステレオサウンド 43号に、瀬川先生は書かれている。

AC-3000MC(AC-4000MC)になり、完成度はぐっと高まり、見た目も洗練された。
レコード愛好家のためのトーンアームといえる仕上がりだ。

お気づきだろう、AC-3000MC(AC-4000MC)のデサインは、瀬川先生が手がけられている。

オーディオクラフトからは、P3にAC-4000MCを取りつけるためのベースが出ていた。
おそらく瀬川先生はP3にAC-4000MCを組み合わされていたのだろう。

Date: 12月 23rd, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その13)

コイルが、どう音に影響をあたえるのか。
両端にコイルが巻きつけてあるRCAケーブルがあれば、それを容易に確認できる。

高額な、最近の、アクセサリーという範疇を超えつつあるケーブルには、
よもや、こんなものはついていないだろうが、
以前は、意外に、ついているモノが多かった。
SMEのトーンアームに付属するケーブルにも、このコイルが巻きつけてあった。

RCAプラグの金属のエッジがケーブルの外被にあたり、ひどいときには断線にもつながるため、
ケーブル保護のためについていた。

SMEの場合、このコイルは鉄製(磁性体)でだった。つまりコイルであり、バネでもあったわけだ。

このコイルに、布製の粘着テープもしくはアセテートテープを一巻き貼るだけでも、
もちろん音は変化する。
さらにこのコイルを、少々苦労するが取り外してみる。

ステレオサウンドのアナログプレーヤーは、私が入社したころは、
パイオニア/エクスクルーシヴのP3だったが、
マイクロのSX8000IIの発表とともに、SMEの3012-R Proとの組合せに変わった。
トーンアームケーブルは、付属の銀線をそのまま使用していた。
つまり両端のコイルもそのままの状態で使っていたわけだ。

あるとき、井上先生から、
「ちょっとめんどうだけど、そのコイルをはずしてみろ」と言われた。
左右両チャンネル、ケーブルの両端にあるので、計4つのコイルをはずす。

面倒な作業だったことは、確かだ。
やっている最中は、「もうやりたくないな、こんな作業は」、と思っていたのに、
その音を聴くと、またやろうと思っていたし、実際、三度やっていた。
そのくらいの十分過ぎる変化だった。

Date: 12月 22nd, 2008
Cate: 4343, JBL, 瀬川冬樹

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その12)

トゥイーターを追加した次のステップは、ウーファーの選択、追加、そしてマルチアンプ化である。
3ウェイにスーパートゥイーターを追加した4ウェイと、
ミッドバス専用ユニット搭載の4ウェイの大きな違いは、ウーファーのカットオフ周波数にある。

4343の、ウーファーとミッドバスのクロスオーバー周波数は300Hz、
3ウェイ・プラス・スーパートゥイーターの4ウェイだと、
ウーファーとスコーカーのクロスオーバー周波数は低くても500Hzより上、600だったり800Hzだったりする。

4333A(3ウェイ)の、ウーファーのカットオフ周波数は800Hzだ。
4350Aは、250Hzに設定されている。

どれも同じウーファー(2231A)なのに、3ウェイか4ウェイかで違うし、
4ウェイでもネットワークなのかバイアンプ駆動なのか、で異ってくる。

ウーファーのカットオフ周波数を低くしたとき、
ネットワークのコイルの値が大きくなることが問題となってくる。

4343では5.4mHのコイルが、ウーファーに対して直列にはいる。

空心コイルの場合、5.4mHのコイルに使用する線材の長さは、
コイルの内径、厚みによって多少変動するが、60m前後必要となり、
直流抵抗値は、線径が16AWG(1.02mm)だと、おおよそ1Ω、
すこし太い16AWG(1.29mm)で0.7Ω、14AWG(1.63mm)で0.5Ω弱となる。

鉄芯入りだともうすこしワイヤー長が短くできるが、今度は磁気歪みの問題がかわりに出てくる。

Date: 12月 21st, 2008
Cate: 4343, JBL, 瀬川冬樹

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その11)

瀬川先生の4ウェイ自作スピーカー計画は、次にトゥイーターを足して2ウェイにする。
トゥイーターもいくつか候補を挙げられていた。
JBLの2405、075、KEFのT27、フィリップスのソフトドームなど、いろいろだ。

フルレンジユニットで、LE8Tにした人ならば、2405を選ぶだろう。
2405とLE8Tの能率の違いは、意外に大きい。
通常なら、2405にアッテネーターをかましてLE8Tとの音圧を調整するわけだが、
2405にコンデンサー(もちろん良質のものに限る)を1個だけ直列に接ぎ、
いちばん簡単なローカットフィルターをつくる。レベルコントロールは挿入しない。
2405の推奨クロスオーバー周波数は7kHz以上だから、8kHzから10kHzあたりでローカットするのが通常だが、
コンデンサー1個で、しかも能率差が大きいときは、あえて20kHz以上に設定する。
コンデンサーの容量は、けっこう小さいな値になる。

-6db/oct.というゆるやかなカーブでも、カットオフ周波数が高いおかげで、2405でも問題なく使える。
このテクニックについては、「HIGH TECHNIC SERIES」のvol.1に、瀬川先生が書かれている。

Date: 12月 20th, 2008
Cate: 4343, JBL, 瀬川冬樹

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その10)

瀬川先生の、4ウェイの自作スピーカー計画の記事のオリジナルは、かなり以前に発表されたもので、
私が読んだのは、「HIGH TECHNIC SERIES」のvol.1のマルチアンプ特集のなかで再度ふれられていたもの。

フルレンジユニットを鳴らすことから始まるこの計画は、ステップを踏んで、
2ウェイ、3ウェイとすすみ、最後にマルチアンプ化とともに4ウェイとなるものだ。

フルレンジは、ヴォーカルの再現性に優れるものが多い、20cm口径前後のものを選択する。JBLのLE8T、
アルテックの755E、フィリップスのユニット、ダイヤトーンのP610、
2発使用を前提にジョーダンワッツのモジュールユニットなどをあげられている。

これらのユニットを、最終段階でウーファーを収める、要するに大型のエンクロージュアに取りつけるわけだ。

このフルレンジユニットは、最終的に、4ウェイに発展時にはミッドバスユニットにあたるわけだ。
だからといって、ミッドバスのバックキャビティの内容積(4343だと約14ℓ)だと、
最初の音が貧弱になることもある。
中途半端な大きさのエンクロージュアをつくると、無駄になることもある。
それらのことをふまえて、
横置きの、フロントバッフルが傾斜しているエンクロージュアをすすめられている。
バスレフ型である。

フルレンジからスタートすることは、ネットワークを通していない音に馴染む意味でも、
いちど経験しておきたいことである。

Date: 12月 19th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その9)

ダイヤトーンのDS505が登場した1980年、
瀬川先生の4ウェイ自作スピーカーの記事を読んでしばらくしてのころということもあって、
高校3年だった若造にとって、このスピーカーは、かなり魅力的に感じていた。

憧れであり、目標だったスピーカーは、もちろん4343だったが、高校生がバイトに精を出したところで、
たやすく買える金額のものではない。
何事にも例外はあって、友人のAさんは、高校生の時、土方のバイトをがんばり、4343を現金で購入している。
アンプ、プレーヤーは予算不足で購入できず、
しばらくはシャープのダブルラジオカセットに接いでいたというエピソードつきだ。
4343は、そこまで駆り立てる魅力をもっていたスピーカーともいえよう。

熊本の片田舎では、高校生ができるアルバイトといえば新聞配達ぐらいで、しかも朝刊のみ。
それで稼げるお金は、上限が決っている。

私にとっては、サンスイのAU-D907 Limited が精いっぱいだった。
それも新聞配達のバイト代だけでは足りず、修学旅行を旅行を休んで、
その積立金を加えて、やっとこさ購入できたのだった。

Date: 12月 18th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その8)

ビクターは、ずいぶんと早い時期に4ウェイ・スピーカーを開発している。

1970年前後に発売されていたBLA405とBLA-E40だ。
とはいえ、ビクターにとって、本格的な4ウェイ・スピーカーは、Zero1000が最初といっていいだろう。
Zero1000はブックシェルフ型というサイズの制限もあってだろう、ミッドバスユニットを備えた4ウェイではなく、
3ウェイ・スピーカーにスーパートゥイーターを追加した4ウェイ・スピーカーである。

このことは、Zero1000の1、2年後に出た3ウェイのZero100を見ても明らかだし、
ビクターのカタログにも、ミッドバスという表記はなく、
ウーファー、スコーカー、トゥイーター、スーパートゥイーターとある。
クロスオーバー周波数を見ても、そのことは明らかだ。

同じブックシェルフ型ながら、ミッドバス搭載の4ウェイ・スピーカーが、ダイヤトーンのDS505だ。

ダイヤトーンは1970年にDS301、74年にDS303を出している。
どちらも、3ウェイにスーパートゥイーターを追加した4ウェイ構成であり、
中低域の充実を図った4ウェイは、ダイヤトーンにとってDS505が最初である。

Date: 12月 18th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その7)

APM8の型番は、Accurate Pistonic Motion を表している。
外観的には、SS-G9をそのまま平面振動板ユニットに置き換えたかのように見えるが、
このスピーカーの開発には約3年かかったときいている。

ハニカム振動板の平面型ユニットは、優秀な特性を示しているが、どうしても音的に満足できずに、
技術者は試行錯誤をくり返し、マイカ製のボイスコイルボビンを、
当初は裏側のハニカムスキンに接着していたものを、ハニカム素材を貫通させることで
表側のハニカムスキンを含め、振動板全体と接着することで、満足できる音が得られた、
と当時のソニーの広告には書いてあったのを思い出す。

高剛性のハニカム振動板だから、裏側だけで接着してもよさそうなものだし、
この違いは測定では検出できないにも関わらず、大きな違いとなってくる。
音とはそういうものだろう。

SS-G7、SS-G9、APM8で、AGバッフル採用のスピーカーは終ってしまう。
APMシリーズの第二弾APM6から、エンクロージュア全体がスーパー楕円へと変化し、
ソニーの4ウェイ・スピーカーは、SS-GR1(1991年登場)へと引き継がれる。

APM (Accurate Pistonic Motion) ──、これはソニーだけではない、
当時の国産スピーカーが懸命に目指していたものだ。

Date: 12月 18th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その6)

ソニーはSS-G7を発売した1976年の、第25回オーディオフェアに、PCMオーディオユニットを展示、
翌77年に、コンシュマー機としては世界初のPCMプロセッサーPCM-F1を発表・発売している。

ビデオデッキと組み合せることで、14ビットとはいえ、デジタル録音・再生を可能にしただけでなく、
マイクロフォン入力端子も備え、電源も交流/直流でも使える、可搬型という意欲作だった。
そして、ソニーは、フィリップスとともにCDを開発している。

推測でしかないが、SS-G7の開発のころから、
デジタル録音のプログラムソースを試聴に使っていたと考えても間違いないだろう。
さらにソニーは、新しいスピーカー解析技術も開発している。

この2つの事柄がなかったら、SS-G7は、
それまでの同社のスピーカーとそれほど変わらないもので終っていたかもしれない。

AGバッフル、ウーファーを前面に突き出させたプラムライン配置は、
デジタル時代の予測から生れてきたものかもしれない。

1979年に、ソニーはエスプリ・ブランドを誕生させ、APM8を発売する。

Date: 12月 17th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その5)

3ウェイ・システムにミッドバスを加え、
4ウェイにまとめあげたシステムとして適例なのが、ソニーのSS-G9である。

4343とほぼ同じころに、ソニーから3ウェイのフロアー型のSS-G7が出ている。
38cm口径のウーファーに、
10cm口径のスコーカーと3.5cm口径のトゥイーター(ソニー独自のどちらもバランスドライブ型)の組合せ。
クロスオーバー周波数は、550Hzと4.5kHz。

型番的にもSS-G7の上級機にあたるSS-G9は、20cm口径のミッドバスを追加している。
ウーファーとミッドバスのクロスオーバー周波数は300Hzになり、1.2kHzまで受け持つ。
クロスオーバー周波数が550Hzから1.2kHzへと高くなったことから、
スコーカーの口径を、8cmと小さくしている。
トゥイーターとのクロスオーバー周波数も4.5kHzから5kHzとなり、
それぞれのユニットの帯域幅を小さくしている。

SS-G7はトゥイーターとスコーカーをサブバッフルにマウントすることで、
わずかでも、ふたつのユニットを近接させようとしていた。

SS-G9ではスコーカー(4ウェイになったのでミッドハイ)の口径が小さくなったことで、
SS-G7以上に、ふたつのユニットの中心は近接している。

SS-G9が4343を意識していることは、フロントバッフルにスリットからも明らかだろう。

SS−G7とG9は、縦横溝が刻まれたフロントバッフル
(ソニーはアコースティカル・グルーブド・ボード、略してAGボードと呼んでいる)を採用している。
ソニーの説明では、このスリットは、波長の短い中高域を拡散させるものだ。

SS-G7では、このスリットがフロントバッフル全面に均等に刻まれている。
4343の2年後に登場したSS-G9では、ウーファーとミッドバスのあいだに、
水平に、他のスリットよりも深くて広く、はっきりと目立つスリットが刻まれて、
見た目のアクセントになっている。

またバスレフポートもSS-G7ではひとつだったが、ふたつになり、
4343と同様にウーファー下部の左右に設けられている。

レベルコントロールの位置も、SS-G7ではスコーカー、トゥイーターの横に縦方向にあったのが、
SS-G9ではミッドバスとウーファーの間に、横方向へと変更されている。

4343以降登場した国産4ウェイ・スピーカーのなかでも、
SS-G9は、4343を相当意識してつくられたスピーカーといえよう。