音を聴くということ(試聴のこと・その1)
数年前のことだった。
あるオーディオ店で試聴会をやっていた。
試聴会をやっているのは知らずに、たまたま入ったらやっていたので、そのまま椅子に座り聴いていた。
オーディオ店の試聴会というのも、ずいぶんとひさしぶりだな、と思いながら聴いていたわけだが、
不思議なことに、音を鳴らすたびにディスクをかえる。
オーディオ機器の試聴会だから、いくつかの機器の比較試聴もやっているわけだが、
なのになぜか機器を替えると、鳴らすディスクも替える。
このオーディオ店だけの、こういうやり方なのか、
それともこのオーディオ店に働いている、この店員だけのやり方なのか、
それとも、私がこういう試聴会に行かないあいだに、こういうやり方が一般的になっていたのか。
とにかくとまどいながら音を聴いていた。
何枚かのディスクが鳴らされたあと、あるお客が、
「なぜ同じディスクで鳴らさないのか」と店員に訊ねた。
やっぱり、これはこの店(この店員)の独自のやり方なんだな、と安心したのも一瞬だった。
店員の返答は、
「同じディスクを鳴らしたいんですけど、そういうやり方をするとお客さんが帰られるんです」。
あるオーディオ機器の、いわゆるプレゼンテーション的な試聴会であれば、
ディスクを替えているのはわかる。
けれど比較試聴においても、ディスクを替えなければ、お客が帰っていく。
俄には信じられないことだったけれども、
店側としても客が帰っていくような試聴会をやるよりも、
客が最後までいてくれる試聴会のほうが、商売に結びつきやすいだろうから、
そうであれば、こういうディスクのかけ替えも仕方ないのかもしれない。
それにしても不思議としかいいようがない。