Archive for category テーマ

Date: 2月 6th, 2014
Cate: ラック

ラックのこと(その8)

思い込みが、いい音を思い込んでいる本人だけにいい音を聴かせることはある。
だが、そうやってのいい音には、遅かれ早かれ気がつく。
思い込みが強ければ強いほど、気がつかなかったりするけれど。

実際にはラックの天板なり棚板のどの位置に置くのがいいのか、とはいえない。
天板、棚板の上でアンプなりCDプレーヤーを動かしてみる。

最初は基準として真ん中に置いて、音を聴く。
それからオーディオ機器を前に移動する。
落ちないぎりぎりまで手前に持ってきて、そのときの音を聴く。
今度は反対に後に移動して、また音を聴く。

真ん中、手前、後と、三つの音を聴いたことになる。
システムがうまく調整されていれば、
この移動による音の差は、決して小さくはない。

動かしたからといって、あるアンプがまったく別のアンプに変るわけではないが、
音のバランスが変化していることに、まず気がつくはずだ。

三つの位置のどこかに、求める音に近いところがあるはず。
たとえば手前に持ってきたときの音が、すべての面ではいいとは感じられなくても、
全体としては求めている音に近ければ、
次の段階として、真ん中と手前の中間の位置に移動して音を聴いてみればいい。

このときの音の判断によって、もう少し真ん中寄りにするのか、それとも手前寄りにするのか。
すこしずつ移動距離が短くしていくことで、追い込んでいく。

Date: 2月 6th, 2014
Cate: 孤独、孤高

毅然として……(その6)

こんなことを考えながら書いていると、ルートヴィヒ二世のことが頭に浮ぶ。

ワーグナーを宮廷に招き、
ワーグナーのためにバイロイトに、ワーグナーの作品の上演のためだけの劇場、
バイロイト祝祭劇場の建築を全面的に援助する。

バイロイト祝祭劇場で最初に上演されたのは「ニーベルングの指環」。

バイエルン国王だからできたことであるけれど、
ルートヴィヒ二世たったひとりのためだけの上演をワーグナーが行ったという話はきいたことがない。

ルートヴィヒ二世は、たったひとりでワーグナーを聴きたかったのだろうか。
ワーグナーはどうおもっていたのだろうか。

Date: 2月 6th, 2014
Cate: きく

音を聴くということ(試聴のこと・その1)

数年前のことだった。
あるオーディオ店で試聴会をやっていた。
試聴会をやっているのは知らずに、たまたま入ったらやっていたので、そのまま椅子に座り聴いていた。

オーディオ店の試聴会というのも、ずいぶんとひさしぶりだな、と思いながら聴いていたわけだが、
不思議なことに、音を鳴らすたびにディスクをかえる。

オーディオ機器の試聴会だから、いくつかの機器の比較試聴もやっているわけだが、
なのになぜか機器を替えると、鳴らすディスクも替える。

このオーディオ店だけの、こういうやり方なのか、
それともこのオーディオ店に働いている、この店員だけのやり方なのか、
それとも、私がこういう試聴会に行かないあいだに、こういうやり方が一般的になっていたのか。

とにかくとまどいながら音を聴いていた。

何枚かのディスクが鳴らされたあと、あるお客が、
「なぜ同じディスクで鳴らさないのか」と店員に訊ねた。

やっぱり、これはこの店(この店員)の独自のやり方なんだな、と安心したのも一瞬だった。

店員の返答は、
「同じディスクを鳴らしたいんですけど、そういうやり方をするとお客さんが帰られるんです」。

あるオーディオ機器の、いわゆるプレゼンテーション的な試聴会であれば、
ディスクを替えているのはわかる。
けれど比較試聴においても、ディスクを替えなければ、お客が帰っていく。
俄には信じられないことだったけれども、
店側としても客が帰っていくような試聴会をやるよりも、
客が最後までいてくれる試聴会のほうが、商売に結びつきやすいだろうから、
そうであれば、こういうディスクのかけ替えも仕方ないのかもしれない。

それにしても不思議としかいいようがない。

Date: 2月 5th, 2014
Cate: ラック

ラックのこと(その7)

とにかくGTR1Bの天板の真ん中にくるようにオーディオ機器を置く。
後にもっていったり、前寄りにしたり、左右どちらかにずらして置いたりは、この段階ではしない。

とはいえ、ラックの天板、棚板の真ん中に置くのが必ずしもベストというわけではない。
にも関わらず、神経質そうに天板の真ん中に置くのを、ミリ単位で測る人がいる。
そして、それが音がもっともいい、という。

アンプでもCDプレーヤーでもいいのだが、たいてい脚は四つもしくは三つついている。
これらの脚に均等に荷重がかかっているのであれば、
つまりオーディオ機器の重量バランスが完璧であれば、
ラックの天板・棚板の真ん中に置くのがいちばんいい、というのはわかる。

だが現実には、重量バランスはたいていがどこかに偏っている。
偏っていれば、すべての脚に均等の荷重というわけにはいかない。
それにすべてのアンプなりCDプレーヤーの脚が、筐体底部の四隅に取り付けられているとはかぎらない。

メーカーによっては脚の位置を前後で変えているものもある。
それに三点支持で、三つの脚のものも少なくない。

そういったオーディオ機器の場合でも、とにかくきちんと真ん中に置くことが、
もっとも音がいいと思い込み、定規できちんと合わせている人を見ていると、
滑稽というよりも、なんといったらいいのだろうか、
思い込みの激しいことはシアワセなんだなぁ、と羨ましいのとは違うけれど、
ほんのちょっとだけそれに似たものを感じないわけではない。

Date: 2月 4th, 2014
Cate: 孤独、孤高

毅然として……(その5)

グレン・グールドが一人で演奏しているピアノの録音(レコード)を聴いている時、
グールド(演奏者)と聴き手とは、一対一である。

グールドは、ピアノ協奏曲も録音しているし、ヴァイオリン・ソナタ、チェロ・ソナタなども録音しているから、
そういったグールドのレコードを聴く時には、
聴き手がひとりであるならば、演奏者の数の方が多くなる。

オーケストラの規模が大きくなり、演奏者の人数がさらに増しても、
マーラーの「千人の交響曲」を聴いている時でも、聴き手はひとりである。

演奏会場では、まずこういったことはおこり得ない。
それこそ想像のつかないほどの資産をもつ者であれば、
コンサートホールを貸し切り、そこで演奏者を招いて、
観客はひとりだけということも実現できるであろうが、
私を含めて多くの人(ほとんどの人)は、そういった夢物語とは無縁のところで生活しているし、
その生活の場で音楽を聴いている。

たったひとりの観客のためのコンサート。
そこでどれだけ素晴らしい演奏がなされたとしても、観客から返ってくるのは、
たったひとりの観客による拍手だけである。

がらんとした広い空間に、ひとりの観客だけの拍手が響くだけである。
それがどれほど力のこもった拍手であっても、ひとりの拍手はひとりの拍手でしかない。

Date: 2月 4th, 2014
Cate: ラック

ラックのこと(その6)

ヤマハのGTR1B一台に対してオーディオ機器一台という使い方をしていたわけだが、
GTR1Bのどこにオーディオ機器(アンプ、CDプレーヤー、アナログプレーヤー)を置くのかでも、音は変化する。

天板に置くのか、それともGTR1Bの中に置くのか。
このふたつの置き方による音の違いは、決して小さくはない。

天板に置けば、オーディオ機器の周りは開放空間であるのに対し、
GTR1B内部に置けば、開放管の中に置くわけで、オーディオ機器の前後のみが開放だが、
他はラックによって囲まれている状態であり、このことが音に影響している。

どちらの音を良しとするのかは、人によって、聴く音楽によって異るだろうが、
音がすっと拡がってくれるのは、天板に置いた場合である。

だからステレオサウンド試聴室では常に天板にオーディオ機器を設置していた。

細かいことを書けば、天板のどの位置に置くのかでも、音は変化していく。

試聴室は、試聴のための場であり、そのための準備(設置)が要求されるわけだから、
オーディオ機器はGTR1Bの中央にくるのを基準としていた。

これはあくまでもアンプ、CDプレーヤーなどの筐体を上から見た際に、
前後、左右が均等になるように置く、ということである。

Date: 2月 3rd, 2014
Cate: 程々の音

程々の音(その21・補足)

その21)を書きながら、
コントロールアンプに関しては、他にもいい候補がありそうな気がするけれど……、
思い出せないもどかしさがあった。

なんだろうな、何があったか、としばらく思い出そうとしていた。
やっと先ほど思い出せた。

プレシジョン・フィデリティのコントロールアンプC4である。
C4は1978年に登場している。
ゴールド仕上げのフロントパネルをもつ管球式アンプである。

プレシジョン・フィデリティは、スレッショルド社長のプライヴェートブランドだったらしい。
価格は550,000円だった。

C4の製品寿命は短かった。
ローコストモデルのC7は聴く機会があったけれど、C4はなかった。

ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’79」の巻頭記事、
「’78コンポーネント界の動向をふりかえって」のなかで、瀬川先生が書かれている。
     *
プレシジョン・フィデリティのコントロールアンプは、管球特有の暖かい豊かさに、新しい電子回路の解像力の良さがうまくブレンドされた素晴らしい音質と思った。残念な点は、パネルフェイスが音質ほどには洗練されていない点であろう。そのことが残念に思えるほど逆に音はすばらしい。アキュフェーズC240と並んで、78年度注目のコントロールアンプといえそうだ。
     *
このC4とマイケルソン&オースチンのTVA1の組合せは、どんな音を聴かせてくれただろうか……。

Date: 2月 3rd, 2014
Cate: ラック

ラックのこと(その5)

ヤマハのラックGTR1Bは、その形からもわかるように、一種の開放管であり、
つまりは開放管としての共鳴・定在波の発生があり、
これを抑えることも、GTR1B固有の音を和らげることにつながっていく。

具体的にはステレオサウンド試聴室ではラック内に、天然素材の吸音材を入れていた。
吸音材といえば、すぐにグラスウールを思い浮べる人もいるけれど、
聴感上のS/N比的にはグラスウールは不適であり、天然素材の吸音材でなければならない。

あまり入れ過ぎてうまくいかないところがあり、
適度の量(意外に少ない量である)は自分で見つけて行くしかない。
最初は思い切りラック内を満たすほどに入れてみればいい。
その状態の音と、何も入れていない状態の音、ほんの一枚だけ入れた状態の音、
中間ぐらいに入れた音、それぞれの音を聴いたうえで、増やしたり減らしていく。

GTR1Bは木製の開放管である。
板厚は50mmだし、素材は一種類。
それゆえに固有音があるところに集中しやすいともいえるが、
逆にとらえれば、固有音が分散されにくいわけであり、
固有音の正体(どの帯域にそれがあるのか)をしっかりと見極めれば、
その対策(固有音を和らげること)は、それほど難しくはない、といえる。

複数台のGTR1Bをぴったりとつけずに離して置くのも、問題を複雑化しないためである。
だからステレオサウンド試聴室では棚板を使うことは一度もなかった。
ラック内部に、何かモノをいれるということもやらないようにしていた。

あくまでも天板にオーディオ機器を置く、ただそれだけのために使っていた。

Date: 2月 3rd, 2014
Cate: カタチ

趣味のオーディオとしてのカタチ(その5)

アルテックの同軸型ユニット604シリーズは、
中高域のホーンがウーファーの前面に配置されている。
604-8Gまではマルチセルラホーン、604-8H以降はマンタレーホーンという変更はあるものの、
ホーンがユニットのセンターに、このユニットが同軸型であることを誰の目にも明らかなように、
存在感たっぷりに、そこにある。

これだけの大きさのモノがウーファーの中心、その前面にあるということは、
音響的には不利といえる。

タンノイの同軸型ユニットは、
アルテックのストレートコーンに対しカーヴドコーンを採用し、
ウーファーのコーンをホーンの延長として利用するという設計であるために、
604のようにホーンが前面に張り出してはいない。

タンノイの古いカタログが、インターネットで見ることができる。
それらの中には、アルテックの同軸型との比較で、
ホーンが前面にないため、タンノイの同軸型が音質的に有利であることを示す図が載っている。

アルテックと同じアメリカの、もうひとつの代表的な同軸型ユニット、
ジェンセンのG610もタンノイと同じようにウーファーの前面にホーンを設けていない。

タンノイの指摘に頼らなくとも、
604シリーズのホーンそのものが音質に影響を与えることぐらいは、容易に想像できる。

そんなことはわかったうえで、それでも604シリーズの外貌(カタチ)は、いいと感じてしまう。

Date: 2月 3rd, 2014
Cate: audio wednesday

第37回audio sharing例会のお知らせ(マークレビンソンに何を求めていたのか)

今月のaudio sharing例会は、5日(水曜日)です。

別項で書いているように、久しぶりにマークレビンソンのLNP2を聴く機会があった。
バウエン製モジュールとマークレビンソン製モジュールも比較できた。

LNP2が登場して40年が経つ。
LNP2はいうまでもなくトランジスターアンプである。
進歩の激しいトランジスターアンプの流れにおいて、40年前のアンプを聴いて感じることは、
どういう意味があるのか、それとも意味などないのか。

1970年代の後半、マークレビンソンからの新製品には、特別な感情を抱いていた。

新製品は、マークレビンソン以外の会社から数多く登場していた。
その中にあってマークレビンソンの新製品に何を求めて、何を期待して、何を見ていた(聴いていた)のか。

それに関係することでオーディオにおけるニューウェーヴとは、どういうことなのか。
はたしてマークレビンソンはニューウェーヴだったのかどうか。

時間はこれまでと同じ、夜7時です。

場所もいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

Date: 2月 2nd, 2014
Cate: カタチ

趣味のオーディオとしてのカタチ(その4)

アルテックの604の開発にはランシングも携わっていることを知っていれば、
ランシングが自殺しなければ、JBLという会社の経営がうまくいっていれば、
JBLからも同軸型ユニットが登場したかもしれない、と夢想してしまう人は私の他にもきっといるはず。

どんな同軸型ユニットになったであろうか。
ベースとなるウーファーはD130であり、中高域は175DLHであってほしい、とおもう。

いま目の前にHarknessがあって、そのバッフル板にはD130と175DLHがついている。
だからこそ、そんな同軸型ユニットの姿を想像してしまう。

604とD130とどちらも15インチだが、コーンの頂角が大きく違う。
だからD130+175DLHから構成される同軸型ユニットの姿は、604とはずいぶん違うものになる。

D130+175DLHの場合、どれだけホーンレンズを張り出させるかによって、
ユニットの印象は変ってくる。
あまり前に張り出させずに、
D130のセンターのアルミキャップがそのまま175DLHのホーンレンズに置き換えられたのであれば、
なかなかスマートな外観で、同軸型ユニットとはすぐにはわからない人も出てくるかもしれない。

音も見た目も、604とは異る同軸型ユニットに仕上っていたはずだし、
私が思い描いているとおりの同軸型ユニットままで登場していたら、
604よりも、デザインに関しては高く評価することになった、とおもう。

それにくらべるとマルチセルラホーンの604シリーズは、いわば武骨なところがある。
洗練された、とは言い難い。
なのに、604を正面からみると、いいカタチしてるな、とおもうのは、私が男だからなのか……、
そうも思ってしまう。

Date: 2月 2nd, 2014
Cate: 新製品

新製品(その3)

JBLのHarknessに、トーレンスのTD224、
それからJBLの2441+2397、
他にもずいぶん以前のオーディオ機器が手元にあり、それで音楽を聴いている。

このブログでは、JBLの4343、マークレビンソンのLNP2について、何度も書いている。
これからも書いていくであろう。

だからといって、ヴィンテージ機器、ヴィンテージ・オーディオとか、
最近でそう呼ばれるようになった、そういう時代のオーディオ機器だけが好きなわけではない。

新しいオーディオ機器が好きだし、むしろ、古いオーディオ機器よりも好きなところがある。
それにHarknessにしろ、TD224にしろ、
これらのモノが登場したときには、新製品であった。

いまでは古くなってしまったオーディオ機器であっても、
新製品だった時が、かならずあった。

この項のタイトルは「新製品」にした。
新製品を紹介するためのタイトルではなく、
「新製品」とは、について書いていくためのタイトルである。

Date: 2月 1st, 2014
Cate: 新製品

新製品(その2)

ステレオサウンド 56号の「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」の扉をめくると、
そこにはトーレンスのリファレンスがあらわれる。

トーレンス
リファレンス
¥3,580,000

これらの文字が続いて目に入り、

超マニア用「トーレンス・リファレンス」はたいへんな製品だ。すごい可能性、すごい音質、そしてその偉容

という見出しがあり、そこには瀬川冬樹の文字もあった。

このリファレンスの記事は8ページあった。

このリファレンスの記事だけでも、それまでの新製品紹介のページと、
56号からの「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」が大きく違っていて、
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」が「あたらしいページ」であることを実感できた。

リファレンスについての瀬川先生の文章もいい。

リファレンスという、
当時のアナログプレーヤーの多くとは決定的に異る偉容をもつプレーヤーにふさわしい。

55号までのスタイルでの新製品紹介であっても、
リファレンスのすごさは伝わってきたであろうが、
ここは瀬川先生以外誰がいたであろうか。

そして56号から新製品紹介のページを大きく変えたのは、
リファレンスが登場してきたからではないのか──、そんなことさえ思ってしまう。

Date: 1月 31st, 2014
Cate: 新製品

新製品(その1)

ステレオサウンドの新製品の紹介記事は時代によって変化してきている。
私が読みはじめたのは41号からで、
この時代の新製品の紹介は井上先生と山中先生のふたりが担当されていて、
スピーカーシステム、アンプ関係、プレーヤー関係と大きく三つにわけられていて、
まずその号での新製品の動向について語られ、
つづくページで個々の製品について書き原稿であったり、対談であったりしていた。

このやり方が大きく変ったのは、56号からである。
56号から新製品の紹介記事にカラーページが使われるようになった。

そしてカラーページには「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」、
モノクロページには「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」とそれぞれタイトルがつけられている。

「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」の扉には、こう書いてあった。
      *
あたらしい、すぐれた製品との出会いは、私たちにとって、いつもドラマティックな体験です。心おどろせ、胸はずませて、あたらしい出会いを待ち受け、そして迎えるさまは、とうていマニアでない人びとには理解してもらえないでしょう。
そのマニアの中のマニアともいうべき、本誌筆者の方々に、毎号いちばんあたらしい、いちばん感動的な出会いについて書いていただこうというのが、このあたらしいページです。
やがて月日が経つとともに、それぞれの方々の出会いの歓びの鮮度は色あせていくかもしれません。あるいは、使いこんでいくうちに、日ましにその製品がもたらす歓びは色濃くなっていくかもしれません。
でも、それぞれ筆者自身にとっての、いまの真実は、ここに記されているとおりです。
     *
文末に(編集部)とある。
新製品の紹介ページの扉の文章だから、読んでいないという人がいても不思議ではない。
読んでいても、さらっと読んだくらいで、どんなことが書かれていたのかなんて、
まったく憶えていない人も少なくないだろう。

あまり日の目をみないところに書かれた文章ではあるけれど、
当時読んでいてもいい文章だと思ったし、いまあらためて読み返してみて、
こうやってキーボードで入力してみても、さりげないけれど、いい文章だと思っている。

Date: 1月 30th, 2014
Cate: オリジナル

オリジナルとは(続々トーレンスTD224のヘッドシェル)

ステレオサウンド 39号に登場しているトーレンスのTD224は、
私のところにあるTD224そのものであり、つまりは岩崎先生のモノだったTD224である。

そのTD224にオリジナルの、オルトフォンのGシェルに似たヘッドシェルではなく、
SMEのヘッドシェルと同じように肉抜きの穴が開けられたタイプのヘッドシェルがつけられているということは、
岩崎先生は、この穴あきのヘッドシェルを使われた、とみるべきだろう。

「クラマツマンシップの粋」の記事中には、オリジナルのヘッドシェルは別のものだと記述されている。

なぜオリジナルのヘッドシェルではなく、穴あきタイプのヘッドシェルだったのか、
その理由については、いまではもうわからない。

でも,岩崎先生は穴あきのヘッドシェルを(も、かもしれない)使われていたことは、確かである。

それに私がTD224を写真で見たのは、ステレオサウンド 39号の写真であり、
この写真の TD224が、私にとってのオリジナルのTD224といえる。

そして、岩崎先生のTD224が私のところにあるのだから、
穴あきタイプのヘッドシェルを、私は選ぶ。

私にとっての「オリジナル」とはそういうことであり、
そういう意味では「オリジナル」であることにこだわりたいところも持っている。

そういうわけで、今回、穴あきタイプのヘッドシェルであることが、私にはうれしいことなのだ。