挑発するディスク(その2)
カザルスがベートーヴェンの交響曲第七番を振ったとき、92歳のはず。
にもかかわらず、この演奏をつらぬいている強い緊張感の、驚異的な持続、
そのためだろう、音楽の生命力が、一瞬たりとも失われないどころか、
第3楽章、4楽章では、さらに燃えあがっている。
いわゆる、うまい演奏ではない。表現技巧においては、カザルス/マールボロ音楽祭管弦楽団よりも、
数段優れている指揮者/オーケストラはいくらでもあるだろう。
けれど、ベートーヴェンの音楽、とくに交響曲に、私が強く感じている、
いま鳴っている音が次の音を生み出す、そういう感じをこれほど聴かせてくれたものは、そうそうない。
ベートーヴェンの音楽は、そして音の構築物でもある。
カザルス/マールボロ音楽祭管弦楽団による演奏は、
1976年、アメリカのHigh Fidelity誌創刊25周年号に掲載された、歴史的名盤のなかで、
ベートーヴェンの交響曲第七番のベストに選ばれている。